農業人口の減少と企業参入

 

『日本の農業  その現実と未来』のテーマで、「農政」、「食料安保」、「食の安全」に区分しながら、日本の農業をさまざまな観点から解説しています(シリーズの他の投稿記事については、末尾の「関連投稿」欄を参照下さい)。

 

山積する農政の問題に関して、高齢化による農業従事者の減少とそれにともなう耕作放棄地の増大への対策は、喫緊の課題です。その対応策として注目されている企業の農業参入の現状と課題についてまとめました。

 

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<農業人口>

 

◆ 基幹的農業従事者は減少

 

1950年の日本の農業人口は1613万人。日本の人口が8400万人だった時代に総人口の20%を占めました。

 

その後、徐々に日本は「農業の時代」から変化を遂げ、1960年に1175万人に落ち込むと、1980年代に自由化が進み、海外からの輸入品の増加や食の多様化などによって、農業人口は落ち込んでいきました。農業従事者のうち、ふだん仕事として主に自営農業に従事している「基幹的農業従事者」の人数は、2000年に約240万人、2005年の224万人、2020年には136万人にまで減少しました。

 

農家人口の減少は、今も止まらず、基幹的農業従事者は、2022年に123万人と、2005年の224万人と比べると45%以上減り、政府が統計を取り始めた1960年の1175万人からは約10分の1近く減りました。

 

さらに、2023年は約116万人で、2000年の半分以下まで減少、2024年は88万人と、100万人の大台を割り込んでいます(総人口1億2500万人のわずか0.7%)。

 

日本の農業人口

1950年:1613万人

1960年:1175万人

2000年:240万人

2020年:136万人

2024年:88万人

 

農業人口は高齢化の一途

しかも、農業従事者(日本のコメ農家)の年齢構成をみると、2000年の基幹的農業従事者のうち、65歳以上は約123万人で全体の約50%、平均年齢は62.2歳でした。

 

これが、2023年になると、65歳以上は約82万人で全体の約70%を占め、平均年齢は68.7歳(現在は約71歳)と、農村における高齢化は深刻な状況です。

 

◆ 農業法人数は増加

 

農業就業人口が減少する一方で、法人化して事業を行う法人経営体は近年増加傾向にあります。いわゆる家族経営から農業法人へと、農業の担い手の変化が加速しています。加速と言っても、両者にはまだまだ大きな開きはありますが、自営で農業に従事する人が減っているなかで農業経営体の法人・団体化が進んでおり、組織的な農業経営も定着しつつある傾向がみてとれます。

 

農林水産省によると、2010~2024年の15年間で、家族経営農家は2010年に約164万世帯ありましたが、2024年には約84万世帯に半減する一方、農業法人の数は、2024年に約4万1000団体と、2010年から倍増しました。

 

各法人は、国の支援もあって、担い手育成につながる新卒採用を進めた結果、常時雇用されて就農する人は着実に増加しています。2021年2月時点で、農家や法人・団体に雇われて農業に従事する常時雇用者数は14万7700人でした(同時期の基幹的農業従事者は、130万2100人)。

 

農業の担い手不足(後継者問題)が課題となる中、農業法人は、雇用の受け皿となり、食料の安定供給や地域の産業維持にも貢献することが期待されています。

 

◆ 新規就農者数は減少

 

ただし、新しく農業従事者になった「新規就農者数*」は、2015年の約6万5000人以降、おおむね減少傾向が続き、2022年には約4万5800人となり、新規就農者数は減少していることが確認されました(常時雇用者数は増えても、全体の農業就労者は減っている)。

*新規就農者数

新規自営農業就農者(農家の新規学卒就農者と離職就農者)と新規雇用就農者(法人への常雇いの人)に新規参入者を加えた人数。

 

◆ コメ農家の倒産・休廃業は増加

 

農業人口の減少は、離農者数の増加に反映しています。東京商工リサーチの企業データによると、コメ農家(米作農業)の倒産と、事業を停止した休廃業・解散(休廃業)数は、2023年に、統計を開始した2013年以降で最多の83件に急増、2024年も過去最多を更新し89件に達しました。後継者問題を抱える生産農家の苦境の実態がこの統計からも明らかになっています。

 

◆ コメの収量は減少傾向

 

経営の過酷さと高齢化にともない農業離れなどの影響で、コメの収穫量は、2024年こそ回復しましたが、長期的には減少傾向にあります。

 

農林水産省によれば、2024年産米の収穫量は、6年ぶりに増加し、679万2000トン(前年比2.7%増)でした。米価上昇を見込んだ作付面積の増加が生産量を押し上げたことが要因で、主食用米の作付面積は1.3%増の125万9000ヘクタールとなりました。

 

2025年6月末の民間在庫量は158万トンとなる見込みで、前年同月時点から3%増(153万トン)となりますが、コメの在庫水準は24年とほぼ変わらない見通しです(需給の逼迫はなお続く見込み)。

 

 

<農地の問題>

(耕作放棄地の増加とその影響)

 

日本の農業を考えるにあたり、農業人口の減少との関連で、大きな課題の一つは、国内の農地の約30%が耕作放棄されていることです。
日本の農地面積は1961年の約609万haから、2015年には449万ha、そして2024年には427万haまで減少しています。その主な理由が農地からの転用と耕作放棄と言われています。

 

特に耕作放棄地については、農業現場の高齢化、後継者不足と同時に、日本の人口減少が重なり、担い手がまったく増えていません。担い手の高齢化や後継者不足のために、作りたくても作れず耕作放棄地となってしまったり、離農せざるをえなくなったりする状況が数十年も続いているのです。

 

確かに、意欲を持って新規就農する方もいますが、農業人口の減少とこれにともなう耕作放棄地の増加に歯止めをかけるには至っていません。国としても、低い食料自給率、つまり輸入に依存する状況を改善するためにも何らかの方策が必要になってきます。

 

農業人口の減少とそれにともなう耕作放棄地の増加に対応する方法として、スマート農業の活用や、一般企業の農業への積極参入を促す規制緩和などが大きな検討課題となっていますが、ここでは、企業参入について考えます。

 

 

<企業の農業への参入>

 

前述したように、自営で農業に従事する人が減っている一方で、法人化して事業を行う法人経営体は近年増加傾向にあります。農業人口減少するなか、農業の担い手不足の切り札となっていくかもしれません。農業法人についてみてみましょう。

 

◆ 農業法人

農業法人とは、稲作や施設園芸など農業を営むために法人格を取得した組織の総称です(農業を営む法人の総称)。「法人農家」ともいいます。

 

農業法人は、個人事業主として農業を行う「農家」とは異なり、会社法や農業協同組合法に基づいて設立された法人として農業を行います。

 

具体的な組織形態(農業法人形態)は、株式会社や合名会社といった「会社法人」と、農業協同組合法に基づく「農事組合法人」に大別されます。

 

2019年時点では、日本に18,857法人あった農業法人のうち、13,684法人は会社法人でした。 さらに、そのうちの11,776法人が株式会社であり、農業法人の6割以上が株式会社となっていました。(2024/04/09)

 

別の統計で、2021年2月時点での、農家(個人経営体)も含むすべての農業経営体数は103万900経営体で、前年度と比べて4.2%減少しました。

 

このうち、法人経営体は3万1600経営体で、2017年度と比べて約30%増加しました。法人別にみると農事組合法人が7500経営体、株式会社や合同会社といった会社法人(法人経営体)は2万900経営体でした。なお、団体経営体となると法人のほか、農協や法人化していない団体も含まれます。

 

農業経営体数=個人経営体数+団体経営体(うち法人経営体)

2019 年:118.9 万  =115.3 +3.6   (2.3)

2020 年:107.6万  = 103.7 +3.8  (3.1)

2021年:103.1万  =  99.1+ 4.0   (3.2)

 

会社法人は営利目的の法人です。その中でも株式会社は、出資者が特段の制限なく出資に応じ て株式数を取得できます。また、株主総会において株式数に応じた議決権(1 株 1 議決権の原則)の 行使を前提として決議がなされます。

 

これに対し、農事組合法人は、農業生産の協業による共同利益の増進を目的とする法人です。このため、構成員の公平性が重視され、議決権は 1 人 1 票となっています。

 

なお、農業法人には税制上の優遇措置があり、金融機関から融資を受けやすくなるメリットもあります。

 

◆ 農地所有適格法人

 

この農業法人のなかに、農地所有適格法人があります。以前は農業生産法人という名称でしたが、この法人経営体が、企業による農業参入の原動力となっています。

 

農地所有適格法人は、農地法第 2 条第 3 項の要件に適合し、農業経営を行うために、農地を現金で購入したり、現物出資で(=現金ではなく土地を資本として)農地を取得したりして農業に参入できる農業法人のことです。

 

簡単に言えば、農地を利用して農業経営を行う農業法人のことであり、専門的な言い方をすれば、所有権や賃借権など農地の権利を取得して農業を行うことができる法人が農地所有適格法人です。

 

なお、一般の法人でも農地を借り受けて農業に参入することは可能ですが、農地の所有権は取得できません。

 

農地所有適格法人になるための4要件

農地法第 2 条第 3 項にもとづいて、農地所有適格法人になるためには、法人形態要件 、事業要件 、議決権要件 、役員要件の4つの要件を満たさなければなりません。

 

  • 法人形態要件

ア)株式会社(非公開会社に限る)、イ)合名会社、ウ)合資会社、エ)合同会社、 オ)農事組合法人のいずれかの形態をとります。(合名会社、合資会社、合同会社を合わせて持分会社ともいう)

 

なお、上場株式会社、NPO法人、社団・財団法人、宗教法人、学校法人等は農地所有適格法人になることはできません。

 

  • 事業要件

農地所有適格法人は、主たる事業が農業であること、また、農業および農業関連事業が売上高の過半となる必要があります。

 

農業関連事業とは、農産物の製造・加工、貯蔵、運搬、販売、農業生産資材の製造、農作業の受託、 林業、共同利用施設の設置(農事組合法人の場合のみ)、農村滞在型余暇活動に利用する民宿の経営などが該当します。

 

  • 議決権要件

農業関係者、常時従事者(原則、年間 150 日以上勤務)、 農地を提供した個人、地方公共団体、農協等の議決権が、総議決権の1/2超で、逆に、農業関係者以外の構成員 保有できる議決権は総議決権の1/2 未満です。

 

  • 役員要件

・役員の過半数が農業(関連事業を含む) に常時従事(原則、年間 150 日以上) する構成員であること

・役員または重要な使用人(農場長等) のうち、1人以上が農作業に、原則 60 日以上)従事すること

 

許可申請

この4要件を満たしている、農地所有適格法人(農業生産法人)は、農地法3条の規定に従い、農地の所有権の取得、農地の権利移動(農地の売買や、貸し借り)をする際に、市町村に設置されている農業委員会に許可申請を行う必要があります。

 

こうして認められた、農地所有適格法人の設立によって、農業経営を行えば、農業分野の補助金や融資等の支援、地域からの協力や連携を受けやすくなります。

 

◆ 農地所有適格法人制度の創設の経緯

 

農地所有適格法人が農地を取得し農業参入できる制度(当時は農業生産法人と呼ばれていた)は、1962年の農地法改正で創設されました。

 

その後、2009年の農地法改正で、個人の農業参入や企業による農地の借受が緩和され、また、2015年の農地法改正(16年4月施行)で「農業生産法人」の名称は「農地所有適格法人」に変更され、法人形態や議決権などの要件がさらに緩和されました。この結果、農地所有適格法人の数は、着実に増加し2020年1月1日現在、1万9550法人となっています。

 

2005年:  7904法人

2010年:11829法人

2015年:15106法人

2020年:19550法人

 

法人形態別の割合は、株式会社(38%)、特例有限会社(31%)、農事組合法人(28%)等です。2009年の農地法改正により、株式会社が認められたこともあり、総数は改正前の約2倍に増加しています。

 

また、主たる営農類型別の農地所有適格法人数は、米麦作8669法人(44%)、そ菜(野菜)3624法人(19%)、畜産3267法人(17%)、果樹1321法人(7%)などとなっています。

 

では、次に、視点をさらに広げ、農地所有適格法人も含めて、企業は、どういう形で農業に参入できるかをみてみましょう。

 

 

<企業の農業参入の形態(企業の参入方式)>

 

農地を利用して農業生産を行う場合は農地法が適用され、企業の農業参入には、農地法とその関連法でさまざまな制約が伴っています。農地法により、企業(一般の法人)は原則として、農地を直接所有することは禁止されています。

 

一般法人は、農地を「所有」して、農業を行うには、農地法で定められた一定の要件を満たす「農地所有適格法人(かつての農業生産法人)」になる必要があります。全国どこでも設立でき、所有権の取得とともに、既存の農地所有適格法人に出資して参入することも可能です。

 

一方、農地所有適格法人でない一般法人でも、農地を借り受けて(「リース方式」)、農業に参入することは可能です。農地を借りる「リース方式」であれば、現在、全国で企業の農業参入が可能になるだけでなく、農作業の受託による参入も可能です。

 

そうすると、企業による農業への参入については、農地を所有しているか否か、さらに、農業への参入(参画)が直接的か、間接的かによって4つに分類できます。

 

① 農地所有適格法人方式」(農地所有適格法人を設立する参入)

 

前述したように、農地を所有して参入する場合は、農地法で農地の取得・利用が認められている農地所有適格法人(かつての農業生産法人)の制度が利用されます。これは、主体的に農業を実施する参入方式で、地域農業を支える重要な担い手として、機能しています。

 

農地所有適格法人方式には、出資や役員構成、事業 内容などに制限があるため、本体企業の経営者(役員等)が、個人の資格で農地を取得して農地所有適格法人(の構成員)となり、農業常時従事者として出資する形をとって、農業生産法人の用件を満たす会社が設立される場合が多くあります。

 

その後、同じ経営者のもとで農業生産法人から本体企業に農作業を委託する形で、実態的には本体企業によって、農業生産が行われています。

 

② 農地保有適格法人への出資方式(既存の農地所有適格法人に出資する参入 )

 

農地所有適格法人を設立しなくても、企業が、既存の農地所有適格法人に出資するなどの手法により運営に参画し、農業に参入することができます。当該農業生産法人と取引関係のある一般企業などが資本金の一部を出資することで、農業経営に部分的に参画する場合もあります。

 

いずれにしても、企業が経営権を握らない範囲で株式を取得して農家等と協力して農業を行うもので、2009年の農地法改正によって、企業の出資は1社で25%以下(10%から緩和)、農商工連携の相手先企業の場合は50%未満と制限されています。

 

資本参加する側にとっては、既存の法人が保有する経営資産(農地・機械・施設等)を活用できることから、初期投資を抑える ことが可能となります。

 

③ 農地リース方式(農地を借り受ける参入)

 

農地所有適格法人の要件を満たさなくても、農地取得が貸借のみであれば、一般企業(農地所有適格法人以外の法人等)も農業に直接参入することができます。

 

当初、構造改革特区(農地リース特区)に指定された市町村に限定されていましたが、2009年12月の農地法の改正で、現在、全国すべての市町村に適用(全面解禁)され、一般企業等による農地貸借が可能となっています(なお、農地リース方式での参入は企業に限らず、NPO法人、社会福祉法人など企業以外の法人も対象である)。

 

ただし、農地の貸借の許可を受 けるには、以下の要件を満たす必要があります。

(ア)農地を適正に利用していない場合に貸借契約に解除条件が付されていること。

(イ)地域における適切な役割分担のもとに農業経営を行うこと。

(ウ)業務執行役員又は重要な使用人(農場長等)のうち 1 人以上の者が農業(経営や企画管 理労働等を含む。)に常時従事すること。

 

④ 農作業受託方式(農作業受託による参入)

 

企業(一般法人)は、地主が経営している農地において、水稲作における耕起・代かき・田植え・稲刈りなど一部の作業を請け負う形で参入することができます。

 

農地を利用して農業を行うという点で、企業が農業を行う形態であり、企業が新規に取り組む場合は企業参入と捉えられています。なお、農作業の受託による参入の場合、農地法の制約を受けません。

 

以上のように、企業参入には、農地を利用するさまざまなパターンがありますが、農地を利用しない農業の参入もあります。それは、一部の畜産や、「植物工場」を含む施設栽培や温室施設などが該当します。これらは、農地法による制約がなく、一般企業でも農業経営が可能となります。

 

 

農業参入の動向>

(農林水産省から現段階で明らかになっている公開データをまとめたもの)

 

農地所有適格法人

農地を利用して農業経営を行う農地所有適格法人(農業生産法人)の数は、2020年1月1日現在、約2万法人となっています。

 

2005年:7904法人

2010年:1万1829法人

2015年:1万5106法人

2020年:1万9550法人

 

法人形態別の割合

株式会社(38%)、特例有限会社(31%)、農事組合法人(28%)等

 

主たる営農類型別の法人数

米麦作8669法人(44%)、そ菜(野菜)3624法人(19%)、畜産3267法人(17%)

果樹1321法人(7%)など

 

農地所有適格法人以外の一般法人数

農地を利用して農業経営を行う一般法人は、2023年1月1日末現在、全国で4121法人が農業に参入しています(2020年12月末時点で3867法人)

 

法人形態別の法人数

株式会社2690、特例有限会社458、NPO法人251、社会福祉法人146、その他576

 

主たる営農類型別一般法人数

野菜1617、米麦作950、果樹698、花き・花木220、畜産93、イモ類149、その他394

 

農地リース方式による参入企業数

(企業以外の法人も対象となっているため、正確には「参入法人数」)

 

農地の貸借(リース)によって農業に参入した一般法人の数は、2021年で、約4000法人あります。

2004年10月:71法人

2009年3月:349法人

2012年2月:763法人

2020年12月:3867法人

 

業種別では、農畜水産業、食品関連産業、建設業を中心に多種多様な企業が参入しています。

 

 

<農地法の変遷:企業参入の制度とその経緯>

 

一般企業の農業への参入の観点から、農地法と関連する法律の改正の歴史・履歴をみていきましょう。2009年の農地法改正を分岐点として、企業参入は大きく変化していったことがわかります。。

 

1952年農地法の制定

農地法とその関連法(1952年10月施行)は、農地を守るための法律で、農地の利用や取引(取得や転用)を規制することにより、農業生産の増大と食料の安定供給の確保をめざしています。

 

制定当初は、戦後の農地改革の成果を維持することを目的としていました。そのため、法人が農地を所有したり耕作したりすることも想定されておらず、農地法によって、一般企業による農地の所有や利用は制限されていました。

 

ただし、時代の流れと合致するように一部が頻繁に改正され、近年の改正は、法人の農地利用を含む、農地の利用効率化や新規参入の促進を目的とするよう変化していきました。

 

1962年農地法改正

1962年の農地法改正(「農地法等の一部を改正する法律」の制定)により、農業生産法人制度(現在の農所有適格法人制度)が設置され、一定の要件を満たす法人が農地を取得して農業経営を行うことが、法文上は認められました。

 

2002年構造改革特別区域法制定

しかし、実質的な企業参入の解禁は、2003年4月まで待たなければなりませんでした。この時、構造改革特別区域法(2002年12月公布)を根拠に構造改革特区制度が制定され、その一つである「農地リース特区(農業特区とも呼ばれる)」によって、企業の参入が認められました。

 

具体的には、特区に指定された市町村において、耕作放棄地や耕作放棄地になりそうな農地等が相当程度存在する区域に限り、農業者でない株式会社や特定非営利活動法人等が、農地を賃借する農地リース方式(特定法人貸付事業)によって農地を使った農業に参入可能となったのです。

 

2005年農業経営基盤強化促進法改正

2005年9月からは、農業経営基盤強化促進法が改正され、同法における特定法人貸付事業として、農地リース特区方式での企業参入が、構造改革特区に指定された市町村に限らず、全国全ての市町村に、農業特区事業として、適用(全国に展開)されました。

 

2009年農地法改正

こうした流れをうけ、2009年12月に39年ぶりといわれる大幅な農地法改正が実施されました。農用地区にある農地は原則的に転用禁止として農地を確保する一方、企業等の農業への参入を促進させるために参入規制が緩和されました。

 

具体的には、農地貸付(リース)制度も整えられるなど、農地の「利用」を促進させるための農地制度の見直しが盛り込まれ、「農地法の目的」、「農業生産法人要件」、「農地の貸借」、「農地の権利取得」の4点が抜本的に見直されました。

 

農地法の目的の見直し

一般法人による貸借での参入規制の緩和と、取得できる農地の下限面積などが見直され、農業への新規参入と農地の有効利用の促進が図られました。

 

農業生産法人にかかる要件の見直し

農業生産法人(後の「農地所有適格法人」)の出資制限が緩和され、従来の4分の1以下から2分の1未満までに変更されました。

 

農地の貸借にかかる規制の見直し

一定の要件を必要とするものの、株式会社を含め、農業生産法人以外でも農地借入が可能になりました(事後に許可を取り消すなどの措置が取れる制度も創設)また、農地の貸借期間の上限も 20 年から 50 年間に延長さされています。

 

農地の権利取得にかかる許可要件の見直し
農地を所有する、または賃借する際の許可申請の主体は、都道府県知事から、市町村の農業委員会に変更されました。

 

これらの改正によって、法人の場合、株式会社であっても、貸借であれば、予め設定された実施区域外、全国どこでも参入できるようになりました。農地の貸借期間の上限も 20 年から 50 年間に延長されたことで、農地賃借による企業参入は自由化された形となりました。改正後、農業に参入した一般法人は急速に増加しています。

 

なお、同法改正によって、農地面積の集積も推進され、農地が放棄化されずに次の担い手のもとへ引き継がれる「農地利用集積円滑化事業」のしくみも整備されました。

 

2015年農地法改正

2015年の農地法改正は、2016年4月1日に施行された「農協法改正(農業協同組合法等の一部を改正する等の法律)」の一部として行われたため(農協法改正の枠組みの中で農地法の改正が行われたため)、両者は密接に関連しています。

 

2015年9月の農地法改正(2016年4月施行)の背景には、農地を所有できる農業生産法人(1次産業)が、自らの生産物を加工(2次産業)し、販売(3次産業)までを手掛ける、6次産業化を図り、経営規模を拡大させていくことへの対応がありました(農協法の改正では、6次産業化などの農業経営の発展を促進することが謳われた)。

 

まず、6次産業化のためには、資本増強が必要とされることから、法人の構成員要件が撤廃され、該当する法人の営む農業との関係性がない者でも構成員として認めるなど、誰からの出資も受け入れ可能とされました。

 

また、決議権要件についても、農業関係者以外の者が所有できる決議権が総決議権の 4 分の 1 以下から 2 分の 1 未満までに拡大されました。

 

さらに、役員要件の見直しも実施されました。これは、6 次産業化により販売・加工等 の比重が高まると、農作業に従事する役員の比率は下がらざるを得ないためで、役員又は重要な使用人(農場長等)のうち 1 人以上の者が農作業に従事することとさ れました。

 

加えて、これまで農地を所有できる法人は、農地法上、「農業生産法人」と呼称されていましたが、この改正によって「農地所有適格法人」へと変更され、文字通り、当該法人が、農地を所有できる法人の要件を満たしている法人であることが文字通り明確になりました。

 

2019年の農地法の改正

2019年5月制定の農地法の改正(施行は11月)では、農地集積をより一層推進するため、関係機関が協力しながら支援体制の強化や事務手続きの簡略化(農地集積へ向けて事務手続きが簡素化)が規定されました。

 

2023年の農地法改正

2023年4月の農地法改正では、小規模経営の農業者が多い現状を踏まえ、農地売買時の下限面積要件が廃止されました。従来の農地法では、耕作面積については一般的に50a以上(自治体により異なる)という最低限の面積要件が設定されていました。

 

この要件が撤廃されたことで、農地を売却・処分したい人にとっても取引が容易になり、農地の流動性が向上すると期待されています。同時に、農業以外の法人や個人でも農地を取得し、小規模農業はもちろん、規模に関係なく農業を新規に始めやすくなりました。

 

 

<企業による農業参入の潜在的効果>

 

参入の機会が増える農業

農業は、農業独特の税制や農地規制があり、製造業等と比較し生産コストに対する付加価値額が低く、収益を上げにくいといった理由から、かつては異業種からの参入が少ない分野でした。

 

しかし、近年、農業に係る規制改革等の影響や、多くの企業は、農業が確実に産業化の道を歩み始めたとの認識から、異業種からの農業参入がみられます。経済界においては、第2次産業を中心とした主要産業分野が伸び悩む中で、農業が成長分野として注目されています。

 

農業自体も、生産だけで農業経営が成り立つ時代から、農業資材を含めた川上から小売業・外食産業までを貫くバリューチェーン全体でビジネスを作っていく、6次産業化の時代へという変化しています。

 

これによって、コメを中心とした農産物の生産を増やすことができるだけでなく、企業等による農業では、これまでのように、単に原料や商品の調達目的にとどまらず、自社と消費者ニーズに合った付加価値の高い農産物が生産されていくことも期待されます。

 

また、人材も豊富な一般企業が、農業へ積極的に参入すれば、本来事業で培ってきた加工や流通など経営のノウハウを活かすことで、農業の生産性の向上、ひいては地域経済の活性化につながります。

 

実際、日本の農地の面積は過去20年で約1割減、農業従事者約5割減少しています。これは、1戸(家)あたりの面積は約2倍になっていることを意味します。ここで、企業も含めた農業への新規参入が拡大していけば、日本の農業に可能性がでてきます。

 

多種多様な企業の参入が期待

一般にわが国の農業はスモールビジネスであり、大企業にとってはビジネスサイズが小さいと思われがちです。2009年以降に農業に参入した大手企業は、食品製造業や小売業が目立ちます。生鮮流通・食品加工・食品流通・卸・小売・外食など関連する産業の幅は広いからです。

 

しかし、農地という土地や農業に関する資材・機械・施設などに着目すると、農業への進出企業は、建設、住宅、不動産、商社、化学、鉄道など幅広い業種に及んでいます。さらに、食育などの教育分野、介護や機能回復などの医療福祉分野に広がることが期待されます。

 

農業の生産額は、水産と合わせても年間9兆円くらいですが、広範囲な異業種の企業が本格的に農業に参画する動きは、今後も進み、農業が有望な産業に育っていく可能性があります。

 

従来の家族経営農家や農業法人は参入企業を脅威に思うのではなく、協力関係を構築し、企業の農業経営から良い点を取り込みながら、日本的な農業経営のモデルを作り上げていくことが望まれます。

 

 

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(参照)

『沈む祖国を救うには』(内田樹著、マガジンハウス新書)

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(2025.5.2 SMART AGRI編集部)

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(2025/05/01、読売新聞オンライン)

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Minorasu、2024.10.10

コメ農家の倒産・休廃業が過去最多 ~ コメ作りの「あきらめ」、さらに増加も ~

(2025/05/04、東京商工リサーチ)

竹中平蔵「米というのは日本に残された最後の保護貿易」 規制緩和を主張

(2025年5月4日、日刊スポーツ)

第2章 第3節 2 農業への新たな担い手の参画

(内閣府HP)

農業における企業参入の動向

(東京農業大学国際食料情報学部 准教授 渋谷 往男)

農業法人について

(農林水産省HP)

農地法とは? 改正の歴史・概要をわかりやすく解説!

(2025/03/27 minorasu)

農業の市場規模から見る日本の農業経営の実態

(2025/01/17 minorasu)

 

(投稿日:2025.8.27)

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