シリーズ「記紀(古事記・日本書記)を読もう」の第2回「天の岩戸」です。
黄泉の国から戻った伊弉諾尊(イザナギノミコト)が、日向(現在の宮崎県)の地で、禊(みそぎ)をした際、左目を洗ったときに生まれた天照大神(アマテラスオオカミ)と、鼻を洗った時に生まれた須左之男命(スサノオノミコト)のお話しです。
第1回の記事
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- 天照大神と須左之男命の誓約
伊弉諾尊(イザナギノミコト)の指示で、海を治めることになった建速須左之男命(タケハヤスサノオノミコト)(須左之男命)(以下スサノオ)でしたが、亡くなった母の伊弉冉尊(イザナミノミコト)のいる出雲と伯耆(ほうき)の堺近辺の、黄泉の国(よみのくに)(=根の国)に行きたいと泣いてばかりです。そこで、伊弉諾尊(イザナギノミコト)は、言うことをきかないスサノオを追放してしまいました。
追われたスサノオは、天上界にいる姉の天照大神(アマテラスオオカミ)に別れを告げてから、母(イザナミ)に会いに行くと行って、高天原(たかまのはら)(=天照大神が支配する天の国)におもむきます。ところが、向かっている途中、スサノオの勢いが凄まじく、草木はざわめき、地を揺らしてやって来たため、天照大神はスサノオが高天原を奪いに来たと勘違いして武装をして天安河(あまのやすかわ)という河原で待ち受けました。
天照大神はやってきたスサノオに対峙して
「何をしに来たのだ」
と問いただすと、スサノオは、
「単に別れを言いに来ただけだ」
と答えますが、信じてもらえません。天照大神が言いました。
「ならば、あなたの心が清く正しいことはどうやって証明するのですか?」
するとスサノオが答えます。
「誓約(うけい)(≒占い)をして子供を生みましょう」
スサノオは、天照大神の国を奪おうとは考えていないので、自分の心の内を誓約によって明らかにしようとしたのです。
こうして、二柱は、天安河を間に挟んで誓約をします。天照大神は、スサノオが持っていた「十拳の剣(とつかのつるぎ)」を受け取って、三つに折り、清らかな水が湧く天真名井(あまのまない)で清めてから噛み砕き、吹き捨てました。すると、その息吹から、美しい三柱の女神が生まれました。これが宗像三女神(むなかたさんじょしん)です。
宗像三女神
多紀理毘売命(タキリヒメノミコト)
多岐都比売命(タキツヒメノミコト)
市寸嶋比売命(イチキシマヒメノミコト)
続いて、スサノオは、天照大神の身に着けていた八尺勾玉(やさかのまがたま)を、同じように清めると、吹き捨てる息が霧になった時に、以下の五柱の男神が現れました。
天忍穂耳命(アメノオシホミミノミコト)
天菩卑能命(アメノホヒノミコト)
天津日子根命(アマツヒコネノミコト)
活津日子根命(イクツヒコネノミコト)
熊野久須毘命(クマノクスビノミコト)
この誓約(占い)で、心優しい3女神が、スサノオの持っていた剣から生まれたということは、スサノオの心が清らかだとして、スサノオが誓約(うけい)に勝ったことになりました。こうして、スサノオは高天原にしばらく滞在することが許されました。
- スサノオの粗暴?
ところが、須左之男命(スサノオノミコト)は、元々荒っぽい神であるため、高天原に滞在中、たんぼの畦道は壊したり、神殿に糞をしたりと粗暴な行ないを続けました。最初は天照大神も弟のことをかばっていましたが、スサノオの乱暴な行為は止むことはありませんでした。そうした中、天照大神に仕える機織の娘が、作業中に機織の道具板に当たり死してしまうという事故が起きてしまいました。これも、スサノオが馬の死体を機織場に投げ込んだことに娘が驚いて当たってしまったのでした。
これには、さすがの天照大神も、末恐ろしくなるとともに怒り、天の岩屋戸(=天の岩戸)(とびらが大きな岩で作られた洞窟)の中に引き籠り、岩戸を閉じて隠れてしまいました。スサノオもついに高天原を追放されました(スサノオが数々の粗暴な行為をしたという話しは誤解釈という説がある)。
- 天の岩戸開き
太陽神・天照大神に隠れられては大変です。高天原の天の国も葦原の中国(あしはらのなかつくに)(=地上の世界)も真っ暗になり、世の中は闇に包まれてしまいました。同時に、多くの邪神の声が、夏の蝿のように満ちて響き、あらゆる災いが溢れかえりました。
そこで、困り果てた八百万(やおよろず)の神々は、(高天原の)天の安河の川原に集まり相談します。会議では、天照大神がどうしたら岩戸から出てこられるかを真剣に討議し、造化三神の一柱である高御産巣日神(タカミムスビノカミ)の子の思金神(オモイカネノカミ)が対応策を考えることになりました。思金神の策は、祭り(=宴)を開くというものでした。
まず、鋳物の神さま、金属加工の神さまとして知られる女神、伊斯許理度売命(イシコリドメノミコト)に、八咫鏡(やたのかがみ)を作らせました。次に、宝石の神、玉祖命(タマノオヤノミコト)に八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を連ねた玉緒を作らせました。それから、天の香具山のサカキの木を一本抜いてきて、上に玉緒(八尺瓊勾玉)を、中段に八咫鏡を、下段には白と青の布を垂らしました。
その飾ったサカキを布刀玉命(フトダマノミコト)が持ち、天児屋命(アメノコヤネノミコト)が祝詞を唱える役を担いました。そして、天手力男命(アメノタヂカラオノミコト)が岩戸のそばに隠れて立って準備が完了しました。
宴の主役は、女神の天宇受売命(天鈿女命)(アメノウズメノミコト)でした。ヒカゲカズラという植物をたすきがけにし、マサキカズラを髪に飾ったアメノウズメノミコトは、手には笹の葉を束ねて持ち、岩戸の前に桶を伏せて踏み鳴らし、踊り出しました。乳房や女性の陰部をさらけ出した踊り方が、あまりにも滑稽だったので、八百万の神々はどっと吹き出し、その笑い声が高天原全体に響き渡りました。
その声を聞いた天照大神は「いったい何事か」と、天の石屋戸を少しだけ開いて尋ねました。
「自分が岩戸に篭って闇になっているのに、なぜ、(アメノウズメは)楽しそうに舞い、八百万の神々は笑っているのか」
すると、天宇受売が答えます。
「あなた様より高貴な神様がお出ましになったので、みんな嬉しくてはしゃいでおります」
その間に、天児屋命(アメノコヤネノミコト)と布刀玉命(フトダマノミコト)が鏡を差し出しました。天照大神は、岩戸から覗きこむと、そこに映った輝く自分の姿をその貴い神だと思い、その姿をもう少しよく見ようと岩戸をさらに開けました。
その時、側に隠れていた天手力男神(アメノタヂカラオノミコト)がグイと天照大神の手を引いて岩戸から引出しました。そしてすぐに、布刀玉命(フトダマノミコト)が尻久米縄(しくりめなわ)を天照大神の後方に掛けて、中に戻れないようにしました。
この縄は今の注連縄(しめなわ)の起源だとされます。また、この時の天鈿女命(アメノウズメノミコト)や神々が集まって大騒ぎした姿は、今のお祭りや、御神楽という神社の神楽(神楽殿)で行われる神事の起源とも言われています。
こうして、天照大神が岩戸から出てきたので、高天原(天の国)も葦原中つ国(地上の国)にも、光が舞い戻り、世界は再び明るくなりました。
<他のシリーズの記事>
<参照>
日本神話・神社まとめ
古事記の現代語・口語訳の全文
日本書紀の現代語・口語訳の全文
日本書紀・現代日本語訳(完全訳) | 古代日本まとめ
古事記・現代日本語訳(完全訳) | 古代日本まとめ
古事記 神々と神社(別冊宝島)
Wikipediaなど