日本の内閣と行政④:委員会と審議会

 

「日本の内閣と行政」について、シリーズで解説しています。前回は、日本の内閣(行政機関)の組織の中から、とくに内閣官房と内閣府をとりあげましたが、今回は、府・省の外局の一つである委員会と、府・省・庁の附属機関の一つである審議会を詳しく説明します。

 

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<委員会>

 

委員会(行政委員会または独立行政委員会ともいう)は、通常、複数の委員によって構成される合議制の機関で、もともとアメリカにおいて発達していました。第二次大戦後、連合国軍総司令部GHQの方針を受けて、アメリカの独立規制委員会を模範として日本にも導入されました。

 

◆ 行政委員会の特徴

 

各行政委員会は、原則、一般の行政機関(府・省)の所管下に置かれていますが、特殊な業務や専門性の高い業務を行う際に、それぞれ本省の所掌事務から分掌させる形で設置されました。府省から人事の統制には服すものの、高度に独立して運営され、中立の立場で業務をこなします。

 

行政委員会の中には、公正取引委員会や人事院のように、行政権を行使する行政的権限のみならず、準立法(規則制定権)・準司法(事件の審判・審決)機能を持つ委員会もあります。

 

なお、行政委員会は、国の機関だけでなく、選挙管理委員会、教育委員会など地方公共団体にも設置されています。

 

 

◆ 行政委員会の人事

 

行政委員会の委員長と委員は、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命すします。ただし、人事院の人事官は、両議院の同意を得て、内閣が任命します。また、各省の庁・委員会に勤務する国家公務員(外局職員)の任命権は、法律に特段の定めのある場合を除き、外局の長(長官・委員長)にあります。

 

行政委員会の委員も、任務の遂行に当たり、府省の大臣の指揮監督を受けず、自立的に職務を行います。またそのために身分保障され、任期の間は任命権者と意見が異なるのを理由に罷免されません。加えて、委員会の長たる委員長は、国家公安委員会の委員長を除き、原則として、国務大臣が充てられることはなく、外部の有識者が充てられるのが通例となっています。

 

 

◆ 具体的な行政委員会

 

各省に設置されている行政委員会は以下の通りで、これらは、国家行政組織法3条に規定されているので、「3条委員会」とも称されます。

 

公害等調整委員会(総務省)          公安審査委員会(法務省)

中央労働委員会(厚労省)         運輸安全委員会(国土交通省)

原子力規制委員会(環境省)

 

原子力規制委員会

環境省の外局で、経済産業省の安全規制部門(「原子力安全・保安院」)や、内閣府の原子力安全委員会など、各関係行政機関が担っていた規制機能を一元化する形で、2012年9月に設置された。事務局として原子力規制庁を置く。同委員会は、委員長及び委員4人をもって組織される。

 

また、内閣府の行政委員会は、内閣府設置法を根拠とし、国家公安委員会公正取引委員会個人情報保護委員会カジノ管理委員会の4委員会があります。

 

国家公安委員会

国家警察の最高管理機関で、警察行政を担う合議制の行政委員会です。各都道府県の警察を管理し、警察組織そのものを運営します。トップの国家公安委員会委員長は国務大臣として位置づけられています。警察庁は国家公安委員会傘下の「特別の機関」です。国家公安委員会は、組織上、内閣総理大臣所管の下に置かれ、委員長と5人の委員の計6名から構成されています。

 

公正取引委員会

独占禁止法を運用し、排除勧告を出したり、罰則や罰金を課したりできるなど、準立法、準司法機能を持つ、独立性に高い行政委員会です。委員長および委員(4人)は、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命します。

 

加えて、国家公務員法3条に基づいて設置されている人事院も行政委員会に含まれます。

 

人事院

公務員制度を公正かつ能率的に運用するために設置された、合議制の中央人事行政機関で、一般職国家公務員の給与等の勤務条件など主に国家公務員の人事を管理しています。とりわけ、労働基本権を制限されている国家公務員に代わって、民間の給与水準を考慮しながら給与勧告等を行うこと(人事院勧告)で知られています。

 

また、人事院は、行政機関でありながら、準立法・準司法的機能を持っています。準立法機能として、人事院は人事院規則を制定でき、また、準司法機能として、国家公務員に対する不利益処分の審査と勤務条件に関する措置要求の判定をします。

 

行政委員会である人事院は、内閣に属していますが(組織上は「内閣の所轄の下に置かれる機関」)、内閣の下にある行政機関の中では極めて強い権限と内閣からの独立性を与えられています。3人の人事官をもって組織され、うち1人が人事院総裁を務めます。

 

人事院の人事官は、会計検査院(後述)の検査員と同様、両議院の同意を得て、内閣が任命します。これは、行政委員会の委員長と委員が、内閣総理大臣から任命されるのとは対照的です。

 

このように、人事院は、内閣から独立性を保持した機関ですが、人事院以上に、内閣からの独立性と権限を持った行政機関があります。それは会計検査院です。会計検査院は、内閣を頂点とする一般行政部門には属さないので、行政委員会の範疇には含まれません(会計検査院≠行政委員会)。

 

 

会計検査院

会計検査院は、国のお金が適切に使われているかどうかを検査する合議制の行政機関で、具体的には、国などの収入・支出の決算の検査を行い、決算検査報告を作成することを主要な任務とします。

 

会計検査院が検査する対象は、国のすべての会計(内閣及びその所轄下にある各政府機関)のみならず、国会(衆議院、参議院)、最高裁判所、国が財政援助している地方自治体をも含むすべての国家機関に対して及びます。

 

このような重要な仕事を他から制約を受けないように、会計検査院は、行政機関ですが、組織上、「内閣に置かれる機関」でも、「内閣の所轄の下に置かれる機関」にも属さない内閣から完全に独立して存在する唯一の政府機関です。さらに、内閣だけでなく、国会や裁判所いずれの機関からも独立しています。

 

また、会計検査院は憲法90条に基づいて設置された「憲法機関」です。従って、会計検査院の改廃には、憲法第96条における憲法改正を要する点も、他の行政機関にはない特徴です。

 

会計検査院の組織は、両議院の同意を得て内閣が任命する任期7年の3名の検査官により構成される検査官会議と、検査を行う事務総局で構成され、その長は、検査官のうちから互選された者が、内閣によって任命されます。

 

かつての完全独立の政府機関

会計検査院と同じ内閣外として設置された機関として枢密院元老院などがありましたが、戦後廃止されています。

 

 

<審議会>

 

審議会は、社会の識者等で構成される合議制の機関で、調査審議や不服審査などを行います。政策決定における民主的手続きと専門性を確保させながら、広く国民の多様な意見を政策に反映させることを目的として設置されます。

 

◆ 審議会の組織と人事

 

省庁や委員会に置かれる審議会は、国家行政組織法第8条に基づき個別の法令によって設置されることから「8条委員会」とも呼ばれます。これに対して、内閣府に設置される審議会は、内閣府設置法第37条に基づいて設置されているので、「8条委員会」とは呼びません。

 

審議会は、中央教育審議会(文科省)や電波監理審議会(総務省)など、文字通り、○○審議会という名称ですが、食品安全委員会(内閣府)や証券取引等監視委員会(金融庁)のように、名称が○○委員会でも、行政委員会(3条委員会)ではなく、審議会である場合もあります。

 

審議会の委員は、一般に、各府省の主任大臣によって任命され、その際、国会の承認は必要なく、非常勤の一般職公務員という地位が付与されます。

 

審議会は、50年代の高度成長期に急増したため、60年代以降、大幅削減が図られました。近年でも、01年の省庁再編に際して、当時200以上あった審議会の抜本的な整理・合理化が進められ、100以下に整理統合されました。もっとも、現在の審議会は130近くあります。府省のなかで、厚労省と内閣府は20を超える審議会を持っているます。

 

◆ 審議会の種類

審議会は、諮問機関と参与機関に分類されます(多くは前者)。

 

諮問機関としての審議会

諮問機関としての審議会は、司法試験審議会(法務省)、中央最低賃金審議会(厚労省)など多数存在し、行政機関の意思決定に当たり、大臣等の諮問に応えて答申(意見を述べる)を提出します。

 

ただし、審議会内で意見が対立した場合、必ず結論づける必要はなく、賛成・反対、多数意見・少数意見を併記(両論併記)することで意見の過程を明らかにすることを求められます。

 

一般的に、審議会の答申には、法的拘束力はなく、行政官庁は必ずしもこれに従う必要はありません。行政庁が審議会の答申を実行し難いときも、その理由を公表する必要もありません。それでも、政府は審議会の答申を尊重する義務を負います。場合によっては、その実効性を確保する方策として、第二次臨時行政調査会の場合のように、答申内容を尊重する旨の閣議決定を行うこともあります。

 

法改正や新規の政策を導入する場合は、審議会に諮問するのが一般的になっており、各省庁の審議会は、法案作成の土台を議論する場として活用されています。しかし、「行政の隠れ蓑(官僚の隠れ蓑)」との批判が絶えない。

 

行政の隠れ蓑とは、審議会の答申は設置行政庁の思惑通りになされているという現実を反映した表現で、審議会の答申内容は、委員たちが一から作り上げたものではなく、省庁の官僚が大方決めており、審議会は、その方針を追認するにとどまっていることが多いと言われています。そのため、審議会の存在は官僚の影響力を見えなくしているだけという批判的な見方がなされています。

 

参与機関としての審議会

一方、以下のような参与機関としての審議会は、文字通り、行政機関の政策決定過程に参与(参画)する審議会で、対立する利害の調整が必要となる個々の法律改正や、許認可などの行政処分に関しての適否を審査しています。

 

運輸審議会(国土交通省)

電波監理審議会(総務省)

情報公開・個人情報保護審査会(総務省)

社会保険審査会(厚生労働省)など

 

行政側は、たとえば、日本では許認可事務の一部を、担当官庁が直接処理するのではなく、審議会を設立してこれに処理させる場合もあります。

 

 

私的諮問機関

 

国家行政組織法第8条など個別の法令によって設置される審議会とは別に、行政の政策立案のための助言活動等を行うため、法的な根拠を持たない、(大臣や局長の)私的な諮問機関も設置される場合があります。

 

私的諮問機関の名称としては、審議会と区別するために「懇談会」、「考える会」、「研究会」などの名称が使われています。

 

審議会では、その機関意思が答申という形で公に表明され、国会への説明責任もありますが、私的諮問機関の場合、出席者は私人として、おのおのの意見を表明するのみです。それでも、その報告・提言は、公的な諮問機関である審議会等の答申と同じように実質的に行政運営に影響を及ぼし得ることから、現在では、私的諮問機関の活用も多くみられます。

 

 

<関連記事>

日本の内閣と行政①:内閣の機能と仕組み

日本の内閣と行政②:内閣の組織

日本の内閣と行政③:内閣府と内閣官房

日本の内閣と行政⑤:日本の官僚制

日本の内閣と行政⑥:行政改革・小さな政府への試み

 

<参照>

本稿は、拙著「『なぜ?』がわかる政治・経済」で取り上げた内容を、加筆・修正して、まとめたものです。

 

(投稿日:2025.4.28)

むらおの歴史情報サイト「レムリア」