風力発電:浮体式洋上発電が切り札?
太陽光や地熱など自然を利用した再生エネルギーについて、連載でお届けしています。さまざまな種類がある再生可能エネルギーですが、今回は、風力発電です。日本でも太陽光発電を中心に、再生可能エネルギーの導入が進んでいますが、風力発電に関しては身近なものとはいえないためか、あまり知られていません。そこで、最近、特に、期待が高まる洋上発電を中心に風力発電について解説します。
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◆ 風力発電とは?
風力発電は、その名の通り、風の力で風車を回し、電気を作る発電手法で、風車が風を受けて回転し、回転運動のエネルギーが発電機に伝わり電力が発生する仕組みです。
風力発電の設備は、基礎部にブレード(風車の羽)、ナセル(発電機などを収納する部分)、タワー(支柱)が組み合わさってできています。羽の角度や方位を変える仕組みや、ブレードの回転を増速させる仕組みなど、ナセルやブレードに搭載された機能により、発電効率が上がる工夫がなされています。
風力発電機は陸上だけでなく洋上(海上)にも設置でき、風力発電には、地上に設置する「陸上風力発電」と、海上や湖上・港湾上などに設置する「洋上風力発電」があります。
◆ 風力発電の主なメリット
環境負荷が少ない
風力発電では、風の力でブレード(プロペラ)を回して発電するため、発電の過程でCO2(二酸化炭素)が排出されません。また、燃料が不要な仕組みのため、排気ガスや燃えカスなども発生しません。
また、一定の強さの風を確保できれば、昼夜問わず(夜でも)発電できる点も利点です。
高い発電効率
風力発電は、他の再生可能エネルギーと比べて、*変換効率が高い(高効率で電気エネルギーに変換できる)という特徴があります(それゆえ大型発電所も設置しやすい)。
太陽光発電の変換効率が20%程度、地熱発電が8%程度であるのに対して、風力発電の変換効率(発電効率)は平均で30~40%程度です。なお、再生エネルギーの中でも、もっとも発電効率が高いのが、80%程度である水力発電です。
*変換効率
元のエネルギーの総量に対してどれだけ効率的に目的のエネルギーに変わったかを示す割合のことをいい、風力発電の場合、風力のエネルギーを電気エネルギーに変換する際の効率を意味します。
風力発電はエネルギーの変換効率が高いことが起因し、発電コストが比較的安価(後述)であることから、費用対効果が高い発電方法とされています。大規模な導入が進めば、火力発電と同等までコストを低減できる可能性もあると期待されています。
枯渇しない
風力は枯渇しない資源であり、資源の供給がなくなる心配もありません。そのため、他の再生可能エネルギーと同様に、風力発電は、国内で得られる、枯渇しない自然の力を用することから、化石燃料などの資源を輸入に頼っている日本にとっては、エネルギー自給率を上げるのにも役立ちます。
◆ 風力発電導入の現状
潜在的な発電能力
環境省の2020年データによれば、日本国内における風力発電の賦存量は、約91億kW(陸上風力発電14億kW、洋上風力発電が77億kW)と試算されています。賦存量とは、利用可能な総エネルギー量で、建築物や低・未利用地など物理的に設置可能な潜在量を合計したもので、理論上の最大潜在能力を示します。
また、理論的な賦存量に対して、導入した場合の発電能力を示す導入ポテンシャルと呼ばれる統計があります。これは、賦存量から、技術的・地理的(土地の傾斜や設置可能面積など自然条件)・社会的制約(土地利用などの制約)などの要因を差し引いた、現実的に導入可能な量を示します(技術的導入ポテンシャルと呼ぶこともある)。
この導入ポテンシャルでみると、*発電設備容量で約14億万kW、発電量換算で年間約4兆1,466億kWh(4,146.6 TWh)となり、設備容量では再エネで太陽光に次ぐ大きさで、発電量換算では太陽光を上回ります。
*発電設備容量
現在、国内に実際に設置され稼働している発電設備の最大出力(kWやMW)の合計で、設備が最大限に稼働した場合の発電能力を示す(「現状」や「実績」を示す数値)。
さらに、導入ポテンシャルに対して、設置・運用コストや収益性など、経済的に見合うか(採算性)などを考慮した数値(これを「経済性を考慮した導入ポテンシャル」と呼ぶ)では、設備容量で、約3億kW〜約6億kW、発電量に換算すると約9700億kWh〜約2兆kWhとなり、ともに太陽光を大きく上回ります。
この値は、低く見積もっても、日本の総発電電力量(約1兆kWh)の同等の膨大なポテンシャルで、風力発電の導入余地も非常に大きいことを示しています。 とりわけ、海に囲まれた日本にとっては、洋上風力発電の潜在力が圧倒的です。
導入ポテンシャル
洋上風力(設備容量):11億2022万kW
陸上風力(設備容量):2億8456万kW
洋上風力(発電量換算)3兆4607億kWh
陸上風力(発電量換算)6859億kWh
経済性を考慮した導入ポテンシャル
洋上風力(設備容量):1億7785万kW〜4億6025万kW
陸上風力(設備容量):1億1829万kW〜1億6259万kW
洋上風力(発電量換算)6168 億kWh〜1兆5584億kWh
陸上風力(発電量換算)3509億kWh〜4539億kWh
kW(キロワット)=瞬間的に流れる電気のエネルギー(電力)
kWh(キロワットアワー)=1kWの電力を1時間使用したときの電力量を表す単位で、電気の使用量を示す。kWに時間を掛け算して求める。
実際の風力発電能力
このように、潜在力の大きい風力発電ですが、資源エネルギー庁の統計によれば、2023年の風力の発電量は、108億kWhでしかありません。
電源構成の割合(発電電力に占める割合)でみると、風力発電は、2023年の段階で、2013年の0.5%からは上昇しているものの、わずか1.1%です。同じ再生エネルギーの太陽光の9.8%、水力の7.6%に比べても見劣りしています。
風力発電の導入量でも、日本風力発電協会によると、2012年度時点の累計の設備能力265万kW(キロワット)に対して、10年間(2012〜2022)で累計導入量は510万kWに増加はしていますが、伸び悩んでいる状況です。
その背景としては、風力発電には多様なメリットがある反面、課題も多く普及が進みにくい現状があります。
◆ 風力発電の主なデメリット
風の影響で発電量が不安定
風力発電は、風の状況(風況)に大きな影響を受けることから、天候次第で、発電量が少なくなることや、発電できないなどの問題が起きる場合があるなど安定しません。出力が足りない場合に補う調整用の電源も必要となります。
また、風の強さだけでなく、風の方向も発電に影響します。風力は自然の力であるため、風力を調整ができないという不安定さは避けられません。ヨーロッパでは1年を通して偏西風が吹くため、積極的に風力発電が導入されていますが、日本では偏西風のような年間を通じて吹く安定した風は望めません。
高い初期費用と維持費
風力発電機の設置にかかる費用は、太陽光発電の約1.5倍(1kWあたり)と言われ、高額な初期費用が発生するため、設置に慎重にならざるをえません。
また、風力発電機は事故防止のためにも、定期的なメンテナンスが特に必要で、その費用(維持費)は、1基あたり約200万円/年(12回)の費用が発生する場合もあると言われています。
加えて、大型風力発電は、2012年10月から、火力発電と同様の環境アセスメント(環境影響評価)を義務付けられています。現状ではアセスに3~4年かかり、風力発電の開発期間の長さは、費用の面からも問題視されています。
自然災害での破損懸念
風力発電機は、落雷や台風をはじめとする自然災害で故障・破損する場合があります。たとえば、落雷によりブレードの落下や故障、乱流によるブレード損傷、雪による回転数の低下などが想定されています。故障による数々のリスクを抑えるためにも、適切なメンテナンスが欠かせません。
限定される設置場所(陸上)
陸上に風力発電機を設置する場合、その場所には複数の条件があり、限られた場所にしか設置できません。原則として、発電に適した風が通年吹く風況の良い立地が望ましく、事業採算が確保できる風速の目安が年平均で6.5m/秒以上である場所に限るとされています。
こうした地域の45%が北海道に、21%が東北に集中するなど、日本の風力の適地は北海道や東北の海沿いに偏っています。
その半面、東京など大都市圏の電力の大消費地を結ぶ送電網が不十分で、そのために、土地の買収や送電網の整備(とくに、北海道と本州を結ぶ連系線の増強)が欠かせません。これには3000〜9000億円規模の巨額投資が必要と試算されています。
また、風力発電機の設置には、大きな設備機器をスムーズに運搬できる道路があることも必要で、さらに、生じた電気を送るための送電線との距離が遠いとコストがかかるため、接続しやすい場所であることも求められます。
一方、居住地域への騒音問題に配慮しなければなりません。風力発電機を居住地域に設置すると、ブレード(風車の羽)が回転する際の風切り音、歯車の機械音などが騒音問題につながる可能性があり、また、不快に感じやすい低周波音も発生します。こうした騒音被害を避けるためにも、風力発電機は居住地域から離れた場所に設置しなければならなくなります。
そうすると、一般的には、風況が良く土地が広い山の尾根沿いや海岸沿いに設置されることが多くなりますが、日本の場合、地域も東北・北海道などに限定されるうえに、風力発電のための適地が少ないという現実にも直面しています。
加えて、⾵⼒発電は、⾵況の良好な場所が⽴地点として選定されますが、そうした場所は⿃の渡りルートであることが多くバードストライク等が懸念されるなど、生態系への影響も考慮されなければなりません。
風力発電機の設置場所には、⾃然公園など、優れた景観を有するところも多いことから、事業者と地域住⺠や環境団体等との間で軋轢が⽣じることもあり、互いの意思疎通や信頼関係の構築が必要となります。
このように、内陸地に風車を建てようとすると様々な規制や問題に阻まれることが多いこともあり、近年では、洋上に風力発電施設を造る傾向が強まりつつあります。
◆ 洋上風力発電の普及
国土が狭く、四方を海に囲まれた日本にとって、以前より、洋上風力発電の潜在力の高さに注目が集まっていました(これについては導入ポテンシャルのデータで確認済み)。
沖合いに風車を並べる洋上風力発電であれば、設置場所をより確保しやすくなります。また、障害物のない海上は、陸上に比べて、強い風が安定的に吹き、かつ広大な海域を活用できるため、陸上よりも発電効率が高く、昼夜問わず安定した出力を維持できる可能性があります。
さらに、生活圏の景観を損ねる問題や、騒音問題への心配が少ないメリットもあります。加えて、陸上より、機材の運搬や周辺の障害物等を考慮しなくてもよく、その分、大きな風車を建設することが可能です。
しかも、日本は、世界6位の排他的経済水域(EEZ)を持っており、これを利用できれば、風力発電を一気に伸ばすことができる可能性を秘めています。
実際、環境省の試算では、洋上風力発電なら発電機の設置数を増やしやすく、風力発電の導入可能量は、前述したように、陸上が2億8456万キロワットなのに対し、洋上は11億2022万キロワットと4倍以上あります。
着床式と浮体式
洋上風力発電には、「着床式」と「浮体式」の2つのタイプがあります。
着床式洋上風力発電は、海底に基礎構造物を設置し、風車そのものを海底に固定して発電する方法で、欧州で普及する洋上風車は全て着床式です。
一方、浮体式洋上風力発電では、海底に「基礎(基礎構造物)」を設置せず、鎖で海底に固定した風車を浮体に乗せ、海に浮かべて発電します。
着床式は、最大でも水深50メートルが限度なのに対して、浮体式は同200メートルまで可能で、海底に基礎建造物を設置できない場所でも利用できます。日本では水深の浅い海域が限られているため、洋上に風車を浮かべる浮体式の方が向いていると言われています。
日本は国主導で技術を結集し、浮体式水力発電で世界に先駆けることをめざし、国内初の「浮体式上風力発電」を、2016年4月に、長崎県五島沖で実現させました(後述)。
このように、着床式、浮体式ともに、洋上風力発電には多様なメリットがある一方、海洋発電独自の問題(課題)があることも事実です。
海上風力発電の課題
前述したように、風力発電そのものは、設備の初期費用・メンテナンス費用がかかりますが、洋上風力発電は、陸上風力発電と比較しても割高となります。海上での設置作業に加えて、海底電力ケーブルの敷設が必要なこと、波の浸食作用で設備が劣化しやすく早期のメンテナンスが必要になることなどが理由です。
さらに、浮体式の方が、着床式より、水深が深いほど設置費用やメンテナンス費用、送電にもコストがかかります。
一方、着床式にも問題点があります。広域な遠浅の地形で設置場所を確保しやすいヨーロッパと比較して、日本では海底の地形が急峻で水深が深い場所が多いため、基礎構造物が設置しづらいことが指摘されています。
加えて、洋上風力発電全体の課題として、洋上の厳しい自然環境への適合があげられます。海域の現地調査は天候の影響を受けやすいことや、⾵⾞へのアクセスが船舶等に限定されることなど、陸域の調査にくらべて様々な制約もあります。
こうした課題に対し、経済産業省やNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)を中心に、風力発電を普及させるための取り組みも行われ、たとえば、2019年、「再エネ海域利用法」が制定されました。
同法により、洋上風力発電を推進する「促進区域」を国が指定し、公募で選定された発電事業者は、一般海域の占用許可を最大30年間得ることができるようになりました。
最近は、2023年に稼働した秋田港洋上風力発電所や、富山県の入善洋上風力発電所に続き、2024年に、石狩湾新港洋上風力発電所が運転を開始するなど、日本の洋上風力市場の拡大に寄与しました。
このため、2012年度時点で265万キロワット(1916基)であった風力発電の累積導入量は、その後、2022年頃までは伸び悩み感がありましたが、2024年末時点の累積導入量は584万kW(2,720基の風車が全国で稼働)に拡大しています。
(参考)現在の洋上風力発電所
2024年12月末時点で、本格的な洋上風力発電所が7サイト設置され稼働していました。
長崎県崎山沖(浮体式)
洋上風力発電の先駆けとして、長崎県の五島列島で2016年4月に、国内で初めて、浮体式による最大出力2MW(メガワット)の大規模洋上風力発電所が実証運転を開始しました。五島沖では、2026年1月をめどに、更に大規模な商業運転が展開される予定です。
千葉県銚子沖(着床式)
千葉県銚子沖で、2019年 1月、着床式の洋上風力発電所の商業運転が開始されました。しかし、2025年2月、事業性再評価の結果、三菱商事など参加企業が事業撤退方針を示し、プロジェクトは断念されました。現在、銚子市は新たな事業者を再公募の予定です(この事業は2013年1月に設備を設置し、2017年3月まで実証実験を実施していた)。
福岡県北九州港(浮体式)
福岡県の北九州港で、2019年5月、国内最大級の洋上風力発電システム実証機「ひびき」の実証運転が開始され、2025年度内稼働を目指しています。
秋田県能代港・秋田港(着床式)
秋田県能代港と秋田港の港湾区域内には、2022年12月に能代港洋上風力発電所が、また2023年1月には秋田港洋上風力発電所がそれぞれ設置され、日本初となる商業規模(商用)の大型洋上風力発電所(着床式)が稼働しています。
富山県入善町沖(着床式)
富山県の入善洋上風力発電所(着床式)が、2023年9月から商業を開始し、北陸初の洋上風力発電所として、また、日本初の民間資金による一般海域洋上風力発電事業として注目されています。
北海道石狩湾新港(着床式)
日本初の8,000kW大型風車を採用した国内最大規模の商用洋上風力発電所である「石狩湾新港洋上風力発電所」が、2024年1月より商業運転を開始しています。
(今後の事業計画)
茨城県鹿島港(着床式)
茨城県の鹿島港の港湾区域内で計画されている「鹿嶋市洋上風力発電事業推進ビジョン」が、2026年中の実施がめざされています。2012年に計画が発表され、いったん中断したものの、2021年に計画は再始動となりました。
福島沖(浮体式)
2023年2月、福島県楢葉町と富岡町の沖合で、2027年の運転開始を目標に、浮体式洋上風力発電施設を設置する計画が発表されました。実現すれば浮体式では国内最大規模となります。
◆ 今後の風力発電普及に向けた取り組み
洋上風力産業ビジョン
2020年12月に決定された第1次「洋上風力産業ビジョン」では、「洋上風力の産業競争力強化に向けた基本戦略」を公表しました(同ビジョンは経済産業省(資源エネルギー庁)と国土交通省が連携して発表・推進している)。
それによると、従来の導入目標を大幅に引き上げ、2030年までに1000万kW(10GW)、2040年までに3000~4500万kW(30G~45GW)の案件形成を目標とすること、また、風車などの主要部品の多くが海外製であることから、産業界の自主目標として「2040年まで国内調達比率60%」を掲げました。
なお、1,000万キロワットは、一般家庭約600万世帯分の電力を賄える規模です。
さらに、2025年8月策定の第2次「洋上風力産業ビジョン」では、第1次ビジョンの「2040年までに30G~45GW」のうち、少なくとも15GWを浮体式が占めることを新たなに付け加え、浮体式風力発電に力を入れることが示されました。
また、国内調達比率については、基礎建造物(「基礎」)や蓄電池システムを国産化したことですでに60%を達成したことから、「65%以上」に引き上げ、風車本体の主要部品でも国内での製造を進める方針です。
*電力の単位
1メガワット(1MW)=1000キロワット(1000kW)
1ギガワット(1GW)=100万キロワット(100万kW)
100ギガワット=1億キロワット
エネルギー基本計画
2021年に閣議決定された第6次エネルギー基本計画にて「2030年度エネルギーミックス(電源構成)」を提示し、2013年で0.5%とそれまで1%を下回っていた風力発電の割合を5%まで引き上げる目標が定められました(発電導入量目標は、洋上風力を5.7GW、陸上風力を17.9GW)。
さらに、2025年の第7次エネルギー基本計画において、2040年までに電源構成比率を最大8%とされました。
(参照)
風力発電とは?概要と仕組みを解説
(サステナブル経営WEEK事務局)
日本の未来を支える太陽光以外の再エネ達。風力発電と水力発電について知る①
(2025.01.29、アップルツリー)
洋上風力発電って何がすごい?
(JOGMEC HP)
日本の風力発電の累積導入量
(2025/02/18日本風力発電協会JWPA)
洋上風力、2040年に「浮体式で15GW」、政府が数値目標
(2025/09/03、日経BP)

