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2024年01月12日

ローマ教皇の年頭メッセージからわかる世界の諸問題

教皇フランシスコは、2014年1月8日(月)、好例の駐バチカン外交団に対して新年の挨拶を送られました。その中で、世界情勢の展望や平和の問題などについて言及されています。世界平和を常に求められるローマ教皇の見解は、アメリカ寄りでも、ロシア寄りでも、中国寄りでもなく、まさに、世界で何が起こり、何に注目しなければならない内容であると思われます。

 

バチカンニュースの記事を抜粋して、お伝えします(太字は筆者による)。全文については以下から確認して下さい。

https://www.vaticannews.va/ja/pope/news/2024-01/il-papa-discorso-nuovo-anno-corpo-diplomatico.html

 

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教皇、平和への強い思い、バチカン外交団への新年の挨拶で

(2024.1.8バチカンニュース)

 

‥‥教皇は現在イスラエルとパレスチナで起きていることに憂慮を表明。昨年10月7日のハマスによるテロ攻撃の残忍さ、多くの人々を人質にとった行為を厳しく非難された。…こうした行為がイスラエル軍のガザ地区への強い反撃を招き、子どもや若者を含む、数万の民間人の死をもたらし…重大な人道危機を引き起こした、と語られた。

 

教皇は紛争のすべての当事者に、レバノンを含むすべての前線での停戦と、ガザで拘束されている人質の即時解放、そしてパレスチナの人々への人道支援、病院・学校・宗教施設の保護をアピールされた。

 

ガザにおける紛争が、以前からの脆弱で緊張した状態にさらなる不安定をもたらした地域として、教皇は特にシリアを挙げ、安定しない政治・経済に加え、昨年2月の地震でさらに状況が悪化した同国で暮らす国民、そしていまだヨルダンやレバノンにいる多くのシリア難民たちのために寄り添いを示された。

 

また、レバノンの社会・経済情勢を心にかける教皇は、同国が政治的停滞から脱し、早く大統領の空位を埋められるよう望まれた。

 

教皇は、「二国家解決」とエルサレムの国際法的に保証された特別な地位の実現に向け、決意をもって努力することを国際共同体に願われた。

 

次に教皇は…アジアに目を向け、ミャンマー情勢に言及。同国民に希望を、若者に未来を与えられるよう、またロヒンギャの人々の人道危機を忘れないよう、国際社会の関心を喚起された。

 

ロシアとウクライナ間の戦争からもうすぐ2年が経過しようとしているにも関わらず、待たれる平和はいまだ訪れず、多数の犠牲者と膨大な破壊をもたらしている状況に、教皇は…国際法の尊重のもと、交渉を通してこの悲劇に終止符を打つことが必要と述べた。

 

アルメニアとアゼルバイジャンの緊張状態にも憂慮を示された教皇は、双方が平和条約にこぎつけることができるように願われた。

 

アフリカ情勢をめぐり、教皇はサブサハラ諸国のテロや、社会・政治的問題、気候危機などを原因とする様々な人道危機、中でもエチオピアやスーダンの内戦、カメルーンやモザンビーク、コンゴ民主共和国、南スーダンの避難民の状況に触れた。

 

中南米に関し、教皇はベネズエラとガイアナ間の強い緊張、ペルーにおける分極化、ニカラグアの社会状況に懸念を表した。特にニカラグアの危機がカトリック教会に与えている痛ましい影響について、教皇は外交対話へと招き続ける教皇庁の立場を改めて示された。

 

平和問題について、戦争の継続を可能にしているのは豊富な武器のおかげであると言う教皇は、軍縮政策を続けることの大切さを説く中で、特に「核兵器の製造と保有は倫理に反する」と、今一度訴えられた。

 

一方で、平和の追求のためには、…飢餓をはじめとする、戦争の原因となるものを取り除く必要を指摘。

 

さらに、教皇は、環境危機や、気候変動が紛争に与える影響を指摘しつつ、昨年ドバイで開催された国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の実りが、エコロジー的移行を促すことを期待された。

 

教皇は、平和のために、国際共同体・政治・社会・諸宗教など、様々なレベルでの対話の必要を改めて強調。また、移民現象、生命保護、人権、ジェンダー理論、教育、人工知能、反ユダヤ主義増加、キリスト教徒迫害などのテーマにも言及された。

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こうして見ると、ローマ教皇は、日本ではメディアがあまり取り上げない地域やテーマについてグローバルに俯瞰されていることがわかります。バチカンの全方位外交は、不確実な世界における日本外交のとるべき戦略について、何らかのヒントを教えてくれそうな気がします。

 

本サイト「レムリア」でも、今年は、ローマ教皇のいわば年頭メッセージにでてきた地域やテーマについて、歴史的なアプローチとともに取り上げていきたいと思います。

 

<参考>

ローマ教皇やバチカンについてさらに知りたい方は以下の投稿も参照下さい。

カトリック教会:ローマ教皇とバチカン

 

 

 

 

2023年04月06日

プーチンは国際刑事裁判所 (ICC) で裁かれるか?

 国際刑事裁判所(ICC)は、2023年3月17日、戦争犯罪の疑いで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に逮捕状を出しました。この後、プーチン大統領は逮捕され、国際司法の場で裁かれるのか、逮捕状後の展開を予想してみましょう。ICCはプーチン大統領を戦争犯罪人として裁けるのでしょうか?

 

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プーチン大統領らに逮捕状、ウクライナ侵攻めぐる戦争犯罪容疑 国際刑事裁判所

(2023/3/18、英BBC)(一部抜粋)

オランダ・ハーグに本部を置く国際刑事裁判所(ICC)は3月17日、ウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領らに逮捕状を出した。 ICCは、ロシアが占領したウクライナの地域から子どもたちをロシアへと不法に移送しており、プーチン氏にこうした戦争犯罪の責任があるとしている。 ロシア政府は、戦争犯罪疑惑を否定し、逮捕状は「言語道断」だとしている。

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ウクライナのイエルマーク大統領府長官は「ロシアによる子供の連行は1万6000件以上が記録され、実数はさらに多い可能性がある」と指摘。「これまでに返還されたのは308人に過ぎない」とし、今後も返還に向けた作業を続けると表明しています。また、米エール大が2月に公表した報告書によると、「少なくとも6000人のウクライナの子供らがロシア国内の43施設に収容された。ウクライナ政府は3月初旬、収容者数が1万6000人を超えた可能性がある」と指摘しています。(2023/3/18、産経新聞より)

 

国際刑事裁判所(ICC)は、ロシアがウクライナに侵攻したことを受け、2022年2月からロシア軍がウクライナで行った戦争犯罪と人道に対する罪についての立件に向けて捜査を開始していました。今回の逮捕状はその結果ということになります。

 

ICCの管轄権

 

ICC(国際刑事裁判所)は2002年に発効したICCローマ規程によって設立され、123の国・地域が加盟していますが、ロシアもウクライナも非加盟で、通常、ICCは事件を管轄できません。

 

しかし、締約国ではない場合でも、事件の発生地の国か容疑者の国籍がある国のどちらかがICCの管轄権を認める(受諾)宣言をすれば、ICCは非加盟国の犯罪も裁くことができます。実際、ウクライナは南部のクリミア半島を一方的にロシアに併合された後の2015年、無期限の形で「戦争犯罪と人道犯罪について管轄権を受諾する」宣言をしています。

 

プーチン大統領は、戦況について側近から事実を知らされていないとの情報もありましたが、ICCの設置法「ローマ規程」には、軍隊の上官だけでなく政府の上層部にも責任は及ぶ「上官責任」の規定があります。実際に犯罪行為を行った「実行行為者」はもちろん、「自らは行っていないが、それを命じた者」も処罰の対象に含まれています。また、直接、命令していなくても、犯罪行為が行われていること(兵士らの行為)を知っていながら、プーチン大統領や軍幹部などが、その犯罪の実行を防止または抑制する措置を取らなかったことが認定されれば責任が問うことができます。

 

プーチンはロシア国内で拘束されない?

 

今回、逮捕状が出されたので、プーチン大統領は戦争犯罪容疑者になりましたが、この先、実際にプーチン大統領の身柄が拘束された後、ICCに引き渡され、プーチン大統領がオランダ・ハーグの裁判に出廷する可能性は極めて低いとされています。

 

ICC(国際刑事裁判所)には容疑者を逮捕する権限はなく、ICC捜査官がロシアに行って拘束することはできません(ICCが介入できるのは、国家が捜査や加害者の訴追を行えない、あるいは行おうとしない場合に限定される)。

 

もっとも、ICC非加盟国であるロシアは、捜査・訴追への協力義務も、身柄引き渡しなどの義務は負っていません。仮にロシアが加盟国であっても、ロシア国内で揺るぎない権力を享受しているプーチン大統領を、ロシア政府がICCに引き渡す見込みもありません。プーチン大統領がロシア国内にいれば、主権の壁、つまり、政権トップの場合は免責特権による保護もあります。ですから、プーチン大統領がロシアにとどまる限り、逮捕のリスクはないということになります。もし、プーチン大統領がロシア当局によって拘束されるとしたら、ロシア国内で政変が起きてプーチン大統領が失脚し、特権剥奪に至る場合ぐらいしか想定できません。

 

実際、セルビアのミロシェビッチ元大統領は1990年代のボスニア紛争における戦争犯罪と大量虐殺の罪で起訴され裁判中に獄中死したが、国際法廷がその身柄を拘束できたのは同氏が失脚した後でした。

 

また、リベリアのチャールズ・テイラー元大統領も、リベリアの隣国シエラレオネにおける戦争犯罪と人道に対する罪をほう助したとして2012年、国連の支援を受けたシエラレオネ特別法廷により禁固50年の有罪判決を受けたが、同法廷に引き渡されたのは、自国からの追放と亡命後のことでした。

 

プーチンがロシアを出国した場合

 

一方、プーチン大統領が国外に出た場合は、ICC規程に、締約国に対し、「国際犯罪の責任を負う者に対して自国の刑事裁判権を行使することが、すべての国の義務だ」とあるように、ICC加盟国には、捜査・訴追への協力義務が生じるので、プーチン大統領が入国したら拘束してICCに身柄を引き渡すことが求められます。

 

しかし、これまで、政治的考慮から、この義務を守らない国が多く、特に今回は、大国ロシアと敵対するリスクが生じることから、現実的には難しいとみられています。

 

たとえば、2003年、約30万人の民間人が犠牲となったスーダンの「ダルフール紛争」では、当時のバシル大統領に対して、ICCはダルフールでの戦争犯罪、人道に対する罪、大量虐殺の罪で09年及び10年に起訴したが、その身柄はまだ確保できていないどころか、その後、バシルがアフリカ諸国など他国を訪問しても、その国も拘束しませんでした。

(スーダンのバシル元大統領は19年、政権から追放され汚職の罪で有罪判決を受けたが、スーダンの軍指導部はICCに対する約束にもかかわらず、同氏引き渡しには依然消極的とされる)。

 

プーチンへの逮捕状の意義

 

加えて、ICCには、容疑者不在のまま裁判ができる欠席裁判の制度がないことから(ICCの裁判には被告本人の出席が必要)、「逮捕状止まり」になる可能性が高いことも懸念されています。ですから、今回、プーチン大統領に出された逮捕状によって、今後、プーチン大統領に有罪判決を言い渡して収監することは難しいでしょう。

 

もっとも、「プーチンに逮捕状を出す」ことに意義はあると見る向きも多い。プーチン大統領が外遊しても身柄を拘束されない可能性が高いにしても、ICC加盟国への渡航に慎重にならざるを得なくなり、首脳外交も制限されるかことが予想されます。何より、国際社会での威信が失墜することは間違いありません。

 

 

<資料>

国際司法や戦争犯罪についての基礎知識を学びたい方は、拙著

「なぜ?」がわかる!政治・経済(p225〜238)を参照下さい。

 

<参考>

露、プーチン氏逮捕状に「無意味」と猛反発 国家への攻撃とみなす

(2023/3/18、産経)

プーチン大統領の逮捕が困難な理由 戦争犯罪を認定する意義は?

(2022/04/20 aera)

プーチン氏を罪に問えても「逮捕状止まり」の可能性 「それでも意義はある」と専門家

(2022/04/19 aera)

解説:国際犯罪とウクライナ戦争

(2023/01/19、Swissinfo.ch)

「戦争犯罪」って? プーチン氏逮捕できる? ジェノサイドは

(2022年04月06日、就活ニュースペーパー)

 

 

2022年05月12日

謎の急性肝炎、世界の子どもに拡散

先月末、世界中の子どもに謎の急性肝炎が広がっているという、気になるニュースがありました。以下、毎日新聞の記事です。

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原因不明の小児急性肝炎か 症例を国内初確認 欧米で報告相次ぐ社会

(2022/4/25、毎日新聞)

 

米国や欧州で今年1月以降、原因不明の子どもの急性肝炎の症例報告が相次いでいることを巡り、厚生労働省は25日、同様の症状が出た症例を国内で初めて確認したと発表した。

 

世界保健機関(WHO)の報告によると、今月21日までに12カ国で169例が確認され、1人が死亡した。このうち、74例で夏風邪や結膜炎などの原因ウイルスである「アデノウイルス」が検出されている。症状は黄だんや肝障害の程度を表す肝酵素の数値の異常のほか、一部の症例では腹痛、下痢、嘔吐(おうと)などが報告されている。

 

今回の症例は21日に自治体から国に報告があった。アデノウイルスは陰性で、肝移植はしていない。基礎疾患の有無は不明で、新型コロナウイルスは陰性だった。厚労省は症状や居住地、性別、年齢は明かしていない。

 

WHOは23日、各国から情報を集めるために、原因不明の子どもの急性肝炎の暫定的な症例の中に「可能性例」を定義。16歳以下で、2021年1月以降に確認された急性肝炎で、A~E型のウイルス性肝炎の症例は除外している

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世界中で確認された169件の報告のうちこの肝炎に感染している子供の大半は5歳以下で、死亡例は1件確認されました。感染者が最も多いのがイギリスの114件で、10人の子供が肝臓移植を余儀なくされたそうです。

 

症状は、腹痛や下痢、吐き気といった消化器症状がでた後、皮ふと目が黄色くなる黄疸(おうだん)が確認されたとのことで、肝酵素値(「AST」、「ALT」)の上昇が認められましたがほとんどの症例で発熱はありませんでした。また、急性ウイルス性肝炎を引き起こす一般的なウイルス(A、B、C、D及びE型肝炎ウイルス)は検出されていません。

 

「F41」と呼ばれるアデノウイルスが原因になっている可能性が高いとみられていますが、まだ正確には不明です。新型コロナウイルスのパンデミックによって、幼い子供たちが生活の中でアデノウイルスにさらされる時期が遅くなり、「免疫反応が激しくなった」のではないかという見方があります。

 

 

現在、直近のコロナ(COVID-19)感染がアデノウイルスと共に肝臓に異常を引き起こすきっかけになっていないかなども含めて調査中です。WHOによれば、少なくとも19人は新型コロナウイルスとアデノウイルスの両方に感染していました。なお、イギリスで確認されている10歳以下の肝炎患者は、ワクチンを接種していないとされ、新型ウイルスワクチンとこの肝炎との関連は、現段階ではないと言われています。

 

記事にあったように、日本でも、同様の症例を国内で初めて確認されたことから注意が必要です。