ギリシャ神話の世界をシリーズでお届けしています。今回は、父クロノスのティーターン神族との戦いに勝利し、ギリシャ神話の神々の世界に君臨したゼウスを筆頭としたオリンポスの十二神についてまとめました。
十二神のうち、ゼウス、ポセイドン、アポロン、デーメーテールについては、別投稿で詳細に紹介するので、ここでは簡潔にまとめ、ヘラ、ヘスティア、アテーナ―、アルテミス、アプロディーテー、アレス、ヘーパイストス、ヘルメスを中心に解説します。
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オリュンポス十二神は、ギリシャ北方のオリンポス山(ギリシア最高峰の山)の頂に、主神ゼウスを頂点にして住まう神々で、ゼウスの兄姉や子どもたちの神をさします。ホメロスには、神々は山頂の宮殿にあって、神食(アムブロシアー)と神酒(ネクタル)の饗宴で日々を過ごしていると記述されています。
主要な十二の神は、クロノスとレアーのあいだに生まれた、ゼウスの兄姉に当たる第一世代の神々と、ゼウスの息子・娘に当たる第二世代の神々に分かれます。
第一世代
ゼウス(主神)
ヘーラー (ゼウスの妻・姉)
ポセイドン (海と大地の神)
デーメーテール (穀物の女神)
ヘスティアー (かまどの女神)
第二世代
ヘーパイストス (鍛冶の神)
アポロン (芸能の神・遠矢の神)
アルテミス (月の女神)
アテーナー(知恵の女神)
アプロディーテー (愛と美と性の女神)
アレース (軍神)
ヘルメス (伝令神)
まず、オリンポス12神のうち、最高神ゼウスを含む第一世代の神々(ゼウスの兄姉)について紹介します。
◆ 最高神ゼウス
ティーターン神族の父クロノスと母レアーの末の子で、ギリシャ神話の最高神・神々の王と呼ばれています。オリンポスの神々と人類を守護する天空神で、全宇宙を司り、雲・雨・雷などの天候を支配しています。その一方で、妻ヘーラーの目を盗んで次々と浮気をし、子孫を増やす好色な神としても描かれています。
◆ 最高位の女神ヘラ(ヘーラー)
ゼウスの姉でもあると同時に正妻で、神々の女王、結婚と家族の神、女性の守護神として崇拝されています。父クロノスと母レアーの子ですが、もともとは「先住の神」です。
ゼウスは、ヘーラーを気に入り、二番目の妻のテミスと結婚中であるにもかかわらずヘーラーに言い寄りましたが、拒否されると、ゼウスはカッコウに化けてヘーラーに近づこうとしました。しかし、ヘーラーはなおも抵抗を止めず、ゼウスを受け入れる条件として結婚を求めました。そこで、ゼウスは、テミスと離婚し、ヘーラーと結婚、二人の間にアレース、ヘーパイストスらをもうけました。
ギリシャ神話では、嫉妬深いという性格とされ、ヘーラーはゼウスの不貞に対して常に目を光らせ、愛人たちやその子供たちに苛烈な罰を与えました。
◆ 海と大地の神ポセイドン
クロノスとレアーの子、ゼウスの兄で、最高神ゼウスに次ぐ圧倒的な強さを誇りました。海洋の神として知られていますが、海洋だけでなく、全大陸を支配し、世界そのものを揺さぶる強大な地震や津波を引き起こすこともできました。また、地下水や泉も司るなど、その支配力は全物質界に及んだとされています。
◆ 穀物神デメテル(デーメーテール)
クロノスとレアーの子(ゼウスの姉)で、大地の豊穣の女神(豊穣神)、季節の女神として知られ、穀物の栽培を人間に教えた神でもあります。密議宗教のエレウシースの秘儀は、デーメーテールの祭儀です。
デーメーテールは、ゼウスに強引に求められ、娘コレー(ペルセポネー)をもうけました。また、コレーが、のちに冥王ハーデスに誘拐されたため、娘を探して、(ペロポネソス半島中央部の)アルカディアを放浪している際にも、弟の海神ポセイドーンに迫られました。この時、デーメーテールは、牝馬(ひんば)の姿になり、馬群の中に隠れましたが、発見され、自らも牡馬(ぼば)になったポセイドンと交合し、名馬アレイオーンと秘儀の女神デスポイナの双子を産みました。
デーメーテールは、もともと固有の神(ギリシアのすべての地方とギリシア植民地で崇拝された女神)で、新石器時代の大地母神の後継者でした。そのため、デーメーテール信仰の歴史は非常に古く、紀元前10世紀にも遡ると考えられています。または、デーメーテールの祭儀であるエレウシースの秘儀が、紀元前17~15世紀頃から始まっていることから、さらに古い可能性もあります。
◆ 竈の神ヘスティアー
炉・かまどの女神で、炉・竈(かまど)・暖炉・囲炉裏(いろり)を守り、家政、家庭生活や、国家の正しい秩序を司ります。もともと、ヘスティアーは、固有の神で、その名は「炉・竈・祭壇」そのものの意です。
ヘスティアは、ゼウスの姉で、クロノスとレアの長女として生まれ、処女神(処女の女神)です。ポイドンとアポロンの2神に求婚されたこともありますが、その申し出を断り、ゼウスの頭に手を置いて永遠の処女を守ることを誓いました。
これに対して、ゼウスはヘスティアーに結婚の喜びと引き換えに、全ての人間の家でその中央に座すこと、また犠牲の最良の部分を得ること、そして全ての神殿で他の神々と栄誉をわかつこと等の特権を与えたと言われています。同時に、ゼウスはオリンポスの炉の火を、神々への動物の生け贄の脂肪分や燃えやすい部分で維持する義務をヘスティアーに課しました。
古代ギリシアにおいて炉は、家の中心であり、犠牲を捧げる場所でもあるため、ヘスティアは家庭生活の守護神、祭壇・祭祀の神とされました。さらに、古代において、国(ポリス)は家庭の延長上にある(国家は家の大きな集合体)とされていたため、各家庭に炉があるように,ポリスもまた国家としての炉をもつ必要がありました。
このため多くのポリスでは、市庁(プリュタネイオン)にも、ヘスティアーにささげる聖なる火を燃やす炉がありました(国家の炉をもうけて、ヘスティアを祀った)。植民市建設の際にも,この炉からとった火を植民者に与えて新市に伝えさせたと言われています。
また、クレーテー島のドレロスとプリニアスの初期の神殿や、デルポイのアポローン神殿は、暖炉を持つ建造物であり、ミュケーナイの大広間(メガロン)や、ホメーロスのイタカのオデュッセウスの広間にも、中央に暖炉がありました。
このように、ヘスティアは国家統合の守護神とされ、各ポリスのヘスティアーの神殿の炉は、国家の重要な会議の場となりました。
ただし、ヘスティアーは、炉の神として常に家の中心に坐すため、そこから動くことが出来ないと信じられました。したがって、主な神話において他の神々が戦ったり窮地に陥ったりしていても介入することはありませんでした。
なお、ローマ神話では、語源を同じくするウェスタと同一視され、その神官団をウェスタリスといい,大きな権威を誇っていました。
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次にゼウスの子ども達にあたる第二世代の神々について解説しますが、オリンポスの十二神には、ヘスティアを含めて三柱の処女神がいます。もう二柱の処女神が、知恵の神アテナと狩猟の神アルテミスです。
◆ 知恵の神 アテナ(アテーナー)
知恵、芸術、工芸を司る女神であると同時に、都市の守護神、秩序、戦闘の神でもあり。また、貞操を誓った処女神ながら、豊穣の女神としても知られています。
出生
ゼウスと最初の妻メーティス(メティス)の子ですが、ゼウスが一人で産みました!?ゼウスは、大地の母神ガイアが「ゼウスとメーティスの間に生まれた男神は父を超える」という予言をすると、これを恐れ、メーティスが妊娠したのを知るや、メーティスを呑み込み、子供が生まれないようにしました。しかし、母の胎内の子(アテーナー)は、順調に成長を続け、歳月が流れたある日、激しい頭痛に悩まされ、痛みに耐えかねたゼウスは、鍛冶の神ヘパイストスに斧で頭を割らせると、アテナが飛び出してきたと伝えられています。
アテーナ―(アテナ)は、もともと、先住の神とされ、ギリシア民族がペロポネース半島を南下して勢力を伸張させる以前より、すでに多数存在した城塞都市の守護女神の一柱でした。古代のギリシア人たちがギリシアの地を征服した際、都市の守護神として、ギリシャ人の神に組み込まれたとみられています。それゆえ、アテーナ―は、オリンポスの秩序をもたらした女神としても崇拝されました。
ポセイドンと競合
アテナーは、アテナイの町が建設されたとき,その守護神の地位(支配権)をめぐり、海神ポセイドンと争いました。2人がアテーナイの民に贈り物をして、より良い贈り物をした方がアテーナイの守護神となることが裁定で決められたのです。
ポセイドーンは、三叉の矛で地を撃って塩水の泉を湧かせ、「水を与えよう」と述べたのに対して、アテーナーが荒地にオリーブの木を生えさせて、「私を守護神してくれるのならオリーブを与えよう」と述べました。結果、オリーブの木がより良い贈り物とみなされ、ポリスの人々は守護神にアテーナーを選び、都市(ポリス)の名前は「アテナイ(アテネ)」になりました(現在のギリシャの首都アテネの語源は、アテーナーからきている)。
なお、このとき、審判役を務め、アテーナーの勝利と判定したのは、アッティカの大地から生まれ、下半身は蛇の姿をしていたとされる、アテーナイの伝説上の初代王ケクロプスです。
アテナイ(アテネ)の守護神となったアテナ(アテーナ―)は、戦時には戦い(防衛・戦略)の神として、勝利の女神ニケを従え、軍を率い,アテナイの英雄たちを導き助けました。ニケ(ニーケー)は、ティーターン族の血族パラースとステュクス(冥界の河)の子で、アテーナーの随神として、一般には有翼の女性の姿で表されます。
こうした背景から、貞操の守護神アテーナ―(アテナ)は、アクロポリスのパルテノン神殿にまつられています(アテネのパルテノンは「処女神の宮」の意味を持つ)。なお、随神のニケは、アテーナー神像の右手の上に載せられています。
◆ 狩猟の女神アルテミス
ゼウスとレートー(レト)の子で、アポロンの双子の姉(妹)です。狩猟(森林)・弓・動物・純潔(貞操)の女神であり、森や丘,野生の動物を守り,狩猟を司っています。アテーナ―とヘスティアと同じく処女神ですが、豊穣の神でもあり、誕生、多産、子供の守護神としても崇拝されています。
また、月の女神としても知られ、後にセレーネーと同一視され月の女神とされました。なお、ローマ神話ではディアナ(ダイアナ)と同一視されています。もともと、女神アルテミスは先住の神ですが、その起源は地中海周辺の北アフリカとされています。
ギリシャ神話では、若くて美しい処女の狩人として、山野に住むニンフ(川・泉・谷・山・樹木などの精霊で、若く美しい女性として現れ、歌や踊りを好む)と猟犬をともに弓を持って山野を駆けて狩りをする姿で描かれます。
カリスト―の悲運
カリストーは、ペロポネソス半島中央部にあるアルカディアー地方の王リュカーオーンの娘で、ニュムペー(ニンフ)(精霊)でしたが、アルテミスの従者として処女(純潔)を誓い、狩りに明け暮れる生活をしていました。
カリストーという名前の意味は「最も美しい」で、カリスト―は、その名の通りのとても美しい乙女でしたから、やがて、ゼウスに見初められます。ゼウスは女神アルテミスに姿を変えることで、男性への警戒心の強いカリストーに近づき思いを遂げ、二人のあいだに(アルカディアの祖となる)アルカスができました。しかし、純潔を尊ぶアルテミスはこれに怒り、カリストーは、醜い雌熊に変えてしまいました。
一方、カリストーとゼウスの息子アルカスは、巨人アトラスの7人娘の一人、マイアの手によって立派に成人しました。ある時、アルカスが狩りを行っていたところ、牝熊に出会いました。アルカスはこの熊が自分の母カリストーであることを知らずに、射殺そうとすると、ゼウスはこれを憐れんで、カリストーが射殺される前に、二人を天にあげ、カリストをおおぐま座に、アルカスをこぐま座(うしかい座)にしました。
アクタイオーンの悲劇
アクタイオーン(アクタイオン)は、アポローンの子アリスタイオスと、テーバイの王カドモスの娘アウトノエーとのあいだに生まれた子で、猟師でした。ケンタウロスのケイローンに育てられ、狩猟の術を授けられたとも言われています。
アクタイオーンは、女神アルテミスに捧げられた聖域であったキタイローン山のガルガピアの谷間で、50頭の犬を連れて猟をしていましたが、たまたまアルテミスが従者たちととも泉で水浴している姿を垣間見、アルテミスの裸身を目撃してしまいました。これが、アルテミスの逆鱗に触れ、アルテミスは、アクタイオーンを、鹿の姿に変え、その連れていた50頭の犬に襲わせました。アクタイオーンは、猟犬たちに食い殺されました。
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以上、オリンポス十二神の中の三柱の処女神について述べました。ここまでの解説でもわかるように、ギリシャ神話の神々は、人間のように、喜怒哀楽が豊かで、浮気もすれば、失敗もします。次にとりあげる愛の女神アプロディテー、軍神アレス、鍛冶の神ヘパイストスは、結婚・浮気・離婚の愛憎劇を繰り広げました。
◆ 愛と美の神 アプロディテー(アフロディテー)
愛と美と性の女神で、ゼウスとティーターン神族のディオーネー(ウラノスとガイアの娘)の子という神話と、原始期の王位争奪戦争の際、ゼウスの父クロノスが切断したウラノスの男性器のかけらが海に落ち、そのまわりに生じた泡から生まれたという神話がありますが、オリュンポスの系譜上はゼウスの娘とされています。ただし、元来は、古代オリエントや小アジアの女神で、豊穣の植物神・植物を司る精霊・地母神であったとみられています。
アプロディーテーは、人気の高い女神であったからか数多くの神話に登場し、多くの子どもを生みましたが、その父親は子どもの数と同じくらい多かったと言われています。
本来は、オリンポス十二神で、鍛冶の神ヘーパイストスの妻となりました。しかし、同じオリンポス十二神の一柱、軍神アレースとは愛人関係にあったとされ、恐怖の神デイモスと、敗走の神ポボス(後に混乱、狼狽、恐怖を表す神)の兄弟を産みました。
ほかにも、テーバイ(テーベ)の建設者カドモス(人間)の妻で調和(ハーモニー)の神ハルモニアも、アプロディーテーとアレースの子です。なお、ハルモニアーとカドモスとの結婚式はオリュンポスの神々が初めて参列した人間との結婚式と言われています。さらに、異説ですが、ヘシオドスによれば、原初の神として最初に生まれたとしている愛神エロースも、愛人アレースとの間に生まれた子であるとする伝承もあります。
アプロディーテーが、美の最高神の地位を獲得するに至った一挿話に「パリスの審判」という事件があります。
パリスの審判
不和と争いの女神エリスは、女神テティスとペーレウスの結婚式に招かれなかった腹いせに、「最も美しい女神へ」と記した黄金の林檎を宴の場に投げ入れると、神々の女王ヘーラー、知恵の女神アテーナー、そしてアプロディーテーの3女神が、その林檎の所有権を主張しました。
そこで、最高神ゼウスは、トロイア王プリアモスの息子パリスに誰が最も美しいかを判定させることにしました。この時、女神たちは、様々な賄賂による約束をしてパリスを買収しようとしました。ヘーラーは「アシアの君主の座」を与える、アテーナーは「戦いにおける勝利」を与える、アプロディーテーが「最も美しい女」を差しだすと申し出ました。
結局、この審判で、アフロディーテーが勝ちを得たことから、アフロディテは、美の最高神(最高の美神)と呼ばれるようになりました。しかし、この時、アプロディーテーが差し出すと申し出た「最も美しい女」とは、トロイアの敵国スパルタ王メネラーオスの妻ヘレネーのことでした。そして、アプロディーテーの誘導で、トロイアの王子パリスが敵国スパルタの王妃ヘレネーを略奪したことがトロイア戦争の原因となりました。
なお、古い民話・童話で、王女の誕生祝いに招待されなかった魔法使いが呪いをかけるという筋立ての「眠れる森の美女」は、女神テティスとペーレウスの結婚式におけるエリスの行動にヒントを得ていると言われています。
このように、最も美しい女神とされたアフロディーテーは、ローマの時代では別名ヴィーナス(金星を意味する)として知られています。紀元前2世紀頃の古代ギリシャで制作された彫刻「ミロのヴィーナス」は、アフロディテの像であり、ルネサンス期のイタリアの画家ボッティチェリの代表作「ヴィーナスの誕生」は、アフロディテが海の泡から成人の姿で誕生した様子が描かれるなど、古来おびただしい数のアフロディテーの美術作品が残されています。
◆ 軍神 アレス(アレース)
ゼウスとヘーラーの子で、戦争の災厄を司る軍神です。戦争・暴力・流血の神、とくに残忍で血なまぐさい戦闘の神、荒ぶる神として畏怖されました。アレスの関係は蜜であったされています。好戦的な性格と言われていますが、本来は戦闘時の狂乱を神格化したものとみられています。
ただし、ギリシア神話では知に劣り、素行も荒く、不誠実な性格として描かれています。また、戦いの神でありながらも、人間のディオメデスや英雄ヘラクレスに敗北するなど、いいエピソードは多くありません。これは、アレスが、ギリシアにとって蛮地であるトラーキア地方の神(外来の神)で、トラーキアで崇拝されていたことが一因とみられています。
一方、美の女神アプロディーテーとは、愛人関係にあったとされ、恐怖の神デイモス、敗走の神ポボスの兄弟や、調和(ハーモニー)の神とハルモニアや、一説には愛神エロースも二人の間から生まれたとされています。
また、「ハリスの審判」のきっかけを作った、争いと不和の女神エリスは、アレスの妹で、常にアレースに従属して戦場を跋扈していたと言われ、多くの災いの母となり、ポノス(労苦)、リーモス(飢餓)、プセウドスたち(虚言)、アムピロギアー(口争)、デュスノミアー(不法)、アーテー(破滅)などを生んだとされています。
なお、アテナイの最高法廷アレオパゴス会議(アレイオス・パゴス)の名は、「アレスの丘」の意で、アレースに由来しています。また、アレスは、ローマ神話のマールスと同一視され、火星とも結びつけられています。
◆ 鍛冶の神ヘパイストス
鍛冶職人マスター
鍛冶(かぢ)と火の男神で(当初、鍛冶の神で、同時に「鍛冶」という「炎」と関連する職業から「火の神」ともみなされるようになった)、ゼウス、ポセイドン、ハーデスなど神々の武具を作る鍛冶職人マスターです。
決して消えない炎を使って大河を蒸発させて、河の神スカマンドロスを降参させるなど、その優れた技術にも定評があります。鍛冶の技能を持つサイクロプスや、キュクロープス(卓越した鍛冶技術を持つ単眼の巨人であり、下級神の一族)らを雇い(従え)、自分の工房で様々な武器や道具、宝を作っていると言われています。
知恵の女神アテナは、ゼウスの頭をかち割って生まれたという話がありましたが、その時、使用された斧もヘパイストスが作った斧でした。また、ゼウスの盾アイギスも、ヘパイストスの作です。
不具の子
ヘーパイストスは、ゼウスとヘラの第一子ですが(ゼウスの浮気に激怒したヘーラーがゼウスと交わらずに1人単独で生んだという伝承もある)、容姿は悪く、両足の曲がった醜い奇形児でした。これに怒ったヘーラー(ヘラ)は、生まれたばかりのわが子を天(山)から海に投げ落としました(その時に足を折ってしまい、一生足が不自由になってしまったという説もある)。その後、海の女神テティスとエウリュノメーに拾われ、9年の間育てられた後、天に帰ってきました。
しかし、相変わらずヘーパイストスを嫌っていたヘラには中々認知されず、神としての地位を得られませんでした。その為、ヘーパイトスは自作の椅子に仕掛けを施してヘラを拘束し、自分を認知させた上、アフロディーテとの結婚も承諾させました。
三角関係
こうして一組の夫婦が誕生しましたが、真面目で、仕事好きなヘパイストスと、美しいが、刺激を好み、奔放なアフロディーテとは、うまくいきませんでした。
アフロディーテは夫を嫌い、粗暴でも美男子のアレスと関係を持ってしまいました。アレスはヘパイストスと兄弟同士で、妻を愛していたヘパイストスも、さすがにこれには怒り、ベッドに細工して、二人がベットにいる状態で動けないようにし、他の神々の晒し者にしました。最終的に、ヘパイストスはアフロディーテと離婚し、アレスから賠償を受け取りました。
なお、ヘパイストスは離婚する直前、アテーナーが、ヘーパイストスの工房に武器を整えてもらおうとやって来た際、アテーナ―に欲情し迫りましたが、アテーナーは拒んで逃げました。すると、ヘーパイストスは不自由な足でアテーナーを追いかけた末に、女神の足に射精してしまいました。アテーナーはこれを羊毛で拭き大地に捨てたところ、大地は身ごもってエリクトニオスを生みました。
エリクトニオス
初代アテーナイ王ケクロプスを引き継いだ神話的な王で、ケクロプスと同じく上半身が人間で下半身が蛇だったといわれています(ケクロプスはアテナイ市をめぐるアテネとポセイドンの争いの審判役を務め、アテネの勝利と判定した王)。アテーナーは、そんなエリクトニオスを不死にしようと考え、1匹の大蛇とともに箱中に入れ、アテーナイ王ケクロプスの娘たちに預けました。ところが彼女らは「中を見ないように」という女神の言いつけを破って箱を開き、大蛇によって殺されてしまいました。
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◆ 太陽神アポロン
ゼウスと、ティーターン神族のレートー(レト)との間に生まれた子(アルテミスの双子の弟)で、古典期のギリシアにおいて、理想の青年像とみなされました。古くから牧畜・羊飼いの守護神であり、また、竪琴を手にとる音楽と詩歌文芸の神にして、神託を授ける予言の神として知られています。加えて、弓術にも優れたアポロンは、「遠矢の神」(「遠矢射る」疫病神)であり、転じて医術の神(病を払う治療神)としても信仰されました。さらに、後に、太陽神としての性格も付与されています。双子の姉アルテミスが、月神セレーネーと同一視され月の女神となったように、アポローンもヘーリオスと同一視され太陽神となりました。
◆ 伝令神 ヘルメス (ヘルメース)
もともと先住の神ですが、神話では、最高神ゼウスと巨人神アトラスの娘マイアの子(ゼウスにとって末子)で、ペロポネソス半島の中央部のアルカディア地方のキュレネ山の洞穴で生まれたとされています。ローマ神話ではメルクリウス、英語読みでマーキュリー(水星)。
商業の神、雄弁の神、盗賊の神、科学の神で知られる青年神で、牧畜・発明・商業・音楽・競技、さらには、羊の群れ、死者の魂などを司っています。旅人、商人、発明家・盗人・旅行者などにとっての守護神で、総じて、「富と幸運の神」として知られています。
また、聡明なヘルメスは、神々の使者(伝令者/メッセンジャー)を務め、特にゼウスの使いとして、百眼の怪物アルゴスの撃退など、多くの密命を果たしました。また、アポロンの牛を盗んだり、竪琴を発明したりと、その機知と抜け目なさにまつわる多様な伝承があります。
ゼウスは、オリュンポス神族の伝令となる神を作るため、妻ヘーラーに気付かれないように夜中にこっそり抜け出し、マイアに会いに行き、関係を持ちました。これによって、生まれてきたヘルメスは、策略家で、盗みに長け(泥棒)、夜闇をうかがい、戸口を見張る(見張りの才能)の才能や、ヘーラーに隠し通すことで嘘の才能を持ったとされています。
こうした背景から、弁舌巧みで相手の心をつかみ、駆け引き交渉も上手なヘルメスは商業の神として崇められるようになりました。さらに、両性具有の超性神、親子神(母子神)とも関連付けられています。
ヘルメースは、神話では、手に二匹の蛇が巻き付いた魔法の杖(小杖)を持ち、翼のついた帽子と靴(サンダル)を身につけ、ひとたび使命があれば、神々の住むあらゆる世界に飛び立つ天を駆ける青年として描かれています。
アポロンの竪琴
ヘルメスは、生後まもなく、ゆりかごからはい出して異母兄アポロンの牛50頭を盗みました。しかし、すぐにアポロンに突き止められ、ゼウスのもとに連れていかれました。おむつ姿で自分の潔白を巧みな弁舌で主張する姿にゼウスは苦笑しながら、ヘルメスに牛の返却を命じました。
牛を返すにあたり、ヘルメスは、盗んだ牛の腸で弦を張って作った竪琴(たてごと)を作り奏で、アポロンに贈りました(「アポロンの竪琴」の由来)。この音色に魅了されたアポロンは、牛飼いの杖をヘルメスに贈ります。これが魔法の杖「ケーリュケイオン」とされ、ヘルメスがもつ杖は商業のシンボルとなりました。
百眼の怪物アルゴス
怪物アルゴスは、全身に百の目を持った巨人とされ、それぞれの眼を順番に休ませることで、寝ずの番をすることができ、アルゴス自身は常に目覚めていました。ゆえに、普見者(パノプテース)とも呼ばれていました。
そんなアルゴスは、ゼウスの妻・女神ヘラに仕え、神々の命を受け、怪物エキドナ(上半身は人間の女で腰から下は蛇の形をした怪物)や、アルカディア地方を荒した雄牛の怪物を退治するなど、多くの手柄をあげていました。さらに、主人ヘラの命を受け、ゼウスの愛人で(ヘラの目を避けるため)牝牛の姿に変わっていたイーオーを監禁し、見張る役目も引き受けていました。
これに対して、ゼウスの命令を受けて、イーオーを取り戻しに来たヘルメスは、このアルゴスを殺し、イーオーを解放しました。のときヘルメースは、葦笛(あしぶえ)の音を聞かせ、その笛の魔力で、アルゴスの百の目をすべて眠らせて、剣で首を刎ねました。なお、ヘラはアルゴスの死を悼み、その百の目をとって、自らの聖鳥クジャクの尾羽根に飾り、それ以来、クジャクは尾羽根に百の目を持つと言われるようになりました。
ヘルメスの母マイアとその父アトラス
マイア(マーヤー)
ヘルメスの母マイア(マーヤー)は、ティーターン族の巨人アトラース(アトラス)と、海のニュンペー(山や川、森や谷に宿り、守る下級女神)であるプレーイオネーとの間に生まれた7人姉妹(プレイアデス)の一人です。
また、マーヤーは豊穣の女神の名前にも由来し、後のローマ神話では、豊穣を願って5月1日に行われていたマイアの祭日は、メーデー(国際的な労働者の祭典)のルーツ(起源)にもなっています。マーヤーそのものは、「魔術の祖母」の意であり、ヘルメスが「死者の魂」をつかさどっていたのは、母マーヤーが死者を復活させ再生させる祭典の女神とされていたことに由来します。
アトラス
一方、マーヤーの父、アトラース(アトラス)は、ティーターン神族の一柱のイーアペトスとオーケアノスの娘クリュメネー(アシアー)の子で、巨躯で知られ、両腕と頭で天の蒼穹(そうきゅう)(青空)を支えています。これは。ティーターン神族がゼウス達との戦い(ティーターノマキアー)に敗れると、アトラースはゼウスによって、世界の西の果てで天空を背負うという苦役を負わされることとなった結果です。土星の第15衛星アトラスの名前の由来になっています。
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以上、オリンポスの十二神を紹介しましたが、かまどの神ヘスティアーの代わりにディオニューソスを入れる場合もあります。これは、十二神に入れないことを嘆く甥のディオニューソスを哀れんで、ヘスティアーがその座を譲ったためと伝えられています
また、オリンポスの十二神と同格の神として、冥府の神ハーデース(ハデス)がいます。十二神にハーデースが含まれないのは、冥府は地下にあり、普段、オリュンポスにはいないため、オリンポスの十二神から外されました。
◆ 酒の神ディオニュソス
酒の神(ワイン・ブドウの神)・豊穣の神で、最高神ゼウスとテーベの王女セメレーの子です。神と人間の間の子どもなので、神ではありませんでしたが、ブドウを栽培、ブドウ酒作りを、熱狂的な女性信者らとともに自らの神性を証明しながら広めたことで、ギリシアの神々の列に加えられました。別名はバッコス(その英語読みはバッカス)。
◆ 冥府の神ハーデース(ハデス)
ティタン神族のクロノスとレアーの子として生まれ(長男でポセイドーンとゼウスの兄)、冥府の神・冥界の王として、死者の国を支配しています(もとは、固有の神で、その名は「見えざる者」の意))。のちに,みずからの姉妹にあたる女神デメテルの娘ペルセフォネを地上からさらって后(妻)としました。
オリュンポス内でもゼウス、ポセイドーンに次ぐ実力を持つとされていますが、冥府が地下にあることから、普段冥界に居てオリュンポスには来ないため、通常、オリュンポス十二神(オリンポスの神、「天界の神」に属さない)に含まれませんが、オリンポスの十二神と同格の神とみなされています。
生まれた直後、ガイアとウーラノスの「産まれた子に権力を奪われる」という予言を恐れた父クロノスに飲み込まれてしまいましたが、末弟のゼウスに助けられ、その後、ゼウス、ポセイドンと力を合わせて、当時,世界の覇者であった父神とティタン神族との戦い(ティータノマキアー)に勝利しました。これにより、3神は、くじ引きで自らの領域を決め、ハーデースは冥界の支配権を得ました。
冥府の王、死者の国の支配者となったハーデースは、死者は再び蘇らないという原則を厳格に守る神で、正義にもとることのない、正しい神であったと評されています。冥界では、略奪して妃としたペルセポネーと並んで玉座にすわり、ミーノース、ラダマンテュス、アイアコスという三人の判官に支えられて冥界を支配していました。
こうした背景から、ハーデースは、「恐るべき神」として、冷酷で慈悲を知らずと、恐れられていました。このイメージは軍神アレースと密接に繋がりがありとされます。軍神アレースが戦死者の魂が冥界に多く送ると、それだけ地下の王国は巨大になり、その恐怖ばかりが強調されるようになったのです。
実際のハーデースは、オルフェウスの竪琴の音色に感動して涙を流すなど、感情豊かで、全ての者を受け入れる神(神々に寵愛されるほどの英雄は除いて、金持ちも貧者も死後は等しく冥界へと下るから)として、一部で信仰されていました。ただし、ゼウスやアポロンなどと異なり、神話や物語は多くありません。
一方、ハーデースは、冥府の神以外にも、地下の神として、地中に埋蔵される金銀などの鉱物島(富)を所有する、地下の鉱物資源の守護神でもあります。また、作物は地中から芽を出して成長するので、ハーデースは、地上に繁茂する植物の源を支配するとして、後には農耕の神、豊穣神としても、一部で崇められるようになりました。
このことから、ハーデースは、プルートーン(プルトン)(富める者)とも呼ばれ、ローマ神話においては、プルト,またはそのラテン訳のディスがハーデースの呼称となっています。
これ以外にも、クリュメノス(名高き者)、エウブーレウス(よき忠告者)などの別名をあります。古代ギリシアにあっては、人々は「恐るべき神」であるハーデースの本名を口にすることを避け、崇拝においても、これらの婉曲表現としての別名で呼ばれました。
ハーデースは、死の国の魔神オルクスや慰霊の神フェブルウスとも同一視され、また、キリスト教において死後の世界そのものを指す言葉として用いられています。ダンテの「神曲」においても同名の魔物が登場します。さらに、冥王星の名前の由来でもあります。
古代ギリシャにおける冥府とは?
ハーデースが支配する冥府・死者の国は、ホメーロスでは、西の果て、オーケアオノスの外洋の海流の彼方にあるとされていましたが、後に、冥府は地下にあって、広大な薄暮の世界と考えられるようになりました。冥府は、地上にある深い洞窟などと通じているとされ、神話では、ヘーラークレースやテーセウスなどは、洞窟をくぐって、冥府に降下しています。
古代ギリシア人の考えによれば,死者の亡霊はまず、ゼウスの伝令神ヘルメスによって冥界の入口にまで導かれます。ついで、死者たちは、生者の国と死者の国の境界にステュクス河(別名アケロン河)という河に来ると、闇と夜の子で、渡し守のカローンによって渡されたあと、三つ頭の猛犬ケルベロスの番するハデスの館で,ミノス,ラダマンテュス,アイアコスの判官から生前の所業について裁きを受けます。
その結果,多くの亡霊(死者たち)は、アスフォデロ(不凋花)の咲く野にさまようことになります。ただし,神々の恩寵を受けた、英雄や正義の人士は、(はるか西方の地の果てにある)エリュシオンの野に送られて、静かで楽しい至福の生を営むことができるとされています。
一方,極悪犯罪人や、シシュフォスやタンタロスのような神々の敵は、冥界の最深部であるタルタロスの奈落へ押しこめられ(に閉じ込められ),そこで永遠の責め苦にあうものと考えられていました。冥界は、一端死者を、そのうちに迎えると、決して死者を地上に戻すことはないとされています。
もっとも、このような冥府の地理の詳細は後世に想像されたもので、古代ギリシアでは、このような細部までは決まっていなかったとの指摘もあります。なお、エーリュシオンは後に「楽園」の別称となりました。パリにあるシャンゼリゼ通りやエリゼー宮という名称は、エーリュシオンのフランス語形、「エリゼー」から来ています。
<ギリシャ神話とローマ神話の神々>
さて、ローマ帝国は「文化面ではギリシアに征服された」と言われているように、ギリシア神話の神々をローマ神話の神々と同一視してローマ文化に取り入れたため、ギリシア神話とローマ神話の神々は、名前こそ異なります(括弧は英語名)が、その権能はほぼ共通しています。
ゼウス ⇒ ユーピテル(ジュピター) (木星)
ヘーラー ⇒ ユーノー(ジュノー)
ポセイドン ⇒ ネプトゥーヌス(ネプチューン)(海王星)
デーメーテール ⇒ ケレース(セレス)
ヘスティアー ⇒ ウェスタ(ヴェスタ)
ヘーパイストス⇒ ウゥルカーヌス(バルカン)
アポロン ⇒ アポロ (太陽)
アルテミス ⇒ ディアーナ(ダイアナ) (月)
アテーナー ⇒ミネルヴァ
アプロディテ ⇒ ヴィーナス (金星)
アレース ⇒ マールス(マーズ) (火星)
ヘルメス ⇒ メルクリウス(マーキュリー) (水星)
ディオニュソス⇒ バッカス
ハーデース ⇒ プルートー(プルート)(冥王星)
<ギリシャ神話シリーズ>
(参照)
古代ギリシャの歴史と神話と世界遺産
(港ユネスコ協会HP)
ギリシャ神話
(TANTANの雑学と哲学の小部屋)
ヘラクレス12の試練を超解説!ギリシャ神話最強の英雄
(アートをめぐるおもち)
第8話「マーキュリー(ヘルメス)の翼に乗って」-
(広島大学高等教育研究開発センター)
オリオン座の神話・伝説
(ステラルーム)
古代ギリシャ神話のヘラクレスの過酷な人生と英雄たる所以
(アンティーク・ジュエリー・ヘリテージ)
オデュッセイアは古代ギリシャの最高傑作!あらすじや登場人物を徹底解説
(ターキッシュ・エア・トラベル)
ギリシア神話の12神と簡単なストーリー
(Nianiakos Travel)
ギリシャ神話伝説ノート
(Kyoto-Inet)
ギリシャ神話とは(コトバンク)
ギリシャ神話など(Wikipedia)