『日本の農業 その現実と未来』をテーマに、「農政」「食料安保」「食の安全」の3つの観点から、日本の農業について解説しています。食の安全について、これまで、農薬、食品添加物、遺伝子組み換え、ゲノム編集について考えてきました。今回は、理想の農業として、有機(オーガニック)農法を中心に、無農薬栽培、自然農法など本来あるべき農業の姿を追いました。
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<有機(オーガニック)栽培>
◆ 有機農法の定義
有機栽培(オーガニック栽培)とは、農薬や化学肥料に頼らず、太陽・水・土地・そこにすむ生物など、自然の恵みを生かした栽培方法(自然が本来持っている多様な生態系を活かした自然の仕組みに逆らわない農業)のことをいいます。「有機食品(オーガニック食品)」は「自然食品」と呼ばれることもあります。
日本では、たとえば、有機野菜と認められるなら、農林水産省による「有機JAS」と呼ばれる規格で求められる3条件を満たしていなければなりません。
- 堆肥などで土づくりを行い、種まき、または植え付けの前2年以上、禁止された農薬や化学肥料を使用していない圃場で栽培する。
- 栽培中も禁止された農薬、化学肥料は使用しない
- 遺伝子組み換え技術を使用しない
なお、有機栽培では、農薬をまったく使用しないというわけではなく、やむを得ない場合に限り、有機JAS認証などで認められた約30種類の薬剤(除虫菊剤や、銅・硫黄などによる薬剤、天敵農薬、微生物など)の利用を認めています。(農薬を使用しない農法が無農薬農業である(後述))
また、有機農業を国際的な規模で推進しているIFOAM(国際有機農業運動連盟)では、オーガニックの原則として、「可能な限り化学農薬を使わないことで、水や土、大気の環境保全を図る」、「着色料などの添加物を可能な限り排除した食品の安全性」に加えて、「動植物の生物多様性の保全」、「適地適作・地産地消で地域の文化を大切にする」といった取り組みも含めています。
したがって、オーガニックの推進・普及というのは、人間が安全な食を求めるためだけではなく、土壌環境や生物の多様性など生態系を守ることにもつながります。「農薬を使わないコメ作りをしたとたんに、いなかった蛍が急に出るようになった」という声も聞かれています。
有機農法の推進は、自然界の健全な食物連鎖などの環境をできる限り保全するなど、人や動植物、微生物などすべての生命にとって、平穏かつ健全な自然環境・社会環境の実現をめざす運動でもあるのです。
◆ 有機農法の普及
有機農業(自然農法)は、2000年代ごろから盛んになりました。それまでは、従来型の農業では、農薬や化学肥料を用いて、形や色つやのよい農産物は、大量に効率的に生育されてきました。
しかし、農薬や化学肥料が土中に住む微生物まで駆除して土地を痩せさせ、また、人体に与える影響がわかってくるなど、食べ物に起因する病気、地域農業の衰退、気候変動や生物多様性の危機といった食と農に関する諸問題が深刻化していきました。
これらの問題を同時に解決する方策として、有機栽培のような、環境に配慮し、自然の恵みを重視した農法が見直されるようになってきたのです。
しかし、使用する農薬を制限するということは、害虫や雑草を取り除く作業が増えます。それは、農家の担い手不足もあいまって、一般的な野菜と比べて手間暇(労力)がかかることになります。結果的に、「オーガニック」や「有機野菜」と表示された野菜は高額である(一般の作物より少し値段が高くなる)ケースが少なくありません。
また、収穫物の色や形、大きさがまちまちになるなど品質も不安定となる安定供給に問題を抱えてしまいます。
これらが、日本で、有機農業や自然農業が広がらない、(農家が有機農法などへの切り替えに躊躇する)大きな理由となっています。実際、日本は、世界と比べれば、有機農業の割合は低いと言われています。
2000年当時、日本の有機農業の取り組み面積は、全耕地面積の約1%にすぎず、2022年度末時点でも、3万300ヘクタールと全体の3%と依然として低水準です。
それでも、拡大のスピードは上がっており、農林水産省は、有機農業の拡大支援を掲げ、2021年に「みどりの食料システム戦略」を策定し、2050年までに有機農業面積を全耕地面積の25%(100万ヘクタール)にする目標を掲げています。
◆ スマート農業の活用
有機農法に限らず、すべての農業にも通じることですが、手間がかかる有機農業・自然栽培を助けるために、スマート農業(スマートアグリ)の活用した生産性の向上が期待されています。
たとえば、ドローンに搭載したカメラの画像とAIによるセンシング技術で、上空から光合成の活性度を測定したり、生育度を数値化したりすることが可能なっています。
有機農法では、太陽熱により土壌中の雑草の種を死滅させる「太陽熱処理」をして、農薬を使わずに雑草を防除し、土壌改良や病害虫対策につなげようとしていますが、これに、農業IoTなどセンサーを利用する例も出てきています。
◆ オーガニック給食
一方、消費レベルでは、子どもたちの給食に、コメも野菜も調味料も主に地元産の有機食材を使用する「オーガニック給食」が注目されています。
日本での認知度は高くはありませんが、オーガニック給食は、「子どもに安心安全な食べ物を」というスローガンの下、フランスなどで世界的な潮流となりつつあると言われています。それは、子どもたちの健康を向上させられることに加えて、消費することで地域の有機農家を支え、環境を守ることができる、と考えられているからです。有機農業が盛んになった2000年代ごろから、オーガニック給食もそのけん引役として期待を集めるようになりました。
日本でも、東京都内で2022年10月に開催された「全国オーガニック給食フォーラム」を契機に、普及運動が加速していきました。
その成功のモデルケースが、茨城県の常陸大宮市で、同市は、有機農家と慣行農家(農薬や化学肥料を使用する従来の農業従事者)と、地域ぐるみで有機農業を促進していく、全国初の協定を締結しました。これにJA常陸の全面協力もあって、常陸大宮市の学校給食は定着し、2027年には、給食のご飯(コメ)は、全て有機米に切り替えられる予定です(オーガニック100%を達成できる見通しです)。
学校給食で有機食品を使用している自治体数は、2020年度の123市町村から2022年度には前年度より4割多い193市町村に増加しました。全国の市町村数1718(北方領土の6村除く)の1割を超える規模です。有機農業拡大の鍵を握るのは、オーガニック給食だという認識は確実に広まっているようです。
生産者(農家)にとっても、このように給食という確実な「売り先」ができれば安心して、有機野菜等を生産できます。これに組織力のある全国のJAが、オーガニック給食の課題の1つである有機農産物の「安定供給」に乗り出せば、オーガニック給食が全国的に拡大していけるかもしれません。オーガニック給食を起点に、有機農法がさらに普及していくことが望まれます。
では、有機農法以外の自然の恵みを活かした農法をいくつか紹介します。
<無農薬野菜>
無農薬(農薬不使用)が「オーガニック野菜」「有機野菜」の原則ではありませんでしたが、無農薬野菜は、文字通り、まったく農薬を使わない野菜のことをいいます。
しかし、「無農薬」を謳ってはいても、圃場(ほじょう)(=農地)に農薬が残留していたり、周囲の田畑で使用された農薬が検出されたりすることは避けられなく、現在は「無農薬」という表示をすることは、農林水産省から禁じられています。
代わりに、本当にまったく農薬を使っていない野菜の場合、「無農薬」の代わりに「特別栽培農産物」と表示することは認められています。
<自然農法>
そんななか、農薬を一切用いない究極の農法といわれているのが「自然農法」です(不耕起農業とも呼ばれる)。
この農法(自然農法)は、農薬や肥料を使わない(無肥料)だけでなく、畑を耕さず(不耕起)、除草もせず(無除草)に作物を栽培するというものです。
自然農法では、耕さずに土地を肥やすために、クローバーが利用されます。クローバーは、土壌に栄養を蓄え、水はけや保水力を改善させる効果があり、クローバーを育てることが耕地に肥料を撒くこととなり、コメや麦作りの最初にクローバーの種が蒔かれます。
また、自然農法に、粘土団子(シードボール)も重要な役割を果たします。粘土団子は、コメと麦の種子を粘土で包み込み、乾燥させてから地面にまきます。これにより、鳥や虫、乾燥から種子を守り、発芽を助けます。
これまでも、アフリカの砂漠化した土地の緑化にも貢献し、東南アジア諸国では、粘土団子方式で荒野がバナナ畑や森として甦ったそうです。
そこで、稲作の場合、裸麦の種の粘土団子(シードボール)を蒔き、田植えをせずコメを作ります。麦の場合も同様に、稲籾の粘土団子を蒔いて栽培します。
その後、収穫時は、稲を刈ったら稲わらを振りまき、麦を刈ったら麦わらを振りまく…これが自然農法の一サイクルです。
もちろん、有機農法の場合と同様に、土壌によって品質にばらつきが出ることがあり、必ずしもいい農産物ができるとは限らないといった問題は指摘されていますが、このような自然農法は、本来、自然が持つ、作物を育てる力に委ねるというもので、自然の恵みのみによって育てられた作物に注目が集まっています。
人手がかからず、楽に農業ができる自然農法は、農家の担い手不足や、化学肥料によるやせた土地の問題など、行き詰まった現代農業の解決策になりうるかもしれません。
<付加価値のある農産物>
輸入自由化が進み、外国の農産品との競争が強いられてくると、日本の農業は、農産物に付加価値をつけなければ、立ち行かなくなる時代の入ろうとしています。
農業の生き残りを懸けて、日本の農家が、有機農作物の生産増大に踏み切ることは、外国産に対する有効な対抗策となるでしょう。有機農作物、無農薬作物、自然農法の食品が、日本の農産物市場にあふれることは、まさに、日本にとっての理想の農業像です。
(関連投稿)
『日本の農業、その現実と未来』シリーズ
農政
食料安保
食の安全
(参照)
「無農薬野菜」「オーガニック野菜」「有機野菜」はどう違うのか
(2024.8.27、スマート農業)
オーガニック給食が拡大中!子どもに安心・安全なだけじゃない、持続的な農業・街づくりのカギに【やさしく解説】オーガニック給食とは
(2024.12.4 JBpress)
「有機農業の日」 現在1%未満を2050年に25%にする国の目標 拡大の“カギ”はオーガニック給食の普及 東京・赤坂の学校でもイベント
(2024年12月8日、TBS)
「自然農法 わら一本の革命」福岡正信
わら一本の革命ークローバーと粘土団子を使った福岡正信氏の不耕起栽培
(2019-10-11、iti5.net)
(投稿日:2025.8.28)