臨床医療から予防医療・全人的医療へ

 

次世代のための医療の在り方について、前回の投稿では、「日本医師会は抵抗勢力か?最後の砦か?」と題して、現在、日本の医療制度の問題点をまとめました。今回は、個人的な政策提言を交えながら、将来の医療像を具体的に検討したいと思います。

 

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<対象療法から原因療法へ>

 

国民医療費は毎年のように過去最高を更新し、国民皆保険の医療保険制度も運営が厳しくなっています。病気も病人の数を増え、昔にはなかった病名もたくさん聞かれるようになりました。患者の「薬漬け」も問題となっています。

 

これは、明らかに今の医療のあり方や制度に問題と欠陥があることの裏返しであり、次の世代のために抜本的な医療改革が求められます。そのための方策として、前回の投稿でも提起したように、これまで主流の臨床医療から予防医療へ、対象療法から全人的医療などへの転換が求められます。

 

◆ 臨床医療

 

臨床医学とは、患者を診察し、病気の治療を行う医学分野のことで、臨床医は、内科、外科、産婦人科、小児科など、患者の病状に応じた診療科で、診察や検査を行い、医療を施します。これは、社会で一般的にイメージする「お医者さん」で、個人病院やクリニックを開いている開業医や、大病院の勤務医の多くは、通常、臨床医をさします。

 

しかし、現代の臨床医療は、高度な専門化が進み、身体の一部分(患部)に特化した治療が中心となっています。この現代の医療を批判的にみれば、治療そのものも、病気の原因を治すのではなく、症状を一時的に緩和、軽減して抑え、患者の苦痛を取り除くことが目的となっていると言えます。

 

これは原因療法に対して対象療法と呼ばれる治療法で、たとえば、発熱や咳、痛みを抑えるために、解熱剤や鎮咳薬、痛み止めを服用(処方)することが、対象療法に当たります。

 

この対象療法による臨床医学は、「病気になった患者の患部を、ただ切ったり貼ったり、薬漬けにしたりする医療」と、一部で批判の対象となっています。

 

もちろん、対象療法の臨床医学によって、命が救われ、患者の生活の質(QOL)が改善されてきたことは間違いのない事実であり、今後も必要な医療ですが、制度的にもそれだけでは、もはや立ちいかなくなっているのが現状です(これについては前回投稿を参照)。

 

そこで、冒頭でも確認したように、今、注目され、一部の医療機関では実際、運用が始まっている予防医療や全人的医療など代替医療、原因医療について、紹介したいと思います。私は医療の専門家ではありませんが、政策提言者という立場で、その概略についてわかりやすく説明します。

 

◆ 予防医療

 

予防医療(予防医学)とは、病気にかかることを予防する医学で、病を未然に防ぐ「健康な人」を対象とした医療をさします(臨床医学は、「病気の人」を対象とした医療)。

 

予防医学の重要性を説いた人物が、かの北里柴三郎で、自身の演説原稿がまとめた『医道論』には「病は未然に防ぐべきものである」と記されている。

 

また、「摂生は本にして治療は末なり(せっせい(は)ほんにして、ちりょう(は)すえなり)」は、北里の有名なことばで、現代語風に言い換えれば、「病気を予防すること(「摂生」)が基本(本=根源)で、病気になってからの治療は、あくまで結果として行う末端的なもの(末)である」と述べています。

 

これは、病気になってから治療を受けるのではなく、普段から摂生(養生)して、病気にならないように気をつけて生活することの大切さを説く教えです。

 

ここから、予防医学とは、予防が「主」で、治療は「従」と考える医学で、治療が「主」で、予防を「従」とする臨床医学とは、逆の医学であると言えます。実際、現在の私たちは病気になってから、生活習慣のことを考える傾向があります。

 

また、北里は、「病気を治すには、必ずや病気の根源を無くすように努力しなければならない」とも述べており、一時的に抑える対象療法ではなく、原因療法こそが真の医療の姿であることが示唆しています。

 

◆ 全人的医療

 

全人的医療とは、患者の身体的な状態だけでなく、精神的な状態、社会的背景、生活環境など、より具体的には、食事などの生活習慣から家族構成までも加味しながら、全体像を考慮し、個々の患者に合うように、総合的に診察する医療のことをいいます。

 

全人的医療では、対象療法的な臨床医学のように、患者を単なる病気の状態としてみて、単に病気を治療するのではなく、患者を一人ひとりの人間として捉え、より質の高い医療を提供することが目的とされます。

 

これは、「病気を診ずに、人を看(診)る」というナイチンゲールの看護哲学を代表する言葉の実践的な医療ともいえます。

 

全人的医療が注目されるようになった背景には、患者の精神的な状態や社会的背景も病気の原因や経過に影響を与えることが多く、それらを考慮しないで、患者の身体の一部の状態だけを診るだけでは、適切な治療ができない場合がふえてきていることがあげられます。

 

全人的医療のシステムでは、医師だけでなく、看護師、ソーシャルワーカー、その他の医療従事者も連携して、患者をサポートします。たとえば、慢性疾患患者に対して、身体的な治療だけでなく、生活習慣の改善や、精神的なサポートも提供されます。

 

さらに、そこでは、医師も、かかりつけ医が患者の健康管理や相談窓口として重要な役割を担うことが想定されています。したがって、現在、進行中の「かかりつけ医制度」の議論がさらに高まることも期待されます。

 

加えて、全人的医療が実践されることは、結果的に予防医療にもつながります。全人的医療に、予防医療の概念をより積極的に取り入れたものに、ホリスティック医療もあります。

 

◆ ホリスティック医療

 

全人的医療とホリスティック医療は、病気を考える際に、体(患部)だけでなく、人間としてとらえる点では、ほぼ同じ意味で使われます。

 

実際、ホリスティック医学とは、心と体と命を含めたその人全体をみる医学で、人間を「体・心・霊性」等の有機的統合体ととらえ、社会や自然などとの調和にもとづく包括的、全体的な健康観に立脚しています。

 

ただし、ホリスティック医療の最大の特徴は、生命が本来、自らのものとしてもっている「自然治癒力」を高め、増強することを治療の基本としていることです。

 

病気になるときというのは、過労や生活習慣の乱れ、ストレス過多などの種々の原因で「自然治癒力」が低下してしまって発病してしまうことが多くみられます。また、発病したのち回復するのに時間がかかるのは、生命が本来もっている自然治癒力が落ちているからであると考えられます。

 

したがって、その原因をそのままにしておいて薬や処置だけを用いたのでは、北里柴三郎がめざした根本的な治療になりません。ホリスティック医療は、自然治癒力を高めておくことが病気の予防になり、発病しても早期の回復が期待されます。

 

この自然治癒に関しては、医学の父と言われる、ギリシャのヒポクラテスの次の格言が示唆に富みます。

 

病気は、人間が自らの力をもって自然に治すものであり、医者はこれを手助けするものである。

 

もともと、ホリスティック医療は、西洋医学の利点を生かしながらも、西洋医学の限界を認識し、漢方や鍼灸、気功、ヨガなどの東洋医学や、アロマセラピー、リフレクソロジー、ハーブ療法から、各国の民間医療、心理療法、自然療法、音楽療法、手技療法まで、さまざまな代替療法を、総合的、体系的に選択・統合しながら最も適切な治療をめざすために生まれました。

 

加えて、ホリスティック医療の範囲は、健康食品や食育の分野にも広がります。食と医療に関しては、ヒポクラテスは以下のような言葉も残している。

「病気は食事療法と運動によって、治療できる」

「食べ物で治せない病気は、医者でも治せない」

 

さらに、最近では、東洋医学の補完代替医療と現代の西洋医療を組み合わせた統合医療という概念も生まれています。

 

 

<医療ルネサンス!?>

 

次世代のための医療システムは、臨床医療の実践の中で確立した医療インフラを土台として、予防医療、全人的医療、統合医療などを取り入れたものになっていくことが求められます。

しかも、すべての医療の根本には、前回の投稿でも紹介した、「医は算術」ではなく「医は仁術(医術病人を治療することによって、仁愛の徳を施す術である。人を救うのが医者の道である)」の精神が根底になければならないことは言うまでもありません

 

このような、次世代医療の確立は決して難しいのではなく、この投稿でも取り上げたような先人の知恵と教えに戻ることで、実現できるはずです。

「摂生は本にして治療は末なり」(北里柴三郎)

「病気を診ずに、人を看(診)る」(ナイチンゲール)

「病気は、人間が自らの力をもって自然に治すもの…」(ヒポクラテス)

「医は仁術である」(貝原益軒)

 

まさに、私たちが求め、政治家が進めるべきは「医療ルネサンス」と呼べるかもしれません。

 

 

(関連投稿)

日本医師会は抵抗勢力か?最後の砦か?

 

他の政策提言については、こちら☞

 

 

(参照)

代替医療から統合医療へ【代替医療に共通する原則】

(2024.02.10、予防医学・代替医療振興協会)

かかりつけ医は全人的医療をめざす

(2024年3月5日 / 日医ニュース)

「日本医師会vs政府」かかりつけ医の制度化をめぐる対立関係を読む

(2022/07/19、みんなの介護求人)

城守常任理事「かかりつけ医、医療費削減や登録制の動きには反対」

(2025年3月31日m3.com)

ホリスティックとは?

(日本ホリスティック医学協会)

Wikipediaなど

 

 

(投稿日:2025.5.11)

むらおの歴史情報サイト「レムリア」