ゾロアスター教①:ユダヤ教、キリスト教の源流!

 

ゾロアスター教は、今日では存在感のない少数宗教となっていますが、かつては、西アジア全体に広がり、ユダヤ教やキリスト教、さらにはイスラム教にも影響を与えた世界的な宗教でした。その影響は、中国や日本にも及びました。今回は、ゾロアスター教についてまとめました。

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◆ゾロアスター教とは?

 

ゾロアスター教は、預言者ゾロアスターが、古代ペルシア(イラン)で創設した伝統的な民族宗教です。善(光明)の神で最高神アフラ・マズダを信仰し、この世界をアフラ・マズダと、悪(暗黒)の神アーリマンアンラ・マンユ)との絶え間ない闘争と説きます。2神の対立する世界にあって、人間は、アフラ・マズダに味方し、最後の審判により楽園に入ることが期待されました。

 

ゾロアスター教は、火をアフラ・マズダの神聖な象徴と見なし、火を崇拝することから、「拝火教」とも呼ばれます。また、最高神の名に因んで「マズダ教」とも称されることもあります。

 

ゾロアスター教がいつ成立したかはいまだ確定されておらず、紀元前⒕世紀から紀元前5世紀(前1000年前後や前6世紀頃)と、かなり幅広い推測になっています。また、創始者ゾロアスター(ドイツ語読みでツァラトゥストラ)の生涯についても、よく知られていません。

 

宗祖ゾロアスターは、イラン(ペルシア)人がイラン高原に移動したとされる前1000年頃よりも前に生き、イラン東北部の中央アジアで遊牧生活を送っていたと考えられています。ただし、生誕の具体的な年代については、紀元前1600(1200)年から紀元前1000年にかけてという説から、紀元前7世紀後半から6世紀にかけてという説もあります。また、その活躍場所も、イラン高原西部から現在のアフガニスタンにかけてと幅広く推察されています。

 

いずれにしても、ゾロアスター教は歴史ある宗教なので、以下のように、多くの「世界初」「世界最古」の形容がついています。

 

ゾロアスター教は、神の啓示によって開かれた世界最古の宗教である。

ゾロアスター教は、最高神を定めた世界初の宗教である。

ゾロアスター教は、ユダヤ教に先立つ世界最古の一神教である。

ゾロアスター教は、ヒンドゥー教と並ぶ世界最古の体系的宗教である。

ゾロアスターは、世界最古の預言者である。

 

こうした歴史性ゆえに、ゾロアスター教は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など後の主要宗教の教義に取り入れられ、同時に、世界の他のどの宗教よりも人類に大きな影響を与えました。

 

 

  • 経典「アベスタ」

 

ゾロアスター教の聖典は、「アベスタ(アヴェスター)」で、「ヤスナ(祭儀)」、「ヴィーデーヴダート(除魔法・戒律)」、「ホルダ・アヴェスター(祈禱賛歌)」などからなり、ゾロアスターの教説をそのまま伝えたとされる部分と、死後作成された部分に分れています。

 

その成立年代も正確にはわかっていませんが、イランのササン朝ペルシア時代(224~651年)の4世紀から6世紀にかけて、啓示を受けたゾロアスターの教説に、暗誦伝承されたものが文字によって最終的に編纂されたと言われています。なお、現在残されている「アヴェスター」は、最終編纂当時の4分の1の分量でしかないそうです(残りは散逸)。

 

神の啓示を受けたゾロアスターの言葉で直接説かれているのは、「ヤスナ」のさらに一部である詩編の「ガーサー(ガーター)(韻文・偈)」などに含まれています。「ガーサー」で伝えられているゾロアスターの教えは、古いイラン人の信仰を否定して、新たな宗教を創始する内容だったとされています。そこに何が書かれていたのでしょうか?

 

 

  • アフラ・マズダvsアーリマン

 

冒頭でも述べたように、ゾロアスター教は、宇宙万物を創造した最高神アフラ・マズラを信仰しています。アフラ・マズダ(アフラは神、マズダは知恵の意)は、創造主で唯一神、光の善神(光明神、善神)です。このアフラ・マズダの対になる神が、アーリマンアンラ・マンユ)(「怒りの霊」の意)で、死を司る闇の悪神(暗黒霊)であり、破壊霊、敵対神とされています。アーリマン(アンラ・マンユ)はキリスト教における悪魔「サタン」の原型となりました。

 

ゾロアスター教では、世界をこの善神アフラ・マズダと悪神アーリマン(アンラ・マンユ)との対立・闘争と捉え、世界が造られて以来、アーリマン(アングラ・マインユ)が、創造主アフラ・マズダを攻撃し、絶え間ない闘争が繰り広げられると説いています。

 

ところで、アフラ・マズダは、天地を創造した超越的な絶対神なのに、自分に敵対するアーリマンをなぜ造って戦うのか、創造神だったら、仮に自分が産んだ子が反逆しても圧倒的な力を持っていないのか?など、素朴な疑問が沸いてこないでしょうか?

 

実は、もともと、ゾロアスター教の創世神話では、最高神アフラ・マズダは、スプンタ・マンユとアンラ・マンユの双子の霊を創造したとあります。そして、世界の始まりの時、スプンタ・マンユ(アヴェスター語で「聖なる霊」を意味する) は、もう一人のアンラ・マンユ(アーリマン)と出会うと、スプンタ・マンユは善と悪という世界の二大原理のうち「善」を、アンラ・マンユは「悪」をそれぞれ選択したとされています。

 

そして、それぞれの原理に基づいて万物を創造した二神は、互いの力と信奉する者らの行いによって、互いの勢力を生み出しつつ争うことで、世界が善の楽園と悪の地獄のどちらに傾くかで勝負をすることにしました。

 

私たちが存在しているこの現実世界(人間界)は、スプンタ・マンユ(善)とアンラ・マンユ(悪)の被造物が混じり合い(入り乱れて)、あらゆるものは善か悪のいずれかに属して、互いに戦い合う混沌の世界であると説かれています。ゾロアスター教では昼と夜の交替などもこの二神の抗争として捉えられます。

 

ですから、ゾロアスター教においては、アフラ・マズダが善悪の対立を超えた絶対的な地位にあり、スプンタ・マンユとアンラ・マンユの戦いを裁いて正義の勝利・正当性を保証する役割を担っていました。

 

しかし、後に、ゾロアスター教が地域に広がっていく過程で、スプンタ・マンユが最高神アフラ・マズダと同一視(習合)されるようになりました。結果として、善神スプンタ・マンユと悪神アンラ・マンユ(アングラ・マインユ)の対立は、やがて、「アフラ・マズダvsアーリマン」との構図に変化し、定着していったのです。

 

 

  • 七大天使vs七大魔王

 

一方、ゾロアスター教は、最高神で善神アフラ・マズダと悪神アーリマン(アンラ=マンユ)の二神から派生するさまざまな霊(眷属である諸神)(七大天使と七大鬼神がその代表)の存在を説いています。

 

ゾロアスター教の教典「アベスタ」の「ガーサー」には、「アフラ=マズダを唯一の最高神としてその分神(大天使)とともに敬うこと」と書かれています。具体的には、アフラ・マズダの側には、自らが創造した7人の上級神(アムシャ・スプンタ)と、それら以外の多くの下級神がいます。アムシャ・スプンタは「七大天使」とも呼ばれ、その他の神々を聖霊と見なしました(これが後にキリスト教で「天使」や「聖霊」の概念の基礎となる)。

 

アムシャ・スプンタは、ゾロアスター教に於いて、最高神アフラ・マズダーに従う七人の善神(上級神霊)の総称です(その名は「不滅の聖性」を意味する)。アーリマンとともに最初に創造されたスプンタ・マンユは、アムシャ・スプンタ(七大天使)の筆頭で、「創造」を司るとされます。

 

アムシャ・スプンタ(七大天使)

スプンタ・マンユ(聖なる霊)
ウォフ・マナフ(善思)
アシャ(天則・正義)
アールマティ(敬虔)
クシャスラ(王国⇒富)
ハルワタート(完全)
アムルタート(不滅)

 

ただし、スプンタ・マンユがアフラ・マズダーと同一視される場合、アムシャ・スプンタは6人と数えられます。

 

なお、アムシャ・スプンタの概念は、ゾロアスター教よりも古いペルシア土着の神々の中で、人類の守護者とされたものが取り入れられたとされています。

 

これに対して、アーリマン(アンラ・マンユ)には、疫病や災厄を振りまいて世界を破滅へ導こうとする七大魔王が配下に付いているとされます。この七大魔王を含めて、アンラ・マンユに仕えている悪魔達(悪神)を総称して、ダエーワといいます。アフラ・マズダ側のアムシャ・スプンタと対になる概念といえます。

 

ダエーワ(七大魔王)

アンラ・マンユ:魔王の中の魔王

アカ・マナフ :「悪しき思考」の魔王

ドゥルジ :「虚偽と不浄」の(女)魔王

タローマティ :「背教」の(女)魔王。

サルワ(サウルウァ):「破壊」の魔王

タルウィ :植物を滅ぼす魔王

ザリチュ :毒草を蔓延させる魔王

 

なお、七大魔王の中に首領であるアンラ・マンユがいるので、それを除いて六大魔王と見なす場合もあります。

このように、アフラ・マズダとアーリマンの戦いというのも、実際はそれぞれ眷属の神々とともに戦うのです。

 

 

◆「終末論」「天国と地獄」「最後の審判」

 

しかし、アフラ・マズダとアーリマン(アンラ・マンユ)の戦いは、無限に続くのではなく、やがて、救世主が現れ、「世界の終末」を迎えます。この時、3人の救世主サオシュヤント)が現れ、アフラ・マズダと組み、アーリマン(アンラ・マンユ)との最終決戦で勝利します。また、戦いに際し、救世主は悪の神々に立ち向かうように人々をも導くとされています。

 

また、同時に、個人の善悪の選択の結果に対する判定が行われます。アフラ・マズダを信奉し善行を積んだ者は「天国」へ、アンラ・マンユに付いた者は「地獄」へと一時的に送られることになるのですが、それは死後になされます。

 

人間が死ぬと「肉体」と「魂」が分離し、「魂」は、三日間、死者の頭の近くに留まり(さまよい)、四日目の朝に、裁判の場所に向かうとされます。そこには三人の裁判官がおり、死者の生前の行為から言葉・思考まですべてが書きとめられた「生命の書」と呼ばれる台帳に基づいて、善と悪が厳正に量られ、善人と悪人とが判別されるそうです。そして善人の魂は美しい女性に導かれ、悪人は醜い老婆に導かれて、「チンワントの橋(裁判の橋)」に向かいます。この時、善人はこの橋を渡れるのに対し、悪人は渡れず、その魂は切り裂かれ、地獄に堕ちることになると説かれます。これらは仏教の死後の世界に通じるものがあり、ゾロアスター教が仏教に与えた影響も伺えます。

 

さらに、この個々人に対する裁判だけでなく、人類そのものの「最後の審判」というものもあります。それによると、地上には、創世以来の死者がすべて復活してくるのですが、そこに天から巨大な彗星が落ちてきて、地底から溶岩が噴出し、復活した死者たちを含めた全人類を飲み込んでしまうのです。

 

しかし、その時、善なる人間は、その火が暖かなミルクのように感じるのに対して、悪人には、耐え難い灼熱の火となり、全身は焼き尽くされ、再び地獄に堕ちていくとされます。この「最後の審判」で許された者だけ、天国に戻ることができ、「アフラ・マズダ」の下で、永遠の平安の人生が約束されると説かれます。

 

 

  • 火の教団

 

ゾロアスターは、私たち人間の努めは、悪神による誘惑、攻撃、破滅などすべての悪行を排して、唯一の真理である光明神アフラ・マズダに従って、正義と秩序を実現しすることであると、人々に説いていきました。

 

ゾロアスター教では、最高神アフラ・マズダが世界の終末に際して「火を用いて審判を行なう」ことから、儀式の際には、神殿に拝火壇を設け、祭壇上の聖火を、アフラ・マズダの神聖な象徴として崇拝します。また、火は、光をもたらす「天使」とみなされ、善(光)の象徴でもあります。ただし、火そのものを祈りの対象にしているのではなく、火を通して、アフラ・マズダに祈りを捧げています(ゆえに、ゾロアスター教は「拝火教」とも呼ばれた)。

 

こうして、アフラ・マズダの象徴として火を崇拝する儀式を守る祭司団が成立し、前1200年代から前7世紀頃(または、紀元前⒕世紀~前5世紀)までの長い経緯のなかで原始ゾロアスター教団が形成されていった、と考えられています。

 

 

ゾロアスター教の影響

 

ゾロアスター教のこのような世界観は、その後のユダヤ教やキリスト教、イスラム教などの一神教や、さらには仏教に影響を与えたとみられています。とりわけ、ユダヤ教は「天地創造神話」から、「救世主の考え」「最後の審判」「天使と悪魔」など、その中心的な教えはゾロアスター教の影響を受けています。

 

また、キリスト教の「千年王国」や新約聖書の「ヨハネの黙示録」は、ゾロアスター教天地創造や終末論に似たものとなっています。さらに、後の宗教で一般的となる「天国」「地獄」の概念もゾロアスター教で説かれています。

 

加えて、日本とも関係の深い仏教への影響についても認められています。例えば、「死後の裁き」の考え方や、お盆の送り火の行事、密教の護摩炊きなどの行為は、仏教というよりはゾロアスター教からの影響といえます。

 

<参考>

ゾロアスター教②:ペルシャからの発展と衰退

ミトラ教①:古代ペルシャの密儀宗教

ミトラ教②:キリスト教に奪われたローマの国教の座

 

 

<参照>

ゾロアスター教の教えと神の名について(アイスピ)

ダエーワ(ピクシブ百科事典)

世界史の窓

Wikipediaなど

 

(2022年6月16日)