<自然・地形>
◆ 面積:1712万5200km2(世界一位)
国土は東西約1万1000km,南北約4000kmで,西はバルト海から東は太平洋まで広がり(東ヨーロッパ,中央アジア,北アジアにまたがる),北は北極海を隔てて北米大陸に対する。国土面積、世界第1位の広大な国。
◆ 地形区分
ロシアは、エニセイ川を境に、1)西の平原,2)東の山地・高原地帯に大別される。
1)エニセイ川西部は、さらにウラル山脈により、➀東ヨーロッパ平原(ウラル山脈以西のヨーロッパ部分)と、②西シベリア低地(ウラル山脈の東方,エニセイ川まで)に分かれる。
➀東ヨーロッパ平原は,バルト海,カルパティア山脈,黒海,カフカス山脈,カスピ海によって画されで,ドニエプル川,ドン川,ボルガ川などが流れる。②西シベリア低地では,中央をオビ川が流れ,湿地が多い。ボルガ川では水運が発達している。
2)エニセイ川以東では、レナ川までの間が中央シベリア高地で,その南部をサヤン山脈,バイカル山脈,チェルスキー山脈,コリマ山脈,シホテ・アリン山脈などが山地を形成する。さらに、北東部とオホーツク海沿岸にも山脈,高原が連続する。最東部のカムチャツカ半島には火山が多い。
<国の概要>
◆ 人口:約1億4300万人(平均寿命−男65歳,女76歳)
◆ 首都:モスクワ(約1150万人)都市人口は全体の 74%
◆ 言語:ロシア語(公用語),ほかに各民族語。
◆ 人種
最大の民族はスラブ系のロシア人(80%)ですが,ウクライナ人(最大時2%),ベラルーシ人やトルコ系のウズベク人,タタール人(4%)、あるいはシベリアや極東の少数民族など,120以上の民族(主要民族は約 20)が住んでいる多民族国家です。
◆ 宗教
ロシアは、キリスト教正教会(ロシア正教会)の国で、国民の6〜7割が信仰している(他のキリスト教徒もいる)。ほかにイスラム(約8%),仏教なども信仰されている。
ただし、ロシアは少数民族を抱える多民族国家であることから、ロシア正教会は憲法上、国教とは位置づけられていないが、実質的に国教の地位を確保している。
ロシア正教会(モスクワ総主教庁)
創設者:モスクワ大公ヴァシーリー2世
独立教会の宣言: 1448年、独立教会の承認: 1589年
総主教庁所在地: モスクワ
首座主教: キリル
出身はプーチンと同じサンクトペテルブルクで、元KGB工作員、2009年2月に総主教に就任した。プーチンの精神的支柱とされ、「ルーシキー・ミール(ロシアの世界)」の考えを共有している。
概算信徒数: 9000万人
正教会系のキリスト教徒は全世界で2億6千万人で、そのうち、ロシア正教会は、約9000万人の信徒数を擁する世界最大の独立正教会組織である(ロシア国民の約7割が信仰する)。ただし2019年のウクライナ正教会の独立で、その数を減らした。それでも、その規模は信徒数で第2位の独立正教会組織であるルーマニア正教会(約1900万人)を大きく上回っている。
管轄地域は、ロシア、ベラルーシ、カザフスタンをはじめとしたソ連邦を構成していた諸国や、海外のロシア正教会系の教区(海外の管轄)(アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、中国)に及んでいる。
<政治>
◆ 憲法−1993年12月発効
ロシア憲法は、93年12月に発効。2008年、2014年、2020年に3回、憲法改正がなされた。改正点は、大統領の任期延長や大統領の権限強化を含む内容である。
◆ 政体:連邦共和国
1991年12月,ソ連邦の崩壊をうけて、ロシア共和国(ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国)は、憲法改正によって、新しい国名を「ロシア連邦」に変更した(「ロシア」も同等の国名とされた)。
連邦制国家としたのは、旧ソ連時代と同様、国内に設定された少数民族の自治共和国と連邦を組むという形をとったからで、少数民族について、その人口数などに応じて自治共和国、自治州、自治管区などが設定された、
ロシア連邦の下で、1993年12月の国民投票でロシア憲法が成立し、ロシア連邦は、89の連邦構成主体と呼ばれる地方行政体からなる連邦国家である。連邦構成主体としては、48の「州」、9の「地方」、3の「市」(連邦市)、24の「共和国」、1の「自治州」、4の「自治管区」がある。
ただし、このうち6つの連邦構成主体(ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国、ザポロージェ州、ヘルソン州、クリミア共和国、セヴァストポリ連邦市)はウクライナと帰属係争中である。ゆえに、厳密には、ロシア連邦は、州や共和国等83の構成主体からなる連邦国家である。
◆ 元首−大統領
プーチン(3期目2012.5〜)。
大統領は、議会(下院)を解散し、国民投票を公示でき,非常事態を導入しうる。また、首相、裁判官ならびに検事の任免権など強力な権限を有する。任期は、当初、4年で連続2期までであったが、憲法改正によって、6年に延長、任期の制限も撤廃された(「任期のリセット」、「任期をゼロに戻す」)。2024年に再選されたプーチンの場合、2036年まで可能となるが、実質的な「終身大統領制」である。
なお、首相は、メドベージェフ(2012.5〜2020.1)から、ミシュスティン(2020.1〜)に交代している。
大統領を支える機構として安全保障会議と大統領評議会が新設された。前者は最高政策決定に参画し、後者は学者中心の諮問機関である。
◆ 諜報
現在、ロシアの情報機関の代表的存在が、FSB(連邦保安庁)である。
(チェーカー⇒GPU⇒NKVD⇒KGB⇒FSB)
冷戦時代から、ソ連の諜報機関といえば、KGB(国家保安委員会)(1954. 3〜1991. 12)が知られていたが、エリツィンにより解体された。
KGBの始祖となる組織は、ロシア革命後の1917年にレーニンによって設立されたチェーカー(反革命・サボタージュ取締全ロシア非常委員会)である。チェーカーは、1922年にGPU(国家政治保安部)(ゲーペーウー)となり、1924年にOGPU(合同国家政治保安部)に改組された後、1934年にはNKVD(内務人民委員部)の一部門である秘密警察(非常委員会)となった。
NKVDは、ソ連の人民委員部(「省」に相当)の一つで、スターリン政権下で刑事警察、秘密警察、国境警察、諜報機関などを統括していた(諸外国の内務省に相当)。スターリン死後の1953年に廃止され、KGB(ソ連国家保安委員会)へ改組された。
そんなKGBも、ソ連邦崩壊と同時に、ロシア連邦保安庁(FSB)、ロシア対外情報庁、ロシア国境軍(旧国境警備・保護委員会)などに権限が分割された。このなかで、ロシア対外情報庁(SVR)は対外諜報活動を担う。
なお、海外での暗殺を実行する秘密組織として、FSBの特殊部隊「ヴィンペル」内の特殊班や、軍参謀本部情報総局(GRU)の工作部隊「29155部隊」が存在することが知られている。
◆ 軍事
「帝国復活」の願望を具体的に支えるのが強大な軍事力である。プーチンは、ソ連崩壊で疲弊したロシア軍の改革と近代化に取り組み、国力では遠く及ばないが、米国に次ぐ世界有数の軍事大国の地位を回復した。
核戦力の強化に努め、極超音速ミサイルなど最新兵器では米国を凌駕すると言われる(現時点でその技術的優位をもつとされる)。
◆ 外交
プーチンは2000年5月の大統領就任後、ロシアが、冷戦後の多極化する世界の1つの極になるという考えや、ロシアは旧ソビエト諸国の中で、支配的な立場にあるべきだという考えを受け継いだ、2012年の大統領職3期目以降は、「ルースキー・ミール(ロシアの世界)」の立場から、ロシアの復興、すなわち、その影響力をロシア帝国の版図まで戻すという考え方にもとづいて外交を行っている。その結果が、2014年のクリミア併合、2022年のウクライナ侵攻である。
◆ 議会:二院制
上院(連邦議会)
定員170。85の連邦構成自治体の首長と議会代表で構成される(首長が半数を任命,残りの半数は各議会による選出)。
下院(国家会議)
定員450。任期5年。国民による直接選挙で、定数の半分ずつを小選挙区制と比例代表制で選ぶ。,
◆ 政党制
ロシアでは、1990年に、ソ連時代のソビエト共産党一党制が放棄されてから,複数政党制が導入されているが、選挙から反体制派候補を排除するなどプーチン体制に有利な政治制度が構築されている。2003年以降は事実上、プーチン率いる与党「統一ロシア」の一党優位政党制となっている。「法の独裁」による統治を目指す強権的体質が内外から批判されている。
<経済>
領土や軍事力に比べてロシアの経済は国際的地位が低いものの、2024年のGDPは、フランスに次ぎ、世界第8位であった。ロシアは、鉱物およびエネルギー資源は世界最大の埋蔵量であり、世界最大の原油生産国および世界最大の天然ガス生産国の一つである。ただし、資源依存の経済体質であるため、エネルギー価格の変動の影響を受けやすい。
◆ 経済概況
エリツィンの時代
初代ロシア大統領、エリツィンは、欧米の力を借りながら、ロシアを社会主義経済から、アメリカの新自由主義による市場経済へ移行させようとしました。具体的には、アメリカのウォール街が主導する市場経済への移行プログラムを実行し、92年1月から価格自由化という「ショック療法」に踏み切ると同時に、金融財政改革をすすめ、国営産業の民営化を急速に実施しました。
しかし、中央銀行引き受けによる国債乱発と急激な価格自由化はハイパーインフレ(その年だけで2600%のインフレ)を招き、労働者の蓄えが消失、年金生活者を中心に民衆が大打撃を受けました。また、自由化にともない欧米から流入する製品によって、ロシアの産業は破壊されました。
結果として、エリツィンが実施した、政治の民主化と経済の市場主義システムへの変更は、ロシア国民をソ連時代の末期よりはるかにひどい貧困と飢餓に陥いりました
逆に、エリツィン改革は、新興財閥「オリガルヒ」を誕生させ、ロシア社会では経済格差が急拡大しました。急速な民営化により、ソ連の重要な事業が次々に、エリツィンと個人的に関係のある、オリガルヒと呼ばれる新興企業家(新興財閥)の手に落ちていきました。
加えて、市場経済への移行に伴う混乱で,利権をあさる「マフィア」集団がはびこった。「マフィア」はその後もロシアの経済社会の暗部として内外にさまざまな悪影響をもたらす存在となった。
この結果、税収不足は慢性化し、ロシアの国家財政は危機的な状況に陥った。ロシア政府は、巨額の財政赤字を解消するために,国債を乱発するしかなかった。
そうしたなか、98年8月には株価,債権,通貨ルーブルの3つがそろって下落するトリプル安に陥りました。政府は通貨ルーブルの切下げ (デノミ) と債務繰延べ(事実上のデフォルト(債務不履行))を発表し,世界経済を大混乱に陥れた。この「ロシア金融危機」と呼ばれた混乱によって、当時、急成長した米ヘッジファン「ロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)」が破綻し、世界同時株安を引き起こした。
プーチンの時代
2000年5月、大統領に就任したプーチンは、90年代にロシアを崩壊させた新興財閥オリガルヒの脱税を取り締まり、財政再建を進めた。
また、大統領就任から原油価格が上昇を続け、8年間のプーチン政権でロシア経済は、98年の危機を脱して大きく成長した。国内総生産(GDP)は6倍に増大し、貧困は半分以下に減った。
これにより、ロシア政府は2005年に国際通貨基金(IMF)からの債務、2006年にパリクラブ(主要債権国会議)からの債務を完済し、ロシア経済は安定して国際的な信用を取り戻した。
しかし、ロシアによる2014年のクリミア併合、2022年のウクライナ侵攻をうけて、欧米諸国は経済制裁を発動した。これによりロシアのエネルギー輸出や、海外からの投資が激減することが予想された。また、22年に、世界的な金融決済ネットワークシステムであるSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されたことも、ロシア経済に大きな打撃となることが予想された。それでも、ロシア経済は、対中貿易の増大や原油高などに支えられ、堅調を維持している。
なお、ロシアは世界第2位の暗号資産(マイニング)大国で、ブロックチェーン技術を使用した国際決済(BRICS PAY)を推進している。
ロシアは、欧米から経済制裁を受けてもやっていける数少ない国である。それは、広大な大地に膨大な資源を持っている国だからだ。
◆ 天然資源
ロシア人は世界の人口の2パーセントでありながら、ロシアは地球の陸地の15パーセントを占め、おもな天然資源の30パーセントを保有している。
ロシアの広大な国土では、石油、天然ガス、石炭などのエネルギー資源、鉄鉱石、金、銀、銅、ダイヤモンド、ニッケル、水銀、カリウム、アルミニウム、雲母,バナジウム,コバルト等の鉱物資源など、産業に必要な資源のほとんどが産出されている。
原油・天然ガス
ボルガ・ウラル油田,チュメニ油田,ヤクーツク天然ガス田,サハリン油田などが重要で,ロシアはサウジアラビアと並び世界最大の原油埋蔵量を持つ。
炭田
クズネツク炭田(クズバス)や、チェレンホーボなどシベリアの炭田が知られている。
鉱物
ウラルの鉄鉱をはじめ,銅・クロム・マンガン・ボーキサイト・ウラン・ニッケルなどを産し,レナ川流域の金、サハ(ヤクート)共和国のダイヤモンドも盛んである。
これらの天然資源を生かした鉱工業では石油,石炭,電力,鉄鋼,機械,自動車,紙,繊維の生産が多い。また長大な河川による水力発電も盛ん。
主要な工業地帯
中央工業地域(モスクワ,サンクト・ペテルブルクを中心)
ボルガ工業地域
ウラル工業地域(マグニトゴルスク,エカチェリンブルグ,チェリャビンスク)
クズネツク工業地域
アンガラ・バイカル工業地域(バイカル湖からアンガラ川の流域)
極東工業地域(ハバロフスク,ウラジオストク)
◆ 農業・漁業
一方、ロシアというと、極寒の地というイメージがあるが、肥沃な土地を持つ農業の国でもある。小麦や大麦などの穀物が生産され、アマ,サトウダイコン,ジャガイモなどの栽培,牧畜も盛んである。特に小麦の生産量は世界第3位であり、自国民の消費を十分に賄える。それどころか輸出量も世界トップ水準である。
また、魚介類などの水産資源も豊富で、森林が国土の半分を占めるため、木材資源も事欠かない
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