『日本の農業 その現実と未来』をテーマに、「農政」「食料安保」「食の安全」の3つの観点から、日本の農業について説明しています(シリーズの他の投稿記事については、末尾の「関連投稿」欄を参照下さい)。
前回は、「食の安全」に関して、日本の遺伝子組換え(GM)事情をまとめ、食品表示について言及しました。今回は、遺伝子組換えにかかる現行の食品表示制度について、問題点なども含め改めて、詳しく解説します(なお、本稿は、過去の投稿記事を加筆・修正したものです)。
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消費者庁は、2019年4月、食品表示基準の一部を改正する内閣府令にもとづき「遺伝子組換え表示制度」を改正しました(2023年4月に施行)。これによって、日本の食品から「遺伝子組換えでない」という表示が、ほぼ消えることになってしまうかもしれないという懸念がでてきています。どういうことでしょうか?
<遺伝子組換え表示制度>
◆ 改正前のGM表示ルール
まず、おさらいとして、日本のGM食品に関する表示制度のポイント3点を再確認しておきましょう。
➀ 組み換えられたDNAやタンパク質が検出可能で、GM原材料の食品重量に占める割合が「上位3位以内かつ5%以上」の混入に対して、表示義務が課されています。
この場合、GM原材料が分別管理されていないとみなされ、「遺伝子組み換え」や「遺伝子組み換え不分別」といった表示が義務となります。
② 義務表示の対象品目は、加工度の低い、生に近いものに限られます。
この➀、②にもとづいて、現行制度では、「遺伝子組換え」の表示義務の対象は、大豆、とうもろこし、ジャガイモ、菜種、綿実、アルファルファ、テンサイ、パパイヤ、カラシナの9農産物と、これらを原材料とした、豆腐、納豆、コーンスナック菓子、ポテトスナックなど33加工食品を指定農産物・加工食品に定められています。つまり、この9作物33加工品が日本で流通が認められている遺伝子組換え食品です。
逆に、加工度が高く、製造過程で組み換え作物の遺伝子DNAが残存しない、食用油・醤油をはじめとする多くの加工食品に、表示義務はありません。
③ 「遺伝子組み換えでない」という表示は、義務ではなく任意表示で、分別生産流通管理下にあって「5%ルール」が採用されていました。
*分別生産流通管理(IPハンドリング)
遺伝子組換え農産物(GMO)と非遺伝子組換え農産物(Non-GMO)が、生産から流通、加工の各段階で混入しないように分別管理し、以下の点について、書類で証明することです。
農場段階
GMOとNon-GMOの栽培区を分け、農機具の清掃などが行われているか。
流通段階
運搬トラック、サイロ、倉庫などの設備をNon-GMO専用にするか、共用する場合は使用前に徹底的に清掃されているか。
加工段階
食品製造工場で使用する設備についても、同様の分別管理が行われているか。
5%ルール
「遺伝子組み換えでない」(non-GM)という任意表示は、生産から流通まできちんと管理された非遺伝子組み換え作物の場合、5パーセント未満の「意図せざる混入」であれば、「遺伝子組み換えでない」と表示できるとするものです(5%まで遺伝子組み換えの混入が許された)。
5%までの混入をよしとしたのは、遺伝子組み換え(GM)と非遺伝子組み換え(non-GM)の両方を栽培する海外から、遺伝子組み換えでない作物(O)を輸入する際、日本に届くまでの物流システムの中で、微量の遺伝子組み換えの混入はどうしても避けられないからです。
ただし、5%という水準は、国際的にもかなり緩い水準(たとえばEUは0.9%)で、規制が骨ぬきにされていると批判の対象になっていました。
◆ 現行のGM表示制度
現在の表示制度(2023年4月以降)
2023年4月から始まった現行制度では、この➀〜③の中の③の「5%ルール」の部分が変更されました。
改正により、「意図せぬ混入が5%以下であれば「遺伝子組換えでない」と表示できる」という制度から、混入がないこと(不検出)が証明されたものだけが「遺伝子組換えでない」と表示できる、厳しい制度へ切り替えられました。具体的には、意図せざる遺伝子組み換え食品の混入が検出限界値(約0.01〜0.1%)未満でないと『遺伝子組換えでない』と表示できなくなりました。
基準の数値が厳しくなるのならいいのではないかと思われがちですが、逆に、厳しすぎて、遺伝子組み換えでないものを求めることがより難しくなってしまったのです。
◆ 不可解な食品表示基準の変更
『遺伝子組換え表示制度』については、2017年から消費者庁が『遺伝子組換え表示制度に関する検討会』を開いて議論した結果、2018年に表示基準変更が決定、2019年4月の内閣府令により、2023年の4月1日から、5年の経過措置を経て実施となったという経緯がありました。
この過程で、日本の消費者団体は、5%以下という甘い基準を、海外に多い1%以下に変更してほえしいと要望してきたそうです(EUは0.9%)。
現在、日本では多くの食材を米国などからの輸入に頼っています。特に、遺伝子組み換え表示の対象となっている大豆やとうもろこしの約9割をアメリカやカナダなど海外から輸入しており、そのほとんどが遺伝子組み換えです。
「遺伝子組換えでない」と表示している食品メーカーによれば、船やサイロ、そして製造過程などで、製造ラインを分ける「分別管理」をしても、輸送時に使用する船や大型サイロやパイプは常に洗浄しているわけではないため、遺伝子組み換え原料が混入する可能性が完全なゼロにはならず、1%は混入してしまうそうなのです。
しかし、逆の言い方をすれば、分別管理によって、意図せざる遺伝子組み換え原料が混入する割合はせいぜい1%程度で、99%遺伝子組み換えでないものが確保できるといえます。
ですから、今回の改定で、混入許容割合を、消費者団体の要望通り「1%未満」に設定してくれれば、「5%ルール」という緩すぎる当時の規制から比べれば、私たち消費者はそれまで以上に「遺伝子組換えでない」安全な食品を購入できたわけですが、それを、消費者庁は「約0.01〜0.1%未満」と改定してしまったのです。
◆ 「遺伝子組み換えでない」表示ができなくなる…
「遺伝子組換えでない」食品を提供してきた食品メーカーは、分別管理を行い、ほぼ1%以下の「意図せざる混入率」で管理していた(最大限の企業努力で1%までは可能)のですが、今回、消費者庁から「約0.01〜0.1%未満」を要求され、この検出限界値未満にするのは極めて難しくなってしまいました。これは、「遺伝子組換えでない」という表示を事実上、禁じられたに等しいとの見方もできます。
遺伝子組み換えでない大豆やトウモロコシを確保するためには、特別の管理(IPハンドリング)をして費用をかけなければならないため、高いコストがかかってしまいます。このような大変な管理を行って非遺伝子組み換え原料で食品を作ったとしても「遺伝子組換えでない」という表示が、実質的に許されなくなってしまうとなれば、もう「遺伝子組み換えでない」作物をつくることを止める食品メーカーでてくることが懸念されます。
◆ 政治的決定だったか?
こうした食品表示ルールは、「食品表示法」で定められ、消費者庁が管轄していますが、その消費者庁は、消費者から「混入の基準値は低ければ低い方がいい」という意見に従う形で決定したと言っているそうですが、これがどうも詭弁に聞こえてしまいます。
世界の消費者が表示に基づき、遺伝子組み換えでない食品を選ぶようになった結果、遺伝子組み換え作物の栽培は2015年を境に拡大が止まったと言われています。そこで、遺伝子組み換え作物を輸出して儲かりたい、世界でわずか数社のタネを独占している遺伝子組み換え企業やそれと密接な食品企業やその国の政府からの圧力があったのではないかと疑われます。
実際、アメリカは、日本の「遺伝子組み換えでない」(non-GM)という任意表示について、ずっと以前から問題視していました。「遺伝子組み換えでない」とうたうことで、遺伝子組み換えの技術が安全でないかのような誤解を消費者に招かせる」との主張でした。
<不公平な食品表示規制>
そもそも、食品表示には、以下の2種類があります。
- 遺伝子組み換え原料を使っている場合に「遺伝子組み換え作物を使っている(「遺伝子組換え不分別」)と表示する義務があるものと
- 遺伝子組み換え作物は一切使っていません(「遺伝子組換えでない」)ということを積極的に表示する。
◆ 遺伝子組み換え作物を作る側の規制
日本の食品表示制度は、➀の遺伝子組み換え作物を作る側に有利な制度です。遺伝子組み換え原料を使っている場合に「遺伝子組み換え作物を使っている(「遺伝子組換え不分別」)と表示する義務がありますが、前述したように、日本では食品で遺伝子組み換え表示が義務付けられるのは、政府が認めている9作物33品の中で、遺伝子組み換え食品原料が全体の5%超え、かつ使われている上位3位の原料までが対象となります。
さらに、上位3位だけ非遺伝子組み換えで、後はすべて遺伝子組み換えであったとしても遺伝子組み換え表示をしなくていいことになっています。
◆ 遺伝子組み換え作物を作らない側の規制
これに対して、②の「食の安全」を求めて、遺伝子組み換え作物を作らない側の「遺伝子組換えでない」表示を行う側には、今回の改定を含めて不利な状況になっています。
そもそも、「遺伝子組換えでない」表示できる機会が少ないということが問題視されていました。そう言われてみれば、「遺伝子組換えでない」と表示された食品は、納豆や豆腐、醤油くらいで意外に少なく、それも義務ではなく、「5%ルール」にもとづいての任意表示でした。
現行制度では、「遺伝子組換え」の表示義務の対象は、大豆、とうもろこし、ジャガイモ、菜種、綿実、アルファルファ、テンサイ、パパイヤ、カラシナの9農産物と、これらを原材料とした、味噌やポテトスナックなど33の加工食品群です。
「遺伝子組換えでない」という表示は、この9農産物33の加工食品群に対してのみ、任意で可能ということです(表示義務が生じるのは、遺伝子組換えである場合)。
また、これは「遺伝子組換え」の表示義務の対象食品以外の食品には、「遺伝子組換えでない」という表示を政府が許していないことを意味します。
「遺伝子組換え」の表示義務の対象外の食品の中で、特に問題視されているのが、米や小麦についてです。なぜ、米や小麦について「遺伝子組換えでない」という表示をすることを許していないかと言えば、コメについては、「日本で流通しているコメに遺伝子組み換えのものはないから、わざわざ「遺伝子組換えでない」という表示をしてしまうと、あたかもその食品が優良であるかのように消費者に錯覚させる(「優良誤認」という)ことになるとして許さない」のだそうです。
今回の基準改定(意図せざる混入率5%から0.01〜0.1%)も、「遺伝子組換えでない」という表示をすることによって、遺伝子組み換え原料を使わないように努力している側だけを厳しくするというものだと言えます。
なお、2023年4月の食品表示ルールの改正で、それまでの「5%ルール」にしたがって、5%以下の混入率で管理されている場合は、「遺伝子組み換えでない」とは表示できませんが、任意で、「遺伝子組み換え混入防止管理済」、「分別生産流通管理済み」、「IPハンドリング済み」などの文言で、表示することは許容されています。
<現在のGM表示規制>
では、改めて、2023年4月以降、現在の遺伝子組換え(GM)表示規制について、整理してみます。
「遺伝子組換え不分別」と表示する場合:
分別生産流通管理が行われていない、または、5%以上の遺伝子組換え作物の混入が認められた場合に表示しなければなりません。
「遺伝子組換えでない」表示が可能な食品
分別生産流通管理が適切に行われ、GMOの混入がないこと(混入率0.01%〜0.1%)が科学的に証明された遺伝子組換え農産物(および、それらを原料とする加工食品)については「遺伝子組換えでない」と表示することが、任意に可能となります。
たとえば、100%遺伝子組み換えでない大豆を使用した納豆などでは、「遺伝子組み換えでない大豆」と表示があるものがこれに該当します。
その意味で、分別生産流通管理(IPハンドリング)は、「遺伝子組換えでない」と表示する際に、意図せぬ混入が許容される基準ではなく、混入がないことを証明する厳格な管理方法となっています。
「遺伝子組換えでない」表示ができない食品
政府が承認した9種類の遺伝子組換え農産物以外の農産物および、その33の加工食品が該当します。
コメや小麦など対象外の農産物は、現時点で遺伝子組換えの食品が流通していないという立場であるので、「遺伝子組換えでない」という表示は、消費者に誤解させる可能性があるとして「遺伝子組換えでない」表示は認められていません。
遺伝子組換え農産物の混入が意図せずとも技術的に避けられない、かつての「5%ルール」に適応したGM食品には「遺伝子組換えでない」表示はできませんが、「分別生産流通管理済み」と表示することは認められています。
(関連投稿)
『日本の農業、その現実と未来』シリーズ
農政
食料安保
食の安全
(参照)
「遺伝子組換えでない」の表示が消える!4月からの「遺伝子組み換え食品」見抜き方
(2023/03/29 『女性自身』編集部)
消える?「遺伝子組換えでない」食品表示
(2023年03月11日 OKシードニュース)
遺伝子組み換え作物、日本は輸入大国なの?
(2014年9月9日、日本経済新聞)
5%混入でも「遺伝子組み換えでない」誤解与える表示にメス入るか
(2017/1/ 20、産経)
(投稿日:2025.8.28)