日本の地方自治について、2回に分けて解説します。前半の今回は、「地方公共団体(地方自治体)って何か?」を、その理念(地方自治の本旨)と、制度を通じて考えていきます。
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<地方自治の本旨>
イギリスの政治学者ブライスは、*地方自治を「民主主義の学校」と言いました。これは、住民が、身近な地域の政治に直接参加して、政治的素養を身につけることで、民主政治の担い手になることができるという意味です。地方自治が民主主義の実践の場(=学校のようなもの)であると考えられたのです。
*地方自治
住民が地域社会の政治を一定の範囲で自ら行うことができる制度のこと
明治憲法下では、そうした地方自治に対して何も規定を設けず、憲法上の保障はありませんでしたが、現行憲法では一章を設けて地方自治を保障しています。少し難しい内容ですが、ここに言う憲法上の保障の性質は、地方自治という歴史的、伝統的な公法上の制度の保障であるとし、これを憲法学上「制度的保障」と言います。
このような地方自治の概念を形成する基本原則が、団体自治と住民自治で、これを地方自治の本旨と言います。
住民自治とは、地方公共団体が住民の意思にもとづいて自治を行うこと、地方の問題は住民自身が自主的に解決することで、民主主義の要素を持ちます。具体的には、直接選挙による首長の選出、住民投票、直接請求権の制度がこれに該当します。
団体自治とは、地方公共団体が国から独立して地方政治を行うことです。条例制定権など、国に地方政治への干渉をさせず、自治体が独自の責任で自治を行うという点で、団体自治は自由主義の側面を備えています。
では、こうした理念としての地方自治の本旨をうけて、日本の地方自治の制度がどうなっているのか見てていきましょう。
<行政区分>
この地方自治の本旨を受けて定められた地方自治法によれば、地方公共団体は、普通地方公共団体と特別地方公共団体に大別されます。
◆ 普通地方公共団体
普通地方公共団体とは、都道府県と市町村をさし、地方自治制度上、両者の関係は対等です。都道府県は市町村を包括する「広域の地方公共団体」、市町村は「基礎的な地方公共団体」とそれぞれ位置づけられ、都道府県(都、道、府、県)を基盤とし、その下に市、区、町、村が位置しています。
都道府県
府県の設置は、1871年の廃藩置県のときで、全ての藩が政府直轄となり、3府302県が誕生しました。3府は、東京(首都)、大阪(商都)、京都(御所)の3都市で、明治政府にとって重要な場所として区別されました。その後、統合・再編が進められ、1888年頃までに、はやくも、今の47都道府県 体制の骨格ができあがりました。
都は1943年、道は1947年にそれぞれ誕生し、現在、都道府県は、1都(東京都)、1道(北海道)、2府(大阪府、京都府)、43県で構成され、以下の事務を担っています。
➀広域にわたるもの
②市町村に関する連絡調整に関するもの
③その規模または性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるもの。
市町村
市になるための要件は、➀人口5万人以上 (合併市町村については3万人)、② 中心市街地にある戸数が全戸数の6割以上であること、③ 商工業など都市的業態に従事する者とその同一世帯者の数が全人口の6割以上を占めることなどです。
町の要件は、都道府県の条例で定める町としての要件(人口・市街地・商工業従事者要件など)を備えていることと規定されています。例えば、東京都は1万人、神奈川県、京都府は5千人、長崎県は4千人です。
村となるための法的要件はなく、市や町の要件を満たさなければ、村と位置づけられています。なお、郡は「町・村」より大きい、単なる行政区画(地理上の区画)のことで、地方公共団体には当たりません。
なお、戦前は、「郡制」によって、町や村を含む地方自治体として認められていましたが、1923年に郡制が廃止されてから、「群」は自治体ではなく、行政区画を指す用語となりました。一般に、市制が施行されているところには属しません(○○市○○郡という住所はなく、〇○県〇○市か、○○県〇○郡となる)。
東京都
1868年、江戸城開城後に設置された江戸府は、同年、東京府に改称され、1898年には東京市が発足しました。第二次世界大戦前まで、首都東京は、この東京府と東京市の併置制がとられ、首都の中心地域は東京市(現在の23区に相当)、それ以外の地域は東京府とされていました。
その後、大戦中の1943年には、戦時体制下にあって、首都機能を強化するために東京市が廃止され、東京府との合併(形式的には東京府が東京市を吸収合併)によって東京都が誕生しました。
都は、広域自治体と「市」の機能を併せ持ち、通常は市町村が担う上下水道や消防、交通、病院などの業務も担当しています(00年、ごみ収集などの事務は区に移管された)。このため、都知事は、消防隊の派遣など、一部「市長」の役割も兼ねています。
また、財政に関しては、都区財政調整制度が採用されています。この制度は、都と特別区の事務の処理や財政調整などについて、都と特別区が、相互の連絡調整を図るために都区協議会を設置し、意見を交換し合うというものです。
これにより、一般の道府県では「市町村税」とされている固定資産税や法人住民税などの税金の一部が、東京都下では「都税」として都によって徴収され、都区の協議により、都区間及び特別区間の財
政調整が行われています(具体的には、45%を都がとり、55%を各区の財政力に応じて配分している)。
北海道
明治政府は、1869年、江戸幕府の支配が及んでいなかった旧・蝦夷地の開拓を目指し、省と同格の中央官庁として「北海道開拓使」を創設しました。1882年、その北海道開拓使は廃止され、函館県・札幌県・根室県の3県が置かれましたが、1886年には、3県も廃止され、北海道庁が設置されました。その後、1947年、地方自治法により、自治体としての「北海道」が誕生し、現在に至っています。
◆ 特別地方公共団体
特別地方公共団体とは、特定の目的のために設置されるもので、特別区(東京23区)、組合、財産区が該当します。
(1) 特別区
特別区 (東京23区) は、基礎的な地方公共団体に位置づけられ、原則として市町村が処理するものとされる事務を処理します。しかし、特別区は、市と同格であるものの、前述したように、事務処理の権限や財政面で、都との関係で制約があります。
特別区の首長(区長)は、1952~74年にかけて、区議会が都知事の同意を得て選任していました。しかし、いったん廃止された区長公選制は、住民運動により、75年以降復活し、現在、特別区の区長は、任命制から(選挙で選ばれる)公選制に移行しました。
区長任命制は合憲
憲法93条には「地方公共団体の長は…住民が直接、これを選挙する」と定められていますが、特別区の首長を公選以外の方法で選出することは違憲ではないとされています。
大阪都構想
大阪都構想とは、後述する政令指定都市(大阪市)と府(大阪府)との二重行政を廃するために、現在の大阪市を解体廃止し、東京23区のような「特別区」に再編するという構想です。当時大阪府知事だった橋下徹ら大阪維新の会が、2010年、大阪市のみならず堺市ほかの大阪市周辺9市をも対象として構想されました(後に構想は縮小)。
2012年8月には、大都市地域特別区設置法が成立し、10政令指定都市で、隣接地域と合わせた総人口200万人以上の地域で特別区を設置できるようになりました(これで、大阪都構想実現に向けて、法整備がなされた)。ただし、同法では、議会の承認、住民投票など多くの手続きが求められ、大阪では議会承認後、大阪都構想の是非を問う住民投票が2015年と20年に実施されました。15年は大阪市のみを廃止する5区再編案、20年は4区案を掲げての住民投票でしたが、それぞれ否決されました。
なお、仮に住民投票で可決されても(大阪市が廃止され、特別区が設置されても)、大阪府は大阪都となれず名称は「大阪府」のままでした。というのも、大都市地域特別区設置法には、特別区が設置された道府県を「都とみなす」という規定はありますが、府の名称を都に変えることができる(都と命名する)規定がないためです。大阪府が「大阪都」になるには、別途、国会での法改正が必要となります。
(2) 財産区
財産区とは、市町村および特別区が、山林、温泉、原野,牧野、土地などの「財産」や、用水施設、公会堂、公民館、墓地などの「公の施設」を有している場合に,その管理,処分、廃止についてだけを行うために設置される、法人格を持った団体のことです。実際、今ある財産区のなかで、山林を財産として有する財産区が最も多い存在します。
財産区は、一般的な行政権限を持たず、原則として、執行機関や議決機関のような独自の機関は置かれないため、財産区のある市町村または特別区の長と議会がその執行と議決を行っています。
(3) 組合
組合とは、複数の自治体が共同で事務を処理するために設置する団体のことで、現在では一部事務組合と広域連合があります。
一部事務組合
一部事務組合とは、隣接する小規模な市町村・特別区が事務の一部を共同で処理するために設置される団体で、消防、し尿、ゴミ処理、火葬場、上下水道等の運営や、小・中学校・高等学校・大学、なかには、港湾管理や、公営競技(地方競馬・競輪・競艇)を主催するために一部事務組合を設置する事例もあります。
一部事務組合は、執行機関として管理者が置かれるとともに、議決機関としての議会も設けられます。ただし、その「議員」は、住民による直接公選制ではなく、組合を構成する各自治体の長および議員によって選出されます。
現在、全国には1410の一部事務組合があります。北海道の釧路公立大学は、日本で初めて一部事務組合(釧路市や北海道厚岸町など1市8町1村が結成した「釧路公立大学事務組合」)によって創設された大学として知られています。
広域連合
広域連合は、複数の地方公共団体が、広域にわたり処理する方が適当な事務を共同処理するために設置する組合の一種です。1994年の地方自治法改正により新たな制度として導入されました(翌年の6月から開始)。
共同処理する事務は、消防、上下水道、ゴミ処理、福祉、学校、公営競技の運営など一部事務組合と同じですが、①同一の事務を共同処理する一部事務組合に対して、広域連合は、異なる事務を持ち寄るなど多角的な事務処理を行う場合や、②同一事務でも、小規模な市町村が実施する一部事務組合に対して、広域連合は、大規模な市や県が実施します。
例えば、08年から始まった後期高齢者医療制度は、都道府県単位の広域連合が保険者となって運営されています。また、2010年12月には、都道府県で構成される広域連合としては初めて、近畿を中心とした2府5県による*関西広域連合が設置されました。産業振興、観光・文化振興、防災、医療、環境保全、資格試験・免許、職員研修の7分野について共同で事務処理を行っています。
また、広域連合には選挙管理委員会が置かれるなど、より強い権限が与えられます。とりわけ、都道府県が加入する広域連合の場合、一部事務組合と異なり、国や都道府県に対して権限や事務を委任するように要請することができます。
広域連合設置の際には、都道府県の加入するものや、数都道府県にわたる広域連合は総務大臣に、その他の広域連合は都道府県知事に許可を申請します。2023年4月現在での広域連合設置数は117団体と、期待したほど設置されていません。
*現在の関西広域連合の状況
当初、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、和歌山県、鳥取県、徳島県の2府5県で始まり、2012年以降、域内の政令指定都市(京都市、大阪市、神戸市、堺市)、2015年には奈良県が参加しています。三重県と福井県はオブザーバー参加。
広域市町村圏
行政区分ではありませんが、さらに一部事務組合や広域連合などがその主な担い手となりながら、広域市町村圏が形成されています。広域市町村圏は、圏域人口が概ね10万人以上を目安として、隣接する複数の市町村で生活圏を設定し(大都市圏を除く)、各種施設を共同で設立・運営といった事業を協力して行うものです。1969年5月の新全国総合開発計画(全総)において、自治省(現総務省)が打ち出し、全国に広がりました。現在では、全市町村の95%以上がなんらかの広域行政圏に属しています。
大都市周辺地域広域行政圏
また、1978年から、大都市周辺地域広域行政圏も設定されています。これは、広域市町村圏とは別に、大都市と一体性を有する地域で、圏域人口が概ね40万人程度の規模である等の要件を満たした圏域のことをいいます。
<大都市制度>
地方自治法では、「大都市等に関する特例」として指定都市、中核市、施行時特例市の大都市制度が定められています。
◆ 政令指定都市
政令指定都市(指定都市、政令市)は、人口50万人以上(運用上は当初100万人以上が目安とされた)で、国から政令で指定された都市をいいます。
政令市に指定されると、都道府県の事務のうち、児童福祉(児童相談所の設置)、生活保護、老人福祉、食品衛生、都市計画、小中学校の教職員の任命などの行政分野の大半の事務が移譲されるなど、行政や財政上の様々な特例が設けられます。規模の大きな都市ほど移譲される権限が多くなるという仕組みになっています。
指定都市は、条例により、区域を分けて区を設け、それぞれの区に区役所を設置し、区長をおくことが義務づけられています。区長は公選ではなく、当該指定都市の職員をもって当てられます。また、区には選挙管理委員会を設置しなければなりません。
政令指定都市制度は、1956年の地方自治法改正で導入され、最初の政令指定都市となったのは、大阪市、名古屋市、京都市、横浜市、神戸市の5大市でした。その後、北九州市、札幌市、川崎市、福岡市、広島市、仙台市、千葉市、さいたま市が指定都市となりました。
また、政府は、平成の大合併に際し、2010年3月までに市町村合併を行った自治体には、期間限定で、政令市の運用上の人口要件を100万人から「70万人超に緩和しました(平成の大合併終了後も、運用上の人口要件は「70万人程度」とされている)。
これらの適用を受けて、2005年に静岡市、06年に堺市、07年に浜松市と新潟市、09年に岡山市、2010年に相模原市、12年熊本市が政令指定都市に移行し、現在、政令市は20都市です。
政令都市制度の由来
1947年に創設された特別市制度を前身とします。この制度では、人口50万人以上の大都市を特別市として指定し、これを道府県の区域外に置き、道府県と同格とされました。
しかし、府県並みの権限を求める5大市と、これに反発する府県側の対立が厳しく、結局、特別市制度は適用されず、1956年に廃止されましたが、代わって設けられたのが、指定都市制度でした。府県が5大市に移譲する事務を限定する代わりに、大都市に対する府県の監督権を緩和する形で折り合い、現在に至っています。
◆ 中核市と特例市
中核市は、95年の地方自治法の改正で設置された、人口30万人以上、面積100平方キロメートル以上を有する都市のことをいいました(面積要件は06年6月に撤廃)。申請に基づき政令による指定を受けて中核市になれば、政令指定都市に準じて、都道府県の事務の一部、主に福祉分野の事務が移譲されます。
一方、特例市とは、人口20万人以上で、申請に基づき政令による指定を受けた市のことをいい、政令市、中核市に準じて、騒音規制、市街地再開発、土地区画整理事業などに係る権限などを道府県から与えられました。
しかし、地方自治法の改正で、2015年4月から、特例市制度が廃止されるとともに、中核市の人口要件が「20万人以上」に緩和され、中核市と特例市が事実上統合されました。なお、廃止時に特例市だった市のうち中核市等に移行しなかった市は、施行時特例市と呼ばれ、従来の特例市の事務権限を引き続き保持できるという経過措置がとられています。
現在、奈良市、長崎市など62市が中核市に、また、つくば市、佐賀市市など23市が施行時特例市にそれぞれ指定されています。
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<参照>
本稿は、拙著「『なぜ?』がわかる政治・経済」で取り上げた内容を、加筆・修正して、まとめたものです。
(投稿日:2025.5.13)