帝国憲法52~54条:今も変わらない議員の特権

 

私たちが学校で教えられてきた「明治憲法(悪)・日本国憲法(善)」の固定観念に疑いの目を向ける「明治憲法への冤罪をほどく!」を連載でお届けしています。今回は、第3章「帝国議会」最後の議員の特権等についてです。ここでも、帝国憲法の規定はほぼ日本国憲法に踏襲されています。

 

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帝国憲法 第52条(両議院議員の発言・表決に関する免責特権)

両議院ノ議員ハ 議院ニ於テ発言シタル意見及表決ニ付 院外ニ於テ責ヲ負フコトナシ 但シ議員自ラ其ノ言論ヲ演説刊行筆記 又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ公布シタルトキハ 一般ノ法律ニ依リ処分セラルヘシ

両議院の議員は、議院において発言した意見や評決について院外で責任を問われることはない。ただし、議員自身が院外で言論を演説、刊行、筆記やその他の方法で公にした時は、一般の法律により処分される(=一般の法律が適用される)。

本条の内容は、原則日本国憲法でも採用され引き継がれています。

 

日本国憲法 第51条

両議院の議員は,議院で行った演説,討論又は表決について、院外で責任を問はれない。

 

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帝国憲法 第53条(議員の不逮捕特権)

両議院ノ議員ハ 現行犯罪又ハ内乱外患ニ関ル罪ヲ除ク外 会期中其ノ院ノ許諾ナクシテ逮捕セラルヽコトナシ

両議院の議員は、現行犯の罪又は内乱(ないらん)や外患(がいかん)に関する罪(内乱罪や外患罪)を除く以外は、会期中にその院の許諾なしに逮捕されることはない。

 

<既存の解釈>

不逮捕特権とは、警察・検察といった行政権力の恣意によって不当な逮捕が行われ、議員および議院の職務遂行が妨げられないようにするための保障です。

 

しかし、本条では、現行犯罪、内乱(国内での政府転覆を目的とする政府との抗争)や外患(外国と通牒して外国から圧迫や攻撃を受ける事態を引き起こすこと)の罪を犯した場合を例外とされたことで、政治的に悪用され、実際、共産党系議員らに対する意図的な逮捕が行われた。

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これに対して、不逮捕特権を定めた伊藤博文や井上毅の意図は何だったのでしょうか?

 

<善意の解釈>

帝国憲法の起草者らが不逮捕特権を規定した理由は、会期中、議員に立法という重要な職務を全うする事ができるような配慮がなされたからです。ただし、現行犯や内乱罪・外患罪は例外とされました(内乱罪と外患罪は現行犯でなくても、また議院の許可や特別な勅令がなくても逮捕が可能)。

 

確かに、共産党系議員らへ不法逮捕が行われるなど、当時政治的な悪用された事実があったことは否めませんが、その負の側面よりも、議員の正常な活動と議院の自立性を保障するという目的の方がより強調されるべきでしょう。実際、議員の不逮捕特権は日本国憲法で原則引き継がれましています。

 

日本国憲法 第50条

両議院の議員は,法律の定める場合を除いては,国会の会期中逮捕されず,会期前に逮捕された議員は,その議院の要求があれば,会期中これを釈放しなければならない。

 

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帝国憲法 第54条(閣僚らの議院出席・発言権)

国務大臣及政府委員ハ 何時タリトモ各議院ニ出席シ及発言スルコトヲ得

国務大臣および政府委員は、いつでも各議院に出席し、発言することができる。

 

<既存の解釈>

本条は、国務大臣や政府委員(内閣から任命された大臣の答弁などを補佐する行政職員、政府参考人)の出席発言権を定めているが、日本国憲法に規定している国務大臣の出席義務や発言義務についての規定は含まれていないので不十分である。

 

日本国憲法 第63条

内閣総理大臣その他の国務大臣は,両議院の一に議席を有すると有しないとにかかわはらず,何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又,答弁又は説明のため出席を求められたときは,出席しなければならない。

 

実際、明治憲法の起草者である伊藤博文もその解説書「憲法義解」の中で、「出席及び発言の権利は、政府の自由に任せ…時宜に適さないことによって討論・弁明を行わないことが出来る」として、議会からの出席要求があった場合の国務大臣の出席義務については否定的であった。

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こうした批判は、他の条文に対しても見られたように、当時の帝国憲法の規定を現代に当てはめて、不十分とする、帝国憲法への言われなき批判の典型といえます。

 

<善意の解釈>

確かに帝国憲法起草者の伊藤博文は、議会からの出席要求があった場合の国務大臣の出席義務については否定的であったかもしれませんが、その一方で本条について、「大臣や政府委員が、議会に赴き、その議事に当たって議場で弁明し、議員に、ひいては国民に対して自説を訴えることで、議論を尽くすのでなければ、立憲政治とは言えない」として、議会での発言が彼らの重要な任務であることを述べています。これは、当時でも、国務大臣の出席義務や発言義務について一定の理解はあったことを示唆しています。

 

それよりも重要なことは、議員の不逮捕特権という近代議会の原則的規定が、江戸幕府が倒れてから20年ほどしか経っていない時期に、帝国憲法でも採用されていたことではないでしょうか。

 

 

<参照>

帝国憲法の他の条文などについては以下のサイトから参照下さい。

⇒ 明治憲法への冤罪をほどく!

日本国憲法の条文ついては、以下のサイトから参照下さい。

⇒ 知られざる日本国憲法のなりたち

 

 

<参考>

明治憲法の思想(八木秀次、PHP新書)

帝国憲法の真実(倉山満、扶桑社新書)

憲法義解(伊藤博文、岩波文庫)

憲法(伊藤真、弘文社)

Wikipediaなど

 

(2022年11月5日)