令和のコメ騒動に揺れる日本ですが、コメの供給に頭が一杯で、安全性の議論がなおざりになっているようです。本HP「レムリア」では、『日本の農業 その現実と未来』をテーマに、「食の安全」についても議論してきましたが、ここで改めて、遺伝子組み換え(GM)種子メーカーの世界最大手、モンサント(現バイエルン)に焦点を当て、遺伝子組み換え市場について深堀りすると同時に、旧モンサントの功罪を検証します。
なお、今回の投稿は、拙著「日本人が知らなかったアメリカの謎」の中の「モンサント ―遺伝子組み換え種子で、世界を支配!?その目的は何?―」を加筆校正したものです。
また、現在、モンサントは独バイエルに買収されて、会社名もバイエルですが、モンサントは、遺伝子組み換え種子メーカーの代名詞となっていたので、この投稿では旧名のモンサントを使用します。
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<モンサントという名のバイオ企業>
モンサントといえば、ベトナム戦争時に米軍がばらまいた枯れ葉剤を創り、提供したことで有名で、1980年代には牛成長ホルモン(rGBH)を広めて大儲けした企業です。枯れ葉剤も成長ホルモンも後に甚大な健康被害を与えました。特に、ベトナムでは、今なお、奇形児や障害をもった子どもたちが生まれています。
モンサント社(本社・ミズーリ州)は、1901年に米国のミズーリ州セントルイスで創業されました。甘味料のサッカリンの生産から始めて、アスピリンなどの医薬、DDTや2,4-Dなどの農薬、ポリ塩化ビフェニル(PCB)を含む世界有数の総合化学メーカーに成長しました。
創業から100年後の2000年以降、化学工業分野の多くの事業を売却などして、農作物の種子や、除草剤など農業資材等、100%農業関連製品事業を行う企業となりました。
とりわけ、遺伝子組み換え(GM)種子のリーディング・カンパニーとして、世界のGM種子市場をほぼ独占するまでに成長を遂げました(市場シェア、一時90%とも言われた)。
現在、アメリカの大豆とコーンの9割以上は遺伝子組み換えによるものであるといわれるぐらい、モンサントのGM種子が全米で普及、さらに世界に輸出されました。
<モンサントはいかに巨大化したか?>
◆ GM種子と「ラウンドアップ」とセットで!
農業界でモンサントの名が知られるようになったのは、1976年に商品化され、今も世界中で使われている、除草剤「ラウンドアップ」が発売されてからです。
猛毒成分「グリホサート」を含む除草剤「ラウンドアップ」を播けば、自然界のあらゆる害虫や雑草を死滅させ、農家は、広大な農地の手入れに無駄な除草作業などを行う必要はなくなります。
モンサントは、「ラウンドアップ」と、この農薬を浴びても枯れずに、育ち続け、かつ生育のいい遺伝子組み換えした種子を農家にセットで販売しています。モンサントが開発したGM種子の耐久性は、かつて自らが作り、ベトナム戦争で使われた枯葉剤の化学物質にも耐えうるとまで言われています。
農家からすれば、「農作業が楽なうえに収量が増える」と言われればこれを断る道理はありません。しかし、「おいしい話し」は最初の数年だけとなります。
◆ モンサントのGM種子は自殺種子
まず知っておくべきことは、モンサントが販売するGM(遺伝子組み換え)種子は、生産性は上がりますが、次世代を残せないように遺伝子操作されている一代限りの「自殺種子」であるということです。
自殺種子は、悪魔の種とも呼ばれ、ターミネーター種子、ハイブリッド種などとも同義です。ターミネーター種子からできたGM作物は、種が出来ず、一代で死滅する作物なのです。この自殺種子があまりにも主流になり、純粋な個体種が日本を含め世界から消滅することが危惧されています。
かつて農家は、収穫後に種を保存するのが当たり前でしたが、GM種子の登場で、農業の基本であった持続可能モデルは崩壊の危機に瀕しています。これはまた、親から子、子から孫へ命を繋いできた生命倫理の崩壊とも言われています。
◆ 自殺種子から得られる利益
ではなぜ、モンサントは、そうした自爆装置を種子に組み入れるのかといえば、独自に開発した遺伝子組み換え種子を、勝手に「複製」させないためという自社都合の理由からです。ということは、一度、モンサントのGM種子を選択した農家は、毎年、新たに種子をモンサントから買い続けなければならなくなります。
また、ひとたび遺伝子組換え作物の栽培を選択してしまうと、花粉による交雑が始まり、それを除去することは永遠に不可能になると言われています。農家は、有機農法に切り替えることも、自分の栽培したい品種を栽培するといった自由を結果的に失ってしまう恐れがあるのです。
しかも、除草剤と殺虫剤で雑草や害虫を防げても、それに抵抗力をもつ雑草や害虫がやがて出現してきます。これに対して、遺伝子組合え技術を使ってさらに強力な除草剤と殺虫剤を開発しても、再びこれに抵抗力をもつ雑草や害虫が…というように、自然との「いたちごっこ」を繰り返していくことになります。
と同時に、農家は、新しい化学肥料(ラウンドアップ)がでるたびにセットで購入を強いられることになります。これは、モンサントが、遺伝子組み換え作物とセット販売でラウンドアップの使用することをガイドライン化する強引な販売商法を実施しているからです。たとえ、農家は借金漬けになっても、モンサントは儲かる仕組みができているのです。
さらに、モンサント製の種子が、風か何かで飛んでいって、在来種との交雑してしまうとどうなるでしょうか?在来種の農家は自分が植えた覚えもない遺伝子組換え作物を栽培していることにされてしまい、特許料を支払わされるか、さもなければ訴訟に持ち込まれるといった事態にもなりかねません。そうなると、法外な特許料を払うよりも、農家は示談を望むようになり、モンサントの種子を使うということで落着するようです。
このように、農薬と種子を組み合わせた提案で農家を囲い込んできたモンサントの手法は、種子に与えた知的所有権を使った食料支配であり、農業支配と批判されています。
<遺伝子組み換え食品は世界を救う!?>
◆ 常に残る安全性への不安
遺伝子組み換え(GM)食品は、世界の飢餓を救うという名目で広められてきました。日本でも、かつて、地球をバックにアフリカの飢餓状態の子どもが映され、「遺伝子組み換え食品が世界を救う」というフリップがでてくるCMが流されていたのを覚えています。
実際、人口増や新興国の生活水準の向上による需要の増大や、干ばつなど天候異変に対して、食料の安定供給のために、害虫や千ばつに強い農産物の種子などへのニーズが高まっていきました。
しかし、そもそもGM(遺伝子組み換え)食品は、本当にモンサントやFDA(食品医薬品局)が主張するように安全なのでしょうか?
最近の研究で、遺伝子組み換えトウモロコシや大豆を食べ続けていたネズミの肝臓と腎臓に重大な組織破壊が起きたことが発見されています。人間にも特に子供において、食品アレルギー、ぜんそく、糖尿病、肥満、消化器障害などが急増し、発ガン物質の生成も確認されています。
普通に考えても、殺虫能力をもつような作物を直接・間接に、長期的に摂取し続けてわれわれの体に悪影響はないなどと言えません。「GM作物が世界(の飢餓)を救う」どころか、GM作物が人々の健康を破壊している可能性もあるのです。
◆ モンサントの知恵
これに対して、モンサントを初めとする種子メーカーは、アメリカ国内外で起きている、農家やその近辺の住民に深刻な健康被害を「直接的な因果関係が証明できていない」という決まり文句でネガティブな世論を押さえ込みながら、健康に影響のないことを主張する科学者や専門家の主張(意見)を根拠に、安全性を懸念する消費者を説得しています。
さらに、モンサント社製の大豆やトウモロコシが、有害な副作用があるのかどうかについて、独立した調査では検証することができないような契約上の仕組みを作っていると言われています。
具体的には、モンサントのGM(遺伝子組み換え)種子を、環境や人体、動物に与える影響や副作用についての実験調査のために使用できないという条件を、GM種子を購入する際に約束させているそうなのです。
加えて、バイオテック産業を監督してGM食品の危険性を調査すべきFDA(食品医薬品局)など監督省庁は、モンサントの下請けのようになっていると批判されています。例えば、厚生省やFDAなどの主要ポストにモンサント関係者がついたり、モンサント出身の議員がモンサントに利益誘導する法案を議会で通過させることを後押ししたりと・・・、日本でも指摘される農政の癒着のトライアングルができあがっていたようです。
◆ 消費者・市民団体の反発
こうした「世界の飢餓を救う」という言葉を、自らのビジネスにとって便利な隠れ蓑に使い、人間のための食料生産というよりも、安全性はそっちのけに、利益を優先し、食品という巨大ドル箱市場のビジネスで大儲けをしてきたモンサントに対して、ここ数十年、多くの市民団体や消費者団体などは、批判を続けています。とりわけ、自然が作り出した種子を私物化・独占し、それを知的所有権によって自らの利益の源にしてしまうという手法に対して、激しい嫌悪を表明してきました。
モンサントの種子や除草剤ビジネスを批判する本や映画などが後を絶ちませんでした。健康志向者が増えているアメリカでは、多くの国民が、遺伝子組み換え食品や農薬の質について、今も過敏になっています。
<日本とモンサント>
では、わが国の場合はどうでしょうか?たとえば、日本は、とうもろこし(コーン)などは95%以上輸入しています。その大半は、モンサントの種子をつかったアメリカからきています。残りの1%でもせめて国産かというと残念ながらそうではありません。国産と称して販売されている日本のコーンの種はモンサント製とされています。ということは、一代種で毎年購入しなければならない代物です。
今、日本で種苗を手に入れようとホームセンターや農協に出かけても、9割以上が実はモンサントやカーギルなどに経営権を買収されており、従来種を買うことは難しいとされています。
モノは国産でも種は外来で、日本の穀物は、ごく一握りの有機の種子で栽培している農家を除いて、アメリカの管理下に100%置かれているといっても過言ではありません。
卵を生むニワトリも、牛や豚もGMコーンを飼料として食べています(本来、牛は草を食べるはず…)その意味では、穀物だけでなく、国産とされるニワトリ、牛、豚も実は国産とは言えないのが現状です。
<モンサントの影響力>
◆ モンサントが語る使命
モンサントは、自社の使命を、「資源が限られている中で、遺伝子組み換え技術によって、農業生産を増やし、今後増え続ける食糧のニーズに応えること、さらに、最悪の場合に訪れる世界の飢餓を救う」という大きな目標と使命を持って仕事に取り組んでいると主張しています。2030年までにトウモロコシ、ダイズ、ワタ、ナタネなどの穀物収量を倍にする目標を立てていました。
しかし、モンサントの意図にかかわらず、事実上、遺伝子組み換え種子を使って、世界の食糧を支配(種子を支配することで食料を支配)しようとしていると言われても、弁明の余地がないぐらい、モンサントの影響力は世界に浸透していることも事実です。
加えて、アメリカを含む多くの国で、バイオテクノロジーは次世代の成長産業と位置づけられ、財政面などで政府によって、その企業活動を積極的に支援されてきました。
◆ 世界の「モンサント法案」
2012年3月、メキシコで「モンサント法案」とよばれる法案が準備されました。これは、「種子を保存し、次の耕作に備える」という先祖代々受け継いでいる行為を犯罪として禁止し、メキシコ政府に登録されている種子(GM種子)を毎年買うことを義務付けるというものでした。
この法案は農民の憤激を買い、廃案となりましたが、メキシコに留まらず、ラテンアメリカの国々に、同様の試みがなされていきました。もっともどの国でも実現していませんが、モンサントを利するものとして「モンサント法案」の名で呼ばれるようになりました。
自分たちが種子の供給を独占し、農民には毎年種子を買うこと義務化する…、農民が自分たちの種を自由に蒔くことを犯罪とし、種子はモンサントから買わなければならないという制度は、まさにモンサントがめざす世界です。
◆ GM種子一色となった世界…
しかし、農作物の種子はモンサント製で統一されれば、それは、農作物が一つの種類の遺伝子で統一されてしまうことになります。そこにもし、安全性の問題などが生じる事態がおきればどうなるでしょうか?
さらに、前述したように、モンサントの除草剤・殺虫剤と耐性を持った雑草や虫との「戦い」が続いていけば、やがて農地は死んでしまうでしょう。そうなると、人災による食糧危機は必然となります。
モンサントなど、ビッグ・バイオテック(巨大生命遺伝子業界)はすでに、農薬で自然(土壌)を汚し、GM種子によって、人間の遺伝子的な基盤を破壊しています。この状態が続けば、やがて、地球がパンクしてしまうことが懸念されます。
<モンサント買収>
そんな「悪魔のGM種子」をつくる「悪魔の企業」と世界から批判されたモンサントが、2018年、独の化学・製薬大手バイエルに買収されました。
バイエルは買収後、モンサントの事業を傘下に収め、遺伝子組み換え作物の種子ビジネスも継続、農薬・種子の圧倒的な巨人になりました。世界市場シェアは、バイエルが一位です。
これによって、100年以上(117年)続いたモンサントの企業名も消滅しました。モンサントの名前が消えることは、バイエルの戦略の一環で、モンサントと遺伝子組み換え作物(GMO)へのネガティブなイメージを払拭するためでした。
そのモンサントにしてみても、バイエルの名の下に、過去の負(悪)のイメージから脱皮して、これまでと変わらずGM推進戦略を継続、または新たな分野に進出することが可能になります。
しかし、モンサントの名前が消えたからといって、遺伝子組み換え種子・作物の脅威がなくなったわけではなく、むしろ歯止めがきかなくなる状況すらおこりえます。
(発展)
<世界の穀物・種子企業の動向>
◆ ビッグ6体制
世界の農薬・種子市場は、2000年にスイスのノバルティスと英アストラゼネカの農薬事業統合によって、シンジェンタが誕生して以来、米モンサント、米デュポン、スイスのシンジェンタ、米ダウ・ケミカル、独バイエル、独BASF(バスフ)のビッグ6体制が確立していました。ビッグ6の農薬・種子市場の世界シェアは約65%に上ると試算されていました。
◆ 業界再編
その後、新興国の人口増などで食糧需要が拡大する一方、企業側では、農業生産の効率化の必要に迫られるなか、集約化に向けた業界再編が加速しはじめました。
まず、2015年12月、米化学大手のダウ・ケミカルとデュポンが経営統合で合意し、2017年8月、農業関連事業を統合した新会社「ダウ・デュポン」が設立されました。
ダウ・デュポンは、その後、2019年4月~6月にかけて、素材科学事業の「ダウ」、農業関連事業の「コルテバ」、特殊化学品事業の「デュポン」の独立した3社に分割されました。このうち、コルテバ:が、農業関連事業に特化し、種子や農薬などの分野で事業を展開しています。
また、2016年2月には中国国有化学大手の中国化工集団(ケムチャイナ)が、農薬首位のシンジェンタの買収を発表し、2017年6月に承認されました。
加えて、2016年9月、ドイツの医薬・農薬大手バイエルによる、種子最大手モンサントの買収が発表され、2018年6月に完了、文字通り化学、農薬、種子の巨大企業が誕生しました。この合併によって、モンサントは上場廃止となり、バイエルが唯一の株主となりました(モンサントの社名が消えた)。
モンサントは、2015年、シンジェンタ(スイス)の買収に動きましたが、シンジェンタの反対を受け合意に至らず断念。直後に独バイエルによる買収提案を受け合意しました。
◆ 四強体制の確立
2015年末のダウ社とデュポン社の合併発表から始まった、バイテク大手の業界再編成も一応決着し、現在、種子・種苗市場は、バイエル、コルテバ(ダウ・デュポン)、シンジェンタ、BASF(バスフ)の4強体制となっています。
これらの企業は、農薬事業でも強い存在感を示しており、種子と農薬の両方を組み合わせたビジネスモデルで市場をリードしています。中でも、再編によって、農薬ではダウ・デュポン、種子ではバイエルの市場占有率が著しく上がっています。
現在、種苗・種子業界の世界市場シェア(2023年)は、バイエルが1位、その後コルテバ、シンジェンタなどが続いています。
- バイエル 4%
- コルテバ 1%
- シンジェンタ 7%
- BASF 5%
調査会社マーケッツアンドマーケッツによると、2023年の種苗・種子業界の市場規模は588億ドルです。2028年にかけて年平均7.2%で成長し、規模は833億ドルへと拡大することを見込んでいます。
(参照)
遺伝子組み換えは世界を飢餓から救うのか?
(2015/3/17、日経)
忍び寄る遺伝子組み換え作物 拡散気づかず栽培も
(2013年12月22日、朝日)
農薬・種子の「ビッグ6」、新興国を開拓
(2014/11/25日本経済新聞)
種子メジャー仕掛けるM&A 100億人時代に備え
マネー呼び込む食糧革命
(2015/5/24、日経)
世界の食料を握る会社が 原発も創り 兵器もつくる 遺伝子組み換えもつくり 世界を動かし 世界の人間を滅ぼす
(2012年07月09日)
温暖化、技術で克服 モンサントが描く農業の未来
(2015/6/22 日経)
遺伝子組換の総本山、モンサントの本当の目的とは?
(JBpress、2017年2月27日)
モンサントとバイエルの最凶合併でマリファナ種子独占か?
「遺伝子組換え大麻」ビジネスの裏にロックフェラー
(2018.03.29、トカナ)
7兆円を超える大型買収、100年以上続いた「モンサント」の名を消すバイエルの思惑
(Jun. 08, 2018, ビジネスインサイダー)
日本人が知らなかったアメリカの謎
(中経の文庫)
(投稿日2025.8.30)