日本の地方自治②:地方公共団体の機能と地方分権

 

日本の地方自治について、2回に分けて解説します。後半の今回は、前回学んだ、地方自治の本旨と地方自治の制度がどうように機能しているか、また、久しく提唱され続けている地方分権・地方創世の現状をみていきます(なお、前回の投稿記事についてはこちら  )。

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

<首長と議会>

 

日本の地方自治は、アメリカをモデルとして、執行機関である首長(自治体の長に対する呼称)と、議決機関である議会を2つの頂点とする二元代表制が採用され、住民が首長も議員も直接選挙で選出します。その性質は、大統領制と議院内閣制が混在している制度ということができます。

 

首長は、議会で通過した条例案に対して拒否権も持っている点では、大統領制の側面がある一方で、首長と議会の関係は、国政同様、議院内閣制的な仕組みが機能しています。

 

首長は議会から不信任の議決を受ける可能性がある反面、議会に対して解散権を保持していることに加えて、議会への議案提出権(拒否権)や、議会に出席して答弁する義務があります。

 

首長に対する不信任議決

議会の首長に対する不信任議決は、議員数の3分の2以上の出席で、出席議員の4分の3以上の賛成で成立します。その場合、①10日以内に議会を解散させなければ、②首長は失職します。

 

このうち、①の議会解散の場合は40日以内に議会選挙が行われますが、改めて召集された議会で、再び不信任が議決(議員数の3分の2以上が出席し、出席議員の過半数の同意)されれば、首長は失職します。

 

これに対して、②の失職の場合は、50日以内に首長選挙(任期4年)が行われ、前首長も立候補できます。

 

首長が自ら辞職する場合

一方、不信任議決とは無関係に、首長が自ら辞意を表明した場合、50日以内に首長選挙が実施され、辞職した首長も立候補できます。その際、改めて立候補した前首長が選挙(出直し選挙)で当選すれば、任期は辞職前の残りの期間、新しい首長が誕生すれば任期は4年となります。

 

 

<地方行政機関>

 

地方公共団体の執行機関としては、(1) 首長、(2) 長の補助機関、(3) 委員会、(4) 附属機関などがあり、首長の下、実際の地方行政は地方公務員が担っています。地方公務員は全体で約280万人、国家公務員の約60万人を大幅に上回っています。

 

(1) 首長

地方公共団体の長は、首長と呼ばれ、地方自治全般の責任者として、行政事務の管理・執行、議案の提出、予算案の提出・執行、財産の取得・管理・処分などの事務を行います。

 

(2) 長の*補助機関

首長を補助する機関として、都道府県には副知事、市町村には副市町村長が置かれます。公選ではなく(選挙によらず)、首長から任命されます。その定数は条例で定めますが、条例で置かないこととすることもできます。

 

2006年の地方自治法の改正で、市町村では助役が廃止、副市長が新設されました。都道府県の副知事とともに、権限が拡大され、副知事と副市長は、首長の事務権限の一部を委任されて政策や企画などを執行できるようになりました。

 

また、財務責任者である市町村の収入役、都道府県の出納長も廃止され、彼らは「一般職員」に格下げられ、首長が財務に関する責任も担うことになりました。ただし、財務会計事務における執行機関として会計事務をつかさどる会計管理者が1人置かれることとされ、長の補助機関である職員のうちから首長が任命します。

 

補助機関?

なお、補助機関とは、国同様、行政機関の職務を補助するために、日常的な事務を遂行する機関を言います。「機関」には、自治体の意思決定をしたり代表したりする組織だけでなく人も意味します。ここでは、副知事(副市長)から課長、一般職員(地方公務員)の多くが該当します。なお、首長も「機関」です。

 

(3)  地方行政委員会

行政の中立的な運営を確保するなどの理由から、政治的中立性や公平性が求められる分野や、慎重な手続きを必要とする特定の分野について、国の場合と同様に、行政委員会(数人の構成員からなる合議制の機関)等が設置されています。主な地方行政委員会は、以下のようなものがあげられます。

 

選挙管理委員会:選挙事務の管理

監査委員会:財務・経営の管理についての監査

人事委員会公平委員会:人事行政に関する事務処理

教育委員会:教育行政の管理

公安委員会:警察の管理

地方労働委員会:労働関係の改善(国には中央労働委員会がある)

 

また、地方自治体の場合は、都道府県に置かれる委員会、市町村にのみ置かれる委員会、都道府県・市町村両方に置かれる委員会に区分されます。

 

都道府県にのみ置かれるもの

公安委員会、地方労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会、内水面漁場管理委員会

 

市町村にのみ置かれるもの

農業委員会、固定資産評価審査委員会

 

都道府県・市町村両方に置かれるもの

教育委員会、選挙管理委員会、監査委員会、人事委員会・公平委員会

 

地方行政法人の特徴としては、国の場合と同様、規則制定権(準立法機能)を有するほか、審判、裁定等を行う権限(準司法機能)を有する委員会もあります。また、地方行政委員も、権限行使について首長から独立性を有し、自らの判断と責任において事務を執行することができ、その身分・地位も保障されています。

 

委員の任命に関しては、選挙管理委員は議会によって選出され、地方労働委員会は知事による任命、それ以外の行政委員会は、首長が議会の同意を得て任命します。

 

(4) 附属機関

普通地方公共団体は、執行機関の附属機関として、自治紛争処理委員、審査会、審議会(都市計画審議会など)、調査会、会議(都道府県防災会議など)を設置することができます。

 

附属機関は、執行機関からの要請によって、調停、審査、調査の実施や、諮問に対する意見陳述を行います。

 

 

<地方議会>

地方公共団体には、議決(議事)機関として議会が設置されています(憲法93条1項)。地方議会は、二院制ではなく一院制で、条例の制定・改廃、予算の議決、行政の監督(検査や調査)などを行う住民の代表機関です。

 

調査権

地方議会は、執行機関が行う自治体の事務について調査権を保持しています。中でも、地方自治法100条にもとづき、議決により設置される調査特別委員会である「百条委員会」は、地方自治体に疑惑や不正事件があった場合に、その事務に関する調査、特に通常の質疑応答や調査などでは事実関係が判明しない場合などに設置されます。

 

百条委員会は、関係者への聞き取りや記録の提出を請求、調査に必要な関係者の出頭・証言や記録の提出を求めることができ、これは、国会の国政調査権に相当します。調査を拒否した者には罰則が科せられることから、疑惑を引き起こした当該人物に圧力をかけるために設置されることもあります。

 

 

<条例>

 

条例とは、地方公共団体が地方自治権に基づいて自主的に制定する法のことで、憲法94条で、地方自治体は、「法律の範囲内で条例を制定できる」と条例制定権が認められています。

 

条例制定権は、「地方自治の本旨」の中の団体自治の表れであり、国会中心立法の原則の例外(「日本の国会」参照)でもあります。

 

条例は、次の3通りのパターンで制定されます。

➀地方議会の議員が、議会へ条例議案を提出し、議会が議決をする。

②首長が議会へ条例議案を提出し、議会が議決をする。

③住民の直接請求 (後述) をうけ、首長が議会に議案として提出し、議会が議決する。

 

ただし、条例は、地方公共団体の事務に関するものに限定され、司法や外交・防衛、貨幣・度量衡など国の事務について条例で定めることはできません。

 

また、地方公共団体は、以下のような場合、条例によって、住民の基本的人権を制約できると解されています。

 

条例による財産権の規制

憲法29条2項は、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める」としていますが、最高裁判例(奈良県ため池条例事件)では、「適法な財産権の行使として保障されていないものを制約する場合には、法律で制約する必要はない」とされ、「法律の委任」を必要とせず、条例で財産権を制約できると解されています。

 

条例による課税

憲法94条は、租税法律主義(課税するには法律が必要)をうたっていますが、ここでいう「法律」に条令も含まれると解されていることから、条例による課税は、租税法律主義に違反しません。

 

条例による罰則

憲法31条は、罪刑法定主義(犯罪とこれに対する刑罰は法律で規定)を規定し、また、73条6号は法律の委任なしに政令で罰則を設けることはできないと定めていますが、条例の場合は、法律の委任(授権)があれば刑罰を設けられます。

 

なお、「条例による罰則」の際の「法律の委任」の程度は、政令の場合と違って「個別具体的な委任までは不要」で、「相当程度に具体的であればよい」とされています。

 

 

<直接請求権>

 

地方自治には、住民の権利として、アメリカのタウンミーティングに由来するとされる直接請求権があります。直接請求権とは、住民が直接政治に参加(住民参加)できる権利で、「条例の制定・改廃(*イニシアティブ)」、「事務監査」、「議会の解散」、「首長・議員の解職」、「他の主要公務員の解職」(解職請求は総じて*リコールと呼ばれる)について請求することができます。

 

*イニシアティブ(住民発案、国民発案)

国民または住民が、法・条例の制定・改廃を求めること。

 

*リコール(解職請求権、国民解職)

国民または住民が公職にある者を任期終了前に罷免させる制度。

 

  • 条例の制定・改廃請求(イニシアティブ)

住民が、選挙権を有する者の50分の1以上の署名を集め、首長に対して、直接請求します。首長はこれを、20日以内に議会に議案として提出し、過半数の賛成で成立します(結果は公表)。

 

  • 事務監査請求

住民が、有権者数の50分の1以上の署名を集め、監査委員に対して、監査請求すると即実施されます(監査の結果は公表される)。

 

事務監査請求と似て非なる請求に住民監査請求があります。どちらも住民が監査委員に対し監査(評価・報告)を求めるものですが、住民監査請求の対象は、自治体の財務会計に関する行為に限定され、住民一人でも請求できます。これに対して、事務監査請求は、自治体の事務全般が対象で、請求には有権者数の50分の1以上の署名が必要となります。

 

  • 議会の解散請求(リコール)

住民が、有権者数の3分の1以上の署名を集め、選挙管理委員会に対して、解散請求すると、住民投票が実施され、過半数の同意で、議会は解散されます。

 

  • 首長・議員の解職請求(リコール)

住民が、有権者数の3分の1以上の署名を集め、選挙管理委員会に対して、解職請求すると、住民投票が実施され、過半数の同意で、首長・議員は解職されます。

 

  • 他の主要公務員の解職請求(リコール)

住民が、有権者数の3分の1以上の署名を集め、首長に対して、解職請求すると、議会の採択にかけられます。議会では、議員定数の233分の2以上が出席し、4分の3344b以上が賛成すれば解職されます。。

 

「他の主要公務員」とは、都道府県レベルでは副知事、市町村では副市長などのことを指し、その解職請求は、選挙管理委員会ではなく、任命した首長に対して行われます。

 

解職(解散)請求の場合の署名数の数え方

リコールの場合の必要署名数は、有権者の3分の1の連署によるとされていますが、有権者が40万を超え80万以下の場合は、40万の超える分の6分の1と40万の3分の1を足した数以上の署名が必要となります。

 

さらに、80万人を超える場合は、その超える分は8分の1を乗じた得た数が加わります。

 

たとえば、人口100万人であれば、33.1万(=100×1 /  3 )ではなく、22.5万の署名数が求められます。

(40×1 /  3 )+(40×1 /  6  )+(20×1 /  8  )  =22.5万

 

なお、直接請求権と次に解説する住民投票の制度は、「地方自治の本旨」の住民自治の具体的な表れです。

 

 

<住民投票>

 

住民投票(レファレンダム)は,特定の事項について、住民が投票により直接、意思表示することによって、直接政治に参加できる手段の1つです。住民投票以外にも国民投票(国民表決)をさすこともあり、日本では、憲法96条の憲法改正の際に実施されます。

 

住民投票には、地方自治特例法が制定されるときや、市町村合併に関して実施される際、重要施策是非が問われる際に行われるなど、その根拠法等により対応が異なります。

 

  • 条例に基づく住民投票

自治体と住民全体に直接利害関係がある重要な事項について、住民に対しその是非を問うために住民投票が行われます。この種の住民投票は、各自治体の条例や要綱に基づいて実施されるので、その手続きや効果などについて定めた住民投票に関する条例(住民投票条例)の制定が必要となります。

 

地域住民の意思を的確に行政に反映させる(住民自治の)観点から、近年、条例に基づいて各地で住民投票は積極的に行われています。ただし、この条例に基づく住民投票の結果に、法的拘束力はありませんが、住民の意思が明確にされるため、政治的な拘束力をもちます。

 

  • 直接請求権に基づく住民投票

地方自治法上、首長の解職、地方議会の議員の解職、市町村議会の解散の直接請求など、いわゆるリコールに関し、選挙権を有する者の3分の1以上の署名を得て,その地方公共団体の選挙管理委員会に対して請求が行われた場合、住民投票が行われます。その住民投票で過半数の同意があれば、当該首長や議員は解職となり、議会も解散しなければなりません。

 

  • 憲法に基づく住民投票

憲法95条で、1つの地方公共団体のみに適用される特別法を制定する際に、該当する地域でその是非を問う住民投票が行われます。その住民投票において過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができません。

 

  • 合併に関する住民投票

合併特例法(「市町村の合併の特例に関する法律」)に基づいて、住民が、市町村合併を求めて、住民発議(有権者の50分の1の署名)による合併協議会設置の直接請求ができます(住民発議制度)。

 

この直接請求に対して議会が否決した場合、首長が投票に付する旨の請求を行えば、住民投票が行われます。また首長が投票に付さない場合でも、有権者の6分の1の請求によって住民投票が実施されます。

 

  • 「大都市地域特別区設置法」に基づく住民投票

大都市地域特別区設置法(大都市地域における特別区の設置に関する法律)は、いわゆる大阪都構想を後押しする形で、2012年に制定された法律ですが、特別区の設置を望む当該自治体は、関係市町村の議会の承認を経た上で、住民投票を実施し、各市町村で有効投票の過半数の賛成を必要とします。

 

 

<地方分権の促進>

 

◆ 機関委任事務と国の管理

 

第二次世界大戦前、国の内政に関する各省の事務は、内務省が一元的に行っていました。そのため、府県は国の出先機関として国の事務を担い、道府県知事も地方公共団体の執行機関ではなく、国の機関でした。知事は、公選ではなく官選(任命)で、内務省から派遣されていました。

 

これに対して、市町村は地方公共団体と位置づけられ、市町村長のみが地方公共団体の執行機関であり、かつ国の下部機関として、機関委任事務を執行していました。

 

機関委任事務とは、国の行政庁が、知事や市町村長などの地方自治体の長に、権限を委任して、執行させる国の事務のことで、パスポート発行、外国人登録、戸籍、国立公園の管理、統計調査,河川の維持管理などの事務がこれに該当していました。

 

第二次世界大戦後、都道府県知事が国の機関でなくなると、戦前は市町村に対してのみ適用されていた機関委任事務が、戦後は都道府県レベルにまで拡大適用されるようになりました。このため、機関委任事務の数は、60年代以降、増大を続け、国と地方自治体の関係は、機関委任事務制度を通じて、上下関係が固定化されていきました。

 

 

機関委任事務以外の自治体の事務

もちろん、国から委任された機関委任事務以外にも、自治体独自の事務が以下のようにありました。

 

公共事務(固有事務)

地方公共団体が住民の福祉増進などのために行なう事務で、学校・病院・公園、図書館、火葬場など公の施設の設置管理や、電気、上下水道、バスなどの事業の経営が含まれました。

 

団体委任事務

国から地方公共団体に委任された事務で、失業対策や生活保護給付、都道府県警察を置くこと、小中学校を設置し管理することなど、自主的に処理できる地方公共団体の事務でした。(国から委任されているがあくまで自治体の事務)

 

行政事務

その区域内における権力的事務で、集会や集団示威運動の取り締まりなど警察的取締り規制事務がその代表です。ほかにも、青少年保護条例、放置自転車条例、飼犬条例なども含まれました。

 

 

◆ 地方分権一括法と法定受託事務

 

90年代以降、政府は、地方分権の推進を明治維新・戦後改革に次ぐ「第三の改革」と位置づけ、地方に任せられることは任せてしまおうと「国から地方へ」と地方分権改革の旗を振っている。

 

地方分権への大きな成果の1つが、1997年7月の地方分権一括法の制定(施行00年4月)です。このとき、機関委任事務制度が廃止され、地方公共団体で処理される事務はすべて自治事務(55%)と法定受託事務(45%)に再編成されました(一部は、国の直接執行事務に改められた)。

 

自治事務は、「地域における事務」で、都市計画の決定、病院・薬局の開設許可、飲食店営業の許可、介護保険事務など自治体の裁量に任される事務のことです。法令上は「法定受託事務以外の事務」と規定されていますが、かつての公共事務、団体委任事務、行政事務が新規定の「自治事務」に収斂された形です。

 

法定受託事務は、国が利害・関心をもち、国が特に法令(法律、命令、指令など)で定める事務のことで、戸籍事務、国政選挙、旅券の交付、国道管理、国の指定統計、生活保護、廃棄物処理に関する事務など全国統一の事務が必要なものです。

 

ただし、これらの多くはかつての機関委任事務と同じですが、事務の内容はほぼ変わらなくても、機関委任事務が国の事務で、国の大臣が指揮監督権を有していたのに対して、法定受託事務は、「自治体の事務」と位置づけられているため、各自治体の責任で実施されるという違いがあります。

 

なお、法定受託事務は、厳密に言えば、本来は国の事務で道府県・市町村等へ委託される第一号法定受託事務(ここまで説明してきた法定受託事務は、第一号の事務のこと)と、本来は都道府県の事務で、都道府県から市町村へ委託される第二号法定受託事務からなります。後者は、たとえば、都道府県議会選挙・知事選挙に関し、市町村が処理することとされている事務などが該当します。

 

 

◆ 国と地方との関係

 

地方分権一括法によって、これまで上下関係であった国と地方との関係が「対等」になりました。国は、法令で定める以外に地方自治に対して関与してはならず、国は、助言および是正の勧告、協議や資料の提出の要求などの関与に限定されました。

さらに、地方自治体が、国の関与のうち是正の要求、許可の拒否その他の処分について、不服のある場合、国地方係争処理委員会に審査を申し出ることもできます。審査によって、国の関与が違法等であると認められた場合、同委員会は、国の行政庁に対して必要な措置を行う旨の勧告等を行います。

 

国地方紛争処理委員会とは、地方公共団体に対する国の関与について国と地方公共団体間の争いを処理することを目的に、総務省に置かれる合議制の第三者機関(審議会)で、地方自治法に基づいて設置されました。同委員会が扱うのは、第1号法定受託事務に係る争いのみで、第2号法定受託事務について争いが生じた場合は、自治紛争処理委員がこれに裁定を下します。

 

自治紛争処理委員は、地方公共団体におかれる附属機関で、地方公共団体相互の争い等を処理する第三者機関(有識者の集まり)です。地方自治法の規定により設置され、総務大臣または都道府県知事が事件ごとに3人の委員を任命します。

 

 

<市町村合併>

 

◆ 平成の大合併

 

市町村合併は、財政状況の悪化により市町村の数を減らすことで行政の効率化を図り、地方自治体の行財政基盤の強化、住民サービスの多様化、広域化する生活圏へ対応することが目的に推進されました。

 

いわゆる「平成の大合併」は、「市町村合併特例法(市町村の合併の特例に関する法律)(99年3月〜05年3月)により、自主的な市町村合併が積極的に推進され、05年3月末までに合併した場合の財政優遇措置や、「市」となるべき要件の特例(3万市特例)などが規定されました。

 

財政優遇措置

財政優遇措置には、地方交付税交付金の優遇受給(合併後10年間は合併前の合計額が保障)、合併した自治体だけは特別に地方債(合併特例債)を発行できる、などが含まれていました。

 

「市」となるべき要件(3万市特例)

市制施行の人口要件は、それまで5万人以上でしたが、合併時に限り要件を3万人以上に緩和されました。特例は2010年に廃止され、人口要件も5万人以上に戻りましたが、市の人口が3万人を切っても町や村にはなりません。

 

また、同法では、住民発議制度が導入され、有権者の50分の1以上の署名があれば、合併協議会の設置を市町村長に対して請求できることになりました。

 

この結果、市町村合併が加速し、1999年3月末時点で3232あった市町村が、合併特例法の期限(05年3月で失効)までに1807に再編されました。その後、新合併特例法(合併新法)が05年4月に施行され、旧法で認められていた財政優遇措置は廃止されましたが、市町村に合併を促す勧告権は都道府県知事に与えられ、有権者の署名請求も継続されています。

 

こうして、「平成の大合併」は、合併新法の期限である2010年3月で事実上終了し、市町村の数は1727に減少しました。現在では、市町村の自発的な合併を支援する体制がとられています(合併新法そのものは、改正されながら存続)。

 

なお、平成の大合併以前にも、明治時代と昭和時代に市町村合併が実施されました。

 

明治の大合併

明治20年代初め、7万以上あった市町村が、1888年に約1万4千に再編。

 

昭和の大合併

昭和20年代初め、市町村の数は、1万弱(1930年代)から約3千(60年代)に再編。

 

 

<道州制>

 

広域行政によって、中央集権型社会を転換させ、地方分権や行財政の効率化を進めるという政策は、市町村レベルから都道府県レベルに拡大され、道州制の議論が一時、高まりました。

 

道州制とは、現在の「都道府県」という制度を廃止し、複数の都道府県を包括する広域の行政単位(「道」「州」)を創設することで、全国を7~10の広域の行政区画に再編し、「道」「州」に国の事務を委ねようとするものです。

 

道州制が実現すれば、国の仕事は外交や安全保障などに限定され、道州がそれぞれ税金を集め、圏域内の産業廃棄物処理や医療・福祉サービスの基準づくりや道路整備などを担うようになります。

 

2006年には、道州制特区推進法が成立し、3つ以上の都府県で構成される「特定広域団体」を道州制導入へ向けた特区として認定し、国からの権限移譲が進められることになりました。

 

同法にもとづいて、北海道道州制特区が実験的に設定されました。北海道は、地理的特性から都道府県合併なしに単独で「道(州)」になりうるため、将来の道州制の先行モデルとして注目されています。実際、北海道は単独で特定広域団体に認定され、2級河川、砂防事業の一部、開発道路、商工会議所の監督など8項目の国の権限を北海道に移すことなどが想定されています。現在、国が建設する高規格幹線道路との一体的な道路網整備などが進められ、国は、北海道開発に関わる直轄事業4件を北海道へ移譲しました(21年1月の段階)

 

 

(関連投稿)

日本の地方自治①:「民主主義の学校」の理念と制度

 

(参照)

本稿は、拙著「『なぜ?』がわかる政治・経済」で取り上げた内容を、加筆・修正して、まとめたものです。

 

(投稿日:2025.5.13)

むらおの歴史情報サイト「レムリア」