2026年07月31日

人知れず改正食糧法

国旗損壊罪、皇室典範改正、副首都法案などメディアに注目される法案審議が多かった第221回国会(特別国会)において、「人知れず」通過した重要法案があります。それは、2026年7月に成立した改正食糧法です。

 

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<改正食糧法の成立と背景>

 

食糧法(「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」)は、2024年夏から翌2025年にかけて起きた「令和の米騒動」(米不足と価格高騰)を踏まえ、コメの流通円滑化と需給実態の把握強化を通じた、コメの価格安定と需給調整(コメの安定調達)をめざして、改正されました。

 

令和の米騒動(一連の混乱)は、農水省(政府)が、コメ流通の目詰まりの実態(米が市場のどこで、どれだけ滞留しているか)を的確に把握しきれず、需給を見誤ったことが要因であったとされています。

 

このため、極端な品薄によってスーパーの棚からコメが消えた後も、備蓄米の放出判断が遅れ、米価が急騰、放出後も、入札手続きなどで流通が滞り、店頭に並ぶまでに時間がかかりました。

 

今回の改正では、農水省の後手に回った対応が混乱を広げたという反省から、流通実態の把握に努めるべく、「需要に応じた生産」、「業者の報告義務」、「民間備蓄」の3点がポイントとなっています。

 

 

 農家の「需要に応じた生産」

 

改正法では、コメの「需要に応じた生産」を基本と明記されました。

 

同時に、政府の役割だった「生産調整の推進」という記述が消えました。これは、法律に長年残っていた「生産調整方針の認定」に関する規定(需要減少を前提とした、国による生産抑制の手続き)を完全に廃止されたことを意味します。

 

しかし、国が生産量を割り当てる手段を無くす代わりに、法律には、生産者(農家)が、主体的に「需要に応じた生産に努める」と、生産者の責務を示す文言が記されました。

 

簡単にいえば、減反政策と同義とみなされている「生産調整」をやめ、代わりに、コメの需給安定に向け、農家が主体的に「需要に応じた生産」に取り組むことが責務とされたのです。

 

一方、「需要に応じた生産」とは単なる生産抑制(減反)ではないとされ、輸出や中食・外食向けなど、新たな需要を開拓し、それに向けて生産を増やしていくことも含むと説明されています(増産も「需要に応じた生産」に含まれる)。

 

 

「需要に応じた生産」の運用

では、「需要に応じた生産」は現場にどう反映されるのでしょうか?政府が需要量を提示するのでしょうか?

 

「需要に応じた生産」とは、国が農家に直接「何ヘクタール作れ」「これ以上作るな」というように、かつての国が強制力を伴って減反(作付面積)を割り当てるものでも、全国一律の作付制限を意味するものではありません。

 

農林水産省は、毎年「米の基本指針」を公表します。これは、新たに義務化される(後述)加工・外食業者等からの定期報告データを元に、「来年はどれだけの主食用米の需要があるか」「輸出用や加工用の需要がどれだけ伸びているか」を弾き出した「精度の高い需給見通し(データ)」です。

 

この需給見通しが、民間市場の大きな目安(基準)となり、生産者は、国が示した「このまま主食用を作ると市場が過剰になる」「いまは加工用や輸出用のニーズが高い」といったデータを見て、自らの経営判断で作付計画を立てる仕組みになっています。

 

 

◆ 業者の報告義務

 

これまで、国(農林水産省)は、一定(年間20トン以上)の米を扱う集荷業者(農協)、卸売業者、小売業者に対して、事前に事業者としての登録(届出義務)を求めていました。(これらの業者への任意の「意向調査」や「統計調査」によって民間在庫を大まかに推計していた)

 

改正法は、流通実態を把握するため、一定規模以上(年間取引量が300トン以上)の出荷業者(農協)や卸売業者(問屋)、小売業者(スーパー・コンビニ)だけでなく、加工業者(酒蔵、米菓メーカー、製粉会社)や、中食業者(弁当・惣菜)、外食業者(外食チェーン)にも、在庫量、仕入れ量、出荷・販売量、さらに取引価格や精米加工量などの定期的な報告を義務づけました(虚偽・未報告には罰金あり)。

 

集荷業者・卸売業者・第一種小売(米屋など):毎月の報告義務

その他のスーパー・加工業者・外食チェーンなど:年1回の報告義務

 

これによって、コメの需要や、多様化した流通実態をより正確に把握でき、かつ正確な需給見通しを策定できるようになります。この流通の「見える化」によって、危機(パニック)時の情報把握にも対応できると期待されています。

 

 

◆ 民間備蓄体制の構築

 

また、備蓄制度も見直し、政府備蓄に加え、コメ販売業者(大手の集荷・卸売業者・小売業者など事業者)に、一定の在庫保有(一定数量(計20万トン程度)の保管)を義務づける「民間備蓄」制度も創設されます。

 

これは、政府備蓄の一部に相当する量の保有を民間事業者に義務付ける制度で、「令和の米騒動」のような深刻なコメ不足や流通の混乱を未然に防ぎ、官民一体となった(官民連携の)備蓄体制を構築するための効率的な措置とされています。

 

なお、改正によって、政府備蓄米は、生産量の減少に加え、需要の増加などで供給が不足した場合も放出できるよう定義を変更、迅速な放出が可能になるとみられています。

 

このように、今回の食糧法の改正は、「令和のコメ騒動」時の流通と備蓄の課題に対応しながら、国が主体的に需要の開拓や輸出支援などを進め、生産者が自主的・主体的に需要に応じた農業に取り組むことをめざしています。

 

ここまでは改正食糧法の表面的な概要です。次に、この改正法の真の意味を考えます。(続)