当時の安倍内閣が、憲法学者や元内閣法制局長官をはじめ多くの法律の専門家から、憲法9条違反と批判されながら、押し通した、閣議決定による集団的自衛権の行使容認とその後の安保法制について、法律の公布から10年経とうとしています。今、改めて、その成り立ちの経緯から実際の制度までをまとめました。今後の日本の安全保障政策を考えるきっかけにしていただければと思います。
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<個別的自衛権と憲法9条>
日本国憲法第9条
- 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
- 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
憲法9条は、1項で、一切の戦争と武力行使を禁止した「戦争放棄」を定め、第2項では「戦力不保持」だけでなく、「交戦権の否認」までもが謳われています。
しかし、9条を文字通り解釈すれば、自衛権の発動としての武力行使も禁止され、もし他国が日本に攻め込むことがあっても、交戦権も否認しているので、応戦することさえできません。
政府や議会などが、憲法改正の正式な手続きを経ることなく、憲法の条項に対する解釈を変更することによって、実質的に憲法の意味や内容を変えようとする行為を解釈改憲といい、歴代の政府は、必要があれば、憲法解釈を変える解釈改憲を行ってきました。
まず、1954年7月、陸・海・空の自衛隊が発足すると、政府は「日本が主権国として持つ固有の自衛権(個別的自衛権)まで否定するものではない」と解釈し、自衛のための必要最小限度の武力行使を認めました。
また、自衛隊は戦力と呼べる軍事力を持たない、日本を防衛するための必要最小限度の「実力」組織であると解釈しました。「実力」なら仮に自衛のために戦うことがあっても、それは、憲法が禁止した「武力行使」ではなく、自衛のための「実力行使」であるとしたのです。
このように、政府は、「自衛のための必要最小限の『実力』を超えるもの」を「戦力」とみなして、そうでない「自衛隊は憲法違反ではない」と解釈し、憲法9条のもとで自衛隊の存在を正当化しました。
やがて、必要最小限度の個別的自衛権の行使、即ち専守防衛なら合憲という政府の憲法解釈は、以後、多数派となりました。
日本の(個別的)自衛権の発動が許されるのは、日本に対する武力攻撃が発生した場合に限られ、1972年には、「武力行使(実力行使)」の要件として、以下の3点を定めました。
(個別的)自衛権発動の三要件
- 我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること
- これを排除するために他に適当な手段がないこと
- 自衛のための必要最小限度の実力行使にとどめること
<集団的自衛権と憲法9条>
集団的自衛権とは、国際法上、自国が攻撃を受けていなくても、自国と密接な関係にある外国が攻撃された場合に、その外国を支援するために武力を行使する権利のことで、国際法上、すべての主権国家に与えられています。
◆ 集団的自衛権の行使容認
歴代内閣は、長年、日本は集団的自衛権を国連憲章で権利を認められているが、憲法9条の「戦争放棄」「戦力不保持」「交戦権否認」という観点から、集団的自衛権の行使は許されないとの立場でした。
しかし、安倍内閣は、2014年7月、それまで維持されてきた政府の憲法解釈を変更し、地政学的な変化や技術革新の加速など「我が国を取り巻く安全保障環境が激変した」として、限定的に集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をしました。
自国に対する武力攻撃に匹敵するような、日本に密接な関係のある他国への武力攻撃が発生した場合(そのときは自国の存立が脅かされ、国民の安全が危ぶまれる場合)に、反撃可能になります。
より具体的には、憲法上の自衛権の行使の範囲を超えないことを前提に、国の存立を全うし、国民の安全を守るため、必要最小限度の実力を行使することを認めるという解釈改憲を行ったのです。
これにより、日本への直接的な攻撃に対して、最小限の武力行使しか許されなかった自衛隊は、親密な他国が攻撃を受けた場合でも、以下の3条件を満たせば、集団的自衛権は「憲法上許容されると考えるべきである」とされました。
日本と密接な関係にある国が攻撃された場合、以下の3条件を満たせば、集団的自衛権は「憲法上許容されると考えるべきである」と判断するに至りました。
集団的自衛権行使の3要件
- 我が国と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命・自由・幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある。
- 日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない、
- 必要最小限の実力行使にとどまる
これは、(個別的)自衛権行使の第一要件(「我が国に対する急迫不正の侵害があること」)に、「わが国と密接な関係にある他国が武力攻撃を受け」という文言を加えて、日本が、他国のために武力を行使することを可能にしました(自衛権の発動3要件の②、③は変わらず、①を変えた)。
三条件に該当するかどうかは「政府が全ての情報を総合して客観的、合理的に判断する」、実際に武力を行使するかどうかは「高度に政治的な判断」としています。
◆ 砂川事件を引用
当時の安倍首相や自民党幹部らは、集団的自衛権の行使容認の論拠として、1959年の「砂川事件」判決を持ち出しました。
砂川事件とは、1957年7月、東京都砂川町(現立川市)などへの米軍立川基地の拡張に反対するデモ隊が、アメリカ軍基地の立ち入り禁止の境界柵を壊し、基地内に数メートル立ち入った事件で、被告人は根拠法である日米安保条約やそれに基づく米軍の駐留が憲法に違反しているとして無罪を主張しました。
「米軍の日本への駐留は、憲法9条の趣旨に反しない」と米軍の駐留を合憲とした上で、「傍論(判決の中の付随的意見)」として、自衛権についても言及、「わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない」と判示し、自衛権そのものも認めました。
安倍政権はこれを根拠に、「最高裁は、わが国の存立を全うするのに必要な範囲で、個別的か集団的かという区別をせずに自衛措置を認めている」として、集団的自衛権の限定容認を正当化しようとしたのです。
ただし、「砂川判決の傍論が認めた『固有の自衛権』も、集団的自衛権があるかどうかまで見通したとは考えらず、あくまでも個別的自衛権を指す」として、安倍政権が、砂川判決を根拠として集団的自衛権を認めたことに対して、学会・法曹界から批判されました。
いずれにしても、集団的自衛権の容認は、自衛隊創設以来の大きな転換になり、安倍政権は、戦後日本の安保政策を大きく変えました。
<安全保障関連法>
政府は憲法解釈を変更し、閣議決定によって、憲法9条のもと歴代の政権が許されないとしてきた集団的自衛権の行使を容認した後、実際に自衛隊を動かすための法整備を進め、2015年9月に安全保障関連法(安保法制)を成立させました。
この法律では、集団的自衛権の行使容認にとどまらず、住民保護における武器使用の容認、他国の戦闘行為に対する後方支援、武器等防護(武器の禁輸見直し)などの規定に加えて、PKOなど国際平和協力活動などの分野も網羅され、自衛隊の活動範囲や内容が拡大されました。
安保関連法は、日本および国際社会の平和と安全のための切れ目のない体制の整備を目的として、新しくつくられた「国際平和支援法」と、自衛隊法改正など10の法律の改正を一つにまとめた「平和安全法制整備法」からなります(国際平和支援法と平和安全法制整備法とを総称して、平和安全法制と呼ぶこともある)。
◆ 国際平和支援法(新設)
(「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」)
国際平和支援法は、安保法制で、新たに作られた新法で、*国際平和共同対処事態における協力支援活動等に関する制度を定めることを内容とします。
*国際平和共同対処事態
日本の安全に直接の影響はないが、国際社会の平和と安全を脅かす戦争・紛争が起こった場合をいう。
日本は、これまで自衛隊派遣のたびに、「テロ対策特別措置法」や「イラク特別措置法」など。期限付きの特別措置法(特措法)を国会で制定して対応してきました。
ところが、その都度、法律(特措法)を作るとなると、成立まで時間がかかり、切れ目のない対米支援を実現できなるとして、新たに「恒久法」としての国際平和支援法を創設し、「国際平和共同対処事態」が発生した場合、自衛隊の随時派遣を可能にしました(「事態」が発生すれば国会の承認のみとなる)。恒久法の創設で、自衛隊をいつでも海外へ派遣できることになったのです。
派遣の要件
ただし、自衛隊が派遣されるためには、国会の承認(派遣から2年後に再承認)と、以下のいずれかの国連決議を必要としています。
- 支援対象となる外国が、国際社会の平和および安全を脅かす事態に対処するための活動を行うことを決定、要請、勧告または、その活動を認める決議。
- 当該事態が平和に対する脅威または平和の破壊であるとの認識を示すとともに、当該事態に関連して国連加盟国の取り組みを求める決議
対応措置
派遣された自衛隊は、現地で、諸外国の軍隊等に対する物品及び役務の提供など、他国軍を後方支援します(武力行使は認められていない)。
具体的には、補給、輸送、修理及び整備、医療、通信、空港及び港湾業務、基地業務、宿泊、保管、施設の利用、訓練業務、建設などで、弾薬の提供含みます。このほかに、捜索救助活動、船舶検査活動に関する条文が盛り込まれています。
また、「非戦地域」に限定されていた活動が、新法では「現に戦闘が行われている場所以外」と規定され、活動場所がより前線に近づく場合も想定されています。
◆ 平和安全法制整備法
(我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律)
平和安全法制整備法は、以下の10の法律を一括改正してまとめてものです。
- 自衛隊法
自衛隊法は、自衛隊の任務、組織・編成、行動・権限、隊員についての取り扱いを定める法律で、主な改正は以下の5点で、武器使用基準の緩和が主な要点となります。
・緊急事態における在外邦人の保護が可能
自衛隊の部隊等が外国における緊急事態に際し、生命または身体の危害が加えられる恐れがある邦人を保護するというもので、任務遂行のために、正当防衛や緊急避難の範囲で武器使用が可能となりました。
(従来の自衛隊法に規定されていた邦人の輸送には、今回の緊急事態における在外邦人の保護措置の規定がなかった)
・米軍部隊の武器等の防護
従来までは、自衛隊の武器等を防護するために限定的な武器使用が可能でしたが、今回、自衛隊は、米軍等の部隊の武器等を防護するためにも、武器を使用できるようになりました。
・平時における米軍に対する物品役務の提供の拡大
米軍に対する自衛隊の協力範囲を拡大され、警護出動として掲げる区域・施設での防護、海賊対処行動、弾道ミサイル破壊措置、機雷その他の爆発性の危険物除去、情報収集活動、米軍施設への滞在時の防護などが規定されました。提供の対象となる物品には、弾薬が含まれます。
・上官命令に反抗した者に対する罰則規定を国外においても適用
これまで、国内で起きる武力攻撃事態の際、上官に反抗した場合の処罰規定を、存立危機事態がおきた場合、国外においても適用するよう範囲が拡大されました。
具体的には、国外において、上官の職務上の命令に対する多数共同しての犯行および部隊の不法指揮、防衛出動命令を受けた者による上官命令反抗・不服従等などが規定されています。
・存立危機事態に対処する自衛隊の任務が、主要任務に位置づけ
自衛隊の任務に関する定義として、自衛隊は、「直接侵略および間接侵略に対し、我が国を防衛すること」を主たる任務とされ(自衛隊法第3条)、防衛出動時の武力行使は、我が国に対する武力行使が発生するか明白な危険がある場合に限定されてきました。
一部改正によって、防衛出動における武力行使の要件に、「存立危機事態」が追加されることととなり、存立危機事態における自衛隊による対処が、自衛隊の主たる任務に位置付けられました(3条から「直接侵略及び間接侵略に対し」という言葉が削除)。
*存立危機事態
わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態。
自衛隊法は、PKO法やテロ特措法などに合わせて改正されてきた経緯があり、今回も平和安全法制整備法においても改正の対象となりました。
- 国連PKO協力法
(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律)
PKO協力法は、日本が、PKO活動(国連平和維持活動)、人道的な国際救援活動、国際的な選挙監視活動などに協力するための制度や手続きを定めた法律で、実施計画の策定、PKO部隊の設置、物資協力のための措置が講ぜられています。
改正によって、PKO活動内容が拡充され、これまでの停戦監視、被災民救援等に加えて、安全確保業務・駆け付け警護、司令部業務などが追加されました。
とりわけ「駆けつけ警護」が可能になったことが注目されます。これまでは、「駆けつけ警護」という任務が与えられていなかったため、自衛隊が、PKO活動中、自衛隊の近くで活動する他国の部隊や国連NGOなどが、武装勢力などから武力攻撃にさらされた場合、自衛隊に救援支援要請が出されても、自衛隊は駆け付けてその保護にあたることができない状況でした。
駆けつけ警護が可能になったことで、PKO活動における国際社会からの信頼性がより高まることになります。また、自らの防衛(自衛)のためだけに認められている武器使用の基準も緩められ、他国の要員や施設が襲われた際にも武器を用いて対応できるようになりました。
一方、新たに可能になった、PKOの司令部業務とは、国連平和維持活動(PKO)における企画立案、調整、情報収集・整理など、活動全体の管理や後方支援を担当する業務を指します。
さらに、自衛官(司令官等)の国際連合への派遣、大規模な災害に対処する米軍等に対する物品または役務の提供が可能となり、国際的な選挙監視活動の協力対象が拡大されます。
加えて、PKO協力法の改正によって、国連の専門機関・関連機関、地域機関、非政府組織(NGO)など、国連が直接統括する機関以外からの要請でも派遣が可能となったことが挙げられます。これにもとづく活動は、国際平和連携安全活動と呼ばれ、自衛隊の国際的な地位向上や、国連PKO以外の活動範囲の拡充が可能となります。
- 重要影響事態安全確保法
(重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律)
重要影響事態安全確保法は、*重要影響事態に際し、「合衆国軍隊等に対する後方支援活動等を行うことにより、重要影響事態に対処する外国との連携を強化し、我が国の平和および安全の確保に資する」ことを目的とした法律です。
従来の「周辺事態安全確保法」を改正し「重要影響事態安全確保法」に名称変更し、目的規定も見直されました。
*重要影響事態
そのまま放置すれば、日本に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態などで、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態
*周辺事態
わが国の周辺地域における日本の平和と安全に重要な影響を与える事態で、自衛隊の活動範囲が広がり、周辺地域での活動が許容されました。(重要影響事態は、この定義から「わが国周辺の地域における」が削除された)
これまで、周辺事態安全確保法(1999年8月施行)によって、朝鮮半島など日本の「周辺」において、自衛隊は米軍を後方支援することができるようになりましたが、同法の改正によって、重要影響事態が発生した場合、自衛隊を世界中に派遣することが可能となりました。具体的な改正法の骨子は次の2点です。
地理的な制限が無くなる
支援を実施する範囲を、従来までの「日本周辺」を意味した「*周辺事態」から、「*重要影響事態」とすることで、対応措置を実施する地理的な制限をなくしました(改正法では「我が国周辺の地域における」という文言が削除された)。
ただし、「*武力行使の一体化」を防止するために、現に戦闘が行われていないこと、外国領域での活動における当該外国の同意がある場合にのみ外国領域での活動が可能となります。また、周辺事態法と同様、原則としての国会の事前承認も必要です。
*武力行使の一体化
他国の軍隊による武力行使に対して日本が密接に関与することにより、日本が直接武力行使をしていなくてもしたと見なされること。日本は、憲法9条の制約からこれを認めていない。
米軍以外への対応措置が可能になること、
後方支援の対象も、合衆国軍隊「等」とされ、従来まで、支援対象は米軍のみでしたが、米軍以外の外国軍(国連による軍隊を含む)にも拡大しました(法文には、具体的に「その他の国際連合憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊」と「その他これに類する組織」と明記)。
これらの変更にともない、提供できる対応措置の内容が拡大し、武器・弾薬の提供が禁止されていた状態から弾薬の提供が可となりました。また、宿泊、保管、施設の利用、訓練業務についての役務提供が追加されています。
- 船舶検査活動法
(周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律)
船舶検査活動法は、周辺事態(重要影響事態)が発生した場合に、自衛隊の部隊等が民間の船舶に対して積み荷や目的地を検査する方法や手続き、武器使用などについて定めた法律です。
これまでの船舶検査活動は、周辺事態に対応するため、日本の領海または周辺の公海において国連安保理の決議または船舶が登録している旗国の同意を経て、乗船検査や進路変更などが実施できました。
その際、自衛隊の部隊等が「武力行使の一体化」を避ける観点から、事前に船長の承諾を取りつつ、外国の船舶検査活動と区別できるよう活動していました。その際、相手側船舶から攻撃があった場合は自らを守るために武器使用が認められていました。
それが今回の改正によって、重要影響事態に対応するため、日本周辺以外での船舶検査(海上臨検)が可能になりました。また、自らを守ることに加え、自己の管理下に入った者を守るための武器使用も許されると規定されました。
- 事態対処法(武力攻撃事態法)
(武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律)
武力攻撃事態対処法(2003年6月施行)は、武力攻撃事態等への対処について、基本理念、国・地方公共団体等の責務、手続など基本的事項を定めた法律です。
改正前は、「武力攻撃事態」に対する対処方針、武力攻撃排除のために自衛隊の行動や米軍への支援に関する規定、国民生活や経済への影響を最小限にするための連絡や物資等に関する規定が含まれていました。
同法の改正によって、既存の武力攻撃事態・武力攻撃予測事態等に加えて「*存立危機事態」への対処を行うことが追加されました。存立危機事態が追加されることによって、日本に対する直接侵略および間接侵略が発生していない場合でも防衛出動による対処が可能になります。
*存立危機事態
日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより、日本の存立が脅かさ
れ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態。
*武力攻撃事態
日本に対する外部からの武力攻撃が発生した事態、または武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態のこと。
*武力攻撃予測事態
武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう。
事態対処法(武力攻撃事態対処法)の改正は、安倍政権が閣議決定した「集団的自衛権行使を容認」するための根拠法で、安保法制の「本丸」です。
もともと、武力攻撃事態対処法は、文字通り、日本が第三国から直接、武力攻撃を受けた場合に、個別的自衛権を行使する手順をまとめた法律でした。それを安倍政権では、*集団的自衛権の行使を認めるために、同法を改正し、集団的自衛権の行使要件として「存立危機事態」を新設したのです。
また、改正によって、日本は、「国際法上、集団的自衛権を有しているが、その行使は憲法上許されない」との立場を修正した形となりました。
*集団的自衛権
自国が直接攻撃を受けていない場合でも、自国と密接な関係にある第三国が攻撃を受けたときも、これを自国への攻撃とみなし、一緒になって反撃する権利のことで、個別的自衛権と並んで、国連加盟国の「固有の権利」として、国際法(国連憲章51条)上認められている。
――――
武力攻撃事態対処法の改正に伴って、安保法制では、自衛隊法の一部改正に加えて、4本の法律(米軍等行動関連措置法、特定公共施設利用法、海上輸送規制法、捕虜取扱い法)の改正が行われました。
これらは、武力攻撃事態と存立危機事態が発生した際に、円滑な活動を行うための関連法規の整備で、武力攻撃事態法の改正に伴って事務的に行われる改正です。
- 米軍等行動関連措置法
(武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律)
改正前の米軍行動関連措置法は、武力攻撃事態等において、日米安保条約に従って武力攻撃を排除するために必要な米軍の行動が円滑かつ効果的に実施されるための措置などについて規定していました。
改正によって、支援対象をアメリカ軍以外の外国軍隊等にも拡大されました。法律名も米軍行動関連措置法から、「米軍等」に変更されました(正式名称も「武力攻撃事態等および存立危機事態における…」へ)
- 特定公共施設利用法
(武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律)
特定公共施設利用法は、自衛隊の行動や米軍の行動、国民の保護のための措置などを的確かつ迅速に行うため、武力攻撃事態等における特定公共施設等(港湾施設、飛行場施設、道路、海域、空域及び電波)の利用について定められていました。
改正によって、アメリカ軍以外の外国軍隊でも港湾・飛行場などの特定公共施設等の利用が可能になりました。
- 海上輸送規制法
(武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律)
海上輸送規制法は、武力攻撃事態に際して、日本に対して武力攻撃を行っている外国の軍隊等へ向けた武器、弾薬、兵員などの海上輸送を規制するため、日本の領海または日本周辺の公海で、海自が実施する停船検査、回航措置の手続などについて規定していました。
改正によって、存立危機事態においても海上輸送規制を可能とする規定が追加されました。また、海上輸送規制の実施海域については、日本の領海、外国の領海(当該外国の同意がある場合に限る)または公海とされました。
- 捕虜取扱い法
(武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律)
捕虜取扱い法は、捕虜等の取扱いにかかる国際人道法の的確な実施を確保するため、武力攻撃事態における捕虜等の拘束、抑留その他の取扱いに必要な事項を定めていました。
改正によって、捕虜等の取扱いについて存立危機事態も同法の適用対象に追加されました。
- 国家安全保障会議設置法(NSC設置法)
国家安全保障会議設置法(1986年7月施行)は、我が国の安全保障に関する重要事項を審議する機関として、内閣に国家安全保障会議が設置されている根拠法です。
国家安全保障会議では、国防の基本方針(現在の国家安全保障戦略)、防衛計画の大綱(現在の国家防衛戦略)、武力攻撃事態への対処に関する方針や重要事項などが審議されています。
改正によって、同会議で取り扱う新たな審議事項として、「存立危機事態」「重要影響事態」「国際平和共同対処事態」への対処が正式に加えられました。
これにより、国政平和協力法や自衛隊法改正と連動し、国際平和協力業務(駆けつけ警護)の実施計画の決定や変更、国連PKOへの自衛官の派遣、在外邦人の保護措置の実施なども、必ず審議しなければならない事項として義務付けられました。
◆ 様々な「事態」
安保法案では、自衛隊の派遣が可能となる、さまざまな「事態」が想定され、事態の内容によって自衛隊が活動できる内容や、国会承認手続きの必要性などが盛り込まれました。
武力攻撃事態(武力攻撃発生事態)
日本に対して外国からの武力攻撃が発生した事態です。この事態においては、憲法が定める自衛権(個別的自衛権)の行使が可能です。
(武力行使×、防衛出動○)。
武力攻撃切迫事態
日本に武力攻撃が発生する明白な危険が切迫している事態で、武力攻撃事態の一部とみなされています。
(武力行使×、防衛出動○)
武力攻撃予測事態
武力攻撃の恐れがある事態で、武力攻撃は発生していないものの、事態が切迫し、武力攻撃が予測されるようになった事態をさします。
(武力行使×、防衛出動×、出動待機○)
存立危機事態
日本への武力攻撃が発生した場合ではなくても、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」で、集団的自衛権の行使が可能となります。
(武力行使○、防衛出動○)
重要影響事態
そのまま放置すれば、日本に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態などで、日本の平和と安全が著しく影響を受ける事態で、自衛権は発動できず、できるのは、他国軍の後方支援です。
(武力行使×、防衛出動×)
ここまでの5つの「事態」において、自衛隊が機動する場合、原則として事前の国会承認が必要ですが、事後の承認も例外的に認められています。
国際平和共同対処事態
かつての米アフガニスタン戦争(対テロ戦争)や、米イラク戦争など、国際社会の平和と安全を脅かす事態で、自衛権は発動できず、他国軍への後方支援が可能となります。国会の事前承認が例外なく必要となります(事後承認は不可)。
(武力行使×、防衛出動×)
◆ 武力攻撃が発生したときの対処法
では、どうして、このように多くの「事態」が規定されたのかといえば、それは、「切れ目のない対応」を必要としたからです。ここ最近、戦争というわけではないが、平和かといも言えない、いわゆる「グレーゾーンの事態」が増えてきたことへの対応でもあります。
まとめると、事態対処法では、武力攻撃が、日本に当てはまる「事態」は、「武力攻撃(発生)事態」、「武力攻撃切迫事態」「武力攻撃予測事態」、「存立危機事態」の4つです(「武力攻撃切迫事態」を「武力攻撃事態」に含めれば3つ)。
その場合、各事態では、防衛出動できるか、武力行使ができるかどうかが問題となります。
防衛出動
防衛出動は、自衛隊が行う活動のうちの1つで、他国の軍や組織などによる、砲(大砲や火砲)やミサイルなどの武力攻撃から日本を守るための活動です。
自衛隊が防衛出動をするのは、「武力攻撃事態」、「武力攻撃切迫事態」、「存立危機事態」のときだけ、他のいずれの「事態」において、防衛出動は認められていません。この防衛出動も、内閣総理大臣の命令と国会承認が必要です。
ただし、「武力攻撃予測事態」だけは、武力攻撃が「明らかに迫っている」事態なので、「防衛出動のための待機はよい」として、「出動待機」が認められています(防衛大臣が命令を出す)。出動待機を命令された部隊は、いつでも防衛出動ができるように準備を整えます。
武力行使
防衛出動した自衛隊は、状況に応じて「武力行使」することが認められています。他国の軍や組織からの武力攻撃を排除し、日本を守るために行う戦闘行為が「武力行使」です。これはこの防衛出動しているときにだけ認められています。
(参照)
安倍首相が抑止力強調、集団的自衛権の行使容認を閣議決定
(2014年7月1日、ロイター)
憲法9条と安全保障(NHK)
砂川事件 最高裁判決(昭和34年12月16日 最高裁・大法廷)(首相官邸ホームぺージ)
砂川判決がなぜ集団的自衛権の論拠に?
早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
(2014/5/7 PAGE)
砂川事件判決を集団的自衛権の根拠とすることに反対する会長声明
(2014年05月02日東京弁護士会)
「新安保法制」の問題点とは何か
(2015/03/26、ニューズウィーク日本版)
安保法制が分かるポイント解説
(政治・選挙プラットフォーム【政治山】)
武力攻撃が発生したとき、自衛隊はどう対処する? 日本を守る2つの対処法
(2024-01-19、MAMOR)
防衛白書
(投稿日 2025.9.10)