イスラエル: 「ダビデの星」の国の基礎知識

 

イスラエル(Israel)

 

正式名:イスラエル国

イスラエルは、シオニスト(祖国回復)運動を経て、世界中に散らばっていたユダヤの民が結集し、1948年に建国されました。悠久の歴史は2000年超に及びます。それまでこの地域は久しくオスマン帝国の支配下に置かれていましたが、強い民族意識の高まりが、2000年の離散した状態にもかかわらず、建国へと導きました。しかし、それまで平穏に暮らしていたムスリムを中心とするアラブ人(パレスチナ人)との軋轢から、隣接するアラブ諸国との4回の中東戦争やパレスチナ難民問題を引き起こしました(難民問題はいまだ解決に至っていない)。

 

<概観>

  • 国名と政体

 

西アジアに位置する共和制国家で、イスラエルとは、「神と競う者」(”el”(神)、”Isra”(競う))という意味があります。漢字略称は、イスラエル・パレスチナの「パ」が用いられます。なお、漢字表記は「以色列」。国旗の中央にある「ダビデの星」は、ユダヤの伝統的なシンボルで、青はユダヤ教高僧の肩掛けの色で、白は清い心を表します。

 

  • 人口・面積

約950万人(2022年5月 イスラエル中央統計局)

 

1948年の建国時には約80万人だった人口は、現在10倍超に増加、世界中に離散した「ディアスポラ」のユダヤの民が集まっています。イスラエルは、中東の一角、地中海東端とヨルダンのあいだにある、歴史的にはパレスチナと呼ばれてきた地域に位置し、国土面積は、2万2000平方キロメートル (㎢)で、日本の四国程度の広さです。

 

  • 首都:エルサレム (実質的にはテルアビブ)

イスラエルは、首都をエルサレムと主張していますが、国際的には認められていません。そのため、アメリカを除く主要各国は大使館をテルアビブに置いています。エルサレム市は、イスラエルのほぼ中央の内陸、標高約800メートルの丘陵地に位置していますが、ユダヤ、キリスト、イスラム3宗教の聖地がある旧市街を含む東エルサレムはパレスチナ自治政府の将来的な首都とされ、イスラエルが実効支配を続けています。実際、エルサレムはイスラエルの大統領が統治しており、議会や最高裁判所のほか、大半の政府機関が置かれています。

 

  • 国境(領土)

イスラエルは、1967年(第三次中東戦争)に占領した東エルサレムとゴラン高原をその後併合していますが、この併合は日本を含め国際社会の大多数には承認されていません。また、東エルサレムを含むヨルダン川西岸は、イスラエルの占領下にあり、これら地域でイスラエルが進めている入植活動は、国際法違反とされています。日本は、イスラエルと将来のパレスチナ国家の境界は、1967年の境界を基礎とする形で、交渉を通じて画定されるべきとの考えを支持しています。

 

  • 民族・人種

ユダヤ人(約74%)、アラブ人(約21%)その他(約5%) (2022年5月イスラエル中央統計局)

 

イスラエル政府の統計年報によれば,1996年末で総人口は576万人で,うちユダヤ人が81%,非ユダヤ人が19%でした。現在、イスラエルの全人口約950万人のうち、75%に当たるおよそ650万人はユダヤ人(ユダヤ教徒)で、その他の大半は、昔から暮らしてきたアラブ人(パレスチナ人)で、イスラエル独立時に起こった戦争の後も残った人々です。

 

イスラエルの独立宣言には、イスラエルが「ユダヤ的国家」であることが明記されています。イスラエル国内に定住するユダヤ教徒はすべてユダヤ人とされ,イスラエル国籍を与えられます。なお、イスラエルでは、「ユダヤ人」は、「ユダヤ人の母親から生まれた人」または、「ユダヤ教に改宗を認められた人」と定義されています。

 

セファルディムとアシュケナジム

イスラエルに住むユダヤ人は,一般に、セファルディムと呼ばれるスペイン系ならびにアジア・アフリカ系のユダヤ人と,アシュケナジムと呼ばれるドイツ(東欧)系のユダヤ人とに大別されます。今日、両者の数はほぼ同数ですが,社会的・経済的には大きな格差があり,エリート層の多くはアシュケナジムによって占められています(セファルディムは、社会的にはアシュケナジムと比較して下層にあるとされます)。

 

なお、セファルディムのうち中東・アフリカ系(中東・カフカス以東に住むユダヤ人)をミズラヒムと区別する場合もあります。主にスペイン語等を話すセファルディムに対し、伝統的なアラブ世界やイスラム教が多数派の社会のユダヤ人をそう呼ぶことがあります。

 

世界のユダヤ人

現在の世界のユダヤ人口は、およそ1500万人とされています。950万人のイスラエルに次いでユダヤ人口が多いのは、600万人弱が暮らすアメリカです。3位以下の人口数は桁が一つ減り、フランス、カナダ、イギリス、アルゼンチン、ロシアと続きます(ちなみに日本には1000人ほどが暮らしている)。

 

ソ連崩壊直前は、アメリカに次いで多かったのはソ連でした。ホロコースト以前まではさらに多く、20世紀初頭で、世界のユダヤ人口約1100万人(当時)のおよそ半数が、ロシア領ポーランドを含むロシア帝国に暮らすなど、ロシア・東欧地域こそがユダヤ人口の中心でした。それが、19世紀終わり頃からアメリカやパレスチナなどにユダヤ人が移住し始め、ホロコーストやソ連崩壊を経て、現在の人口分布になったと言われています。

 

  • 言語

ヘブライ語、アラビア語

 

イスラエルの公用語はヘブライ語ですが、アラビア語も「特別な地位を有する言語」と位置づけられています。イスラエルは、世界で唯一ヘブライ語を公用語とする国ですが、ヘブライ語は旧約聖書の言葉であり、話し言葉としては2000年もの間使われていませんでした。そこで、イスラエル建国に合わせて、言語学者たちによって、公用語化されました。

 

  • 宗教

ユダヤ教(約74%)、イスラム教(約18%)、キリスト教(約2%)、ドルーズ(約1.6%)(2020年 イスラエル中央統計局)

 

一口にユダヤ教といっても、ユダヤ教に対する立場はさまざまです。現在、教義や戒律について、それを厳格に守る超正統派、一定の程度守る正統派、その一部を習慣や文化として受け継ぐ伝統派、それをほとんど守っていない世俗派(半数近くを占める)に分かれています。

 

超正統派(ハレディーム)9%

現代正統派(ダティーム)13%

伝統派(マソルティーム)29%

世俗派(ヒロニーム) 49%

 

ディアスポラ(離散)のユダヤ人の中でも、パレスチナへの移民が始まった19世紀終わりからイスラエル建国の20世紀半ばまでの時期については、建国の理念に共感した人々が集まりました。しかし、たとえば、ソ連崩壊後にイスラエルに移民したロシア系ユダヤ人は、無神論のソ連で生活していたことから、ユダヤ教とはかなり離れてしまっていた人々もいました。彼らの移民の理由も、宗教的というよりは経済的理由によるところが大きかったと言われています。

 

<政治>

  • 国家元首

国家元首は大統領であり、クネセト(議会)が選出します。任期7年で3選は禁止されています。ただし、大統領の権限は儀礼的なものであり、国政の実質的権限は、首相にあります。現在の大統領(第11代)は、観光相、住宅建設相などを歴任したイツハク・ヘルツォーグ(21.7~)です。

 

  • 内閣と議会

歴代の首相

ベン=グリオン(マバイ)1948.5~54.1

シャレット(マバイ)1954.1~55.11

ベン=グリオン(マバイ)1955.11~63.6

エシュコル(マバイ⇒労働党)1963~69.2

アロン(臨時)(労働党)1969.2~69.3

メイア (労働党)1969.3~74.6

ラビン(労働党)1974.6~77.6

ベギン(リクード)1977.6~83.10

シャミル(リクード)1983.10~84.9

ペレス (労働党)  1984.9~86.10

シャミル(リクード)1986.10~92.7

ラビン(労働党)1992.7~95.11

ペレス(労働党)  1995.11~96.6(臨時・12代)

ネタニヤフ(リクード)1996.6〜99.7

バラク(労働党) 1999.7〜01.3

シャロン(リクード)(カディマ)2001.3〜06.4

オルメルト(カディマ) 2006.4~09.3

ネタニヤフ(リクード)(2009.3~21.6)

ベネット (ヤミナ党)(2021.6~22.6)

ラピド (イェシュ・アティッド) (2022.7 ~22.12 )

ネタニヤフ(リクード)(2022.12~)

 

首相公選制

イスラエルでは、1992年、クネセト(国会)において首相公選法が成立し、首相選出に際して、世界で初めて、首相公選制が導入されました。96年の総選挙では、初めて首相選挙が行われ、ベンヤミン・ネタニヤフが選出されました。その後、99年と01年と計3度にわたって首相公選が行われた)。首相公選制は、首相を国民の選挙により直接選出することにより、民意に基づいた行政運営が行われることを目的としています。実際の制度の運用において、政党間の政治抗争や、政情不安・政局の不安定などの要因ある場合の対応策として有用とされています。

 

しかし、新制度により、小党分立傾向が強くなり、政局が不安定となった結果、首相の指導力は大きく低下するなど、本来の目指す方向とは逆になってしまったので、01年にリクード、労働党の賛成多数で廃止しました。

 

議会(クネセト)

クネセト(「集会」を意味する)は一院制で、任期4年の議員120名により構成されています。選挙は全国一区、拘束名簿式比例代表制で実施されます。また、クネセトには、内閣不信任決議の権限が与えられています。

 

 

  • 政局

 

イスラエルは、世界各地から集まったユダヤ系の人々によって建国された関係で、政治的主張、出身地、宗教に対する立場の違いなどから、小さな政党が乱立し、常に複数の政党の連立で政権がつくられています。従って、政策の不一致などから、連立パートナーが離脱すると、首相は、解散総選挙を強いられることから、政局は不安定となりがちです。

 

1948年の独立以来、労働党を中心とする左派政権が約30年間続きましたが、その後、右派のリクードと労働党が政権を取り合う二大政党制となりました。しかし、05年にリクードから、カディマが分裂し(一部労働党員も参加)、多党制の様相を呈していますが、近年は、リクード優位となっています。近年の動向をみてみましょう。

 

2009年2月の総選挙

「イスラエル・ベイテイヌ」等の右派・極右政党、宗教政党及び中道左派の労働党が参加する右派リクード党主導の第2次ネタニヤフ政権が誕生しました。

 

2021年3月の総選挙

ネタニヤフ長期政権からの変革を旗印に、ヤミナ党(宗教的右派政党)のベネット党首を首班とし、宗教・右派から世俗・左派まで幅広い政党で構成される連立政権(変革内閣)が成立しました(しかし、約1年で議会は解散)。

 

2022年11月の総選挙(直近)

リクードが32議席を獲得し、第1党となり、極右政党の連合である「宗教シオニズム」(14議席)と宗教政党のシャス(11)やユダヤ教連合(統一トーラ)(7)との連立政権を樹立、第3次ネタニヤフ政権が成立しました。

 

極右政党の連合「宗教シオニズム」が、前回選挙より議席を倍以上に増やすなど、極右政党が躍進したことが特筆され、人種主義的な極右勢力が連立に参加したことで、イスラエル建国以来、最右翼の政権と評されています。実際、自身の返り咲きを優先したネタニヤフ首相は、連立交渉の過程で各党の要求を次々に受け入れ、政権は発足直後から、極右政党などが主張している極端な政策を実行していると批判されています。また、国内だけでなく、アメリカの有力ユダヤ人団体からもイスラエルの民主主義を揺るがすと懸念されています。

 

「宗教シオニズム」(14議席)は、「宗教シオニズム」、「ユダヤの力」、「ノアム」という三つの政党の連合体で、合同名簿を作成して、「宗教シオニズム(宗教シオニスト党)」の名称で選挙を戦いました(前回選挙の前月(2021年2月)に合意)。宗教シオニズムは、選挙後に連合を解消したことから、現在、「宗教シオニズム」(7)、「ユダヤの力」(6)、ノアム(1)の極右3党と、宗教政党のシャスと統一トーラーの5党がリクード党との連立に参加している形です。一方、この総選挙で、パレスチナとの和平を推進した「労働党」が4議席しか獲得できず、また、和平推進を訴えてきた左派政党の「メレツ」が議席を失いました。

 

リクード                     32        右派政党

宗教シオニズム             14          極右の政党連合

シャス                           11          宗教政党

ユダヤ教連合                 7  宗教政党

 

イェシュ・アティド(未来がある)24 中道政党

国家団結              12      中道右派

わが家イスラエル          6  世俗派の極右政党

ラアム                             5        アラブ系政党

ハダシュ・タアル        5     アラブ系政党

労働党            4  中道左派

メレツ                0  左派

カディマ              0  中道

 

 

  • イスラエルの政党

 

(1) 右派

 

リクード(国民自由運動)

イスラエルの保守政党(右派政党)(右翼政党連合)で、1973年9月、後に首相になるメナヘム・ベギンらが中心となって、ガハル党,フリー・センター,ステート・リスト,大イスラエル運動の右派4党で結成されました(リクードとは、ヘブライ語で「団結、統一」を意味する)。もともとは、シオニズム運動の中の「修正派」といわれる軍事力強化を優先する右派が結集し、イスラエル領土を、旧約聖書に基づいた古代イスラエル王国の範囲に拡大した「大イスラエル」を実現させること主張しています。

 

政策面では、和平よりも国の安全保障を重視する立場で、左派の労働党に対抗して保守的、ユダヤ民族主義を強調します。軍事力の強化による領土の拡大・占領地の併合を訴え、ヨルダン川西岸やゴラン高原からの撤退や、入植地撤去には反対で、パレスチナ国家に独立を与えることには慎重な態度をとります。対アラブ・パレスチナ入植政策などでも強硬姿勢を取るタカ派政党です。当然、保守層や軍部からの支持を集めています。

 

リクードは、1977年の選挙で労働党に替わり、結党後、3年で第一党となり、ベギン政権を樹立してから、労働党と並ぶ二大政党として、以下4人の首相を輩出しました。

 

ベギン(1977.6~83.10)

シャミル(83.10~84.9、86.10~92.7)

シャロン(01.3〜05.11)

ネタニヤフ(96.6〜99.7、09.3~21.6、22.12~)

 

ただし、2005年に対パレスチナの路線対立からアリエル・シャロン首相ら多くの閣僚有力議員が新政党カディマを結成して離党し、06年の総選挙でも敗北したことから、リクードは、少数勢力へと転落しました。しかし、右派としてのリクード支持も根強く、特にガザ地区でのパレスチナ過激派のハマスの台頭を受け、その後、党勢を回復させ、09年にネタニヤフが首相に返り咲き、21~22年の1年間を除き、現在も政権の座に就いています。

 

 

(2) 極右政党(きょくうせいとう)

右翼政党とは、保守的・国粋主義的な思想傾向を持つ団体ですが、極右政党は、その思想をさらに極端、かつ徹底した政党をさします。イスラエルの極右政党は、同じ右派で宗教シオニズムの思想(イデオロギー)を共有し(掲げ)ています。ヨルダン川西岸地区を、ユダヤ人が神から授かった「約束の土地」として、そこに入植地を建設することを宗教的な義務と考え、ユダヤ人による「約束の地(イスラエルの地)」に対する支配の強化がメシアの到来を早めるという宗教解釈に立脚していいます。政策面では(政治的には)、ヨルダン川西岸の併合や入植活動の推進(拡張)、パレスチナ国家の創設反、さらに国内でもユダヤ人の権利拡大など、ユダヤ至上主義的な政策を主張しています。

 

イスラエルの極右政党といえば、「宗教シオニズム(宗教シオニスト党)」、「ユダヤの力」、「わが家イスラエル(イスラエル我が家)」などが該当し、彼らは、こうした宗教ナショナリズムや宗教シオニズム(祖国回復運動)の思想を共有しています。

 

 

(3) 宗教政党

「シャス」や「ユダヤ教連合」などの宗教政党は、ユダヤ教の(超)正統派を支持基盤とし、極右政党と同じように、ユダヤ至上主義的傾向と反パレスチナ色を持っていますが、極右政党ほど露骨(極端)ではありません。連立政権が避けられないイスラエルでは、連立政権を構築するためには、宗教政党の参加が必要となる場合が多く、そのため、少数派の宗教政党が、採決において、キャスティングボードを握ることがあり、結果として、少数派の宗教政党の意向が政策に反映されます。政局においても、過去に、ネタニヤフ、バラック両政権は、「シャス」が政権を離脱したことにより崩壊したこともあります。最近(長年)、「シャス」、「ユダヤ教連合」の宗教政党は、ネタニヤフ政権のリクードと連立政権を組んで、右派連合を支えています。

 

(4) 中道・リベラル

 

労働党(イスラエル労働党)

労働党は、20世紀初頭からパレスチナへのユダヤ人入植を先導してきた政治勢力である労働シオニズム(社会主義シオニズム)の流れをくみ、マバイ(エレツ・イスラエル労働者党)を前身とします。建国後も長きにわたり与党として政治を主導したことから、イスラエル建国エスタブリッシュメント政党とみなされました。

 

1968年、イスラエルの指導的政党であったマパイ(エレツ・イスラエル労働者党)と、アフト・ハアボダ (シオン労働者党) ,ラフィ (イスラエル労働者リスト) の社会民主主義3政党が合体して、労働党が結成されました。労働党としても、68〜77年,84〜86年、92~96年と政権与党で、05年の新政党カディマ結成前は右派のリクードと並ぶ、イスラエルの二大政党の一角でした(労働党はマバイの時代を含めば、建国から1977年まで30年間政権を担当したと言える)。

 

92年の総選挙では、ラビン元首相の下で驚異の44議席を獲得し、オスロ合意を成立させるなど中東和平を推進しました。しかし、そのラビン首相が95年に暗殺されて以来、労働党は衰退の一途をたどり、直近の2022年の選挙では4議席しか獲得できませんでした。05年のカディマ結成の際には、シモン・ペレス元首相など3人の議員が労働党を離党してカディマへ移籍しています。

 

労働党は、労働組合やキブツ,協同組合に支持されており,特に、労組の支持が強く,社会民主主義を政策に掲げています。イスラエルは伝統的に労働組合が強固で、今でもイスラエル最大のヒスタドルート (労働総同盟)がストライキをすると、国が麻痺するとさえ言われます。また、イスラエルではほとんどの大学で左派系が圧倒的に強く、労働党は若年層に強い政党とされています。政策においては、パレスチナとの融和・共存を掲げる中道左派政党で、右翼リクードと比べて中東和平にはより柔軟な路線をとります。

 

 

イェシュ・アティド(未来がある)

イスラエル国内で人気ニュースキャスターであったヤイル・ラピドが政治家に転身し、2012年に結成した政党です。2013年の総選挙では政界初挑戦ながら19議席を獲得、リクードに次ぐ第2党となりネタニヤフ政権で、ラビドは財務相を務めましたが、連立政権内でリクードと対立し、政権発足から1年数ヶ月後に罷免されました。

 

党の政策は、中道・世俗志向で、イスラエルの中産階級の支援と経済の活性化、政府の汚職を許さず、法の支配を強化と政府システムの抜本的変革などを謳っています。中東和平については、イスラエルとパレスチナの二国家共存による平和の実現と、イスラエルがつくった大規模入植地の安全の確保を主張しています。また、(超正統派ユダヤ教徒、アラブ系イスラエル人を含む)すべてのイスラエル人の平等な徴兵を提唱して、超正統派から大反発を受けました。

 

2021年3月の総選挙後、6月に野党8党からなる新連立政権に参加することとなり、同党党首のラピドが2023年より首相を務めることで合意しました。もっとも、先に首相を務めていた連立パートナーのヤミナ党(ユダヤの家)のナフタリ・ベネットが早期に首相を辞任したため2022年7月よりラピドが首相に就任しました。しかし、同年11月の総選挙では敗れ、イェシュ・アティッドは下野しましたが、現在も、野党第1党として存在感は維持しています。

 

 

メレツ

歴史ある世俗的(反宗教)な左派政党(社会民主主義政党)で、戦争反対、入植地即時撤去、領土返還、エルサレム分割など、和平推進の政策を訴えています。社会政策に関しても、フェミニズムや非宗教婚そして性的マイノリティの認知制度などを提唱しており、イスラエルで最もリベラルな党です。しかし、直近の2022年11月の総選挙で、メレツが議席を失いました。

 

 

(5) アラブ系政党

アラブ政党はパレスチナを支持し、イスラエルの存在を否定するような発言を国会ですることがあるため、右派政党と激しく対立することがあります。2015年3月のイスラエル議会(クネセト)総選挙では、アラブ系政党の全4党、ハダシュ(ハダサ)党、バラード(バラド)党、ラアム(アラブ統一リスト)、タール党が、アラブ統一会派を形成し、選挙に臨んだことで話題になりました。現国会では、ラアムと、ハダシュがそれぞれ5議席ずつ保持しています。

 

 

<安全保障(軍と諜報機関)>

 

1948年の建国当初から、周囲を対立しているアラブ諸国に囲まれたイスラエルは、常に敵からの攻撃にさらされてきたことから、安全保障確立のための軍事力と近隣国の動静を探るためのインテリジェンス能力を強化させてきました。

 

イスラエル軍は中東地域で際立った軍事力を誇っています。イスラエルの軍事戦略は、狭い国土と、950万人の少ない人口という制約の中で、国家の存亡を確保するために、必要な場合はためらわずに実行し、かつ、できるだけ短期間に脅威を退けるという発想が、戦略の根底にあります。「和平が先、軍縮は後」が基本です。現役の兵士は約17万人で、陸軍が約12.5万人、空軍が3.5万人、海軍が約1万人となっています。予備役は46.5万人で、現役と予備役の兵員を合わせると全人口の6%に上ります。

 

イスラエルは国民皆兵制で、通常は高校卒業後の18歳から、男性は3年、女性には1年9か月(2年)の兵役義務があります。なお、その後も予備役があります。なお、少数派のドゥルーズ派の信徒とチェルケス人は兵役に服しますが、ユダヤ人でないその他のマイノリティは男子でも兵役が免除されています。

 

装備の面でも、英ミリタリーバランス(2022年)によれば、2200台の戦車のほか、戦闘機についてもアメリカのF16戦闘機やステルス戦闘機F35など300機以上を保有しているうえに、誘導兵器や、サイバーセキュリティーなどが特にすぐれているとされています。イスラエルは、アメリカから、毎年約20億ドルもの軍事援助を受けるだけでなく、他国より新しい型の機種を購入しています。

 

また、周辺国などからの攻撃に対処するため、ミサイル防衛システムを構築しています。短距離ミサイルなどを迎撃するミサイルシステム「アイアンドーム」を各地に10基配備しているほか、最大の脅威と位置づけるイランによる弾道ミサイル攻撃を想定し、「アロー2」や「アロー3」といった弾道ミサイルの迎撃システムも配備していると言われています。

 

イスラエルの核

核兵器について、イスラエルは保有を公式に認めず(公言していません)、肯定も否定もしない「あいまい態度」をとり続けていますが、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所は、80発の核弾頭を保有していると推計しています。

 

イスラエルは、1973年、第四次中東戦争、周辺アラブからの奇襲攻撃の後、核オプションを含めた軍備増強を進めたとされています。しかし、実際は、1956年にフランスから研究用原子炉の供与を受け、60年に、イスラエル南部、ネゲブ地方のディモナで臨界核実験成功し、1967年ごろ、核弾頭の製造を開始したと見られています。このイスラエルの核武装に対して、69年、当時の米ニクソン政権もイスラエルの核を黙認する方針を打ち出したと言われています。イスラエルが核保有国であることは、既成事実となっています。

 

また、イスラエルは、大量破壊兵器(WMD)の運搬手段として、陸上発射の弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル、爆弾を搭載する航空機の3本柱を保持しています(中東ではイスラエルのみ)。

 

なお、イスラエルは、NPT(核拡散防止条約)にも、生物兵器禁止条約(BWC)、化学兵器禁止条約(CWC)のいずれにも参加していません。

 

 

  • 諜報

イスラエルは、主にモサド(イスラエル諜報特務庁)、アマン(イスラエル軍参謀本部諜報局)、シャバク(シン・ベト)(イスラエル総保安庁)など3つの諜報機関があります。

 

アマン(イスラエル軍参謀本部諜報局)

アマンは、軍の情報部門(軍諜報機関)で、傘下に通信傍受や偵察衛星の部署を抱え、予算規模が最も大きいとされています。軍の「8200部隊」は、サイバー攻撃への対応や情報収集などを担う部隊で、最高の頭脳が集まるエリート組織として知られ、えりすぐりの人材が優先的にサイバー部隊に配属されていると言われています。

 

商業都市テルアビブ郊外の住宅街の一角の軍施設で、サイバー空間の防衛を担う「戦士」を育成する専門教育が行われており、4カ月の集中コースを終えると、陸海空軍の専門部隊に配属されると言われています。また、情報収集・分析だけでなく、時には暗殺工作も行っていると言われています。なお、警察当局にも情報部門があります。

 

シャバクシン・ベト)(イスラエル総保安庁)

シャバクは、治安・公安機関(治安・テロ対策機関)で、パレスチナ人や国内過激派を担当し、イスラエル国内における治安やテロ関連情報の収集にあたっています。盗聴やスパイを通じて情報を集め、西岸地区などでパレスチナ人の摘発を続けていますが、その過程で、過酷な尋問や暗殺工作も行うとされています。なお、シャバクは、かつて「シン・ベト」と呼ばれていましたが、欧米では今もこちらの呼び方の方が主流です。

 

モサド(イスラエル諜報特務庁)

モサド(ヘブライ語の「機関」という意味)は、国外の諜報活動に特化している対外情報機関で、米CIA(中央情報局)などに相当します。サイアニムと呼ばれる、世界中に居住するユダヤ人ネットワークから膨大な情報を収集しているとされ、人員(職員数)も約7000人を抱え、世界の諜報機関の中でもCIAに次ぐ規模だと見られています。また、モサドは情報収集だけではなく、暗殺などの秘密工作もその任務としています。

 

これら世界に名だたるイスラエルのインテリジェンス・コミュニティーは、推定で2万人弱と見積もられており、人口比で換算すれば、日本の自衛隊員の総数より多い人数がインテリジェンス(諜報)に携わっていることになるそうです。

 

 

外交>

イスラエルは建国直後の1949年に国際連合へ加盟しました。2011(2023)年時点で、国連加盟国193か国のうち、イスラエルは157(158)の国連加盟国と外交関係を有しています。残りの国連加盟35か国のうち、サウジアラビアやシリアなどのイスラム圏(アラブ諸国)を中心とする24(20)か国は、パレスチナ問題を理由として、(建国以来一度も)イスラエルを国家承認していません。

 

また、イラン、キューバ、ベネズエラ、モーリタニア、マリ、ニジェールなどの9か国は一時期、イスラエルと外交関係を有していましたが、現在、(2011年までに)関係を断絶させています。なお、イスラエルと国交のない33(29)か国はいずれもパレスチナ国を国家承認しています。

 

ただし、近年、77年のエジプト、94年のヨルダン以外にも、イスラエルと国交を結ぶアラブ諸国がでてきました。2020年、イスラエルは、UAE(アラブ首長国連邦)やバーレーンと「アブラハム合意」を結び、スーダンとモロッコもその後に続きました。さらに、2023年10月のイスラエル・ガザ戦争以前、イスラム世界の盟主サウジアラビアとの国交正常化交渉が水面下で進められていたと言われています。

 

日本は、1952年4月28日の平和条約(サンフランシスコ条約)発効により、外交権を含む主権を回復しましたが、その直後の同年5月15日に、日本はイスラエルを承認しました。

 

  • アメリカ・イスラエル

アメリカとイスラエルの関係は、建国当初から「盟友」であり、「特別な関係」とも言われ、アメリカは、イスラエルを「中東における最も信頼できるパートナー」と評し、国家承認も建国と同日に行っています。国連でイスラエルへの非難決議が提出されると、アメリカが拒否権を発動させることが”恒例”となっており、採択はほとんど成立しないと言われています。

 

イスラエルの経済発展において、アメリカの経済支援が果たした役目は大きいとされ、対エジプト平和条約締結後の1981年以降、全額無償援助となり、1985年以降、毎年経済援助12億ドル、軍事援助18億ドルを受けていました。99年より経済援助は毎年1.2億ドルずつ減額され10年間でゼロにすることとされ、08年以降、経済援助は行われておらず軍事援助のみとなっています(99年より経済援助は減額される分を、軍事援助の増額分として振り分けられていた)が、それでもなおアメリカの国別対外援助費では、上位に位置しています。また、イスラエルの最大の貿易相手国でもあります。

 

このようなアメリカの親イスラエル政策の背景には、在米ユダヤ人のロビー活動があることはよく知られています。実際、外国に住むユダヤ人からの収入に加えて、ユダヤ人が多く住み、財政などの実権を握っているアメリカの援助が重要な役割を果たしています。

 

 

  • イスラエル・ロシア

ソビエト連邦は、アメリカに次いで2番目(建国から2日後)にイスラエルを国家承認した国で、1967年の第三次中東戦争でソ連とイスラエルは国交を断絶となったが、1991年に国交を回復しました。。ソビエト連邦が崩壊すると、1990年代の10年間ほどで80万~100万人とも言われるユダヤ人が帰還法に基づき、旧ソ連諸国からイスラエルに移住している。現在、ロシア系移民は独自のコミュニティーを形成し、クネセト(議会)に議員も送り込んでいます。現在、ロシア軍が駐留するシリアにおいて、イスラエルが対イラン代理勢力の作戦を遂行する際、ロシアとの協力は不可欠とされています。

 

 

産業経済>

 

イスラエルの名目GDP(2024年IMF予測)は、5250億ドルで、世界190か国中、28位です。一人当たり名目GDPは同54,337ドルで世界14位となっています。ちなみに、日本の名目GDP(2023年)はドル換算で4兆2,106億ドルです。

 

イスラエルは、ダイヤモンドや農業(柑橘類、野菜、穀物、生花、酪農品等)など伝統的な産業に加えて、高度な技術力を背景とした、ソフトウェア、通信、バイオテクノロジー、医薬、ナノテクノロジー、太陽エネルギーなどハイテク・情報通信や新事業の分野を中心に経済成長を続け(基本的には輸出を志向する産業構造となっている)、「ハイテクの地」を実現しました。

 

今日、イスラエルは、 中東の軍事大国で、高度の先端技術を誇ることから、国そのものが「第2のシリコンバレー」と呼ばれることもあります。4次にわたる中東戦争などを経て独自の軍事・情報産業を発達させ、たとえば、ミサイル誘導カメラの応用で錠剤ほどの大きさのカプセル内視鏡を開発した企業など民生用への転換も進んでいます。

 

ダイヤモンド産業

イスラエルは、ダイヤモンド産業(ダイヤモンド研磨加工)を政府主導で基幹産業へと発展させてきました。南アフリカからダイヤモンドの原石を輸入し、加工したダイヤを輸出するなど加工貿易が盛んで、研磨ダイヤモンドの輸出額は、イスラエルの総輸出額のうち約25%を占めることもありました(2010年前後)。加工ダイヤの輸出は、イスラエルの重要な外貨獲得源の一つです。

 

ハイテク・情報通信産業

イスラエルのハイテク企業は、1990年代半ばから続々と誕生し、ネット情報の保全やデータ圧縮など革新技術を次々と世界に送り出しました。また、近年はサイバー空間の安全保障上の取り組みを強めています。イスラエルには約300以上のサイバーセキュリティー関連企業があり、その半数近くが5年以内設立された新興企業と言われています。前述した、最高の頭脳が集まるエリート組織で、ハイテク技術を駆使して 諜報 活動を展開する「8200部隊」があり、高い技術を持つ同部隊出身者は、退役後、起業する人も多く、産業の核となることに寄与しています。

 

 

キブツ(農業共同体)

 

キブツ(ヘブライ語で「集団」の意味)は、平等と共同体の原則に基づく独自の社会的経済的枠組みで、メンバーは敷地内の農場や牧場、工場などで働き、利益を共有します。イスラエルの開拓社会の中で、20世紀初頭にガラリヤ湖畔に初めて建設され、恒久的な農村の生活様式へと発展しました。

 

かつては、親が開拓に集中できるように、子どもたちを集団で育てていたとされ、共同食堂での食事は今も続いているそうです。イスラエル建国にも多大な貢献をし、建国の前後の数年間にわたって、キブツは入植、移住、国防の面で中心的な役割を果たしました(こうした機能は政府に移行されている)。

 

キブツは、最初は主に農業を行っていましたが、後には工業やサービス業にも拡大されました。共同生産・共同消費の社会主義的なシステムに、近年、私有制の導入が進められています。現在、三世代の努力によって築かれたキブツは260ヶ所を超え、計約10万人が暮らしています。キブツが国家の生産量に占める割合は、人口比率からすると高水準を維持しています。

 

(2024年3月30日)

 

<関連投稿>

パレスチナの最終的地位問題:解決への3つの論点

エルサレム:「シオンの丘」に立つ聖なる神の都

イスラエル史➀:シオニズム運動の結実とその代償

イスラエル史②:オスロ合意からガザ戦争まで

 

パレスチナ:ヨルダン川西岸・ガザ・東エルサレム

PLO:アラファトのファタハ、その闘争の変遷

ハマス:イスラム主義と自爆テロの果て

パレスチナからみた中東史➀:中東戦争の敗北とPLOの粘り

パレスチナからみた中東史②:オスロ合意とハマスの抵抗

 

 

<参照>

<3分解説>イスラエルってどんな国?

(2023年10月28日、ニューズウィーク)

(世界発2015)軍が育てるサイバー頭脳 イスラエル、政府・企業・大学も一丸

(2015年9月2日、朝日)

イスラエルに最右翼内閣、ユダヤ至上主義色強まる

(認定NPO法人「聖地の子どもを支える会」)

イスラエルとハマス それぞれの軍事力は?

(2023年10月22日 NHK )

世界有数のインテリジェンス・コミュニティー イスラエルの驚くべき実態

(2021年10月4日 Wedge Online)

キブツについて(駐日イスラエル大使館)

世界経済ネタ帳ハルホツビム

コトバンク

Wikipedia