「日本の内閣と行政」について、シリーズで解説しています。2回目は、日本の内閣の具体的な組織について概観します。国の行政機関の全体像をとらえることが今回の目標です。
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<内閣の構成>
内閣 とは、内閣総理大臣と他の国務大臣で組織される合議制の機関で、国の行政事務を統括します。
内閣総理大臣を除いた国務大臣の数は、原則14名以内とされますが、特例の必要がある場合は、3人を限度に増員が可能です。もっとも、(期限をつけて)時限的に設置される場合はその限りではありません。
現在、総理を除く国務大臣の数は、14名に加えて、時限的に設立されている復興庁が廃止されるまでの間の復興大臣15人に、特例としてデジタル庁のデジタル大臣を含めて、16名です。ただし、特例の必要がある場合は、3人を限度に増員が可能なので、現在、総理は、国務大臣を最大18人まで任命できます。
現政権の国務大臣(総理を除く)
内閣官房長官 総務大臣
法務大臣 外務大臣
財務大臣 文部科学大臣
厚生労働大臣 農林水産大臣
経済産業大臣 国土交通大臣
環境大臣 防衛大臣
国家公安委員会委員長 内閣府特命担当大臣
復興大臣 デジタル大臣
<1府12省庁体制>
現在の日本の行政組織は、1府12省庁体制として知られています。
1府は内閣府で(各省よりも一段高い立場に置かれている)、12省庁とは、法務省、外務省など11省と、省庁レベルの機関と位置づけられる国家公安委員会をさします。
1府12省庁体制
内閣府 総務省
法務省 外務省
財務省 文部科学省
厚生労働省 農林水産省
経済産業省 国土交通省
環境省 防衛省
国家公安委員会
ただし、2012年2月に時限的に復興庁が、また2021年9月にデジタル庁がそれぞれ設置されました。両者が組織的に府省と同列とされているので、現在、日本の中央省庁は1府14省庁といえます。
府・省は、内閣の統括の下に行政事務を行う機関で、各省で行政を分担管理します。
府/省では、大臣が最高責任者として全体を統括し、副大臣と大臣政務官が補佐します。また、必要があれば、特定の政策に関して大臣補佐官を置くこともできます。
ただし、内閣府は、内閣総理大臣を主任の大臣として、副大臣、大臣政務官がそれぞれ3人置かれ、さらに特定の分野における特命担当大臣の役職が複数設置されています。
国務大臣である特命担当大臣は、総理の命を受けて一定の内閣府の事務を掌理する職で、「内閣府○○特命担当大臣(内閣府特命担当大臣(〇〇))」と呼称されます(略称は「〇〇担当大臣」)。
大臣の下で、官僚たち(国家公務員)が事務を分掌しています。その中で、事務方トップが事務次官(キャリア公務員の最高位)で、補佐役として審議官とともに、一般職公務員を統括しています。
◆ 内局
事務次官の下には、所掌事務を遂行するため、府省内に、官房と局・課・係が設置されています。府省の本体組織の細目を内局(内部部局)と呼びます。組織上、「局(部)→課→(室)→係」は、実際の業務処理に携わる「*ライン組織」として機能しています。
一方、各省にある官房系組織は、大臣官房と呼ばれる「*スタッフ組織」で、財務・人事・法務など専門的な事務や、各局間の調整にかかる業務を遂行しています。大臣官房のトップが官房長で、その下に、官房3課と呼ばれる会計課(財務)、秘書課(人事)、文書課(法務)が設置されている。(官房長は省内ナンバー2で、局長より序列は上とされる)。
*ライン組織
最上位者から最下位者まで、階層化されたピラミッド型の一元化された指揮命令系統で結ばれている組織形態である。トップダウン(上意下達)の迅速な意思決定が可能となる。
*スタッフ組織
専門家としての立場から、財政や人事などラインの業務を補佐する機能を持つ。スタッフには、助言のみを行うゼネラル・スタッフや、ライン各部門に共通した補助的業務に従事するサービス・スタッフなどがある。ラインへの命令権を持たない。
大臣、副大臣、大臣政務官は、特別職の公務員として政治任用(国会議員が選ばれること)され、事務次官以下の各ポストは、一般職の公務員として、官僚から任用される資格任用です。
特別職公務員の序列
大臣⇒副大臣⇒大臣政務官
一般職公務員の序列
事務次官⇒審議官⇒局長(官房長)⇒部長⇒課長⇒係長⇒主任⇒一般公務員
省の権能
各省の大臣は、法律案の提出、*省令の制定、*告示・*訓令・通達の発出の権限を有するとともに、局長級以上の幹部職員も含めて、各省に勤務する国家公務員の任命権を保持している。
*省令:各省の大臣が発する命令のことで、「施行規則」「施行細則」とも言う。
*告示:行政庁が決定した事項を一般に公式に知らせる行為。
*訓令:上級官庁が、職務上の事項について、下級官庁を指揮・監督するために発する命令。訓令が書面になったものが*通達である。
なお、行政組織には、独任制と合議制とがあります。
独任制とは、組織の最上位に最終決定権者を一人だけ置いて、意思決定が行われる制度で、ヒエラルキー(階統制)構造を持っています。それゆえ、独任制組織は、トップダウンの組織形態となり、一元的な命令体系の下に統合され、上位・下位に序列づけられたピラミッド型となります。一般的には行政機関は独任制です。
合議制は、対等な立場に立つ複数の人間の合議によって意思決定を行う制度をいいます。通常、行政組織は、独任制を原則としますが、行政の中立性や処分の公平が求められるような時、高度な専門知識や専門能力を行政の意思決定に反映させることができる合議制が採用されます。国の行政機関の中で合議制組織は、内閣や、後に説明する委員会、審議会などがあります。
◆ 外局(庁と委員会)
外局(外部部局)とは、府省のもとに置かれ、特殊な業務や専門性の高い業務を行う機関で、本省の所掌事務を分掌させる場合に、国家行政組織法に基づいて設置されます。外局には、独任制の組織である「庁」と合議制の組織である「委員会」があります。
庁
庁は、独任制の組織で、各省に直属しますが、行政事務の処理をする上で、「府・省」内の組織である内局(内部部局)では大きすぎるときに設置される行政機関で、本省から独立して独自の名と責任で所掌事務を遂行します。
府・省の外局としての庁は、現在以下の18庁が存在します。なお、同じ「〇〇庁」と庁の呼称がついていても、外局としての庁ではない機関も存在します。
外局としての庁
内閣府:金融庁、消費者庁、こども家庭庁
法務省:公安調査庁、出入国在留管理庁
総務省:消防庁
財務省:国税庁
防衛省:防衛装備庁
文科省:文化庁、スポーツ庁
農林水産省:林野庁、水産庁
経済産業省:資源エネルギー庁、特許庁、中小企業庁
国土交通省:海上保安庁、気象庁、観光庁
委員会
委員会(行政委員会、独立行政委員会とも呼ばれる)は、通常、複数の委員によって構成される合議制の機関です。
行政委員会は、原則、一般の行政機関(府・省)の所管下に置かれていますが、特殊な業務や専門性の高い業務を行う際に、それぞれ本省の所掌事務から分掌させる形で設置されます。府・省から、人事の統制には服すものの、高度に独立して運営され、中立の立場で業務をこなします。
各省に設置される行政委員会は、以下の通りです。
・公害等調整委員会(総務省) ・公安審査委員会(法務省)
・中央労働委員会(厚労省) ・運輸安全委員会(国土交通省)
・原子力規制委員会(環境省)
また、内閣府の行政委員会は、内閣府設置法を根拠とし、国家公安委員会、公正取引委員会、個人情報保護委員会、カジノ管理委員会の4委員会があります。加えて、国家公務員法3条に基づいて設置されている人事院も行政委員会に含まれます。
外局の権能
外局(庁・委員会)は、各大臣の所轄下にありますが、独自に規則(各庁の長官や委員会などが制定する準則),告示,訓令,通達を自発することができます。
<内閣の組織>
ここまで、内閣の組織として、府・省・庁(委員会)を説明してきましたが、ほかにも、内閣官房、会計検査院、検察庁、警察庁など多くの行政組織が内閣の統括下にあります。
厳密にいえば、国の行政機構は、内閣を頂点として、「内閣に置かれる機関」、「 内閣の所轄の下に置かれる機関」、「国の行政機関として置かれる機関(省・庁・委員会)」に大別されます。さらに、省庁その下に必要に応じて設置される「特別の機関」、「 附属機関(審議会や施設等機関)」、「地方支部局」など、多くの行政組織が内閣の統括下にあります。
◆ 内閣に置かれる機関
内閣官房、内閣府、内閣法制局、国家安全保障会議、復興庁、デジタル庁
「内閣に置かれる機関」(内閣補助部局)は、専門性の高い機関が多く該当し、内閣を補助しています。
本部・会議
また、内閣には、ほかにも「宇宙開発戦略本部」、「まち・ひと・しごと創生本部」、「新型インフルエンザ等対策推進会議」など、「○○本部」や「○○会議」も多数設置されています。
◆ 内閣の所轄の下に置かれる機関
人事院
◆ 国の行政機関として置かれる機関
省・庁・委員会
総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省
経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、国家公安委員会、復興庁、デジタル庁
◆ 省庁の「特別の機関」
警察庁(国家公安委員会)
検察庁(法務省)
国土地理院(国土交通省)、
在外公館(大使館・総領事館・政府代表部)(外務省)、
幕僚監部・陸海空自衛隊(防衛省)など
◆ 省庁の「附属機関」
*審議会
中央教育審議会(文科省)
電波監理審議会(総務省)など多数
*審議会は、社会の識者等で構成される合議制の機関で、調査審議や不服審査などを行う機関で、広く国民の多様な意見を政策に反映させることを目的として設置される。
*施設等機関
迎賓館(内閣府)
刑務所・拘置所・少年院(法務省)
検疫所(厚労省)
防衛大学校(防衛省)など
*府省庁(委員会)は、研究所・試験所(試験研究機関、検査検定機関)、施設(文教研修施設、医療更生施設、矯正収容施設)など、施設等機関を設置することができる。
◆ *地方支部局
税務署(関東財務局・東京国税局・新宿税務署塔)(財務省)
税関(財務省)
地方農政局(農林水産業)
地方運輸局(国土交通省)など
*地方支分部局とは、地方出先機関の総称で、府省や庁・委員会などが、その所掌事務を分掌させる必要がある場合に、設置することができる。
以上、内閣の組織について説明してきましたが、最後に、現在の内閣制度を形づくった2001年の中央省庁の再編について、述べておきたいと思います。
<中央省庁の再編>
1996年11月に旧総理府に設置された行政改革会議(〜98.6)は、会長を務めた橋本龍太郎首相の下、内閣機能の強化をめざした内閣府の創設、独立行政法人制度の創設、省庁再編、政策評価制度と情報公開制度の導入等を盛り込んだ最終報告を取りまとめました。
これに従い、1998年に中央省庁等改革基本法が成立し、2001年の森喜朗内閣の時、中央省庁再編が行われ、1府22省庁体制から1府12省庁体制へ移行しました。
国会審議の活性化
また、森内閣の前の小渕恵三内閣は、1999年7月、国会審議活性化法を成立させ、国会における党首討論が始まりました。党首討論は、イギリスのクエスチョン・タイムを参考にし、両議院に常任委員会として国家基本政策委員会を設け、各党党首が国家の基本政策について議論を行うものです。
また、同法により、政務次官と政府委員制度が廃止され、2001年に、副大臣・大臣政務官制が導入されました。
政務次官と政府委員
政務次官は、大臣を補佐し、大臣不在の場合はその職務を代行していましたが、国会では答弁できませんでした。また、大臣に次ぐ地位とみなされましたが、序列では下の事務次官の影響力が大きかったことから、その存在意義・役割が不明確でした。なお、政務次官は政治任用職で、通常、国会議員が就いていました。
政府委員は、大臣を補佐するために内閣が任命する政府の職員のことをいい、国会での委員会審議において、議員の求めに応じ,大臣に代わり議案の説明などに当たりました。通常、事務次官、部局長など各省庁の幹部公務員が政府委員に任命されていました。
副大臣と大臣政務官
議院(本会議)での出席・発言権は、国務大臣に限定されますが、国会の委員会では、政府委員も出席・発言が可能でした。そのため、委員会においては、政府委員に対する質疑が中心となることが多く、政治家以上に政府委員が、重要な政策論議を行っていると批判されていました。そこで、政府委員制度を廃止し、国会議員である副大臣と大臣政務官の役職が新設されました。
副大臣(総数22人)は、その省庁の政策全般について大臣を補佐します。大臣不在の際、職務を代行し、本会議や委員会で大臣が何かの理由で答弁できないときは、副大臣が答弁できるなど、大臣の職務を代行する権限が認められています。
大臣政務官(総数26人)は、特定の政策について副大臣を補佐しますが、国会での答弁など大臣の職務を代行できません。
政府参考人と政府特別補佐人
一方、政府委員制度は廃止されましたが、行政に関する細目的・技術的事項については、依然として各省庁の局長など政府職員(官僚)が答弁する必要な場面もでてきます。そこで新たに政府参考人と政府特別補佐人とが設置されました。
政府参考人は、質疑者の要求などを受けた委員会の求めに応じて出席し、説明を行う公務員で、政府参考人の招致には、委員会の議決を要します。しかし、かつての政府委員制度では、政府側の裁量により、国務大臣の答弁を政府委員の答弁によって代えることができましたが、政府参考人の委員会での答弁は、大臣答弁に代わるものではありません。
政府特別補佐人とは、国会において、内閣総理大臣その他の国務大臣を補佐するために、衆参議長の承認を得て指名される行政府の担当者のことで、内閣は、政府特別補佐人を国会(本会議または委員会)に出席、答弁させることもできます。
政府特別補佐人には、人事院総裁、内閣法制局長官、公正取引委員会委員長、原子力規制委員会委員長、公害等調整委員会委員長の5名から充てられます。
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<参照>
本稿は、拙著「『なぜ?』がわかる政治・経済」で取り上げた内容を、加筆・修正して、まとめたものです。
(投稿日:2025.4.28)