偏った日本の食品表示規制の現実
前回の 消されていく「遺伝子組み換えでない」表示 の投稿で、2023年4月から、大豆ととうもろこしに関して、意図せざる遺伝子組み換え食品の混入が検出限界値(約0.01〜0.1%)未満でないと『遺伝子組換えでない』と表示できなくなったというニュースを解説しました。今回は、日本の食品表示の制度についてまとめました。
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食品表示には、①遺伝子組み換え原料を使っている場合に「遺伝子組み換え作物を使っている(「遺伝子組換え不分別」)と表示する義務があるものと、②遺伝子組み換え作物は一切使っていません(「遺伝子組換えでない」)ということを積極的に表示する2種類があります。
遺伝子組み換え作物を作る側の表示
これまでの政府の対応は、明らかに、①の遺伝子組み換え原料を使っているメーカーにとっては有利な規制になっています。たとえば、ニュース報道によれば、日本では食品で遺伝子組み換え表示が義務付けられるのは、遺伝子組み換え食品原料が全体の5%超え、かつ使われている上位3位の原料までが対象となる(5%以上使っていても、上位3位に入らないものは書かなくていい)そうです。さらに、上位3位だけ非遺伝子組み換えで、後はすべて遺伝子組み換えであったとしても遺伝子組み換え表示をしなくていいことになっているようです。
遺伝子組み換え作物を作らない側の表示
これに対して、「遺伝子組換えでない」という表示を積極的に行う食品メーカーに対して、不利な状況になっていることの一つが、「遺伝子組換えでない」表示がそもそも少ないということだと指摘されています。そう言われてみれば、「遺伝子組換えでない」と表示された食品は、納豆や豆腐、醤油くらいで意外に少ないのです。もっとも、醬油など一部の表示義務の対象外の食品は、これまで任意で「遺伝子組換えでない」と記載することは可能であった(今回の基準の変更でそれも難しくなると見られている)。
現行制度では、「遺伝子組換え」の表示義務の対象は、大豆、トウモロコシ、ジャガイモ、菜種、綿実、アルファルファ、テンサイ、パパイヤ、カラシナの9農産物と、これらを原材料とした、味噌やポテトスナックなど33の加工食品群です。なお、今回の表示義務の変更は、大豆ととうもろこしが対象で、これら以外の表示義務のある農作物については、現在も混入率の定めはなく、今後も混入が認められない場合のみ「遺伝子組換えでない」と表示されることになります。
不公平な食品表示規制
「遺伝子組換え」の表示義務の対象食品以外の食品には「遺伝子組換えでない」という表示を政府が許していません。サラダ油、醤油から米や小麦、家畜の飼料に至るまで、表示義務はありません(表示してはならない)。
「遺伝子組換え」の表示義務の対象外の食品の中で、特に問題視されているのが、米や小麦についてです。なぜ、米や小麦について「遺伝子組換えでない」という表示をすることを許していないかと言えば、ニュース報道によれば、日本で流通している米に遺伝子組み換えのものはないから、わざわざ「遺伝子組換えでない」という表示をしてしまうと、あたかもその食品が優良であるかのように消費者に錯覚させる(「優良誤認」という)ことになるとして許さない」のだそうです。
官僚らしい論法であり、①の遺伝子組み換え原料を使っているメーカーが不利になることに対応した処置であることがわかります。今回の基準改定も、「遺伝子組換えでない」という表示をすることによって、遺伝子組み換え原料を使わないように努力している側だけを厳しくするというものだと言えるでしょう。
<参照>
<参考>
「遺伝子組換えでない」の表示が消える!4月からの「遺伝子組み換え食品」見抜き方
(2023/03/29 『女性自身』編集部)
消える?「遺伝子組換えでない」食品表示
(2023年03月11日 OKシードニュース)
消されていく「遺伝子組み換えでない」表示
日本の食品から「遺伝子組換えでない」という表示が、2023年4月以降、ほぼ消えることになってしまうかもしれません。これまで、大豆やとうもろこしを原料とした食品を製造するとき、意図せざる遺伝子組み換え食品の混入が5%未満であれば『遺伝子組換えでない』と表示できました。
しかし今年の4月からは、検出限界値(約0.01〜0.1%)未満でないと『遺伝子組換えでない』と表示できなくなりました。基準の数値が厳しくなるのならいいのではないかと思われがちですが、、逆に、遺伝子組み換えでないものを求めることがより難しくなってしまったのです。どういうことでしょうか?
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不可解な食品表示基準の変更
『遺伝子組換え表示制度』については、2017年から消費者庁が『遺伝子組換え表示制度に関する検討会』を開いて議論した結果、実は、2018年に表示基準変更が決定、2019年4月の内閣府令により、今年の4月1日から、5年の経過措置を経て実施となったのでした。
この過程で、日本の消費者団体は、5%以下という甘い基準を海外で多い1%以下というものに変更してほえしいと要望してきたそうです。
現在、日本では多くの食材を米国などからの輸入に頼っています。特に、遺伝子組み換え表示の対象となっている大豆やとうもろこしの約9割をアメリカやカナダなど海外から輸入しており、そのほとんどが遺伝子組み換えです(これまで『遺伝子組換えでない』と表示していた大半は輸入原料)。
「遺伝子組換えでない」と表示している食品メーカーによれば、船やサイロ、そして製造過程などで、製造ラインを分ける「分別管理」をしても、輸送時に使用する船や大型サイロやパイプは常に洗浄しているわけではないため遺伝子組み換え原料が混入する可能性が完全なゼロにはならず、1%は混入してしまうそうなのです。
しかし、逆の言い方をすれば、分別管理によって、意図せざる遺伝子組み換え原料が混入する割合はせいぜい1%程度で、99%遺伝子組み換えでないものが確保できるといえます。
ですから、今回の改定で、混入許容割合を、消費者団体の要望通り「1%未満」に設定してくれれば、私たち消費者はこれまで以上に「遺伝子組換えでない」安全な食品を購入できたわけですが、それを、消費者庁は「約0.01〜0.1%未満」と改定したしまったのです。
「遺伝子組み換えでない」表示ができなくなる…
「遺伝子組換えでない」食品を提供してきた食品メーカーは、分別管理を行い、ほぼ1%以下の「意図せざる混入率」で管理していた(最大限の企業努力で1%までは可能)のですが、今回、消費者庁から「約0.01〜0.1%未満」を要求され、この検出限界値未満にするのは極めて難しくなってしまいました。これは、「遺伝子組換えでない」という表示を事実上、禁じられたに等しいことを意味します。
遺伝子組み換えでない大豆やトウモロコシを確保するためには特別の管理(IPハンドリング)をして費用をかけなければならないため、高いコストがかかるそうです。このような大変な管理を行って非遺伝子組み換え原料で食品を作ったとしても「遺伝子組換えでない」という表示が許されなくなってしまうとなれば、もう「遺伝子組み換えでない」作物をつくることを止める食品メーカーでてくることが懸念されます。
政治的決定だったか?
こうした食品表示ルールは、「食品表示法」で定められており消費者庁が管轄していますが、その消費者庁は、消費者からあったという〈(混入の基準値は)低ければ低い方がいい〉という意見に従う形で決定したと言っているそうですが、これがどうも詭弁に聞こえてしまいます。
世界の消費者が表示に基づき、遺伝子組み換えでない食品を選ぶようになった結果、遺伝子組み換え作物の栽培は2015年を境に拡大が止まったと言われています。そこで、遺伝子組み換え作物を輸出して儲かりたい、世界でわずか数社のタネを独占している遺伝子組み換え企業(穀物メジャー)やそれと密接な食品企業やその国の政府からの圧力があったのではないかと疑われます。
消費者庁としては、いつものように外圧に屈しながら、日本の良心的な食品メーカーや消費者団体には、あなた達の(基準を厳しくするという)要求の答えましたと言っているようないやらしさを感じてしまいます。
私たちに出来ることとは?
今後、従来の「遺伝子組換えでない」食品には、「遺伝子組み換え混入防止管理済」、「分別生産流通管理済み」、「IPハンドリング済み」、「IP管理済み」という文言であれば表示することは許容されるそうですので、これらの記載があるものを選ぶことが望まれます。
または、国産のものを選ぶか、有機農産物を選ぶことですね。国産品には遺伝子組み換えのものはなく、有機農産物はJAS(日本農林規格)によって「遺伝子組換え技術を使用しない」が認証の条件になっているからです。
次回は、食品表示の制度についてもう少し詳細に説明した投稿記事をだしたいと思います。また、今回の食品表示に関する次の関連投稿投稿記事も参照してみてください。
<参照>
<参考>
「遺伝子組換えでない」の表示が消える!4月からの「遺伝子組み換え食品」見抜き方
(2023/03/29 『女性自身』編集部)
消える?「遺伝子組換えでない」食品表示
(2023年03月11日 OKシードニュース)
求められる食料安全保障政策
食料安全保障の重要性を考えさせられる、東京大学の鈴木宣弘教授の主張を載せた記事を見つけましたので、これを一部抜粋する形で紹介します。
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有事で「日本人の6割が餓死」という衝撃の研究 成長ホルモン牛肉、農薬汚染食料に頼らざるを得ない食料事情
(2023年03月28日、デイリー新潮)(一部抜粋)
自給率わずか38%。我が国の食料事情は極めて心もとない。しかも、私たちの食卓は成長ホルモン牛肉などの「危険食品」の輸入によって支えられているのだ。
日本の人口の約6割、7200万人が餓死する。
局地的な核戦争後に起きる食料生産の減少や物流停止による食料不足で、世界全体で少なくとも2億5500万人の餓死者が出る。その約3割(7200万人)が食料自給率の低い日本に集中する。こうした内容の試算を、アメリカのラトガース大学の研究者らが昨年発表しました。
――――――――――――(以下 鈴木教授の主張)
最新の日本の食料自給率(2021年度)は38%に過ぎません。つまり6割超は輸入に頼っているのです。ちなみにアメリカは121%、フランスは131%、ドイツは84%、イギリスは70%となっています。したがって核戦争に限らず、何か有事が起きて物流が滞ってしまえば、日本人の6割が餓死の危機にさらされることは、先のレポートで指摘されるまでもなく当然想定される事態といえるのです。
真の食料自給率は約10%?
日本の食料安全保障環境は、これほどまでに不安定であるのが現実なのです。しかも、実は「38%」ですら、ある意味では“まやかし”といえます。なぜなら、日本は種やヒナ、化学肥料の原料なども輸入に頼っているものがあり、これらが輸入できなくなれば国内生産量はもっと減るからです。ヒナが輸入できなくなれば、最終的に鶏肉も卵も国内生産できなくなります。そして、種やヒナなどの輸入実態を加味して考えた「真の食料自給率」は、私の研究室の試算では10%程度に過ぎないのです。
生産額ベースで考える危うさ
こうした食料安全保障の脆弱さから目を背けたがる人たちがいるようです。「38%という数字を強調するのはおかしい。日本の生産額ベースの食料自給率は63%あり、事実、多くの国では生産額ベースの食料自給率を重視しているのだから」
確かに「38%」はカロリーベースの食料自給率の数字です。ごく簡単に言えば、国民が摂取しているカロリーのうち、どれほどの割合を国産で賄(まかな)えているかというものです。他方、生産額ベースの食料自給率は、カネで計算するため、例えば高品質な日本のサクランボや、高級な和牛の経済的価値が数字を押し上げ「63%」になるわけです。
生産額ベースの食料自給率が高いのは悪いことではありません。高級、つまり高品質の食料を国内生産できているという事実は、日本の農業や漁業が食品に高い付加価値をつけることに成功している、端的に言えば高級食品を作り出すためにいかに頑張っているかを表しているからです。
しかし、食料安全保障はカネの話ではありません。いざ国民が飢えるかもしれない事態に備え、どれだけ自前で国民の腹を満たせるかという話なのです。いくら高級な和牛を育てても、いくら甘くておいしいサクランボを作っても、それで国民をお腹いっぱいにできなければ食料安全保障上は意味がない。付加価値の高い高級和牛がカネを生み出してくれても、国民はカネを齧(かじ)って生きていくことはできないのです。それにそもそも、種が輸入できない状況になったら、付加価値の高い果物を作ることすらできない。ゆえに生産額ベースで食料安全保障を語ることはできないのです。
「危険な輸入食品」
しかも、ただでさえ低い日本の食料自給率は、もうひとつの大きな問題を孕(はら)んでいます。当然のことながら、食料自給率の低さは日本の食卓が輸入頼みであることを意味しています。そして私たちの食卓は、「危険な輸入食料」によって支えられているのです。
例えば「成長ホルモン肉」です。
牛や豚などの成長を促す化学物質である成長ホルモンの代表的なものでは、女性ホルモンとして知られる「エストロゲン」が挙げられます。エストロゲンは乳がん細胞の増殖因子であることが指摘されており、そのため日本では使用が認められていません。EUは、成長ホルモンが投与されたアメリカ産牛肉の輸入を禁止しています。当のアメリカでも、ホルモンフリーの牛肉に対する需要が高まっているといいます。
ところが、検査体制等が“ザル”な日本にはアメリカ産成長ホルモン投与牛肉が輸入されています。つまり、アメリカ本国やEUで売れない、あるいは売りにくくなった“危険牛肉”を日本人は食べさせられているのです。エストロゲンは自然な状態でも牛の体内に少量存在しますが、アメリカ産の輸入牛肉からは国産牛肉の600倍ものエストロゲンが検出されたという話もあります。
なお、発がんとの関連が指摘され日本では禁止されている「γBGH」というホルモンを投与した牛の、チーズなどの乳製品もアメリカから輸入されています。しかし、やはり当のアメリカでは消費者運動によって、スターバックスなどがγBGH使用乳製品の排除を表明するに至っています。
「日本輸出用のものだから大丈夫だ」
また“農薬汚染食料”もしかりです。日本では収穫後(ポストハーベスト)の農作物への防カビ剤散布は禁止されています。ところが、アメリカの農家で研修したことがある日本の農家の人はこんな証言をしています。「『これはポストハーベストの農薬散布にあたると思うけど大丈夫なのか?』と聞いたら、彼らはこう答えました。『日本輸出用のものだから大丈夫だ』と」
日本に輸入されている食料へのポストハーベストの農薬散布が疑われる状況なのです。
γBGHの話で分かるように、消費者の意識次第で危険食料の摂取は防げるのに、情報を知らないせいなのか、あまりに日本人は無自覚です。
地産地消が最も安全?
では、私たち国民にできることはないのでしょうか。
地産地消が最も安全。このいにしえの教えを現代風に解釈すれば、国産の安全な食品を食べるべきであるといえるでしょう。
少し値段が高いとしても、ポストハーベストの農薬散布リスクがある輸入物ではなく、安全な無農薬国産野菜などを選んで買う。それは国内の農家を助け、支えることにもつながります。つまり、意識して地産地消を進めることで、危険な輸入食品を遠ざけて「食の安全」を確保できると同時に、「国内生産力の強化=食料自給率の向上」、すなわち食料安全保障の確立という好循環を生み出せるのです。
安い食品はコスパが悪い?
目の前の安さに飛びついて輸入物に手を伸ばす。この行為は、食料安全保障の面でも、食の安全の面でも、実は自らの首を絞めているに等しいのです。自分の国は自分で守りたいのであれば、まずは自国の農業や漁業を国民で支える。これこそが「国防」の要だと思うのです。
――――――――――――
鈴木宣弘(すずきのぶひろ)
東京大学大学院農学生命科学研究科教授。1958年生まれ。東京大学農学部卒業。農水省に15年ほど勤務した後、九州大学大学院農学研究院教授などを経て、東京大学大学院農学生命科学研究科教授に。「食料安全保障推進財団」の理事長も務める。
「無添加・不使用」の表示が消える!?
消費者庁は、2022年3月、「食品添加物表示制度(食品添加物の不使用表示に関するガイドライン)」の改正を発表しました。このガイドラインによって、食品添加物の表示ルールが変更し、新たな食品添加物表示制度が4月1日からスタートしています(適用されるのは今年4月以降の製造分から)。
主なルール変更は、商品包装の際、「人工」「合成」という用語の削除と、「無添加」や「不使用」と記載するルールの厳格化です。安心・安全な食品を口にしたいという消費者の利益はどうなるのでしょうか?
- 「人工」「合成」という用語の削除
食品添加物について、「人工甘味料」「合成保存料」などで見られる「人工」や「合成」という用語の使用が禁止されました。
添加物を使用していない商品を選ぶ消費者の4人に1人が、「『合成』や『人工』の表示があると購入を避ける」と回答しているという調査結果もあるように、一定数の消費者は「人工」「合成」の用語に強い抵抗感を持っていることが明らかになっています。
添加物には、例えば、カレー粉に用いるウコンの色素のように天然由来もあれば、化学的に合成されたものもありますが、消費者は、当然、「天然」の方が「人工」「合成」よりも体に優しく、安全と考えます。しかし、「実際には優劣はない」と主張する消費者庁は、消費者が、「人工」「合成」の添加物よりも「天然」の添加物のほうが安全と「誤解」しているとして、これを正すために、今回の措置をとったのです。
実際は、2020年7月に、食品表示法の食品表示基準が、変更され、消費者庁は「人工甘味料」「合成保存料」などに見られる「人工」「合成」の用語を削除することを決定していました。ただし、すぐに実施されたのではなく、2022年3月末までを経過措置期間としていたので、期間が切れる今年の4月1日から全面的に禁止となったわけです。
◆「○○無添加・△△不使用」表示のルールの厳格化
商品を選ぶ際、商品包装に「無添加」と「〇〇不使用」の表示があるかを基準にしている人が多いと思いますが、消費者庁は、食品メーカーが今後、商品パッケージに「着色料不使用」など「○○不使用」の文言や、「無添加」の表記を自由に使用することを禁止しました。結果的に、無添加などの表示は大幅に減る懸念があります。
食品添加物には、保存料、甘味料、着色料など多数がありますが、食品表示法では、加工食品に保存料や着色料などの添加物を使った場合、使用したすべての添加物を商品のパッケージに明記することを義務づけています。逆に、添加物を使っていないことの表示(「無添加・不使用」表示)に関しては、これまで特にルールを定めず、「○○無添加」「○○不使用」と書くかどうかは食品会社に任せるなど、これについての規制は曖昧でした。
消費者庁は、「国が認めた添加物は安全」という前提に立っています。添加物の安全性についても、内閣府の食品安全委員会や厚生労働省が、さまざまな検査結果などを通じて慎重にチェックした上で、国が安全性を認めたものだけが使われ、「添加物を入れた食品も、添加物を使用しない食品と同じくらい安全」というのが国の見解です。さらに、食品添加物の使用量も、目的のための最低限にとどめ、健康に影響を及ぼすことがない量に定められているとしています。
これに対して、一部メーカーが、「無添加・不使用」を強調する表示によって、「無添加」や「不使用」を全面的に打ち出すことを、消費者庁は快く思うはずはありません。何より、無添加・不使用を強調表示する一部メーカーによって、消費者が「添加物を使わない(無添加)食品は安全で健康的」、反対に「添加物を使っている食品は危険」と考えてしまうことに懸念を示していました。実際、不使用表示のある商品を購入する理由として、「安全で体によさそうだから」と考える消費者が70%以上いることが調査結果などから明らかになっています。
多数の添加物を使用する大手食品メーカーからもこれまでに、他社の「○○不使用」という表記にクレームがつけられていたそうです。また、大手製パン会社は、「無添加・不使用」表示について、例えば、イーストフードや乳化剤と同じような物質を使用していながら、「イーストフード・乳化剤不使用」と表示するなど、「消費者を欺いている」と問題提起が行われていました。また、「不使用」と書いてあっても何が不使用かよく分からないケースもあるようです。もっとも、「無添加・不使用」表示をするメーカーすべてが「欺いている」わけではなく、その正確な実態が明らかにされたわけではありません。
いずれにしても、消費者庁は、食品添加物に対する(消費者庁から見れば)「誤認」をなくすために、あいまいで混乱していた表示を厳格化する今回のガイドライン策定に踏み切りました。ただし、新たな表示ルールが即実施されるわけではなく、パッケージの切り替えなど、食品会社がガイドラインに基づく表示の見直しをするのに2年程度の期間を設け、2024年3月までを経過措置期間としています。この経過措置期間が切れるまでは、従来の表示方法も可能となります。
新ルールの10類型
消費者庁は、新たな表示ルールに基づいて、食品表示法の禁止事項に該当する恐れがある表示を以下の10類型にまとめています。
- 何が不使用なのか書かず、単に「無添加」と表示すること(今後は具体的に表示しなければならい)
- 「人工甘味料不使用」や「化学調味料無添加」など食品表示基準に規定されていない用語を使用した表示
- 清涼飲料水に「ソルビン酸」不使用と表示するなど、食品添加物の使用が法令で認められていない食品への表示
- 「〇〇無添加」、「〇〇不使用」と表示しながら、同じ機能や似た機能を持つ他の食品添加物を使用している食品への表示
- 「乳化作用を持つ原材料を高度に加工(無力化)して使用した食品に、乳化剤を使用していない旨を表示」するなど同一機能・類似機能を持つ原材料を使用した食品への表示
- 「無添加だから体にいい」など、健康や安全と関連付ける表示
- 「商品が変色する可能性の理由として着色料不使用を表示」するなど、健康、安全以外と関連付ける表示
- ミネラルウォーターに「保存料不使用」と表示するなど、食品添加物の使用が予期されていない食品への表示
- 原材料には保存料を使用しているのに、加工時に使わなかったことから「保存料不使用」と表示すること
- 「無添加、不使用」の文字が過度に強調された表示
これらの表示ルールを守れば、「無添加、不使用」表示は可能ということですが、これは、かなり厳しいガイドラインと言え、実質的に一律禁止に近い規制強化になるとみられています。しかも、ガイドラインを守らなければ、食品表示法違反に問われ罰則を受けることから、今後、無添加・不使用表示は確実に減っていくことが予想されます。無添加のために努力してきた企業にとって、表示できないとなれば、無添加をやめてしまうことを十分考えられます。
消費者に向いていない消費者庁
今回の消費者庁の新ルールは、健康志向の高まる現代社会にあって、時代に逆行するガイドラインと言えます。そもそも、国が安全性を認めた添加物であれば、添加物を入れた食品は、添加物を使用しない食品と同じくらい安全という国の見解を全面的に信頼しているわけでなく、逆に消費者の食品添加物に対する嫌悪感や不信感は根深いものがあります。
国が認める食品添加物は、安全性が確認されているとの建前ですが、世界各国で添加物の危険性が続々と報告されており、鵜呑みにできません。例えば、健康目的で人気のゼロカロリー飲料には、甘さを出すため糖類に代えて人工甘味料が添加されています(人工甘味料は砂糖と比べて最大約4万倍の甘みを持つとされる)が、最近、人工甘味料の発がんリスクを指摘する調査結果が公表されています。
それによると、人工甘味料の「アスパルテーム」と「アセスルファムK」の摂取量が多いと、大腸がんと乳がんのリスク(フランスの国立保健医学研究所調査)だけでなく、糖尿病(米テキサス大学)や、うつ病、腎機能障害、脳卒中、心筋梗塞、血管系疾患などの発症リスク(米国立衛生研究所)を高めることがわかっています。
現代社会において、食品添加物は、加工食品の品質と安全性を安定させ、広域流通を可能にしているという意味で、私たちはその恩恵を受けていますが、食品添加物が入っているものと、入っていない自然なものを選べるとしたら、食品添加物が含まれない食品を選ぶのは、「自然の情」として当たり前のことで、「食品添加物が入っていない食品の方が健康によい」というのはイメージでも何でもなく、事実です。そういう意味でも、今回の消費者庁の決定は、消費者目線ではなく、国が認めた食品添加物入りの「安全な」食品を売っている大手の食品メーカーを保護することが目的ではないかと疑わざるをえません。
ただし、新ルールによって、食品表示そのものがなくなるわけではありません。パッケージの表側に表示されなくなっても、裏側の表示を読めば、何が使われ、何が使われていないかを正確に知ることができます。ですから、食品添加物の入っていない(できるだけ少ない)食品を選択する私たち消費者の声が大きくなって、消費者庁が消費者に向いた政策をとらざるを得なくなるような地道の消費行動を、私たちが続けるしかありません。
<補足> 食品添加物について
食品の容器包装には、「乳化剤」「甘味料」「着色料」などの文字が記載されていますが、これらが食品添加物で、上にあげたもの以外にも、保存料、増粘剤、酸化防止剤、発色剤、防かび剤、漂白剤、膨張剤、乳化剤、香料など多数あります。
これらの食品添加物は、食品の食感や風味、日持ちを良くするため、外観を改良するために使用される物質の総称で、国は現在829品目を認めています。例えば、保存料や酸化防止剤はカビの抑制や保存性を良くするために用いられていることはよく知られています。
食品添加物は第二次大戦前から使用されていましたが、種類と使用量が増えるのは戦後になってからでした。当初、人々が貧しく食料が欠乏していた頃は、危険な化学物質が乱用され、食中毒で大勢の人が死亡する事故がたくさん発生しました。そこで、政府は1948年に食品衛生法を制定し、食品添加物は61種類を最初に認可しました。認可された防腐剤や保存料、酸化防止剤、防カビ剤、殺菌剤、殺虫剤などを定められた基準量で用いることで、食品の腐敗や酸化を防ぎ、かつ品質を保つことができたことで、食中毒のリスクが低減されました。
しかし、やがて、食品添加物は、見た目をおいしそうに見せるために使われるなど商業目的に乱用されるようになってきました。例えば、たくあんは、オーラミン(黄色染料)で真っ黄色に、また緑茶やワカメは、マラカイトグリーン(青緑色染料)で染められました。これらの添加物は、食用には禁止されている紙・皮革・繊維用の有害色素で色づけたものでした。さらに、「食と農の工業化」が進んだ、高度経済成長期から70年代にかけては、農薬、化学肥料、食品添加物などの化学物質が大量に投与された、国民にさまざまな健康被害をもたらしました。
こうした経緯を受け、食品の安全性と消費者の権利を重視することが求められるようになった現在では、食品添加物はさまざまな検査を通し、国が安全性を認めたものだけが使われていますが、「食品添加物は危険で自然、天然は安心・安全」という考え方が社会に広く認められています。
(参照)
食品添加物表示制度の変更で「無添加」表記が不可に
(2022/5/11、マネーポストWEB)
食品添加物の「無添加」「不使用」表示、これからどうなる?
(2022/4/27、Yahoo News)
消費者庁が制度大改正 食品から「無添加」表示が激減する
(2022年3月14日、エコノミストOnline)
新たな食品表示ルール 4月1日スタート
(2022年3月31日 NetIB News)