農政のトライアングル 農政の失敗の元凶!?

 

『日本の農業  その現実と未来』のテーマで、「農政」、「食料安保」、「食の安全」に区分しながら、日本の農業をさまざまな観点から解説しています(シリーズの他の投稿記事については、末尾の「関連投稿」欄を参照下さい)。

 

「令和の米騒動」において、長年、批判の的になってきた、「農政トライアングル」とよばれる政官業の権力構造が浮き彫りにされています。今回は「農政」に関して、「農政のトライアングル」についてまとめました。

 

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<農政のトライアングルとは?>

 

農政のトライアングルとは、戦後、日本の農業政策を牛耳っていたとされる、農協、自民党の農林族議員*、農林水産省の3者による密接な関係をいい、長年、互いの利益を拡大する形で政策が作られてきました。

 

*族議員:省庁に顔の利く現職の国会議員のこと

 

農協と自民党

多数の農家を組合員として抱える農業団体(JA農協)は、選挙の際に農村票を動員し、自民党の候補に票を集め(農協は1000万人以上の農村票を持つとされる)、当選に尽力します。また、JA農協(JA全中)は、日頃から農林族議員に対して多額の献金を行っています。

 

その見返りに自民党は、農水省に働きかけ、高米価政策や農産物関税の維持など農協など農業団体の利益を守る政策の立案を促します。

 

自民党と農協は、JA全中の意見を自民党国会議員が代弁する「蜜月関係」を維持してきました(特に地方部で深く結びついている)。この結果、農協(JA全中)は、集票力と資金力を武器に、政治的発言力を保持する圧力団体の側面も保持しています。

 

農水省と自民党・農協

一方、農協(JA全中)は、農林水産省とも基本的に一体に近い関係があります。農業政策を立案・実施する行政機関である農林水産省:は、農協や農林族議員の意向を反映した政策を立案・実行してきました。

 

与党である自民党は、国会審議において、そのための予算案や法案に対して賛成票を投じて通過させています。また、農水省は、(とりわけ食管制度の時代)売り渡し先をJAに集中させ、JA農協は、農水省の役人に対して「天下りポスト」提供しています。

 

こうした農政トライアングルは、戦後の日本農業を支えてきた重要な枠組みでした。自民党や農水省の政策は、戦後の食糧不足を背景に、食料の安定供給が最優先課題とされ、コメ生産者の経営安定を目的としました。生産者重視の農業政策は、農作物価格の暴落を防ぎ、農業経営を安定させることで食料生産体制を守るという効果があり、さらに都市と農村間の所得分配にも貢献しました。

 

具体的には、食料の安定供給:のため、高米価政策や生産調整(減反)などが実施されました。これによって、農家の戸数が維持され、:零細農家を助け、生活の安定に貢献しました。また、日米貿易摩擦において、アメリカからの農産物輸入自由化圧力に対し、国内農業の保護に努めました。

 

しかし、農政のトライアングルは、やがて、「農家」の便益というよりは、「JA農協」の利益提供といった側面が強くなっていくと、農家や消費者のための農政からは大きく逸脱するものとなりました。

 

近年、日本の農政は、食料自給率の低下、農業の国際競争激化、農家の高齢化など、新たな課題に直面しています。これに対して、農政トライアングルの強固で閉鎖的な権力構造は、時として対立することはありますが、双方の利害関係から妥協・連携することから、逆に、問題解決を遅らせる元凶になっています。

 

以下に具体的な事例をあげながら、農政トライアングルの実態を掘り下げていきます。

 

<農政のトライアングルの弊害>

 

◆ 農地の集積化と農家戸数の維持

 

政府(農水省)は、日本の農業の生産性を高めるために、農業の大規模化、農地の集積化など構造改革を推進したいとしていますが、農家を丸抱えしたいJA農協は、これを拒否しています。

 

日本の農業は欧米と比べて、労働生産性(農家一戸あたりの収穫量)が低いことが課題となっています。それは、日本では、零細農家(1ha以下の農家)が70%を占め、農家一戸あたりの経営面積(北海道は除く)は1.3ヘクタール(ha)にとどまっているからです。アメリカの約180 ha、イギリスの約60 haと比べるとはるかに及びません。

 

そこで、農水省は、農業の大規模化を実現すべく、専業の大規模農家に農地を集約させる方針を打ちだしています。

 

そのための政策として、二種兼業農家(農業所得よりも農業以外の職業からの所得の方が多い兼業農家)が自ら耕作するのをやめて大規模農家に土地を貸し出す形で「農地の集積化」を進めることなどが検討されています。農家の営農規模を拡大させてコストを削減し、農家1戸当たりの所得を向上させながら、消費者には安くコメを提供しようという計画です。

 

また、今後、日本のコメを世界に輸出していこうとしたとき、十分な輸出競争力をつけるためには、コメの生産コストを下げることが必要で、これを農業の大規模化によって実現しようとしているのです。

 

しかし、二種兼業農家が耕作をやめれば、結果的に農家全体の戸数は減っていきます。農協にとっては組合員の減少となって跳ね返ってくることから、JA農協は、農地の集積化、農業の大規模化に反対し、零細農家を温存、農家戸数を維持しようとしています。それどころか、コストの高い零細な兼業農家を維持させるため、高い米価の確保に努めているのです。

 

自民党(自民農林族)にとっても、農家の人数(零細の兼業農家)が減る分、票田失い、集票力が弱まって政治力をそがれてしまいます。

 

改革を進めようとしている農水省にとっても、これによって、自民農林族の政治的な力が落ちれば、財務当局に予算を要求する力が弱まってしまいます。政府内における自省の相対的な力の弱まりによって、官僚の天下り先も選択肢が少なくなることも恐れていると言われています。

 

二種兼業農家が耕作をやめると組合員が減りかねない農協と、農協の票に頼る政治家、そしてその構造に安住する農林水産省という「農政トライアングル」が、改革の足を引っ張っています。農協、自民党政治家、農水省が自己利益を追求することが、将来来の農業のために必要な、農業の大規模化を妨げとなっているのです。

 

食料の安定供給と減反政策

 

国の減反政策に対する弊害が顕著になっています。減反政策は、1970年、当時、生産過剰となったコメの生産を抑制し、米価は高く維持するために始まった生産調整のことで、農家の所得維持と食料安定供給のために実施されてきました。これによって、およそ50年の間に、水田が4割減少したと試算されています。

 

2018年に減反政策は形式的に廃止されましたが、政府(農水省)は、水田を米以外の作物に活用する「水田利活用」という名の実質的な減反政策を維持し、そのための毎年3500億円の補助金(納税者負担)が支出されています。

 

こうして、米の生産を需要ギリギリまで抑えることで、高水準の米価が維持されてきました。しかし、これによって、補助金を負担する納税者、高い食料価格を払う家計、取扱量減少で廃業した中小米卸売業者など多大な犠牲を強いられています。

 

しかも、今回の令和のコメ騒動における米価の急騰の原因の一つは需給バランスの崩れ(需要増と供給減)とされています。ですから、減反政策を廃止すれば、長期的には、生産が増えて価格は下がることが期待できます。

 

しかし、JA農協の政治力の強さが、減反廃止を妨げています。減反を止めて増産に転じるためには、農家の生産力強化が必要で、農地を零細の兼業農家から専業に集約することは避けられません。そうすると、JA農協や自民党農林族が恐れる農家の戸数減少に直結してしまいます。また、JA農協は、増産によって供給が増えれば、米価の低下につながり、農家の所得を減らすと主張しています。

 

さらに、JAグループにとっては、全農が高い米価の販売から高い手数料収入を農家からえるとともに、JAバンクは、高米価で温存された零細兼業農家の勤労所得から預金を集めて収益を上げています。

 

こうしたJA農協の意向を受けて、農林族議員も農水省は、コメの減反政策を、これまで支持してきました。2024年に成立した「農政の憲法」と称される食料・農業・農村基本法の改正で、「水田の畑地化」が明記され、事実上の減反推進を謳われています。

 

なお、2025年8月、政府はコメ増産の政策転換を発表しましたが、その実効性には不透明感が残されています。

 

このように、JAは実質的に政治活動も行う特殊な経済団体で、農政のトライアングルの構造の中で、農家の戸数を減らさないように努め、その手段として減反政策による高い米価の保持を図ってきました。これを農水省も自民農水族議員が支えるという構図がみえてきます。

 

◆ 食料自給率の低下

 

食料安全保障の観点から、日本の食料自給率が低いことが問題視され、自給率向上を求める声が高まっています。

 

日本の食料自給率(カロリーベース=供給熱量ベース)は、近年は、2020年37%、2023年38%と40%を下回る低水準となっています。このレベルでは、もし、戦災でシーレーンが破壊され、輸入が途絶すると、半年経ずに大多数の国民は餓死するという見方もあります。

 

食料自給率の低下は、食生活の洋風化のためだけではなく、米にこだわり過ぎた結果、小麦や大豆農家の育成を怠るなど農政の失敗も一因とみられています。

 

◆ 農業の国際競争力の低下

 

日米の農業交渉において、かつての「コメは一粒たりとも入れない」のスローガンに代表されるように、農協・自民党・農水省の農政トライアングルは結束して、日本の農業を守ってきました。

 

しかし、結局は押し切られ、現在は、コメの関税化を受けれ、ミニマム・アクセス米という形でコメを毎年輸入していますが、それでも、コメを中心とした日本の農産物は守られています。

 

貿易において、守りに集中した結果、日本の農産物の国際化つまり、コメの生産性を高めて、輸出競争力をつけるという努力がまだ十分になされていません。現在、輸出拡大を目指す政策が打ち出されてはいますが、農政トライアングルの構造が足かせとなっており、大胆な政策の見なしが求められています。

 

◆ 農家の高齢化・後継者不足

 

農協、自民党、農水省が、自己利益を追求し続ける間に、農業従事者の高齢化や後継者不足が深刻化し、農業の持続可能性が問われています。企業の参入など改めて検討する必要があると思われます。

 

 

<農政トライアングル形成の歴史的背景>

 

農政トライアングルが、いつ・どのようにして形成されたのかというと、敗戦直後の農地改革と、1947年の農協の設立をへて、1961年に制定された農業基本法と1970年の「総合農政の基本方針」が契機となりました。

 

◆ 農地改革(1940年代後半)

 

終戦直後、GHQ(連合国総司令部)の指示で始まった農地改革では、所有できる農地の規模に制限が設けられ、制限を超えた地主の農地は、国が強制的に買い上げ、小作農に安価で払い下げました。

 

これによって、地主の土地が小作人に分配され、地主制は解体、自ら農地を所有する自作農が生まれましたが、規模の小さい大量の農家(零細農家)でした。このため、戦後誕生した自作農家の経営基盤は脆弱で、農家の所得は低く、工場で働くほうが、所得が高くなるという状況も生じました。

 

◆ 農協法の制定(1947年)

 

次に、1947年に農業協同組合法が制定、戦前からの農業諸団体を統合させる形で、全国各地に農協が設立されました。その後、1955年に保守政党が統合して自由民主党(自民党)が結党され、自民党の一党支配がはじまりました。

 

ただし当初は、米価を抑制したい自民党・農林省(当時)と、それに反発する農協などは、米価闘争と呼ばれた、厳しい対立と衝突を繰り返していました。当時、食糧管理制度制度の下、コメの流通は政府の管理下におかれ、コメの価格は政府が決めていたので、農協など農業団体による米価引き上げ要求が毎年のように行われていたのです。

 

◆ 農業基本法の制定(1961年)

 

その後、日本経済が高度成長期に入ると、農業と工業の所得格差が一層広がったことを受け、1961年、農業の大規模効率化や機械化による生産性の向上など経営の合理化と、農家の所得を向上させることで農工間の格差解消を目指して、農業基本法が制定されました(これによって、政府と農協の対立関係は解消され、両者の協力関係が醸成されていくことになる)。

 

農業基本法は、国の農業政策の基本方針を定める法律で、その重要性から「農業界の憲法」ともよばれました。農業基本法では、農家の所得向上のために、農家の規模を拡大してコストを下げ(「規模の経済」)、かつ零細農業構造の改善が謳われました。

 

しかし、前述したように、JA農協が反対したことから(零細農家が減ることは、農協にとっては組合員の減少を意味する)、農民票が欲しい自民党は、食糧管理法の下で政府買入れ価格を大幅に引き上げるという農家優遇価格政策を採ることで対応しました。

 

その結果、1961年から米価は毎年引き上げられ 、1968年の米価は10年前のほぼ倍に達しました。このため、米価の引上げはコストの高い零細な農家の米作継続を可能とし、また、地方に工場が積極的に誘致された結果、農村に居ながら工場に勤務できるようになり、農家の兼業化が一層進みました。

 

農業基本法による農家の所得向上という政府の目標も、規模の拡大によってではなく、兼業によって実現していくことになり、農村に零細な兼業農家が大量に滞留していきました。

 

それでも、食管法によるコメの農家優遇価格政策によって、農家は生活の安定が保証されたことから、意欲的にコメの生産に取り組みました。結果として、1960年代半ばには過剰米が増加していったのです。

 

こうして、農業基本法の制定によって機能し始めた農政トライアングルは、1970年に総合農政という政策が導入されたことで完成していくことになります。

 

◆ 総合農政の基本方針

 

総合農政の最大の柱は、コメの減反政策(生産調整)で、1971年から本格的に導入されました。これは、生産過剰となったコメの生産を抑制するための政策で、米作農家に作付面積の削減を要求し、特定の作物栽培が奨励されました。

 

具体的には、国が都道府県ごとのコメの生産量を決めた上で、農家ごとに生産量が割り当てられ、コメ農家には、コメから他の作物への転作を支援するための補助金も支払われました。

 

この減反政策には農家から反対意見が出ましたが、食管制度を維持するために農協も同政策を受け入れ、自民党・農協・農林省の間には、対立から協力関係が生まれ、農政トライアングル(鉄の三角同盟)が確立していきました。

 

その結果、補助金は拡大を続け、食管制度も1995年まで維持されました。減反政策は2018年に形式的に終了しましたが、転作補助金は今も存在しており、生産調整は事実上、今も継続中です。

 

近年、官邸主導の政策決定が進み、農林議員が弱体化し、また、農協の政治的影響力も、2015年の農協改革で低下したと言われていますが、令和のコメ騒動において、とくに、江藤農相時の備蓄米放出時の混乱をみれば、農政トライアングルの影響は続いていることが伺えます。

 

 

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(参照)

新しくなった食糧法(平成25年11月27日改訂版)

(玉川学園HP)

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(2025年4月25日、NHKニュース)

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(2025.311、三菱総合研究所)

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(2025.4.26 MBSニュース)

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(2015年2月9日、日経)

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(2015/2/4 PAGE)

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(2024/10/17、産経)

農政は変わるか 「トライアングル」の行方

(2025年2月26日、NHK、視点・論点)

食料・農業・農村基本法見直し(5)農政トライアングルを壊そう

(2024.05.31、キャノングローバル戦略研究所)

週刊農林(2024年5月15日発行)に掲載

 

(投稿日:2025.8.26)

むらおの歴史情報サイト「レムリア」