農業における提言
日本では農業従事者の減少、高齢化、耕作放棄地の増大、食料自給率の低迷、危険な食品の流入など農政上の問題が山積している中、喫緊の課題は、食料安全保障体制の確立と食の安全の確保である。
食料自給率100%をめざす(令和のコメ問題もこれで解決)
遺伝子組み変え種子・ゲノム食品の排除
無農薬農法・有機農法・自然農法の推進
なお、提言内容の詳細については、別投稿で公開しており、関連投稿として、文中に随時、示しているので参照下さい。
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政策提言1
◆ 食料自給率100%をめざす
食料自給率を高めなければならない理由
農業は、この社会の「根源を支える活動」であり、食料は国民国家の枠内で自給自足できる体制を整備しなければならない。ロシアによるウクライナ侵攻、異常気象、世界的な物価高など国際環境を見れば、このことは自明の理である。
現在の食料自給率は38%と、先進国では最低水準である。個別の自給率にみても、コメこそ95%であっても、コメ以外の主要農作物とされる国産の大豆、小麦、とうもろこしは、大豆が7%、とうもろこしが0%と信じられない状態である。自給できているはずの、われわれ日本人の主食コメですら、令和のコメ騒動で安定供給ができておらず、稲作は衰退の一途をたどっている。
さらに、農産物の元となっている種子も輸入に依存しており、これを考慮すれば、真の自給率は10%程度と試算されている状態である。種子については、安倍政権のときに、日本の在来種を守る種子法を廃止し、外資を含む民間企業の参入を促した。自給率の回復とともに、この種子法を復活させなければならない。
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農政の失敗
こうなってしまった理由は、戦後の農政(農業政策)が失敗だったからである。健全な農業政策を阻害しているのが、JA農協、農水省、自民党の農政トライアングルと呼ばれる「癒着」関係であることは言うまでもない。
自民党農林族議員は、選挙の際、JA農協の組織票に依存し、その見返りに、JA農協に有利な法律を作り(法案を作成するのは農水官僚)、農水省に対して、農家へ手厚い補助金を出すように働きかける…、JA農協はその見返りに、農水省官僚に関連組織への天下先を用意する…
この農政トライアングルを消滅させなければ、日本の農業に未来はない。
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減反政策の愚
その上でやるべきことは、まず、今回のコメ不足の根本にある“減反政策”を「名実ともに」廃止しなけれならない。
通常、主食の生産を減らすような国はなく、日本は減反で生産できる量を半分に減らしたと言われている。そのため、今輸入食料が途絶すると国民は全員半年も経たずに餓死するとの見方もある。
つまりは、日本の食料自給率の低さは、食料安全保障の問題にまで拡大し、両方の観点からも減反は廃止すべきなのである。
また、減反補助金を廃止し、減反で利用されない水田でコメを作付けすれば、全国で1700万トンのコメが増産されると試算されている。増産すれば、コメの価格が下がるが、国際競争力が高まり、国内で消費しきれない分を輸出に回すことができる。今回のようなコメ不足が起きたときでも、輸出量を減らして対応できる。
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二毛作の復活を一つの選択肢に!
では、コメ以外の作物をいかに増やして、自給率を高めるか?
かつて、日本の農家の多くは二毛作を行っていた。二毛作は、主に稲作(春から夏)の後に麦作(秋から冬)を行う農法であるが、コメ農家の兼業化によって、田植え時期が6月から5月に変更されたことなどから、裏作の麦がほぼ消滅してしまったという経緯がある。専業農家を増やし、二毛作を行える農家が増えれば、自給率は回復できるであろう。
ちなみに、1960年頃まで、400万トンもあった麦類の国内生産は、兼業化によって裏作を止めた結果、現在は100万トン程度でしかない。
企業(農業法人)の参入に期待
コメを中心とした農作物の生産拡大を謳いつつも、働き手の不足にはどう対応するのかという問題が当然でてくる。農業人口は減少の一途をたどり、しかも高齢化が深刻な問題となっている。
そこで、農家の担い手不足のためには、企業の参入をさらに促すことが即効薬となる。まだ規模は大きくないものの、法人化した企業(農業法人)による農業への新規参入は着実に増えている。
外資規制をかけ、人材派遣会社など農業生産とは無関係な企業を外すなどのこれまでの原則を守りつつ、農業参入への積極的な規制緩和が望まれる。新規参入者には、耕作放棄地を利用できるように国は支援すべきである。
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国が農地を確保
一方、農地の減少の問題については、今からでも遅くはない、確固たるゾーニング(区画分け)を導入して、食料増産のために農地資源を確保していくことが重要となる。また、使わなくなったゴルフ場や、都会の空き家等を、簡単に農地に転換できるようにするなども必要な政策である。
農地は、国にとっても国民全体にとっても、重要な食料生産のための土地であるだけでなく、日本ならではの美しい自然の景観を育み、環境保全(さまざまな植生による生物多様性を保全)や地域づくり(農業を中心とした地域コミュニティの絆を深める役割)など、多様な機能を持つ重要な資源でもある。
農家への所得補償
「農家の時給は10円」と話題になった。後に計算方法に誤まりがあり10円でないことが判明したが、農家が貧困化していることは間違いない。
農家は、国民・住民の命の源である食料を生産するという社会の「根源を支える活動」をしているのであるから、異常気象やインフレなどにともない生活に困窮することがあれば、当然、大規模農家、零細農家を問わず、個別の所得補償がなされる必要である。農地とその担い手である農業生産者を、国として地方自治体として守らなければならない。
アメリカの「食の傘」からの脱却を!
食料自給率の向上は、喫緊の課題であるが、どうしても越えなければならない壁がある。それは、アメリカの壁である。
日本は輸入農産物の半分近くをアメリカに依存しているが、これは戦後の占領時代から続く、アメリカの対日農業政策で、日本はアメリカから農産物を買い続けなければならない仕組みが出来上がったいる。日本が食料自給率を上げようとすれば、アメリカからの輸入を減らすことになるので、アメリカはこれを許さないのである。日本はアメリカの「核の傘」に加えて「食の傘」にしっかりと取り込まれている。
このことを十分承知している農水省は、本気で食料自給率を大幅に高めるつもりはない。実際、農水省は自給率を、低水準の45%と長年、主張し続けている。その一方で、自給率向上を声高に主張するのは、予算獲得のためと批判されている。
政策提言2
◆ 遺伝子組み変え・ゲノム食品の排除
世界の農業大国アメリカは、農産物を商品として扱っている国で、穀物メジャーと呼ばれる多国籍穀物企業や世界的種子メーカーが、世界に輸出攻勢をかけている。日本は恰好のターゲットにされ、アメリカから大量の農産物を輸入させられている。
これが食料自給率が低水準になっている理由であるが、さらに問題は、アメリカは安全性を重視しない、利益第一主義であるため、アメリカから入ってくる農産物の大半は、遺伝子組み換えで、かつ農薬、添加物にまみれているという点です。アメリカや中国などからの輸入農産品が、日本人に健康被害をもたらす可能性が高い。
もちろん、政府(農水省)は、安全性は科学的に保障されているというが、それを覆す研究結果は発表されており、長期的な影響は誰もわからないというのが現状である。一部の農薬に至っては、アメリカの要求に応じて、農水省は制限基準を緩和しているというありさまである。農水省は、国民や消費者ではなく、アメリカに向いているという批判は免れない。
ゲノム編集については、政府は成長戦略と位置づけ、遺伝子組み換えの作物よりも規制は緩いという状況である。
遺伝子組換えやゲノム編集などは、次世代のバイオテクノロジー技術として、研究開発は重要であるが、これを商業ベースにのせ、多国籍企業の金儲けの道具になっていることに大きな問題がはらんでいる。
農作物は、自動車や携帯電話のような商品と同一視してはならない。人の命にかかわるもので、食の安全を考慮し、できるだけ市場の波に翻弄されることなく、安定的に供給されるものでなくてはならない。
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政策提言3
◆ 「地消地産」を有機農法で
それゆえ、国産が重要となる。しかし、世界の農産物市場でのアメリカの影響力は絶大であり、遺伝子組換えの農産物も世界中に広がっている。今、日本が国産を増やそうとしても(割高となるため)、競争力で負けてしまう。日本市場を絶対に手放することはないアメリカからの強力な政治的圧力もかかる。
そこで、まずは、地域経済単位で、地域内で消費されるものを地域内で生産する「地消地産」のシステムが浸透していくことが求められる。
その過程で、農薬や食品添加物のない有機(オーガニック)農法、無農薬農法・自然農法で育てた付加価値の高い農産物を地道に作り続け、危険な輸入農作物を寄せ付けない国産品の市場シェアを高めていくことである。これが、多国籍の穀物・種子メーカーから身を守ることでもある。
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政策提言4
◆ 食料安全保障政策の確立を!
こうなってくると、日本の農業の再興についての問題は、もはや食料安全保障の問題である。非常事態に備えて、現在、低水準の食料自給率をできるだけ早急に高め、国民を食べさせることができる体制を整えなければならない。
理想的には、遺伝子組換えなど危険な海外からの輸入食品を、有機(無農薬・自然)農法で作った安全な国産品に置き換えることが求められるが、現実的には厳しい。非常時の際の備蓄という点では(現在、十分な備蓄の体制もできていない)、遺伝子組換え作物を含む海外からの農産品に頼らなければならないという厳しい現実がある。
それでも、国内では、有機(無農薬・自然)農法を広げ、地方レベルから「地消地産」の体制を広げる地道な努力が求められる。
私たち消費者は、割高になっている有機(無農薬・自然)農法で育てられた農産物をできるだけ買うということで、この政策に参画できる。一人一人の選択によって、世界を変えて行くことができる。
政府も、食料安全保障のためには意味のない減反政策のために投じるお金(補助金)があるなら、有機食品の価格引き下げのために国民の税金は投じられるべきであろう。
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政策提言5
◆ 本来あるべき農政
ここまで示した政策の実現に向けて、今後の農政はどうあるべきか?やはり、鍵は、農政のトライアングルの農水省とJA農協である。
農水省は、国民や消費者の生活や健康のことよりも、政治家やJA農協など農政トライアングルの既得権者の利益や、アメリカ政府の意向を優先しており、このままでは、農水省はいったん解体するか、または、コメ政策など自給率をふくむ食料安全保障については、内閣府または内閣官房の直轄とするといった組織改革が必要となってくる。
柳田國男に学ぶ
農水省の元官僚で、民俗学者の柳田國男(1875〜1962)は、農民を貧困から救うために活動したことで知られている。農務官僚として柳田の頭の中には常に国民全体のための「経世済民(世の中をよく治めて人々の生活を救うこと、そして、そのような政を行うこと)」の考え方があったとされている。
官僚時代の柳田は、米価を上げて農家所得を増やすことは貧しい国民消費者を苦しめるので、断固として拒否し、米価を上げようとする地主階級と対決したと言われている。農水省が1970年代から始めた減反政策は、柳田が反対した米価を上げて農家所得を増やす政策であった。それを自民党の農水族やJA農協と協力して実行したわけである。
農民を救うために柳田は、規模拡大、生産性向上によるコストダウンを主張したとそうである。価格を上げなくてもコストを下げれば農家の所得は増加するからだ。現代でいえば、農地の集積化による大規模農家の育成や、ITを導入したスマート農業の支援と言ったところであろうか。
農協は最後の砦
JA農協は、令和のコメ騒動では悪者扱いされ、ここぞとばかり不要論も飛び出しているが、JA農協は日本の農業を外資から守る最後の砦である。
現在、コメというのは日本に残された最後の保護貿易で、規制緩和を主張する声が聞かれる。特にグローバリストらは、農業を「保護主義、保護主義」と言うが、主食であるコメを中心に農業は本来、保護されべき産業である。
繰り返すが、農産物は、単なる商品ではなく、人の命に係わるものであり、普通の商品のように市場に委ねる必要はないし、委ねるべきではない。これはどの先進国も同じような考えでやっている。
政府は、日米貿易交渉などの折には、農業を守る姿勢を見せるが、日常的に、農業を守っているのは、JA農協である。その農協を、小泉進次郎農水大臣がかつて主張したように、株式会社化してしまうというのは、農業を外資に売り渡す機会を率先して与えるようなものである。
地域農協は、地方で農産物を供給するという役割を超えて、地域経済や金融、地域コミュニティーの重要な一員であり、全農はそのとりまとめ役である。JAグループの信用事業の担い手である農林中央金庫に対して、農業部門の赤字を、世界の金融市場での運用力で稼いだ黒字で補っている現状を批判する向きもあるが、その運用力を称賛すべきである。
是非、日本の年金の運用も、膨大な手数料を払って外資に委ねるのではなく、農林中央金庫に任せてみてはどうか?それで年金財政が改善し、人々の老後の安心をもたらすことができれば、それに越したことはない。
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食は命である。その源を支える農業は、今後、日本の基盤産業として、再生させなければ、日本に未来はないと断言できる。水田は日本の原風景、これが失ってしまえば、そこに地域経済や産業、ひいては日本社会全体の繁栄はないのである。(了)
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(付記)
水や森林も…
農業と関連して、安倍政権が、日本の大事な資源や社会資本を外資に売り渡す道筋を作った改正水道法や、改正国有林野管理経営法などについても、日本の国益のために、再改正が必要である。水、森林、種子のような公共的資源は、国と自治体が管理しなければならない。
(投稿日2016.4.18、最終更新日2025.8.31)