狡猾な食料法の改正、遠のく食糧安保

 

国旗損壊罪、皇室典範改正、副首都法案などメディアに注目される法案審議が多かった第221回国会(特別国会)において、「人知れず」通過した重要法案があります。それは、2026年7月に成立した改正食糧法です。今回は、改正食糧法について概観しつつ、そのずる賢い実態に迫りました。

 

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<改正食糧法の成立と背景>

 

食糧法(「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」)は、2024年夏から翌2025年にかけて起きた「令和の米騒動」(米不足と価格高騰)を踏まえ、コメの価格安定と需給調整(コメの安定調達)をめざして、改正されました。

 

令和の米騒動は、農水省(政府)が、コメ流通の目詰まりの実態(米が市場のどこで、どれだけ滞留しているか)を的確に把握しきれず、需給を見誤ったことが要因であったとされています。このため、極端な品薄によってスーパーの棚からコメが消えた後も、備蓄米の放出判断が遅れ、米価が急騰、放出後も、入札手続きなどで流通が滞り、店頭に並ぶまでに時間がかかりました。

 

今回の改正のポイントは、農水省の後手に回った対応が混乱を広げたという反省から、コメの流通円滑化と流通実態の把握に努めるべく規定された、「需要に応じた生産」、「業者の報告義務」、「民間備蓄」の3点です。

 

◆ 農家の「需要に応じた生産」

 

政府(農林水産省)によれば、「需要に応じた生産」は、過剰生産による価格の暴落を防ぐと同時に、実需者のニーズ(業務用や加工用など)を的確に把握して安定供給を図るための基本方針です。しかも、改正法では、政府の役割だった「生産調整の推進」という記述が消え、「需要に応じた生産」が明記されました。

 

これまで食糧法には、「生産調整方針の認定」に関する規定(需要減少を前提とした、国による生産抑制の手続き)が長年残っていましたが、この規定が完全に廃止されました。しかし、これで、実質的な減反政策が終了したというわけではありません。簡単に言えば、国が生産量を割り当てる「生産調整」をやめる代わりに、コメの需給安定に向け、農家が主体的に「需要に応じた生産」に取り組むことが責務とされたのです。

 

具体的には、農林水産省は、毎年「米の基本指針」を公表します。これは、新たに義務化される(後述)加工・外食業者等からの定期報告データを元に、「来年はどれだけの主食用米の需要があるか」「輸出用や加工用の需要がどれだけ伸びているか」などを弾き出した「精度の高い需給見通し(データ)」が示されます。この需給見通しが、民間市場の大きな目安(基準)となり、農家は、自らの経営判断で作付計画を立てることになります。

 

一方、「需要に応じた生産」とは単なる生産抑制ではないとされ、輸出や中食・外食向けなど、新たな需要を開拓し、それに向けて生産を増やしていくことも含むと説明されています(増産も「需要に応じた生産」に含まれる)。

 

◆ 業者の報告義務

 

これまで、国(農林水産省)は、一定(年間20トン以上)のコメを扱う集荷業者、卸売業者、小売業者に対して、事前に事業者としての登録を求め(届出義務があった)、これらの業者への任意の「意向調査」や「統計調査」によって民間在庫を大まかに推計していました。

 

これに対して、改正法は、流通実態をより正確に把握するため、出荷業者(農協)や卸売業者(問屋)、小売業者(スーパー・コンビニ)だけでなく、加工業者(酒蔵、米菓メーカー、製粉会社)や、中食業者(弁当・惣菜)、外食業者(外食チェーン)など年間300トン以上扱う約7,000の事業者に対して、在庫量、仕入れ量、出荷・販売量、さらに取引価格や精米加工量などの定期的な報告を義務づけました。

 

なお、集荷業者・卸売業者・第一種小売(米屋など)は、毎月の報告義務で、その他のスーパー・加工業者・外食チェーンなどは、年1回の報告義務 となります。

 

これによって、どこにどれだけコメがあり、いくらで動いたかがほぼリアルタイムでわかるようになることから、農水省は、コメの需要や、多様化した流通実態をより正確に把握でき、かつ詳細な需給見通しを策定できます。

 

民間備蓄の見える化

国だけでなく民間が持つ在庫量を正確に把握することで、不測の事態にどの地域でどれだけの食料が融通できるかをシミュレーションできます(危機時の情報把握に対応可)。

 

買い占めや流通停滞の防止

「令和のコメ騒動」時に起こったように、流通停滞や買い占めによって、市場に在庫があるにもかかわらず小売店からコメが消えるといった事態を、正確な流通データをえることによって、これを防止することができます(「情報の空白による混乱」の回避)。

 

データに基づく輸出・需要開拓

集まったデータを「どの分野でコメが足りないか(余っているか)」といった市場予測として官民で共有し、輸出等の農業政策に活かすことが可能となります。

 

一方、虚偽の報告や拒否(未報告)をした場合には罰金が科されます。さらに、民間備蓄を放出する際に「利幅が大きすぎる(不当に高く売っている)」と疑われた場合、国は立ち入り検査を行う権限を持っています。

 

◆ 民間備蓄体制の構築

 

備蓄制度も見直し、政府備蓄に加え、コメ販売業者(大手の集荷・卸売業者・小売業者など事業者)に、一定(計20万トン程度)の在庫保有を義務づける「民間備蓄」制度も創設されます。これは、政府備蓄とは別枠で民間事業者に一定量の保有を義務付ける制度で、「令和の米騒動」のような深刻なコメ不足や流通の混乱を未然に防ぎ、官民一体となった(官民連携の)備蓄体制の構築が目指されています。

 

なお、厳密に言えば、JA、出荷業者、卸売業者、小売店などコメ事業者は、日常の販売や次の収穫期までの端境期(はざかいき)用に自主的に民間在庫、約280万トンを保持していますが、今回の民間備蓄は、この日常の流通在庫の中から、計20万トン程度の在庫保有を義務づけたものです。

 

政府が持つ備蓄米は、放出の決定や入札、精米・流通までに数週間〜数ヶ月の時間がかかり、「令和のコメ騒動」においても、深刻な店頭の品薄に対して「遅すぎる」という批判を浴びました。そこで、民間備蓄制度の創設によって、最初から卸売業者や小売店などの倉庫にあるコメの一部を「備蓄」と義務付けることで、いざという時に国の指示で1〜2日以内に普段の流通ルートへ流せるようにしました。

 

これによって、災害や不作による急激な米不足が起きた際に、市場へ速やかに米を放出して価格や供給を安定させる(=価格の乱高下や異常な高騰を抑える)ためのセーフティーネットとして機能することが期待されています。つまり、民間備蓄制度の目的は、「いざという時にすぐ市場に出して、異常な高騰やパニックを防ぐ」ことにあります。

 

このように、今回の食糧法の改正は、「令和のコメ騒動」のような事態が起こらないようにするための、流通と備蓄制度の改革ということが言えます。

 

 

<改正食糧法の裏側>

 

ただし、今回の改正食糧法については、「過去の減反政策への先祖返り」「農家への監視・責任転嫁」など、多くの専門家や生産者などから批判・懸念の声があがっています。

 

◆「需要に応じた生産」批判 

 

改正法では、コメ政策の基本方針について、政府は「生産調整」を止め、生産者が主体的に「需要に応じた生産を行う」と明記されました。

 

事実上の「減反政策」の温存・先祖返り

もともと、「需要に応じた生産」とは、鈴木大臣が、就任会見のときに使った言葉で、大臣は、当時、「需要に応じた生産が基本…需要がないのに生産量を増やせば米価が下がる。・…価格の安定が不可欠。無責任に増産を続けるのは難しい…」と発言しています。

 

実際、日本の人口減少に伴い、コメの国内需要は毎年約10万トンずつ減少しています。この「減り続ける需要」に合わせて生産することを国が法的に後押しすれば、結果としてコメの生産基盤(水田や担い手)をさらに縮小させることになります。

 

ですから、「需要に応じた生産」とは、需要の伸びが見込めなければ生産を抑えるという趣旨で、「需要が減る(増えない)なら作らせない、増産させない」ということになります。「コメの過剰生産による米価の急落を防ぎたい」というのは政府や農協(JAグループ)にとって一貫した強い意思です。これは、米価を現水準から下げないようにするため、事実上の減反政策を温存(旧来型の減反政策方針を固定化)するものです。

 

また、法律から政府の役割だった「生産調整の推進」という記述が消えたことも、「政府は特に何も言わないから、自主的に減産がんばれ」いう意味でもあります。 これによって、コメに関して問題が生じた場合、農水省は「生産調整はやめている」と直接的な批判を回避し、責任を生産者・販売者側に転嫁ができるようになります。

 

需要予測の難しさと国の責任放棄

政府の需給見通しをベースに生産量が誘導されますが、「令和のコメ騒動」からもわかるように、国さえコメの需給バランスを正確に見通せません。政府が予測を見誤った場合、「個々の農家の自己責任に押し付けるのか」との強い反発があります。

 

もちろんそのための業者からの報告義務があるわけですが、それでも、近年の「インバウンド(訪日客)の急増」や「気候変動による大凶作」などを政府がデータだけで完璧に予測するのは困難です。将来的な価格の乱高下(暴落や高騰)を招きやすくなると指摘されています。

 

要請(目標)から強制(義務)へ

今回の法改正の裏の狙いは、減反政策(生産調整)を巧妙に法制化することです。「需要に応じた生産」を法律に明記したことによって、これを「努力目標」から「法的義務に近い縛り」への格上げさせることに成功しました。

 

減反政策(生産調整)は行政指導などで使われていましたが、あくまで農家や地域への「お願い(努力目標)」の域を出ませんでした。鈴木大臣就任後の「需要に応じた生産」という言葉も食糧法改正の成立までは、単なる掛け声でした。

 

しかし、これが法律(食糧法)に明記されたことで、国や地方自治体、JAなどの農業団体が生産量を抑えるための「法的な大義名分(根拠)」を手に入れたことになります。国が「これ以上作ってはならない」と、これまで以上に、実質的な減反政策を誘導する力が以前よりも強力になるのです。たとえば、増産したい農家がいても、それが法律違反と言われれば、「減反」に従わざるをえません。

 

「需要に応じた生産」の法制化=実質的な減反政策(生産調整)の強化は、供給を意図的に絞り込み、コメの高価格の固定化を図る(価格を高止まりさせる)強力な手立てとなります。

 

◆「民間事業者への報告義務化」批判

 

改正法は、令和のコメ騒動時にできなかった「流通実態の把握」のため、外食産業を含む一定規模以上のコメ事業者に対して、在庫量、仕入れ量、出荷・販売量などの定期的な報告を義務づけました。

 

しかし、報告義務化にともなう「事務負担の増加」や「監視への懸念」は、農業界や流通現場からも実際に強く指摘されています。たとえば、加工事業者や外食事業者に多い中小企業からは、日々の在庫や出荷量の集計・報告は大きな事務コストとなり、経営を圧迫するという懸念の声が聞かれています。

 

改正食糧法における報告義務は、農水省が、生産を増やす農家を直接的に発見して指導するためのものではないとされていますが、データの提出が、国による生産動向の「監視」につながり、将来的には自由な営農が心理的・実質的に制約されるのではないかという不信感も根強く存在しています。

 

こうした締め付けは、自由な取引や民間企業による新たなコメ需要の開拓(輸出や新商品開発など)の意欲を萎縮させる恐れがあります。有事の「目詰まり」を防ぐための情報把握が、平時の流通の柔軟性を奪うという本末転倒な事態が懸念されています。

 

◆「民間備蓄」批判

 

今回の改正では、政府の備蓄米とは別に、民間のコメ販売業者(大手の集荷・卸売業者・小売業者など事業者)に在庫を抱えさせる「民間備蓄」が新設されました(一定量の「民間備蓄」の保有が義務付けられた)。

 

政府備蓄に手をつけたくない

2024年のコメ不足の際、消費者や小売業界からは「政府の備蓄米を早く市場に出してほしい」という声が殺到しました。しかし、農水省(江藤農相)は「市場の価格に影響が出るから」という理由で、頑なにこれを放出しませんでした。農水省や農業団体は「備蓄米を大量に放出すると、新米が出たときにコメ全体の価格が暴落してしまう」として、放出に極めて慎重でした(最終的に小泉農相が政府備蓄米を放出して、米価は一時的に下落した)。

 

そこからわかる、民間備蓄制度導入の真意は、「(米価への影響を抑えたいから)政府備蓄米を安易に動かしたくない」ということです。国(農水省)は、「自分の備蓄は使いたくない、米価を下げたくないから、代わりに民間が、身銭(みぜに)を切って余分に在庫を抱え、パニックが起きたらそれを回してくれ」というのが本音なのかもしれません。

 

民間への押しつけ

そもそも、備蓄制度は、食料安全保障にとって必須の制度です。「食料安全保障」とは、簡単に言えば、 国民が飢えないようにすることで、国防や警察と同じく、本来は国が100%の責任とコストを負うべきものです。

 

しかし、新制度では、国ではなく民間の事業者に「一定量のコメを常にストックしておくこと」を義務付けます。本来なら国が税金で賄うべき「有事の蓄え」のコストを、一営利企業に負担させるのは筋違いです。多くの専門家からも「民間備蓄制度の新設は、国が本来負うべき食料安全保障のコストとリスクを卸業者や小売など民間企業に丸投げ(放棄)するものだ」という厳しい声が上がっています。

 

「消費者の値上げ」として跳ね返る?

逆に、コメ業者が「民間備蓄」を強いられるということは、国の指示があるまで勝手に売ってはいけない備蓄(在庫)を抱えることを意味します。

 

多くのコメ業者にとって、民間備蓄制度は、ただでさえ負担している日常の在庫コストに加えて、さらに自由に動かせない「縛り」のある備蓄コストや管理リスクまで押し付けられる規制強化とも言えます(逆に政府にとっては、「国の財政負担(在庫管理負担)の削減」となる)。これは、現場の負担が増え、結果としてコメ流通の萎縮や離農を加速させることになる恐れがあります。

 

加えて、企業が、これらの追加コストをそのまま負担され続ければ、最終的にコメの販売価格や、外食・お弁当の値段にコストを上乗せせざるを得なくなるかもしれません(コメの流通コストや販売価格へ転嫁される懸念がある)。最悪の場合、コメ業界の倒産や撤退が相次ぎ、供給網そのものに大打撃となる可能性もあります。(民間企業は利益を出さなければ倒産する)。

 

このように、民間備蓄制度は一見「官民連携の効率的な備蓄」に見えますが、その実態は、国民を飢えないようにするための食料安全保障の本質から外れ、「米価の下落阻止」のために、食料安保の責任を民間と消費者に押し付けることになる仕組みです。

 

 

<食料法改正は誰のため?>

 

改正食糧法は、2024年夏に起きた「令和のコメ騒動(米不足)」で政府の対応が遅れ、世論の批判を浴びたたことから、その挽回を図ろうとした農林水産省が主導したと言われています。しかし、そこには、当然、JA農協など農業団体の「意向」や「水面下の働きかけ」が色濃く反映しいます。そのためか、今回の法改正の過程において、農業団体からの無理な要求も含めて大きな紛糾もなく、メディアも積極的に取り上げることなく、スムーズに成立しました。

 

そうすると、食糧法は、「令和のコメ騒動」のようなコメ不足で価格が暴騰するような事態を今後起こさないために改正されましたが、ここまでの解説をふまえると、それは消費者のためというよりも、JA農協と農水省の利益のためではなかったかという疑問符がついてしまいます。

 

◆「需要に応じた生産」の真意

~「令和のコメ騒動」の成功体験~

 

農協(JAグループ)にとって最優先事項は、組合員である農家の経営(所得)を守るため、「コメの買い取り価格を下げさせないこと」(コメ価格の高値安定=下落阻止)です。

 

「コメの過剰生産による価格急落を防ぎたい」という考え方は、農水省も共有しており、「需要に応じた生産」と称して、市場に米が溢れて価格が下がらないよう、官民でガチガチに需給を縛る方向性は、両者の利害と一致しています。2024年のコメ騒動において、「コメの取引価格が数十年ぶりの高値」に跳ね上がりました。このとき、農水省や農協は、「供給をギリギリまで絞れば、コメの価値(価格)を高く維持できる」という成功体験が植え付けられたと指摘されています。

 

ただし、絞りすぎて、米価が上がりすぎるのも、消費者のコメ離れを誘発したり、輸入米が増えたりすることになるので、過度にならない高値水準を維持することを望みました。

 

今回の改正で、「需要に応じた生産」が前面に出されたのは、JA農協が望む「作りすぎて価格が下がるのを防ぐ仕組み」を実質的に維持・強化するためだと言われています。しかも、前述したように、「需要による生産」を、「~しよう」という政府の目標ではなく、「~しなければならい」と強制力をともなう法制化に成功したのです。

 

「需要に応じた生産」は、国が公認した一種の公的な「カルテル(供給量を絞って価格を維持する仕組み)」です。これによって、消費者は、JA農協と農水省が望む、高いコメを買い続けることになる恐れがあります。

 

◆「民間備蓄制度」の真意

~「需要に応じた生産」の安全弁~

 

民間備蓄制度そのものは「価格を高く維持するため」に作られたものではなく、また、備蓄用在庫を保持すること自体が、市場への放出量を減らし、即座に米価の押し上げ要因に直結するわけではありません。しかし、「コメの過剰生産による米価の下落防止」「供給減による米価の高値安定」というJA農協がめざす大方針とは地続きの構造にあります。

 

今回の法改正で「需要に応じた生産」が法定化され、国は生産量を抑える方向へ動いています。コメの流通量をあらかじめ絞ることによって、米価を高値で安定(下落阻止)させます。 しかし、最初から供給をギリギリまで絞ると、少しの不作で大パニックになります。そうならないように、民間備蓄というセーフティーネットを作りました。これで、「もしもの不作」で足りなくなっても、民間備蓄で補うことができます。

 

こうして、農水省は安心して「過剰生産にならないよう、最初から供給量を少なめにコントロールする」という強気の政策を進めることができるのです。

 

需要に応じた生産(生産抑制) ⇒米価の安定(下落阻止)

「もしもの不作」⇒民間備蓄が補う

 

このように、民間備蓄制度そのものは、コメ不足時の「パニック的な価格高騰」を抑えるための緊急ブレーキとしての役割がありますが、政府が「需要に応じた生産」によってコメの供給量を少なめに抑え、米価を安定(維持)させるための補完制度(安全弁)として機能するように設計されています。

 

さらに、結果として、民間備蓄(約20万トン規模)が、農家にとってはいつ市場に出てくるか分からない大量の在庫として、市場のすぐ近くに常に控えている状態にあることから、農家の増産に踏み切る意欲を削ぐことにもなります。

 

◆「業者の報告義務」の真意

~便乗値上げへの監視~

 

「業者の報告義務」も同様に、米価の安定にとって有力な手段として機能します。農林水産省は、民間備蓄を口実にした業者の不当な価格吊り上げを警戒しています。米価が上がり過ぎると、市場が混乱するからです。農協と農水省にとっては、安定的な高い米価を維持することが目標です。政府(農林水産省)や農協が求める安定した高値」とは、、あくまで生産コストに見合い、農家が経営を続けられる「納得感のある適正な高値」をさしています。

 

そのため、民間備蓄の放出時にはコストに見合った「適正な価格」であるかをチェックし、過剰な利益を上乗せしている疑いがあれば立入検査を行うなどの牽制ルールもあわせて設けています。報告義務は、完全ではありませんが、「便乗値上げを未然に防ぐ抑止力(網を張る効果)」としては非常に有効に機能することが期待されています。

 

こうしてみると、改正食糧法の「需要に応じた生産」、「報告義務」、「民間備蓄」は、すべて、JA農協が望む「米価を値崩れさせない安定供給」のための施策であることがわかります。「需要に応じた生産」を根幹として、「報告義務」、「民間備蓄」でこれを補完するという重層体制が構築されたのです。

 

 

<食料安全保障はどこに?>

 

今回の改正食糧法に欠けているのは、現在、求められている食料安全保障のための政策です。食料安保の発想は、国民を飢えさせないように、食料を備蓄しておくことで、地球温暖化問題や地政学リスクを踏まえれば、食料安全保障の重要性は高まるばかりです。

 

しかし、改正食糧法は、前政権が一時掲げた「増産路線」から一転して再び、縮小(減反)路線へ後退させた法律です。「需要に応じた生産」で、供給量を押さえ、業者の報告義務で販売業者らを監督、想定外の事態に備えた民間備蓄制度導入など、米価の下落を阻止し、高値安定させることを最優先させました。これは、ただでさえ脆弱な日本の食料自給力(生産余力)をさらに引き下げ、有事の際の供給力を自ら削ぐ結果になりかねません。

 

本来、増産して、輸出を増やすほか、米粉などの加工用向けを含め、需要を喚起する施策に取り組むべきところを、人口減少で需要が減る前提に立って、実質的な減反政策を続けるのでは、日本の農業に未来はありません。

 

減反政策は、農家の生産意欲をそぎ、担い手の減少と高齢化の問題を深刻化させました。さらに今回、「需要に応じた生産」の基準を国が提示することで、民間主導の自由な価格形成や、創意工夫による増産意欲がますます削がれるリスクが指摘されています。

 

実質減反政策の継続は、生産現場の生産意欲だけでなく、生産基盤の弱体化、日本のコメの供給力を弱め、日本の主食であるコメの市場そのものを自ら縮小させてしまます。

 

食料安全保障の観点から、いち早く、コメの増産体制に切り替え、民間備蓄制度も廃止、国が米穀の価格と需給に責任を持ち、国民への安定供給を支える十分な備蓄を行うことが望まれます。消費者目線に立ち、安心して食べられる価格で、将来の憂いなくコメを供給する政策を徹底しなければなりません。

 

短期的な利益と既得権を守ることを常に優先させ、中長期的にどうやって、日本の農業を発展させるという肝心なビジョンも示せない農水省は分割解体、農協はJA全中(全国農業協同組合中央会)を完全に廃止するといった国益最優先の農政が行うようにならなければ、日本という国家を滅ぼすことになりかねません。

 

高市政権が真に食料安全保障を謳うのであれば、、食料安保の構築に逆行する改正食糧法を成立させた、「農政トライアングル」(農水省・農協・族議員の癒着関係)の申し子のような鈴木大臣は更迭の対象となるはずです。

 

 

(関連投稿)

鈴木農相、減反への巧妙な言い分と「おこめ券」のわな

 

 

(参照)

需給安定化へ改正食糧法成立 コメ「需要に応じた生産」に

(2026年07月08日、時事通信)

改正食糧法が成立、「需要に応じた生産」明記 「先祖返り」の批判も

(2026年7月9日 、朝日新聞)

食糧法改正案 コメ農政を先祖返りさせるな

(2026/04/09 、読売)

 

(投稿日 2026. 8.7)

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