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2022年07月23日

福島原発「処理水」の海洋放出、本当に大丈夫か?

福島第1原発の処理水海洋放出の実施計画を、原子力規制委員会が正式に認可しました。この問題については、本HPの投稿記事「東日本大震災から11年、改めて問う原発ゼロ社会」でも触れましたが、2021年4月に、政府が決定した海洋放出計画にお墨付きが与えられた格好です。

 

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福島原発「処理水」の海洋放出を正式認可…海底トンネル建設、来春の開始目指す(2022/07/22、読売新聞)

 

東京電力福島第一原子力発電所で増え続ける「処理水」を海に放出する東電の計画について、原子力規制委員会は22日、安全性に問題はないとして正式に認可した。東電は今後、福島県と同原発が立地する同県大熊、双葉の両町から事前了解を得たうえで、海洋放出のための設備の本格工事に着手する。政府と東電は来春の放出開始を目指している。

 

東電の計画では、同原発から沖合約1キロ・メートルまで海底トンネルを建設し、その先端から処理水を放出する。放出前に海水で薄め、放射性物質トリチウム(三重水素)の濃度を国の排出基準の40分の1以下、世界保健機関(WHO)の飲料水基準の7分の1程度にする。

 

海底トンネルなどの工事にかかる期間は当初、10か月半程度と見積もっていたが、来春から放出を開始できるよう8か月半程度に短縮するという。

 

処理水は、2011年の炉心溶融(メルトダウン)事故で溶け落ちて固まった核燃料を冷却した後の汚染水を、多核種除去設備(ALPS=アルプス)で処理し、トリチウム以外の大部分の放射性物質を取り除いた水。その量は増え続けており、現在は約131万トンが同原発敷地内の1000基以上のタンクに保管されている。タンクの容量は来年夏~秋には満杯になるとみられている。

このまま保管を続けると廃炉作業の支障となるため、政府は昨年4月、23年春から海洋放出を始める方針を決めた。放出終了までには数十年かかる見通しだ。

 

政府と東電、さらに丁寧な情報発信を

東京電力福島第一原子力発電所の「処理水」の海洋放出は、原発敷地内のタンクの数をなるべく減らし、廃炉作業を円滑に進めるため、避けて通れないステップだ。廃炉が着実に進まないと、福島の復興の妨げにもなる。

 

処理水は同原発の汚染水を浄化し、大部分の放射性物質を除去した水だ。トリチウムの除去は技術的に難しいが、薄めて濃度を下げれば、人間や環境に影響がないことが科学的に確認されている。トリチウムは通常の原発の運転でも発生するため、国内外で海などへの放出が認められている。

 

処理水の放出に反対している中国や韓国の専門家を含む国際原子力機関(IAEA)の調査団は今年4月、東電の計画や浄化設備を調査した上で、安全性に問題はないとの報告書を公表した。

 

それでも風評被害への懸念は根強く、地元の漁業関係者らは海洋放出に反対している。規制委は今年5月に審査結果をまとめた審査書案を了承した後、一般から意見を募集した。その結果、1233件の意見が寄せられ、安全性に疑問を抱く人の声も多かった。政府と東電は今後さらに丁寧に情報を発信し、国民全体に対して理解を求めていく必要がある。

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この記事によると、トリチウムを含む汚染水を海洋放出しても安全性は確保されているということですが、実際、多くの学者、研究者もこれに異論を唱えてはいないようです。例えば、唐木英明・東京大学名誉教授も、以下の記事で安全性について「確約」しています。

 

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福島第一原発処理水の海洋放出を阻む「不安の正体」

(2022年6月5日 Wedge online、一部抜粋)

 

日常的に浴びている量よりはるかに低い数値

福島第一原発では核燃料が溶解したデブリの発熱が続き、冷却している。そこに1日100トンを超える雨水や地下水が流れ込み、高濃度の放射性物質で汚染した水が増えている。これを汲みだして、多核種除去設備(ALPS)で処理してほとんどの放射性物質を除去している。

 

汚染水をALPSで処理するとルテニウムやヨウ素などほとんどの放射性物質を基準値以下に減らすことができるが、トリチウムだけは除去できない。トリチウムは放射性の水素で、大気成分と宇宙線が反応して作られ、地球上の水にも私たちの体内にも存在する。多量のトリチウムを摂取すると遺伝子に変異を起こしてがんのリスクを高めるのだが、基準値以下であれば健康に影響はない。

 

処理水に含まれるトリチウムは860兆ベクレルと経済産業省は発表している。平常時も原発の冷却水に含まれるトリチウムを海洋に放出しているのだが、事故前の全国の原発の放出量は年間380兆ベクレルで、これを基準値の1リットル当たり6万ベクレルにまで海水で希釈して放出していた。

 

処理水については基準を1リットル当たり1500ベクレル以下へと、40分の1に引き下げている。原発内に流れ込む地下水を減らすことで汚染水を減らすためにサブドレンと呼ばれる井戸を掘って地下水を汲み上げ、漁業者の了解を得て海洋に放出しているのだが、その基準である1500ベクレル以下に合わせたのだ。

 

放射性物質の量をベクレルで表しているが、放射線は種類によって身体に対する影響は違うので、生体影響の強さをシーベルトで表している。例えば宇宙線や岩石などから自然放射線が出ているが、それらの合計は年間2.4ミリシーベルトになる。そして私たちが被ばくする「追加」の放射線を1ミリシーベルト以下にしようという国際的な合意がある。トリチウムの基準である1リットル当たり6万ベクレルを含む飲料水1リットルの放射線量は1000分の1ミリシーベルト、処理水の基準は4万分の1ミリシーベルトに換算される。

 

トリチウムが水の形であれば体内に蓄積しないが、有機物の水素がトリチウムに置き換わった有機結合型トリチウム(OBT)になると体内に数十日から1年程度留まる。だから同じトリチウム量でもOBTの健康影響はトリチウム水の2~5倍になる。もしすべてのトリチウムがOBTになると仮定すると換算値は最大4万分の5ミリシーベルトになる。

 

遺伝子に変異を起こすものは微量でも危険という意見があるが、遺伝子は強力な自己修復機能を持ち、わずかな変異は元に戻す。がんができるのも珍しいことではなく、私たちの体内では毎日1000個以上のがん細胞が生まれ、免疫の働きで殺されている。日常的に2.4ミリシーベルトの放射線を浴びている私たちが、4万分の5ミリシーベルト以下のトリチウムを不安視する必要は全くない。

 

なぜ、処理水を海洋に放出するのか

処理水は敷地内のタンクに貯蔵しているのだが、タンクは1000基を超え、これ以上設置する場所はない。核燃料デブリの取り出しが終了する30~40年後まで汚染水は出続ける。

 

その処理について、政府の汚染水処理対策委員会は次の5つの案を検討した。①基準以下に薄めて海に放出。②加熱して蒸気を大気中に放出。③電気分解で水素にして大気中に放出。④地下に注入。⑤セメントなどで固化して地下に埋没。

 

海洋放出と大気放出は同じ結果になる。大気中の水蒸気は雨や雪になって海に流れ込み、それが蒸発して大気中に戻るという循環を続けるからだ。また電気分解により水素にしても結局は水になるので大きな違いはない。すると、海洋放出と地下埋没のどちらかになる。

 

地下埋没は高レベル放射性廃棄物の処分法として世界的に認められたもので、米国やフィンランドでは実施されている。しかし日本では引き受ける地域がない。処理水の放射線は桁違いに少ないのだが、「放射能」という言葉に不安を感じる人も多く、引き受ける地域がないことが予測される。

 

さまざまな条件を検討して委員会が出した結論は海洋放出だった。その費用を比較すると、海洋放出は処分完了までに7年4カ月かかり費用は34億円、蒸発は9年7カ月と349億円、そして地下埋没は8年2カ月と2533億円になる。最も実現の可能性が高く、最も費用が少ないのが海洋放出ということだ。

 

「反対」が続く理由 中韓は日本批判の材料に

海洋放出に対する反対の理由の一つは安全性に対する懸念である。汚染水に含まれるトリチウム以外の多くの放射性物質をALPSで除去してもゼロにはならず、多少は残る可能性がある。検査を行い基準値以下であることを確認するのだが、それでも反対があるのは東電と政府に対する根強い不信感である。

――――(引用ここまで)―――

 

ただ、汚染水の海洋放出の安全性について、本当に大丈夫なのかという疑念は、個人的には消えません。通常の原発でもやっていることと指摘され、驚きましたが、「ならば安心」ではなく、逆に、「やはり原発は要らない」との考えを強くしたくらいです。

 

そこで誰か、汚染水の安全性について問題提起をされている方がいないか調べたところ、「東京保険医協会」という団体のHPの中に興味深い記事を発見しましたので、これを紹介します。

 

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福島第一原発、処理水海洋放出の危険性

(2021年07月08日、原子力資料情報室 共同代表 伴英幸)(一部抜粋)

 

……政府は理解醸成活動を本格化し、海外向けの情報発信を強め、復興庁のホームページに「ALPS処理水について知ってほしい3つのこと」と題するリーフレットを公開した。

①トリチウムは身の回りにたくさんある。

②トリチウムの健康への影響は心配ない。体内に入っても蓄積されず、水と一緒に排出される。放射線は細胞を傷つけるが、細胞には修復機能がある。

③大幅に薄めてから海に流す。

 

こうした「科学的」で「正確な情報」を丁寧に発信すれば合意が得られ、風評被害がなくなると考えているようだ。しかし、この3つは本当に「科学的」で「正確な情報」だろうか。汚染水にはトリチウム以外にもセシウムやストロンチウムなど様々な放射性物質が混じっているが、ここでは処理しても取り除けないトリチウムに焦点を当てたい。

 

トリチウムは本当に安全なのか

トリチウムは放射性の水素で、弱いベータ線を放出してヘリウムに壊変する。半減期は12・3年。大気中では酸素や窒素と宇宙線との反応で生成される。また、過去に繰り返し実施された大気圏内核実験で大量に生成され、現在も残っている。

 

だからと言って、福島第一原発に貯蔵されている汚染水を海へ捨てることは、それらとは意味合いが異なる。現在貯蔵されている汚染水は、排出基準すら守れなくて貯蔵をせざるを得なかったものである。

 

トリチウムは生物の体内に入ると一部が有機結合型トリチウム(OBT:Organically Bound Tritium)になり、体の組織に取り込まれて長く留まることが知られている。生物学的半減期は550日程度にも及ぶとの評価がある。

 

いっそう深刻と考えられるのは、OBTがDNAに取り込まれた場合である。DNAを構成するアデニンとチミジン、グアニンとシトシンはそれぞれ水素結合でつながっている。ヘリウムに壊変した時点でその結合は断ち切られてしまう。さらに壊変時に放出するベータ線のエネルギーによって別の部分が切断される恐れもある。弱い放出エネルギーでも化学結合を切断するには十分である。細胞には確かに修復機能があるが、100%修復することは考えにくい。特にDNAの2箇所が同時に切断された場合(2本鎖切断)は誤った修復になる恐れもある。

 

OBTの影響がトリチウム水(HTO)より厳しいことは、経済産業省が設置したALPS小委(多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会)の資料にも記載されている。OBTとなると体内に長く留まるということは、トリチウム水の存在する環境中では、OBTの蓄積が生じ、濃縮する可能性を示す。これを伝える海外の論文や政府報告などがある。

 

福島第一原発でタンクに貯蔵されている汚染水には微生物の存在も報告されている。地下水が原子炉建屋に侵入しているのだから、微生物が入り込んでいても不思議ではない。そうなると、汚染水の中の一部はOBTとして海洋放出される恐れがでてくる。このような恐れを政府は全く考慮していない。

 

海外でも報告される健康への影響

ドイツ政府は原子力発電所の周辺地域で子どもたちの白血病が有意に増加しているという疫学調査結果を公表した(2007年)。これに関して、イアン・フェアリー(放射線生物学者)が、定期検査で原子炉の上蓋を開けた時に一気に放出されるトリチウムによる被ばくが原因ではないかという仮説を展開している。年間平均では少ない被ばくだが、その瞬間は大きな被ばく線量となる。

 

放出量の多いカナダ型原発の場合には、下流域で出産異常や子どもたちにダウン症候群の増加、新生児の心臓疾患の増加などが報告されている⑷。トリチウムの健康影響を無視してよいとの考えは「科学的」でも「正確」でもない。東電は20年1月時点でトリチウム総量を2069兆ベクレルと評価している。タンク貯蔵量は860兆ベクレルだが、事故当時のまま手付かずに高濃度の汚染水が溜まっている建屋もあるからだ。

 

また、海に放出された汚染水は広範囲に均一に薄まることが想定されている。しかし、この想定は現実を反映しているとは考えにくい。潮の流れは複雑で、3層流も知られている。表層、中層、深層の流れの向きがそれぞれ異なるのである。地形によっては渦を巻く。濃度の高い場所ができても不思議ではない。

 

放出されたトリチウムが海洋生物に取り込まれ、これを食料とする人間に戻ってくるのである。そのような負の連鎖を避けるためには、当面の貯蔵を継続し、放出しなくてよいようにセメントと固めるなどの措置を行い、地表で管理・保管する方法に切り替えるべきだ。固化対象のトリチウムを減らすために、その分離技術の進展にも期待したい。

――――(引用ここまで)―――

 

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