財政における提言
規律あるMMT理論による財政政策
松下幸之助の「無税国家構想」の理想
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現在、国の借金(財政赤字)は、先進国では類のない1200兆円を超えている。これは、当然、次世代へ増税などの形で、負担を強いられることになるとみられているので、財政再建は、今から取り組まなければならない課題であることは間違いない。
この文脈から入れば、あまりに悲観的な将来しかみえてこないので、まずは、ユートピア的な理想を語ろう!税金を納めなくてもいい国にするという、故松下幸之助の「無税国家構想」である。
<ユートピア構想>
予算単年度主義を見直し、予算を余らせる
現在の一般会計予算は、年間100兆円を超え、その規模は基本的に右肩上がりで増加している。予算規模とは要は歳出の額である。この歳出は実に無駄が多いことが昔から指摘されている。
歳出の肥大化を引き起こしている制度的な原因の一つが、予算単年度主義である。これは予算を1年単位で作成するという原則のことで、予算の無駄遣いにつながっているとの批判が根強い。年度内に予算を使い切っていない場合、来年度以降の予算を減らされることを恐れて、たとえば、「余らせるくらいならば、使い切ってしまおう」という判断から、年度末になると、全国で道路工事が増えると指摘される。各省庁とも使い切った上で、毎年、省益のために増額を要求するから、予算規模が増えるのである。
無税国家構想とは?
そこで、提案したいのが、経営の神様といわれたパナソニック(旧松下電器産業)の松下幸之助が持論としていた「無税国家」構想である。
これは、単年度主義の予算を、各省庁が余らせてもよい制度、むしろ多く余らせた省庁が評価される制度にして、剰余金を積み立て政府が運用して、運用利益を稼ぎ出すというものだ。多く余らせた省庁が評価されれば、各省が競って無駄を省くであろう。当時、幸之助氏は、21世紀末には、無税国家になると述べた。つまり、運用利益を歳入に充てることで、国民から課税しなくてもよくなるというのだ。さらには、歳入を上回る運用益を出せば、その分を国民に配る、収益分配国家になれるとさえ主張した。
この松下幸之助氏の「無税国家論」は、現代においても示唆に富む。まずは、各省庁が予算を余らせた資金で政府系ファンドをつくり、予算の剰余金を運用、その収益で、国債の償還費用にあてる。財政赤字は縮小し、ゆくゆくは黒字化することができる。
このように、ユートピア的な世界ではあるが、究極的に、日本は国民が税金を払わなくてもいい国になる! めざそう、無税国家日本!
<現実的アプローチ>
では、現実的な問題として、今の財政運営はどうしたらいいのだろうか?
直間比率の変更
財政再建のためには、まず単純に税収を増加させればよい。ただ、ここでは、現在の税収を一定とみなして、税収をできるだけ最大化することを考えてみたい。そのためには、本来、納めないといけないのに納めていない人たちに納めてもらうという方法(脱税をなくす)、つまり、税金を公平に負担してもらうことであろう。
現在、直接税と間接税の税収比率(直間比率)は、7:3(6:4)で直接税の比率が高い。しかし、所得税や法人税などの直接税は、職種によって捕捉率が異なるという税の不公平の問題がある。すなわち、クロヨン問題といわれるように、給与所得者と自営業者と農家が確実に税金を納めているかといえば、9割、6割、4割と言われている。
ただし、この問題を解決させるためには、取り締まりを強化するのではなく、直接税の税率(所得税率)を引き下げて、その減収分を一時的に間接税(消費税・たばこ税・酒税など)の増税でまかない、捕捉率が100%の間接税の比率を高め、現在の日本の税制を、直接税中心から間接税中心へ切り替えるのである。
そもそも間接税の方が直接税より、景気に左右されないから、税収は安定する。ただし、間接税(消費税)は、逆進性の問題(所得が低い人の負担が重くなる)があるので、食品など生活必需品の消費には大幅な軽減税率を導入する。
また、所得税が下れば、すべての可処分所得(手取り)は増えるので、広く実質的な賃上げを実現できる。
究極は経済成長!
しかし、税収増のための最良の方法は、経済成長にともなう所得の増加である。所得が増えれば消費が増えて経済は成長する。景気拡大に伴う税収の増加こそが、財政赤字削減の裁量の処方箋である。
ところが、日本は1990年代後半から、実質所得が増えていないという指摘がある。その原因は何であろうか?
政策効果を実現できなかった理由は、日本経済の構造の問題とか、むずかしい説明がなされていたが、経済学的にみた真の理由は、単純に財政が緊縮だったからである。
1990年代後半以降から現在まで、財政赤字の急増を受けて、消費税などの増税、新規の国債発行を抑えようとする緊縮財政をとった。「小さな政府」の方針のもと歳出が削減が望まれ、プライマリーバランス(基礎的財政収支)のセロを目指すことが合言葉となった。結果的に消費や政府支出が、経済を押し上げる力とはなっていかなくなった。
2021年10月、当時、財務省の事務方のトップである矢野康治事務次官による“事務次官、モノ申す「このままでは国家は破綻する」”と題した異例ともいえる寄稿文が、文藝春秋に掲載された(ここでは「矢野論文」と呼ぶ)。中立性と公平性が求められる公務員が発表する内容ではなかったと思う。なぜなら、それは、財政の一面のみ強調していたからである。
官僚がいまなお、根っこのところでは日本を支配している現状で、財務省の事務方のトップの意思は、政府の政策となる。私は、日本経済が何十年と、他の先進国なみに成長できなかった主因の一つが、財務省の緊縮財政であったことが、矢野論文を読んで理解できた。
従って、日本が経済を成長させるために、自民党政府ができることは、財務省の意に反して、現在の緊縮財政をやめることである。ただ、財務省に「説得」される政治家にできるであろうか?
しかも、公共事象や補助金など政府消費を増やす積極財政は、予算の計上レベルでさらなる財政赤字(国に借金)を増やしてしまうことになるが、
MMT理論のすすめ
そうした状況でも積極財政を可能にする財政理論がMMT理論である。
私はMMTにもとづく財政政策を提唱したい。MMT(現代貨幣理論)は、通貨発行権を持つ政府は、国債を発行してもデフォルト(債務不履行)することはなく、インフレを制御できれば、国債はいくらでも発行することが可能で、財政赤字で国は破綻しないという理論である。
まるで、ありえない理論のように思えるが、一面において間違いではない。私がMMT理論を正しいと考えられるようになったのは、奇しくも、矢野論文の中で、隠して触れなかった財政の別の側面をMMTが説明しているからである。乱暴な言い方をすれば、経済成長の観点から、矢野論文は間違っているので、MMT理論は正しいと言える。
社会政策としての公共事業
では、MMT理論にもとづく積極財政で、何をするのか?それは、全国規模でのインフラ再整備であろう。
日本では無駄な公共事業に対する批判が根強い。実際、日本では、利用の見込めない道路や空港などが次々につくられてきた。
しかし、2012年12月に、笹子トンネルで天井板落下事故が発生し、近年でも、道路の陥没事故が相次いでいる。戦後に整備された道路や橋といった公共インフラの老朽化が進んでおり、これから、改修・建替えなどが喫緊の課題となってくる。東日本大震災以降、防災・減災の観点からでも、建物の耐震化・補強は必要だ。こうした公共事業は次世代のために、日本全国で大規模に実施していかなければならない。
ただし、こうした公共事業は、政治家の人気取りのためのバラマキではあってはならないし、防災・減災に名を借りた無駄な公共事業が増えてもいけない。
その意味でも、今後、公共事業は、景気対策としてではなく、社会政策として実施されるべきである。景気の変動によって、公共整備が増えたり減ったりするのではなく、常に一定の規模の大きな公共事業が毎年行われる必要がある。
公共事業が、計画に基づいて、優先順位をつけて社会政策として実施されれば、無駄な公共事業になる可能性は低くなるし、結果的に、好不況に関係のない一定の公共投資が、持続的な経済成長の土台となる。安定的な経済成長は税収増につながる。
憲法に平時の財政均衡条項を!
もっとも、矢野論文がすべて完全に間違っているわけではない。これだけの財政赤字を抱え込んでいることは、決して尋常ではない。やがては、マーケット(債券市場や外為市場)が、債券相場の急落(金利の高騰)、または円安・金利上昇という形で反乱を起こしかねない。
そこで、憲法において、平時における財政均衡条項を付加することを提唱したい。憲法に、景気がいいときは、財政の規律、つまり歳出は租税ですべて賄うという均衡予算を維持する努力をする旨を宣言するのである。
憲法の縛りがある以上、人気取りのバラマキを行ってきた政治家や、好不況にかかわらず予算編成時には必ず増額請求をして既得権の拡大をはかる官僚たちを自制させることができるであろう。政府が財政規律を維持することは、国の内外に信頼をもたらすことになる。
しかし、バブル崩壊以降、現在も平時ではない「緊急事態」においては、MMT理論で積極財政に舵をきる。MMT理論はその運用を間違えれば、国を破綻させるリスクを伴う理論である点を考慮しても、平時の財政均衡条項は有用である。
<無税国家の理想にむけて>
所得税と消費税ゼロに!
長い長い先の無税国家に向けて、現行の直間比率を、徐々に変更し、間接税中心に切り替え、国民の税負担を変えずに「所得税減税と消費税増税」を実施する。同時に、余らせた予算を運用する政府ファンドを立ち上げる。潤沢な運用益を安定的に得られるようになれば、その分、消費税をもとの水準にもどす。
その後、さらに、所得税を減税し、運用益に応じて、消費税減税を繰り返し、最終的に所得税と消費税をゼロとする。法人税は外形標準課税に切り替える。所得税と消費税ゼロを実現した後、他の税目も減税してゼロをめざす・・・・。
もちろん、これは、50年または100年近くかかることになるであろう超長期的なスタンスに立って話しである。
求められる金融立国化
いずれにしても、無税国家の理想は、本来、国民の「奉仕者」である公務員(憲法15条)が予算を大切に使い、余らせた税金を運用していくというのが前提となる。そのためには、予算を余らせることが省益となるような仕組みを作ることと、運用益を増やすことが求められる。
後者については、運用に失敗しないためにも、金融のノウハウを蓄積する必要がある。日本の金融立国化という新たな課題もみえてくる。
他の政策提言については、こちら☞
(投稿日:2025.4.24)