イギリス王室:女王陛下とウィンザー家の人々

 

イギリスの女王エリザベス2世が、2022年9月8日に逝去(せいきょ)され、チャールズ皇太子がチャールズ3世として即位しました。エリザベス女王が70年間君臨されたイギリス王室とはどういうものなのか、またチャールズ3世が今後、王室をどのように運営していくのでしょうか?

 

なお、この投稿記事は、もともと、ヘンリー王子夫妻がイギリス王室の高位メンバーの立場を退いたことを受けて、最初に執筆したものです。今回はこれを刷新する形でまとめました。

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<イギリス王室の起源>

 

イギリスでは、歴史的に戦いで勝ったものが王位についてきました。イギリスの王室は、1066年、フランスから攻めてきた、ヴァイキング系のノルマン人のギョーム2世がイングランドを征服して、ウィリアム1世としてイングランド国王になったのが初めです。

 

これまでエリザべス女王を当主としたウィンザー家(House of Windsor)は、ドイツのサクス=コバーグ=ゴータ家の後身として、1917年に始まりました。ウィンザー家の初代国王はエリザベス女王の祖父に当たるジョージ5世で、現在のイギリスの王室(ロイヤルファミリー)の人たちは、国王のジョージ5世と妻メアリー王妃の子孫です。

 

なお、ロイヤルファミリーの姓(家名)は、「ウィンザー」ですが、ジョージ5世の子孫であるすべての男子と未婚の女子が「ウィンザー」という姓を使っていたことから、1960年、エリザベス女王は、直系の子孫をほかのロイヤルファミリーと区別することを決定し、「マウントバッテン=ウィンザー(Mountbatten-Windsor)」の姓が用いられています(マウントバッテンは、女王の夫エディンバラ公フィリップの家名)。厳密に言えば、王朝名はウィンザー、家名はマウントバッテン=ウィンザーとなります。

 

現在、チャールズ3世は、ウィンザー朝第5代国王で、14か国の英連邦王国及び王室属領・海外領土の君主であり、イングランド国教会の首長でもあります。

 

ウィンザー朝

  1. ジョージ5世(1917~1936)
  2. エドワード8世(1936)
  3. ジョージ6世(1936~1952)
  4. エリザベス2世(1952~2022)
  5. チャールズ3世(2022~ )

 

 

<イギリス王室の高位メンバー>

 

イギリス王室(ロイヤルファミリー)の人と言えば、誰をさすのでしょうか?イギリスの王族には、高位王族(王族の主要メンバー)に加えて、血統で王族に連なる人たちも含まれます。一般的に、王族で、王の子たちを「王子(プリンス)」、「王女(プリンセス)」と呼びます。自分の名前とともに「王子」や「王女」の称号を使うことができるのは、ロイヤルファミリーに生まれた人だけの特権です。

 

英国の高位(シニア)メンバー(主要メンバー、シニアロイヤルとも表される)とは、公式な規定は存在しませんが、「君主(女王)の成人親族で、(フルタイムの)ロイヤルファミリーとして女王の名の下に日常的な公務を遂行し、かつ王位継承に近い位置にいる王族とその配偶者」のことをいいます。かつて王室の高位メンバーとは以下の9名を指していました。

 

エリザベス女王、夫・フィリップ王配
チャールズ皇太子、妻・カミラ夫人
ウィリアム王子、妻・キャサリン妃
ヘンリー王子、妻・モーガン妃
アンドルー王子

 

しかし、2020年3月31日で、ヘンリー王子と、妻のモーガン妃は、高位メンバーから抜け、エリザベス女王とフィリップ王配も逝去されたので、現在では5名ということになります。

 

なお、王配(おうはい)は女王の配偶者のことで、国王または女王の配偶者は「consort」と呼ばれます。英王室では国王の妻は、「queen consort(王妃)」と呼ばれますが、女王の夫の場合は「prince consort」となります。

 

 

  • イギリス王室高位メンバーの敬称

 

地位の高い人への敬称には、Majesty(マジェスティー), Excellency(エクセレンシー), Highness(ハイネス)、Holiness(ホーリネス)、Honor(オーナー)などがありますが、イギリス王室の高位メンバーに対しては、Majesty(マジェスティー)とHighness(ハイネス)が使われます。

 

マジェスティー(Majesty)は、国王(女王)にだけ付ける敬称で、エリザベス女王は「Her Majesty(女王陛下)」と呼ばれていましたが、チャールズ新国王は、「His Majesty」となります。

 

女王以外の高位王族への敬称はHighness(ハイネス)で、イギリスでは特にロイヤルハイネス(Royal Highness)(殿下または妃殿下)と言われます。その対象者が男子ならば、「His Royal Highness」(殿下)、女子なら「Her Royal Highness」(妃殿下)となります。呼びかける際は、「Youあなた」ではなく、「Your Highness」です。

 

ロイヤルハイネス(HRH)の称号を保持していることは、「イギリス王室」の高位(シニア)メンバーであることを指しています。高位王族の地位を捨てたウィリアム王子とモーガン妃は、今後、「殿下・妃殿下」とは呼ばれなくなります。(詳細は「イギリス貴族の爵位と敬称」参照)

 

 

  • イギリス王室高位メンバーの爵位

 

イギリスの王族は貴族であり、「爵位」を保持しています。「爵位」は、貴族だけに与えられた称号(儀礼称号)で、爵位により、身分の序列が表されます。イギリスには、上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵までの各階位があります。(詳細は「イギリス貴族の爵位と敬称」参照)

 

イギリス王室の高位(シニア)メンバーの爵位は、最高位の「公爵」です。結婚に際して、国王(女王)から新しい称号を与えられるというのが慣例です。

 

(2022年9月8日以前)

エリザベス女王⇒ランカスター公爵

フィリップ王配(エリザベス女王の配偶者)⇒エディンバラ公爵

チャールズ皇太子(エリザベス女王の長男)⇒コーンウォール公爵/ロスシー公爵

ウィリアム王子(チャールズ皇太子の長男)⇒ケンブリッジ公爵

ヘンリー王子(チャールズ皇太子の次男)⇒サセックス公爵

アンドルー王子(エリザベス女王の次男)⇒ヨーク公爵

 

なお、高位メンバー以外にも、王族の中では、エリザのベス女王の従姉弟のリチャード王子とエドワード王子がそれぞれ公爵位(グロスター公爵とケント公爵)を受けています。

 

「〇〇公爵」の〇〇には、ランカスター、エジンバラ、ケンブリッジなど王室にゆかりの地名が付けられます。

 

ウィリアム王子(現ウィリアム皇太子)は、「プリンス・ウィリアム・オブ・ウェールズ(Prince William of Wales)」という正式な名前を持っていますが、爵位を受けた後は、公式な場などでは通常、ウィリアム王子ではなく、「ケンブリッジ公爵」と呼ばれました。名前も「プリンス・ウィリアム・オブ・ウェールズ」ではなく、「ケンブリッジ公ウィリアム王子」が使われました。公爵位保有者の妻たちは、〇〇公爵夫人と呼ばれます。ウィリアム王子、妻・キャサリン妃なら、「ケンブリッジ公爵夫人」です。

 

(2022年9月9日以降)

チャールズ国王⇒ランカスター公爵

ウィリアム皇太子⇒ケンブリッジ公爵、コーンウォール公爵、ロスシー公爵

ヘンリー王子⇒サセックス公爵

アンドルー王子⇒ヨーク公爵

 

 

  • イギリス王室 高位メンバーの横顔(2022年9月8日以前)

 

イギリス女王エリザベス2

 

歴代国王の在位最長記録(位1952~2022)と長寿記録を更新しました。エリザベス2世の在位70年7カ月は、(ヴィクトリア女王の記録を上回って)歴代の英国君主で最長でした(当時の英国首相はチャーチルで、歴代15人の首相が仕えてきた)。

 

ジョージ6世の長女(1926年生まれ)で、夫はエディンバラ公フィリップ王配。伯父のエドワード8世が離婚経験者のアメリカ人との結婚を選んで王位を放棄したことにより、父親のジョージ6世が王座に就いた10歳で王位継承者となりました。3人の息子(チャールズ皇太子、アンドルー王子、エドワード王子)と1人娘(アン王女)を持ちました。

 

エリザベス女王は、1413年以降、イングランド王位に就いた者が保持する爵位となったランカスター公爵でした。ランカスター公爵は、コーンウォール公爵とともに、唯一公爵領をもつ爵位で、エリザベス女王はこの公領からの莫大な収入を得ていました(後述)。

 

 

フィリップ王配  (エジンバラ公フィリップ王)

 

エリザベス女王の夫君。敬称は、highness(ハイネス)(「殿下」)。ギリシャ生まれ。ギリシャ・デンマーク王子(Prince of Greece and Denmark)の称号を持っていました。エリザベス女王が即位してからは海軍を退役し、長年女王を支えています。1947年、エリザベス女王と結婚の際、フィリップ殿下にはエジンバラ公爵、メリオネス伯爵、グリニッジ男爵の称号が与えられました。また、エリザベス女王が1953年に即位した後(1957年)、フィリップ殿下は、正式に英国の”Prince”となりました。2021年4月9日、薨去(こうきょ)。

 

<イギリス豆知識>

フィリップ殿下は、英国女王の王配としては5人目です。

メアリー1世の夫、スペインのフィリップ2世国王(King Philip II of Spain)

メアリー2世の夫で共立王、ウィリアム3世、

アン女王の夫、デンマークのジョージ王子(Prince George of Denmark)

ヴィクトリア女王の夫、プリンス・アルバート(Prince Albert)

 

 

チャールズ皇太子

( 現イギリス国王チャールズ3世)

 

現在のイギリス連邦の国王。エリザベス2世とフィリップ殿下の長男であるチャールズ国王は、母方から王位を継承しているので、女系王になります。すでに70歳を超え、長い間、「プリンス」でした。

 

チャールズ3世は、ケンブリッジ大卒業後、軍隊を経て、ダイアナ妃との間にウィリアム、ヘンリーの2人の王子をもうけましたが、結婚前から交際していた現カミラ王妃との不倫関係を継続し、離婚の原因となりました。1997年のダイアナ妃の事故死後は、世間の強い風当たりを受けながら、2005年にカミラ妃と再婚しました。

 

皇太子時代、チャールズ3世の尊称は、殿下にあたる「His Royal Highness(ロイヤルハイネス)」が使われました。また、チャールズ皇太子は、2つの公爵の称号を保持し、「コーンウォール公爵」(Duke of Cornwall)と「ロスシー公爵」(Duke of Rothesay)と名乗りました。

 

コーンウォール公爵(Duke of Cornwall)は、イングランド貴族で最初に創設された公爵位で、王位の相続人に与えられます。現在、コーンウォール公爵は、ランカスター公爵とともに唯一公爵領をもつ爵位で、チャールズ皇太子は、この公領から地代などの収入(コーンウォール収入)を得ていました(後述)。

 

歴史的に、イギリスで公爵(デューク)と言う爵位は、エドワード3世が、1337年に、自分の長男、エドワード・ブラック・プリンス(エドワード黒太子)に、コーンウォール公の位を授けたのが初めとされます。以来、イギリスの国王の長男には、このコーンウォール公の爵位が与えられることが慣例となっています。同様に、ロスシー公爵も、歴代国王の長男に与えられてきたことから、現在では、王位継承者に授与されています。このように、チャールズ皇太子は、2つの公爵位を保持していましたが、コーンウォール公チャールズ皇太子とも、ロスシー公チャールズ皇太子とも呼ばれることはありませんでした。

 

チャールズ皇太子は、コーンウォール公とロスシー公だけでなく、さらに、皇太子となった1958年以来、プリンス・オブ・ウェールズ(Prince of Wales)の称号も持っており、こちらが公式には使われました(ウェールズ公チャールズCharles, Prince of Wales)。

 

プリンス・オブ・ウェールズの場合、「ウェールズ大公」と訳されます。「大公」は「公爵」より上とされています。イギリス王室に名字はありませんが、必要があれば、このウェールズが名字として使われます。チャールズ3世の息子たち、ウィリアム王子とハリー王子もその名に沿った称号で呼ばれています(ウィリアム王子であれば、プリンス・ウィリアム・オブ・ウェールズ)。

 

現在のプリンス・オブ・ウェールズの由来は、1282年12月、イングランド王エドワード1世がウェールズを制圧した後、ウェールズのカーナーヴォン(Caernarfon)城で誕生したエドワード2世をプリンス・オブ・ウェールズ(ウェールズ大公)と呼び、1301年に正式に叙任させたことに遡ります。これは、ウェールズを懐柔するだけでなく、ウェールズに対するイングランド王の権威を示すことが目的でした。

 

エドワード2世は、1343年、この称号を孫のエドワード黒大子(エドワード3世の子)に送りましたが、それ以降、プリンス・オブ・ウェールズは王の嗣子(しし)(跡継ぎ)(≒法定相続人)に授けられることが慣例化していきました。ウェールズで反乱が鎮圧された1409年以来、プリンス・オブ・ウェールズの称号は、皇太子(王太子)に与えられるのが伝統となっています。ただし、この称号は、王の長男誕生とともに自動的に授けられるものではなく、通常、プリンス・オブ・ウェールズが王位に就いたときに引き継がれます。ちなみに、「プリンス・オブ・ウェールズ」は、「プリンス」すなわち(国王の後継者の)男子に与えられるので、エリザベス女王が、王位に就く以前は、「エジンバラ公爵夫人エリザベス王女」でした。

 

 

カミラ夫人(現カミラ王妃)

 

カミラ夫人は、プリンセス・オブ・ウェールズの称号を持っていましたが、不倫の後にチャールズ皇太子(当時)と結婚した経緯もあってか、このプリンセス・オブ・ウェールズの称号を公に使用することはなく、コンウォール侯爵夫人と名乗っていました。肩書も、「クイーン・コンソート(王妃)」ではなく「プリンセス・コンソート(王の配偶者)」でした。

 

エリザベス女王は2022年2月、チャールズ3世の2番目の妻カミラ夫人の肩書を「クイーン・コンソート(王妃)」となることを希望している(カミラ妃が将来「王妃」と呼ばれることを切に望む)と表明し、国民に許しと和解を促しました。

 

こうした経緯もあって、新国王のチャールズ3世は9月9日、即位後の初の演説を行い、「新国王の妻」カミラ夫人はクイーン・コンソート(王妃)となると発表しました。

 

 

ウィリアム王子 (現ウィリアム皇太子)

ケンブリッジ公ウィリアム王子から、ウェールズ公ウィリアム皇太子へ

 

ウィリアム王子は、チャールズ国王とダイアナ元妃の長男で、父のチャールズ皇太子が王位に就いたことから、王位継承順位は第1位となりました。出生時に、父の「プリンス・オブ・ウェールズ」という称号を反映させて「ウェールズ」の名が与えられました。ウィリアム皇太子の王子時代の公式フルネームは、このプリンス・ウィリアム・オブ・ウェールズ(Prince William of Wales)でした。

 

2011年4月にキャサリン・ミドルトン(Kate Middleton)さんと結婚、その際、エリザベス女王から公爵位を叙任され、ケンブリッジ公爵(Duke of Cambridge)になりました。これにより、王子に対しては、プリンス・ウィリアム・オブ・ウェールズではなく、規則に従い、ケンブリッジ公ウィリアム(ケンブリッジ公爵)の称号で呼ばれました。

 

2022年9月9日、祖母エリザベス2世の崩御に伴い、父チャールズ3世からウェールズ公(プリンス・オブ・ウェールズ/Prince of Wales)の称号を得て、ウェールズ公ウィリアム(William, the Prince of Wales)となり、以後、この称号が公式の場で使われることになります。

 

 

妻・キャサリン妃

 

ウィリアム王子との結婚(2011年4月)により「ケンブリッジ公爵夫人」となり、妃殿下の敬称も受けられました。チャールズが新国王に即位したことを受け、ケンブリッジ公爵夫妻は、新国王と王妃がそれまで名乗っていたコーンウォールの称号も引き継ぎ、キャサリン皇太子妃はコーンウォール公爵夫人ともなりました。

 

さらに、チャールズ新国王は、9月9日、ウィリアム王子夫妻が、プリンス・オブ・ウェールズ(皇太子)とプリンセス・オブ・ウェールズ(ウェールズ公妃)(皇太子妃)になると発表しました。キャサリン妃は、1997年に36歳で悲劇的な死を遂げたダイアナ元妃以来、初めてプリンセス・オブ・ウェールズの称号を継承する形となりました。

 

 

ウェ―ルズ公爵夫妻の子ども達

 

お二人の間には、二男一女(ジョージ王子、シャーロット王女、ルイ王子)がいらっしゃいます。現在の規定では、「プリンス・オブ・ウェールズの長男の全ての子が、王子・王女の身分と殿下・妃殿下の敬称を与える」となっているので、ウィリアム王子とキャサリン妃のご子息・ご息女は、王子、王女と名乗り、殿下・妃殿下(HisまたはHer Royal Highness、HRH)の敬称を使用することができます。ジョージ王子(全名ジョージ・アレクサンダー・ルイ)は、正式にはジョージ・オブ・ケンブリッジ王子(Prince George of Cambridge)または、ジョージ・オブ・ケンブリッジ王子殿下(His Royal Highness Prince George of Cambridge)と呼ばれます。

 

ただし、これには紆余曲折がありました。イギリス王室における「王子」、「王女」という称号と、王室の高位メンバーであることを意味するHRHの敬称の付与には、ウィリアム皇太子の高祖父にあたるジョージ5世が1917年に、「王子」・「王女」の称号と、殿下・妃殿下(HRH)の敬称の付与には、「王国の君主の子供、君主の息子の子供(孫)およびプリンス・オブ・ウェールズ(皇太子)の長男の長男(曾孫の長男)」に与えられるという規定を設けたのです。

 

エリザベス女王の在位中、チャールズ皇太子の長男であるウィリアム王子の長子ジョージ王子までがこれに該当しました。しかし、エリザベス女王は、この制限を変更し、プリンス・オブ・ウェールズ(皇太子)の「子ども」に平等に与えたので、シャーロット王女とルイ王子も含めて、「王子」・「王女」の称号と、(王室高位メンバーを意味する)HRHの敬称を得ています。

 

 

ヘンリー(ハリー)王子

サセックス公ヘンリー王子
プリンス・ヘンリー・オブ・ウェールズ(Prince Henry of Wales)

 

兄ウィリアムと同様、出生時に、「ウェールズ」の名が与えられ、プリンス・ヘンリー・オブ・ウェールズ(Prince Henry of Wales)の称号を受けられました。ヘンリー王子は、ハリー王子と呼ばれることもありますが、ヘンリー(Henry)が正式です。

 

ヘンリー王子は、2018年5月19日、メーガン・マークルさんとの結婚により、エリザベス女王から、公爵の位と、殿下(His Royal Highness)の敬称(称号)を授与されました。公爵名は「サセックス公爵」です。他に空いていた「アルバニー」や「クラレンス」を抑えて、「サセックス」が選ばれたそうです。以後、ヘンリー王子は、公式の場で、「プリンス・ヘンリー・オブ・ウェールズ」ではなく、「サセックス公爵」と呼ばれています。最高の敬意を表すれば、「サセックス公爵殿下」または「サセックス公爵ヘンリー王子殿下」となります。また、ヘンリー王子は、同時に、「ダンバートン伯爵」と「キルキール男爵」の称号も授かっています。

 

妻・メーガン妃

ヘンリー王子との結婚により、メーガン妃も、「プリンセス・ヘンリー・オブ・ウェールズ(Princess Henry of Wales)」ならびに「サセックス公爵夫人(Princess Henry of Sasex)」という、夫の称号と名前を名乗ることになました。また同時に、妃殿下(Her Royal Highness)の称号も授与されました(これで、モーガン妃と呼ばれる)。

 

前述したように、ヘンリー王子とメーガン妃は、高位王室メンバーから抜けたので、殿下・妃殿下の敬称で呼ばれることはありませんが、公爵、公爵夫人の称号は失いません。

 

 

サセックス公爵夫妻の子ども達

 

お二人には、2019年5月に長男アーチ―と(正式名称「アーチー・ハリソン・マウントバッテン=ウィンザー」)と、2021年6月に長女リリベット(同リリベット・ダイアナ・マウントバッテン=ウィンザー)がいて、イギリス王室史上初のアフリカ系の血を引く王室メンバーの誕生に注目が集まっています。

 

現在の規定では、エリザベス女王が在位中、王子・王女の称号と殿下・妃殿下(HRH)の敬称は、皇太子の子にしか与えられないので、厳密にはアーチ―王子殿下、リリベット王女妃殿下と呼ぶことはできませんでした。そこで、サセックス公爵の子ども達は、慣例により、「アーチー・マウントバッテン=ウィンザー卿」や、ヘンリー王子が持つ爵位の一つである「ダンバートン伯爵」の儀礼称号(courtesy title)で呼ばれると見られていました。

 

しかし、ヘンリー王子夫妻は、子ども達に、こうした称号を使わない意向を示し、爵位ではなく、年少の貴族の子息の呼称であるマスター(様)(Master)とレディ(Lady)を使用することを決めました。現在、アーチー君は、マスター・アーチ―(マスター・アーチー・マウントバッテン=ウィンザー)、リリベットちゃんは、レディ・リリベットという敬称で呼ばれています。

 

そして、今回、女王が崩御し、祖父チャールズが即位したことで、現行法に則れば、アーチ―君とリリベットちゃんは、君主の孫という立場になり、希望すれば自動的に、王子と王女の称号とHRHの敬称が与えられ、アーチー王子殿下、リリベット王女殿下になれます(希望しない場合もある)。

 

当初、チャールズ新国王は、シニアメンバーと呼ばれる主要王族の数を減らして、王政のスリム化を検討していることから、これを認めない可能性もあると指摘されていましたが、英紙サンは、アーチー君(3歳)とリリベットちゃん(1歳)は近く、正式に王子および王女となるが、殿下または妃殿下(HRH)の敬称は得られない見込みだと報じました。後者については、ヘンリー王子とメーガン妃が、2020年に王室を離脱した際、王室との合意の一環で、HRHの使用を放棄し、「王室として働いていない」ことが理由にあげられています。

 

 

アンドルー王子

ヨーク公アンドルー

アンドリュー王子は、エリザベス女王の第3子(次男)、チャールズ新国王の弟に当たります。慣例に従い、結婚式の日に女王から公爵の位(ヨーク公)を与えられました。ヨーク公爵は、15世紀以来、伝統的に、王、女王の次男に与えられる称号と言われています。現在、アンドルー王子の王位継承順位は8位となっています。

 

前妻の間に、ベアトリス王女(1988年8月生まれ)とユージェニー王女(1990年3月生まれ)がいます。アンドリュー王子は、現在独身のため、フィリップ王配が不在の行事ではエリザベス女王に付き添うこともありました。

 

しかし、アンドルー王子は未成年に対する性的虐待などで起訴されるという失態を犯しただけでなく、勾留中に死亡した米国人富豪で、性犯罪で有罪判決を受けていたジェフリー・エプスタインと交友関係があったことで国民からの批判を受け、2019年以降、公務からから退いています。

 

 

<王位継承>

 

ところで、どうして、イギリスは女王陛下の国(国王は女性)だったのかという素朴な疑問を持っている方もいるのではないでしょうか?その理由は、イギリスの王位継承権は男子・女子関係なく生まれた順によって決定されるという決まりがあるからです。つまり、エリザベス女王は、ジョージ6世の最初の子だったから、国王の座についたわけです。

 

イギリスの王位は、エリザベス女王の次に、チャールズ皇太子が継承した後、ウイリアム王子となります。その次に当たるウィリアム王子とキャサリン妃の子供たちを見てみると、

・第1子 ジョージ王子
・第2子 シャーロット王女
・第3子 ルイ王子

と、男・女・男の順の子供が生まれているので、順調に成長されれば、将来的にジョージ王子が国王となります。もし、シャーロット王女が第1子であれば、シャーロット女王の誕生が予定されることになったのでした。ですから、エリザベス女王の後、イギリスが女王陛下の国になるとしたら、ジョージ王子の成婚後、最初の子どもが女子であった場合ということになりますね。

 

参考までに、現在のイギリス王室の王位継承順位(10位まで)は以下のようになります。

 

  1. ウィリアム王子(チャールズ皇太子の長男)
  2. ジョージ王子 (ウィリアム王子第1子)
  3. シャーロット妃 (ウィリアム王子第2子)
  4. ルイ王子 (ウィリアム王子第3子)
  5. ヘンリー王子(チャールズ皇太子の次男)
  6. アーチー(ヘンリー王子の第1子)
  7. リリベット(ヘンリー王子の第2子)
  8. アンドルー王子(エリザベス王女第2子)
  9. ベアトリス王女(アンドルー王子第1子)
  10. シエナ妃 (ベアトリス王女の第1子)

 

イギリスの王室では、女系女王を認めているので、王位継承者は拡大します(王位継承者5000人という試算もある)。理由は、他国に嫁いだ王女やその子供たち(子孫)などにも王位継承権が生じるからですが、その場合、イギリス人ではないのに、王位継承者となる場合も理論的にはありえます。例えば、現在、ノルウェー国王ハーラル5世は、イギリス王位継承第68位(2022年9月8日現在)だそうです。

 

また、ヘンリー(ハリー)王子は、王位継承順位は5位となっていますが、今回、高位王室メンバーから「引退」したとしても、王位継承から外れるというわけではありません。イギリスでは、王位継承権は絶対で、王位継承者は継承権を放棄できません。

 

もっとも、一度王位につけば、王位から退くことはできます。過去には、エリザベス女王の伯父のエドワード8世が、ウォリス・シンプソンと結婚しようとしたところ、ウォリスが離婚経験者だったため反対する声が強くなり、結局、エドワード8世は1936年、王位を捨てて、シンプソンと結婚したという事例もあります。なお、イギリスの王位継承者(6位まで)が結婚する場合は、その相手を女王に承認してもらわなければなりません。

 

 

<イギリス王室資産>

イギリスの王室は、膨大な資産を保持していると言われていますが、様々な収入源から潤沢な収入を得ています。

 

  • 王室助成金

 

王室助成金は、国王(女王)の公務を支援するために政府によって支払われるもので、王室として最大の収入源とされています。助成金の原資は、クラウン・エステートの収入から得られる利益の一部から来ます。クラウン・エステートとは、その名の通り君主の不動産に相当するものです。その不動産事業は、イギリス国内で140億ポンド(約2兆円)を超える大規模事業とされています。イギリス国王は法律的には、このクラウン・エステートを所有していますが、政府系の独立した委員会によって運営され、地代を含めたその収益の大部分は、政府(国庫)に直接流れます。政府は、クラウン・エステートの年間収益を参考にし、王室助成金としていくらを王室に与えるかを決定します(実際は、約15%が王室助成金に充てられている)。ロイヤル・ファミリーは、この助成金から、彼らの基本的な維持費、警備、外遊費、財産管理費などが使用されていると言われています。

 

現在、皇太子を除くイギリスの高位(主要)メンバーは、王室のこのクラウン・エステートの信託財産から「ソブリングラント」と呼ばれる王室活動費が分配されています。ですから、王族メンバーは、「仕事」をして収入を得ることは認められていません。ただし、エリザベス女王の次男アンドルー王子の娘ベアトリス王女とユージェニー王女は、王室から経済的な支援を受けていないため民間で働いています。

 

 

  • ロイヤル・コレクション・トラスト

 

ロイヤル・コレクション・トラストは、公的なロイヤルファミリーの住居、王室が収集している芸術品、そして戴冠宝器などを管理する信託機関です。このトラストから毎年多額のお金が生み出されているとされていますが、その収入の大部分は、こうした芸術品や、ウィンザー城や不動産資産の手入れなど管理費に還元され、ロイヤルファミリー個人に利益をもたらすものではないとされています。実際、これらは、国王の私的財産ではなく、国王が君主である間だけ所有しているに過ぎません。ですから、国王は自らの意思でそれらを売却することはできず、やがて自分の後継者へと引き継がれていくべき王室の財産だとみなされています。

 

 

  • 王族公領

英ロイヤルファミリーは、「私的な」公領を保持しています。

 

ランカスター公領

エリザベス女王は、前述したように、王位の証としてランカスター公爵の称号を保有していました。ランカスター公領は、13世紀に創設され、ランカスター公爵の名で、イギリスとウェールズにおける18,481ヘクタール(約185㎢)もの土地と、商業用、農業用、住居用の不動産から構成されています。このランカスター公領からの地代や投資などの収入は、女王個人の収入の大部分に相当するとされていました。現在、チャールズ3世がランカスター公として引き継いでいます。

 

ちなみに、女王は、父親のジョージ6世国王から受け継いだバルモラル城やサンドリンガム城などを私有地として所有していました。ここから得られる収入は、女王のポケットマネーであったとされ、その詳細は公表されていません(こちらもチャールズ3世に受け継がれている)。

 

コーンウォール公領

コーンウォール公領は、イギリス23郡にまたがる約570平方キロメートル以上の土地からなり、その半分は、イギリス南部のデヴォンにあります。伝統的に、コーンウォール公爵は、領地から地代などを受け取る権利を持つとされ、実際、チャールズ皇太子の収入のほとんど(90%)は、コーンウォール公領からきていると言われていました。主に、領地から生じる地代などのコーンウォール収入(年収)は、約2000万ポンド(約30億円)を超えるとも言われています。

 

コーンウォール公領は、1337年に、当時の国王エドワード3世が王位継承者の財政のために創設され、同公領は勅許状で王位継承者に授けられるものです。チャールズ皇太子が国王に即位したので、現在、ウィリアム王子(皇太子)がこの公領を引き継いでいます。なお、コーンウォール公が不在のときは、公領からの収入は国王のものとなります。

 

(当時の)チャールズ皇太子は、コーンウォール公領からの収入で経済的に自立し、公領の収入で自身の公務を賄っているだけでなく、この「コーンウォール収入」の一部を、ウイリアム王子(ケンブリッジ公爵)一家や、ヘンリー王子(サセックス公爵)一家などに対して、公務やチャリティ活動、プライベートな出費に充てるための資金として配分していると言われています。ヘンリー王子は、年推定196万ポンド(約2億8000万円)を受け取ったとの報道もなされました。

 

 

  • 曽祖母エリザベス皇太后が設立した信託基金

 

エリザベス女王の母、“クイーン・マザー”は1994年、自身が保有していた資産の3分の2(推定1900万ポンド:約27億円)で信託基金を設立したと言われています。その目的は、ウィリアム王子とヘンリー王子、さらにはアンドルー王子の娘ベアトリス王女とユージェニー王女など、ひ孫たちに財産を残すためで、「ガーディアン」紙によれば、2人の王子は21歳になったときに、この信託基金のうち約600万ポンド(約8億5800万円)を半額ずつ受け取ったそうです。王子たちは40歳になると、クイーン・マザーの信託基金に残されている金額のうちの800万ポンドから、それぞれの割り当て分を受け取る予定だとされています。また、ほかのひ孫たちもそれぞれ、数百万ポンドずつを受け取ることになっているとのことです。

 

 

  • ダイアナ元妃の遺産

 

アメリカの経済紙「フォーブス」は2011年に、ダイアナ元妃がウィリアム王子とヘンリー王子それぞれに1000万ドル(税引き後、約10億円)を残したと報じたことがあります。王子たちは25歳になったときから、そこから毎年一定額(推定45万ドル:約4900万円)を受け取っていると言われています。ダイアナ元妃はそのほか、所有していたジュエリーのコレクションも、二人の息子に残しています。

 

そうすると、かつて、ウィリアム王子とヘンリー王子の収入は、父チャールズ皇太子から、コーンウォール収入の一部(年推定196万ポンド(約2億8000万円))と、王室助成金をエリザベス女王から王室活動費(2人で年推定500万ポンドとも言われる)などから得ていたとされていました。さらに、「クイーン・マザー」信託や、母ダイアナ妃からの遺産などを考慮すると、二人が保有する資産は、ウィリアム王子が保有する純資産はおよそ4000万ポンド(約54億6150万円)、ヘンリー王子の純資産は3000万ポンド(約43億円)にのぼるとの試算もありました。

 

 

  • エリザベス女王の個人資産

 

エリザベス女王は、宝飾品やアートコレクション、個人投資、前述したバルモラル城やサンドリンガム・ハウスなどの個人資産を保有しており、合計4億3,000万ポンド(700億円)と報じられ、このうち宝飾品だけで約150億円相当と試算されています。

 

「ロイヤルコレクション」と呼ばれるエリザベス2世のジュエリーコレクションは、一説にはジュエリー300点以上、うちブローチは98点以上とも言われ、女王の子ども達とその家族に受け継がれることになります。その多くは、エリザベス女王の母、クイーン・マザーことエリザベス王太后や、さらにその前の祖母メアリー王妃から受け継がれたものだそうです。最終的に誰が何を相続するのか、現段階では未定です。

 

なお、イギリス王室のジュエリーコレクションには、エリザベス女王個人の「ロイヤルコレクション」以外に、イギリス王冠の宝石「クラウンジュエル」もあります。これは、ロンドン塔に収蔵されている国有財産で、新国王チャールズ3世とカミラ王妃が受け継ぐことになります。

 

 

<関連投稿>

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エリザベス女王崩御:王位継承順位、称号・爵位はどうなる?

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<参考>

むらおの歴史情報サイト「レムリア」

 

 

<参照>

ヘンリー王子夫妻が退く英国王室の“シニアメンバー”ってなに?

(HUFFPOST 2020 1/09)

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CELEB 2020 1 20

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(Jun.28.2019、CELEB)

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(BAZAAR 2020 1/9)

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(2018/05/23、Bazaar、一部抜粋)

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(2018/05/23、BAZAAR)

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(2019/11/29、BAZAAR)

エリザベス女王の国宝級のジュエリーコレクション、受け継ぐのは誰?

(2022.09.13, フィガロ)

イギリスの貴族(Yuki note)

イギリスの王室(Wikipedia)

 

(2020年4月5日、最終更新日2022年9月18日)