日本の森林

日本の森林は大丈夫か?(水、種子に続き森林も…)

 

日本の林業の現状

日本では、戦後や高度経済成長期に植林されたスギやヒノキなどの人工林が大きく成長していることから、政府は伐採量を増やす政策を進めようとしています。これにともない国内で生産される木材も増加し、木材自給率は現在、35%を超え、過去30年間で最高水準となっています。国内の森林資源は、「伐って、使って、植える」という森林を循環的に利用することが求められていますが、現実はどうなのでしょうか?

 

木材生産が増加している一方で、皆伐や過度な間伐で木を伐りすぎたために山が荒れ、伐採した後に植林がされない山も多いとされています。林野庁の森林・林業白書によると、「伐採された山の面積の約6~7割が、再造林されないままとなっている」そうです。森林の管理が適切に行われないのは、日本の森林の所有は小規模・分散的で、森林所有者の世代交代等により森林所有者への森林への関心が薄れているからだとされています。

 

また、国有林についても、政府が過去に経営に失敗して巨額損失を出し、管理する人員を大幅に減らしたため、雑木の除去や間伐などの手入れが行き届いていないとされています。83%の市町村が、管内の民有林の手入れが不足していると考えているとの統計結果もあります。森林の適切な経営管理が行われないと、「災害防止や地球温暖化防止など森林の公益的機能の維持増進にも支障が生じることになる」と政府は将来的な懸念を強めています。加えて、所有者不明や境界不明確等の課題もあると指摘されており、今後、森林の管理に非常に多くの労力が必要になってくることは必然との見方が支配的です。

 

こうした現状と問題を解決し、新たな森林管理制度を確立させるために、安倍政権は昨年来、森林管理に関する2つの法案を成立させました。それが、森林経営管理法と改正国有林野管理経営法です。

 

 

森林経営管理法


森林経営管理法は、平成30年5月25日に可決(翌31年4月1日施行)され、「森林経営管理制度」が始まりました。同法は、個人が所有する森林(民有林)に関する法律で、所有者に適切な森林管理を促すことを目的としています。具体的には、民有林の所有権と管理権を分離し、森林整備を進めやすくするものです。そのための具体的な仕組みは以下の通りです。

 

・経済ベースにのる森林については、市町村が仲立ちとなって意欲と能力のある林業経営者に森林経営を再委託する。

・森林所有者自らが森林管理できない場合には、その森林を市町村に委ねる。

・自然的条件などから見て経済ベースでの森林管理を行うことが困難な森林等については、市町村が公的に管理を行う。

 

また、同法は、森林の所有者に「伐採の責務」を課しており、自治体は、森林所有者の経営状況をチェックし、「きちんと管理する意思がない」と見なすと、市町村が伐採計画を立て、企業に委託して伐採することができるとまで規定されています。一方、森林整備を行うにあたって、森林環境税・譲与税を使うこともできます。長年放置されていたり、所有者不明でいつ崩れるかもしれない森林を整備するには有効だと見られていいます。

 

森林経営管理法を一言でまとめると、森林(民有林)の伐採を促す法律です。安倍首相も、年頭の施政方針演説で「長期間、担い手に国有林の伐採・植林を委ねることで、安定した事業を可能にします」と発言しています。そうすると、次のような問題点が指摘されています。

 

・所有者の意に反して木が伐採される。

・利益のある森林にのみ業者が関心を示す。

・本来は天然林に戻したほうがよい奥山のような森林も伐採される

・公益性への配慮が行われない。

 

こうした懸念が出ることを意識してか、安倍総理の発言です。「森林バンクも活用し、森林整備をしっかりと加速させてまいります。その際、地域の自然条件等に応じて、針葉樹だけでなく、広葉樹が交じった森づくりも進めます」。実際、今後15年の森林の維持・管理の方向性を決める全国森林計画案では、針葉樹と広葉樹の複層林化を進めるとは記載されています。しかし、放置人工林を天然林に戻していくという方向性は、打ち出されておらず、逆に、2035年には天然林は今よりさらに57万ヘクタール減る計画となっていると指摘されています。

 

 

国有林野管理経営法改正

日本の国土面積の7割は森林で、そのうち3割の758万ヘクタールを国有林が占め、国有林のなかで人工林だけは222万ヘクタールを占めていると試算されています。今回の改正は、伐採可能な人工林が対象です。

 

森林経営管理法が、民有林を対象としたことに対して、同法は全国の森林の約3割を占める国有林を対象にした森林管理に関する法律です。すでに、6月5日の投稿記事にあったように、同改正法は、国有林を、最長50年にわたって、大規模に伐採・販売する権利を、外資を含む民間業者に与えることを定めています。これは、いはゆる国有林の運営権を民間に売却するというコンセッションを定めたもので、同法は「国有林売却法」と揶揄されています。

 

趣旨

合板製造技術の飛躍的進歩などもあり、国産の安価な木材の需要は増えていると指摘されている中、安倍政権は、国有林を活用して原木の供給能力を拡大し、住宅などへの国産材利用を促して、林業の成長産業化を目指しています。

 

具体的内容

国有林を、最長50年にわたって、大規模に伐採・販売する権利(樹木採取権)を、公募入札によって、有償で独占的に、外資を含む民間業者に与えるられます。伐採期間は10~50年間(現状は数年)で、伐採面積は1カ所当たり数百ヘクタール(現状数ヘクタールから拡大)。

 

問題点と懸念

第一に、最長50年の伐採期間は世界的にも例がないことから、国民の共有財産である国有林が切り売りされる可能性があります。

 

第二に、国内の林業者の9割は小規模・零細で、大規模伐採を手掛けるのは難しいとされていることから、外資を含む大企業の参入のみ進む可能性が高いとされています。実際、森林の経営規模の拡大には巨額の投資が必要で、改正の意図するところは、外資を含む大手の参入促進にあるとの批判は根強くあります。そうすると、木材利用の目的も、木材の付加価値を高める加工品の生産という小規模な林業者のアプローチではなく、大企業や外資だと原木をバイオマス発電の燃料目的に大量に伐採されていくようなことになりかねません(勿論、発電利用目的が悪いというのではない)。

 

第三に、国有林にある木をすべて伐ってしまう「皆伐」が広がるのは確実とされ、しかも、木を伐った後の再造林は伐採業者に義務づけられておらず、罰則もありません。運営権が切れて業者が撤退したときに「ハゲ山」だけが残る懸念もあります。現状の数ヘクタール程度の再造林でも、苗木がシカに食われ、育たなくなった「ハゲ山」があちこちにあります。そうなると、再造林費用はすべて国民の負担になってしまいます。

 

経済優先でいいのか?

これらが、民間コンセッションの問題で、国有林のコンセッションは、発展途上国の森林ではよく見られますが、失敗も多いと指摘されています。例えば、国有林の伐採権を企業に与えたフィリピンでは、大規模なラワン材の切り出しが行われ、運営権の期限が切れたのちに、禿山が国に返されたという事例があります。

 

農林水産省は大規模伐採を解禁しても「最終的に国の責任で森林を再生する」と強調しているようですが、同省は、国有林で、どれほど再造林されているのかとか、再造林の失敗例がどれだけあるかなども把握できていないそうです。そもそも、林野庁は国有林事業の失敗で1兆円以上の負債を抱えているらしく、信頼をえているとは言えません。

 

今回の国有林野経営管理法改正案は、森林経営管理法と同様に、「伐る・植える・育てる」の循環によって経営が成り立つ林業のうち、「伐る」ことだけに重点が置かれています。国有林は水源の涵養や、二酸化炭素の吸収、生物の多様性確保、防災、景観維持など多面的な機能を果たしているとは、誰もが認めるところです。しかし、安倍首相は、「わが国の森林は、戦後植林されたものが本格的な利用期を迎えていますが、十分に利用されず」と述べるなど、「木を切って利用する」ということにしか関心がないように思います。

 

森林はバイオマスなど化石燃料に代わる巨大な国産エネルギー資源にもなり得るなど、国民共有の財産です。この「宝の山」が目先の利益で乱伐されれば、森林の持続可能性を保てなくなってしまいます。確かに、稼ぐ産業としての林業がないと地域は疲弊し、山も荒れっぱなしなのかもしれません。しかし、単に民間に委ねる式の経済優先の論理で扱うことには疑問を呈する向きが多くあります。森林の持続可能性を守ることこそが最優先されなければなりません。

 

国有林は水源の涵養(かんよう)や、二酸化炭素の吸収、生物の多様性確保、防災、景観維持など多面的な機能を果たしています。その機能を果たせなくなるような乱伐に対しての警戒感が強まっています。森林は、儲ける林業だけのものではなく、防災、生態系保全、地球温暖化、観光の面からも管理されなければなりませんが、それらについて、具体的な言及はなされていないと批判されています。森林経営は100年の計、目先の利益に踊らされない管理が求められます。

 

水、種子に続き森林が…

2012年の政権発足から(特に2018年来)、安倍政権は、農水産業への企業参入促進や、水道民営化など公共インフラの民間開放を拡大する法整備を相次いで進めています。今回の国有林もその一環です。

 

国有林の民間開放を提唱した国有林野管理経営法改正は、2018年5月、政府の成長戦略を検討する未来投資会議(議長・安倍晋三首相)で、民間議員の竹中平蔵東洋大教授が音頭をとって、国有林事業の運営権を民間業者に委託する「コンセッション方式」の導入を提案した模様です。竹中氏は、これまでの農水産業への企業参入促進や、水道民営化など公共インフラの民間開放だけでなく、雇用の流動性を可能にする労働法制の改革など様々な規制緩和政策を提唱してきました。ただ、竹中氏は、バイオマス発電事業を手がけるオリックスの社外取締役で、人材派遣大手のパソナ会長も務めていることから、利益誘導との批判が絶えません。

 

いずれにしても、コンセッションによる「民間開放」に問題解決を頼る発想は、種子や水にも適用され、主要農作物種子法の廃止や、改正漁業法などの形で実行されました。コンセッションされた後の推移を私たちは監視しなければなりませんね。

 

<参考>

国有林伐採の民間開放 かえって森を荒らす恐れ(2019年6月3日 毎日新聞)

国有林法改正案 「宝の山」を守れるか (2019年5月25日、東京新聞)

水道の次は国有林コンセッション。日本の森林はどうなる?(2019年2月27日、Yahoo!ニュース)

林野庁ホームページなど