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2023年07月31日

迫りくる福島第一原発処理水の海洋放出

近づく福島第一原発の処理水の海洋放出を巡って、大きな議論が巻き起こっている。トリチウムの安全性の問題に加えて、中国や韓国野党の反対意見も根強く、対応を誤れば、被害実態のない「風評被害」によって、東北の農林水産品は打撃を受ける可能性もある。

 

IAEAからお墨付き

 

国際原子力機関(IAEA)は2023年7月4日、東京電力福島第一原子力発電所の処理水放出を巡る日本政府の計画について「国際的な安全基準と合致している」との報告書を発表しました。これを受け、政府は8月にも海洋放出を開始する方針です。

 

政府は2021年、福島第一原発の処理水を海へ放出することを決め、計画の安全性に関する包括的な検証をIAEAに求めていました。今回のIAEAの報告書はこれに対する回答でした。加えて、原子力規制委員会も7月7日付で一連の設備に使用前の検査に「合格」したことを示す終了証を東電に交付した。この結果、政府による放出に向けた安全性の評価作業は全て完了、具体的な放出日程の調整を進める段階に辿り着いた。

 

日本のメディアは総じて、事故処理を進めざるを得ない状況がある以上、海洋放出を容認する以外の選択肢がないとして、処理水(処理済み汚染水)の海洋放出を進めるのはやむを得ないと肯定的な立場である。

 

 

処理水放出計画の内容

 

処理水(処理済み汚染水)は、福島第一原発にたまった水から、トリチウム以外の放射性物質(ストロンチウムやセシウムなど)を除去している。このトリチウムは自然界にも存在し、基準値以下に濃度を薄めて海に放出することは国際的に認められている。実際に海外の原発でも行われており、日本政府と東電は、海水で希釈してから海底トンネルを通じて沖合に放出することにしている。

 

具体的には、まず、ALPSと名付けられた多核種除去設備を使い、ストロンチウムやセシウムといった放射性物質の大半を国の規制基準を下回るまで取り除く。技術的に除去が難しいトリチウムの残った処理済みの汚染水は、約2か月かけて、放射性物質が十分に除去されているか確認する工程も設けられている。

 

そのうえで、処理済み汚染水を希釈施設に移し、この施設では、海水で処理済み汚染水を100倍に薄める。これにより、トリチウムの濃度を1リットルあたり1500ベクレル未満に下げる。この濃度は、世界保健機関(WHO)が定めている飲料水の基準の7分の1程度という。そして、海底トンネルを通じて沖合1キロメートルの海面下12メートル地点に設けた放出口から処理済み汚染水を投棄する。

 

最後に、処理済み汚染水の放出量にも上限を設けており、1日あたりの最大放出量は500立方メートルに定められている。年換算で、トリチウムの放出量を22兆ベクレル未満に設定してある。濃度を国の規制基準の40分の1、世界保健機関(WHO)の飲料水基準の7分の1に希釈した上で流す計画だ。放出後には海水と混じり、さらに薄まっていく。加えて、放出口の周辺に設置したモニタリングポイントで、海水に含まれるトリチウム濃度を計測し続ける仕組みも構築しているという。

 

処理水放出の経緯

 

福島第一原発では原子力事故の結果、1~3号機の原子炉内にある燃料デブリの冷却に使った汚染水のほか、阿武隈山地の地下水脈から流れ込む大量の地下水の汚染もあり、大量の汚染水の発生が続いました。事故から2年あまりが経過した2013年夏、当時の安倍晋三総理は、東電任せにしていた対応を見直し、「国が対応していく」と方針転換を表明した。

 

ところが、政府が打ち出した具体策は、原発周辺への地下水の流入を防ぐ「凍土遮水壁」を建設するというものだった。建設には巨額の国費が投入されたものの、その効果は十分な検証が行われないままとなっている。結果として、原発の敷地内に設置された1000を超すタンクに汚染水が貯蔵されてきたが、来年中にも貯蔵容量が満杯になるとされている。その処理費用は膨らみ、2019年春に公表された専門家の試算によると、福島第一原発事故の処理に必要な「廃炉・汚染水処理」の費用は51兆円と、その2年前の試算に比べて約20兆円膨張していたことが明らかになった。

 

そうした中で、凍土壁に代わって、増え続ける汚染水の処理策の切り札として浮上したのが、処理済みの汚染水を希釈して海洋に放出する策だった。

 

トリチウムの安全性

 

処理水に含まれるトリチウムは、自然界にも存在し、通常の原発稼働の際にも排出されるものだ。トリチウムの除去は技術的に難しく、海外でも基準値以下に薄めてから海洋や大気中に放出しており、国際的に認められている。実際、処理水水準のごく微量であれば、人体に影響を与えないことで知られている。今回放出される予定の処理水による放射線影響は、自然界で人間が1年間に受ける放射線量2.1ミリシーベルトの10万分の1未満でしかないレベルに薄めたもので、健康への影響はないとされる。

 

しかし、トリチウムの影響について、政府は「水と同じ性質を持つため、人や生物への濃縮は確認されていない」とも言っているが、次のような内部被ばくのリスクを問題視する専門家も多い。

 

  1. トリチウムの半減期は3年で、リスクが相当低くなるまでに100年以上かかる。体内に取り込まれたトリチウムが半分になるまでには10日程度かかるという。しかし、トリチウムが有機化合物中の水素と置き換わり、食物を通して、有機結合型トリチウムなど人体を構成する物質と置き換わったときには体内にとどまる期間が長くなり、近くの細胞に影響を与える。
  2. 放つエネルギーは非常に低いものの、トリチウムが、体内に存在する間に、DNAを構成する水素と置き換わった場合には被ばくの影響が強くなったり、トリチウムがヘリウムに壊変したときにDNAが破損する(遺伝子を傷つけ続ける)恐れがある

 

また、他の放射性核種が残存するという問題も指摘されている。タンク水(トリチウム水)89万トンのうち8割強である約75万トンについて、トリチウム以外ににも、残存している主たる核種は、ストロンチウム90、セシウム137、セシウム134、コバルト60、アンチモン125、ルテニウム106、ヨウ素129、テクネチウム99などの核種が残存している。

 

2018年8月の東電の発表では、トリチウム水に基準を超える(告示濃度比総和で1を上回る)ストロンチウム90やヨウ素129などの放射性核種が含まれていることが発覚した。告示濃度比が最も高かったのはストロンチウム90で最大19,909倍だったという。ヨウ素129(I-129)、ルテニウム106(Ru-106)、テクネチウム99(Tc-99)なども基準値を超えていたと報じられた。東電は海洋放出する場合は二次処理を行い、これらの放射線核種も基準以下にするとしているが、「二次処理」を行ったとしても、放射性物質は残留する。「二次処理」の効果や、残留する放射性物質の最新の総量を示されなければならない。

 

そもそも、トリチウムの除去は技術的に難しいとして、トリチウムを分離させるという選択肢はないとしているが、実際にトリチウム分離はアメリカなどで行われており、トリチウム分離技術は存在しているらしい。

 

こうした背景もあってか、今回の日本の処理水放出について、近隣諸国から反対の声が上がっているが、それはそれでまた別の視点から考えなければならない。

 

執拗に反対する中国

 

中国政府は、「(日本は)国際社会と十分な協議をしていない。身勝手で傲慢だ」、「日本は核汚染水の放出計画の強行をやめ、責任ある方法で処理するよう改めて強く求める」などと日本政府の計画を批判しただけでなく、「国民の健康と食品の安全を確保するため、海洋環境の監視や輸入水産品などの検査を強化する」と述べ、日本からの農水産物の輸入検査を強化する構えを見せた。

 

さらに、中国外務省は、国際原子力機関(IAEA)に対しても、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を認めないよう要求し、「核汚染水を海に流すという日本の間違った行為を支持してはいけない」、「核汚染のリスクを世界に転嫁するのは不道徳であり違法だ」とコメントしている。加えて、中国国営メディアも、IAEAの報告書が汚染水を海洋に放出する「許可証」であってはならないと反対の立場を強調した。

 

こうした度が過ぎた中国の非科学的な批判の繰り返しは、処理水問題を政治利用し、日本のクレディビリティ(信頼性)を貶めようとしている中国の政治的意図がありありと伺える。

 

それどころか、中国は、自国のトリチウムを含む排水の海洋への大量放出の事実を棚上げして、日本批判を続けていることを国際社会は知るべきであろう。経済産業省によると、秦山第3原発では2021年のトリチウムの海洋放出が143兆ベクレルと、福島第一原発の年間計画22兆ベクレル未満に対して6.5倍のトリチウムを放出している。ほかにも、陽江原発は5倍、紅沿河原発は4倍(90兆ベクレル)である。

 

このように、中国は、機会があれば日本の弱体化を図ろうとする反日国家と言わざるをえない。「人に厳しく、己に甘い」姿勢は、放出反対のトーンを上げれば上げるほど国際社会の嘲笑の的になる。

 

 

原発処理水と地球環境

 

トリチウムの海洋放出に関しては、中国以外の国をみても、韓国では月城原発が3.2倍、古里原発が2.2倍と試算されている。欧米では、フランスのラ・アーグ再処理施設が454.5倍、カナダのブルースA、B原発は54倍、英国のヘイシャム2原発は14.7倍とけた違いに数字がさらに跳ね上がる。

 

こうしてみると、原発というのは、地球環境の観点からいえば、ないことに越したことはない。健康に問題ないといっても、海を汚染し続けることは間違いないからだ。原発事故によって生まれた東北の農林水産品に対する「風評被害」という負の連鎖を完全に断ち切るためにも、改めて原発ゼロを問いたい。

 

 

<参照>

日本の「処理済み汚染水」海洋放出に猛反発する中国の「ヤバすぎる矛盾」…国際世論が知らない「中国の真実」

(2023.07.11、現代ビジネス)

原発処理水の海洋放出、国際基準に合致とIAEA 岸田首相に報告書

(7月4日 ロイター)

トリチウム放出量、中国では福島第1の6・5倍の原発も 欧米は桁違い

(2023/7/4 産経新聞)

「通常時、韓国は福島第一原発より14倍多いトリチウムを放出」復興副大臣の激しい義憤

(2023.3.9 Diamond Online)

東電が汚染水を海に流してはいけない4つの理由

(2019-07-23 グリーンピース)