2022年05月19日

「無添加・不使用」の表示が消える!?

消費者庁は、2022年3月、「食品添加物表示制度(食品添加物の不使用表示に関するガイドライン)」の改正を発表しました。このガイドラインによって、食品添加物の表示ルールが変更し、新たな食品添加物表示制度が4月1日からスタートしています(適用されるのは今年4月以降の製造分から)。

 

主なルール変更は、商品包装の際、「人工」「合成」という用語の削除と、「無添加」や「不使用」と記載するルールの厳格化です。安心・安全な食品を口にしたいという消費者の利益はどうなるのでしょうか?

 

  • 「人工」「合成」という用語の削除

食品添加物について、「人工甘味料」「合成保存料」などで見られる「人工」や「合成」という用語の使用が禁止されました。

 

添加物を使用していない商品を選ぶ消費者の4人に1人が、「『合成』や『人工』の表示があると購入を避ける」と回答しているという調査結果もあるように、一定数の消費者は「人工」「合成」の用語に強い抵抗感を持っていることが明らかになっています。

 

添加物には、例えば、カレー粉に用いるウコンの色素のように天然由来もあれば、化学的に合成されたものもありますが、消費者は、当然、「天然」の方が「人工」「合成」よりも体に優しく、安全と考えます。しかし、「実際には優劣はない」と主張する消費者庁は、消費者が、「人工」「合成」の添加物よりも「天然」の添加物のほうが安全と「誤解」しているとして、これを正すために、今回の措置をとったのです。

 

実際は、2020年7月に、食品表示法の食品表示基準が、変更され、消費者庁は「人工甘味料」「合成保存料」などに見られる「人工」「合成」の用語を削除することを決定していました。ただし、すぐに実施されたのではなく、2022年3月末までを経過措置期間としていたので、期間が切れる今年の4月1日から全面的に禁止となったわけです。

 

 

◆「○○無添加・△△不使用」表示のルールの厳格化

商品を選ぶ際、商品包装に「無添加」と「〇〇不使用」の表示があるかを基準にしている人が多いと思いますが、消費者庁は、食品メーカーが今後、商品パッケージに「着色料不使用」など「○○不使用」の文言や、「無添加」の表記を自由に使用することを禁止しました。結果的に、無添加などの表示は大幅に減る懸念があります。

 

食品添加物には、保存料、甘味料、着色料など多数がありますが、食品表示法では、加工食品に保存料や着色料などの添加物を使った場合、使用したすべての添加物を商品のパッケージに明記することを義務づけています。逆に、添加物を使っていないことの表示(「無添加・不使用」表示)に関しては、これまで特にルールを定めず、「○○無添加」「○○不使用」と書くかどうかは食品会社に任せるなど、これについての規制は曖昧でした。

 

消費者庁は、「国が認めた添加物は安全」という前提に立っています。添加物の安全性についても、内閣府の食品安全委員会や厚生労働省が、さまざまな検査結果などを通じて慎重にチェックした上で、国が安全性を認めたものだけが使われ、「添加物を入れた食品も、添加物を使用しない食品と同じくらい安全」というのが国の見解です。さらに、食品添加物の使用量も、目的のための最低限にとどめ、健康に影響を及ぼすことがない量に定められているとしています。

 

これに対して、一部メーカーが、「無添加・不使用」を強調する表示によって、「無添加」や「不使用」を全面的に打ち出すことを、消費者庁は快く思うはずはありません。何より、無添加・不使用を強調表示する一部メーカーによって、消費者が「添加物を使わない(無添加)食品は安全で健康的」、反対に「添加物を使っている食品は危険」と考えてしまうことに懸念を示していました。実際、不使用表示のある商品を購入する理由として、「安全で体によさそうだから」と考える消費者が70%以上いることが調査結果などから明らかになっています。

 

多数の添加物を使用する大手食品メーカーからもこれまでに、他社の「○○不使用」という表記にクレームがつけられていたそうです。また、大手製パン会社は、「無添加・不使用」表示について、例えば、イーストフードや乳化剤と同じような物質を使用していながら、「イーストフード・乳化剤不使用」と表示するなど、「消費者を欺いている」と問題提起が行われていました。また、「不使用」と書いてあっても何が不使用かよく分からないケースもあるようです。もっとも、「無添加・不使用」表示をするメーカーすべてが「欺いている」わけではなく、その正確な実態が明らかにされたわけではありません。

 

いずれにしても、消費者庁は、食品添加物に対する(消費者庁から見れば)「誤認」をなくすために、あいまいで混乱していた表示を厳格化する今回のガイドライン策定に踏み切りました。ただし、新たな表示ルールが即実施されるわけではなく、パッケージの切り替えなど、食品会社がガイドラインに基づく表示の見直しをするのに2年程度の期間を設け、2024年3月までを経過措置期間としています。この経過措置期間が切れるまでは、従来の表示方法も可能となります。

 

 

新ルールの10類型

消費者庁は、新たな表示ルールに基づいて、食品表示法の禁止事項に該当する恐れがある表示を以下の10類型にまとめています。

 

  • 何が不使用なのか書かず、単に「無添加」と表示すること(今後は具体的に表示しなければならい)
  • 「人工甘味料不使用」や「化学調味料無添加」など食品表示基準に規定されていない用語を使用した表示
  • 清涼飲料水に「ソルビン酸」不使用と表示するなど、食品添加物の使用が法令で認められていない食品への表示
  • 「〇〇無添加」、「〇〇不使用」と表示しながら、同じ機能や似た機能を持つ他の食品添加物を使用している食品への表示
  • 「乳化作用を持つ原材料を高度に加工(無力化)して使用した食品に、乳化剤を使用していない旨を表示」するなど同一機能・類似機能を持つ原材料を使用した食品への表示
  • 「無添加だから体にいい」など、健康や安全と関連付ける表示
  • 「商品が変色する可能性の理由として着色料不使用を表示」するなど、健康、安全以外と関連付ける表示
  • ミネラルウォーターに「保存料不使用」と表示するなど、食品添加物の使用が予期されていない食品への表示
  • 原材料には保存料を使用しているのに、加工時に使わなかったことから「保存料不使用」と表示すること
  • 「無添加、不使用」の文字が過度に強調された表示

 

これらの表示ルールを守れば、「無添加、不使用」表示は可能ということですが、これは、かなり厳しいガイドラインと言え、実質的に一律禁止に近い規制強化になるとみられています。しかも、ガイドラインを守らなければ、食品表示法違反に問われ罰則を受けることから、今後、無添加・不使用表示は確実に減っていくことが予想されます。無添加のために努力してきた企業にとって、表示できないとなれば、無添加をやめてしまうことを十分考えられます。

 

消費者に向いていない消費者庁

今回の消費者庁の新ルールは、健康志向の高まる現代社会にあって、時代に逆行するガイドラインと言えます。そもそも、国が安全性を認めた添加物であれば、添加物を入れた食品は、添加物を使用しない食品と同じくらい安全という国の見解を全面的に信頼しているわけでなく、逆に消費者の食品添加物に対する嫌悪感や不信感は根深いものがあります。

 

国が認める食品添加物は、安全性が確認されているとの建前ですが、世界各国で添加物の危険性が続々と報告されており、鵜呑みにできません。例えば、健康目的で人気のゼロカロリー飲料には、甘さを出すため糖類に代えて人工甘味料が添加されています(人工甘味料は砂糖と比べて最大約4万倍の甘みを持つとされる)が、最近、人工甘味料の発がんリスクを指摘する調査結果が公表されています。

 

それによると、人工甘味料の「アスパルテーム」と「アセスルファムK」の摂取量が多いと、大腸がんと乳がんのリスク(フランスの国立保健医学研究所調査)だけでなく、糖尿病(米テキサス大学)や、うつ病、腎機能障害、脳卒中、心筋梗塞、血管系疾患などの発症リスク(米国立衛生研究所)を高めることがわかっています。

 

現代社会において、食品添加物は、加工食品の品質と安全性を安定させ、広域流通を可能にしているという意味で、私たちはその恩恵を受けていますが、食品添加物が入っているものと、入っていない自然なものを選べるとしたら、食品添加物が含まれない食品を選ぶのは、「自然の情」として当たり前のことで、「食品添加物が入っていない食品の方が健康によい」というのはイメージでも何でもなく、事実です。そういう意味でも、今回の消費者庁の決定は、消費者目線ではなく、国が認めた食品添加物入りの「安全な」食品を売っている大手の食品メーカーを保護することが目的ではないかと疑わざるをえません。

 

ただし、新ルールによって、食品表示そのものがなくなるわけではありません。パッケージの表側に表示されなくなっても、裏側の表示を読めば、何が使われ、何が使われていないかを正確に知ることができます。ですから、食品添加物の入っていない(できるだけ少ない)食品を選択する私たち消費者の声が大きくなって、消費者庁が消費者に向いた政策をとらざるを得なくなるような地道の消費行動を、私たちが続けるしかありません。

 

 

<補足> 食品添加物について

 

食品の容器包装には、「乳化剤」「甘味料」「着色料」などの文字が記載されていますが、これらが食品添加物で、上にあげたもの以外にも、保存料、増粘剤、酸化防止剤、発色剤、防かび剤、漂白剤、膨張剤、乳化剤、香料など多数あります。

 

これらの食品添加物は、食品の食感や風味、日持ちを良くするため、外観を改良するために使用される物質の総称で、国は現在829品目を認めています。例えば、保存料や酸化防止剤はカビの抑制や保存性を良くするために用いられていることはよく知られています。

 

食品添加物は第二次大戦前から使用されていましたが、種類と使用量が増えるのは戦後になってからでした。当初、人々が貧しく食料が欠乏していた頃は、危険な化学物質が乱用され、食中毒で大勢の人が死亡する事故がたくさん発生しました。そこで、政府は1948年に食品衛生法を制定し、食品添加物は61種類を最初に認可しました。認可された防腐剤や保存料、酸化防止剤、防カビ剤、殺菌剤、殺虫剤などを定められた基準量で用いることで、食品の腐敗や酸化を防ぎ、かつ品質を保つことができたことで、食中毒のリスクが低減されました。

 

しかし、やがて、食品添加物は、見た目をおいしそうに見せるために使われるなど商業目的に乱用されるようになってきました。例えば、たくあんは、オーラミン(黄色染料)で真っ黄色に、また緑茶やワカメは、マラカイトグリーン(青緑色染料)で染められました。これらの添加物は、食用には禁止されている紙・皮革・繊維用の有害色素で色づけたものでした。さらに、「食と農の工業化」が進んだ、高度経済成長期から70年代にかけては、農薬、化学肥料、食品添加物などの化学物質が大量に投与された、国民にさまざまな健康被害をもたらしました。

 

こうした経緯を受け、食品の安全性と消費者の権利を重視することが求められるようになった現在では、食品添加物はさまざまな検査を通し、国が安全性を認めたものだけが使われていますが、「食品添加物は危険で自然、天然は安心・安全」という考え方が社会に広く認められています。

 

 

(参照)

食品添加物表示制度の変更で「無添加」表記が不可に

(2022/5/11、マネーポストWEB)

食品添加物の「無添加」「不使用」表示、これからどうなる?

(2022/4/27、Yahoo News)

消費者庁が制度大改正 食品から「無添加」表示が激減する

(2022年3月14日、エコノミストOnline)

新たな食品表示ルール 4月1日スタート

(2022年3月31日 NetIB News)