日本の内閣と行政⑤:日本の官僚制

 

「日本の内閣と行政」について、シリーズで解説しています。第2回から4回までは、日本の内閣を構成する行政機関を組織面からみてきましたが、今回は、日本の行政を実際に動かす官僚についてまとめてみました。

 

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日本の行政権は内閣にあるが、実際に実務を司っているのは、府省庁にあって官僚制というシステムの中で業務を遂行する公務員(官僚)です。

 

<日本の官僚システム>

 

◆ 特別職と一般職

公務員は、国家公務員と地方公務員に大別され、国家公務員にはさらに、国家公務員法が適用されるか否かで、「一般職」と「特別職」という種別に分かれます。

 

国家公務員法が適用されない特別職の国家公務員は、政治色の濃い内閣総理大臣、国務大臣をはじめ、国家公務員法の適用になじまない裁判官、裁判所職員、内閣総理大臣秘書官、国会職員、防衛省の職員、人事院人事官および会計検査院検査官などが含まれます。

 

国家公務員法が適用される一般職の国家公務員は、原則として、同法の定める成績主義の原則に基づいて、試験による競争で採用される公務員。例えば、中央省庁で一般行政職員や、外交官、税務署職員、刑務官、海上保安官等や行政執行法人職員(特定独立行政法人)や検察官などです。

 

公務員の数(令和4年度)

約339万人。国家公務員は約59万人、地方公務員は約280万人で、国家公務員の数が圧倒的に少ない。

 

一般職と特別職の公務員(令和4年度)

一般職公務員は約29万人、特別職公務員は約30万人とほぼ同数です。

 

 

◆ 政治任用と資格任用

官僚(公務員)の任用制度には、政治任用制と資格任用制があります。

 

政治任用制とは、政治家などが、その裁量により、専門的な政策能力や、選挙協力、政党への忠誠心など党派的を理由から任命する制度をいいます。情実任用制、猟官制(スポイルズ・システム)という言い方もあります。

 

資格任用制では、本人の能力や成績により競争原理に基づいて任用されます。具体的には、公務員採用試験に合格した職業公務員が就く制度で、メリット・システムともいいます。

 

日本の場合、省レベルでいえば、序列順に、大臣、副大臣、大臣政務官までが政治的任命職(特別職の国家公務員)で、事務次官以下のいわゆる事務方が資格任用職(一般職の国家公務員)となります。

 

特別職公務員の序列(各省)

大臣⇒副大臣⇒大臣政務官

 

一般職公務員の序列(各省)

事務次官⇒審議官⇒局長(官房長)⇒部長⇒課長⇒係長⇒主任⇒一般公務員

 

 

◆ 日本の官僚制の実際

 

わが国の行政組織では、省庁がトップダウン型の独任制組織(ライン組織)ですが、同時に稟議制と呼ばれるボトムアップ型の意思決定方式も慣行として広く採用されています。稟議制では、ラインの下位官僚の起案した稟議書(一種の企画書)が順次上司に回覧され、最終的に決裁に至ります。

 

もっとも、重要な政策決定については、トップダウン型の意思決定も広く見られ、稟議書の起案に先立ってその内容が事前の上位者間の会議で決定されます。その場合でも、その後、合意内容が文書にまとめられ、稟議制の手続きに沿って処理されます。

 

トップダウン(上意下達)

省庁の上層部が意思決定をくだし、それに基づいて下部組織が動くという意思決定

 

ボトムアップ(下意上達)                                 

省庁内の下層部のメンバーの提案を上層部が吸い上げる意思決定

 

その一方で、わが国の行政組織は、縦割りの弊害(セクショナリズム)が激しいと指摘されています。

 

そこで、縦割りの各部署を統括する横割りの組織が整備されており、具体的には、各省を横断的に調整する内閣官房、各省内の各局を横断的に調整する大臣官房、局内の各課を横断的に調整する総務課など、いわゆるスタッフ組織である官房系組織がこれを行います。

 

 

<マックス・ウェーバーとマートン>

 

◆ 合理的な官僚制組織

 

官僚制とは、明確な上下関係を特徴とした上意下達の指揮系統の下で、分業・階層化されたピラミッド型組織のことをいいます。

 

社会学者のマックス・ウェーバーは、近代官僚制を「合法的支配」の最も典型的な形態であると評価し、その主な特徴を次のように指摘しました。

 

  • 規則による規律の原則

客観的に確立された規則に基づいて業務が行われる。

  • 明確な権限の原則

明確な権限の範囲内で、業務が行われるため、組織の分業体制が確立される。

  • 階統構造(階統性)の原則

組織におけるヒエラルキー(階層性)によって、上下の指揮命令系統が一元化される。

  • 文書主義の原則

決定、処分、指令などあらゆることが文書で保存され、後の検証が容易になる。

 

官僚制は合理的な組織で、規律が隅々まで行き渡っています。その結果、担当者が誰であれ中立的に、職務を正確かつ迅速、また公平無私に遂行できます。さらに、永続性があり、ひとたび確立されると解体しにくいという特徴をもっています。これを示す用語に1940年体制があります。

 

1940年体制

現在の官僚制は、国家総動員の戦時体制が確立された1940年前後にできあがりました。敗戦後も解体させず、占領政策を実施する組織として温存され、今なお、官僚主導の経済産業政策が踏襲されています。ゆえに現在の官僚制を1940年体制と呼ぶことがあります。

 

 

◆ 官僚制の逆機能

 

これに対して、社会学者がマートンは。官僚制の負の側面を「逆機能」と呼び、逆機能によって、「目的の推移」がおこり、官僚は「訓練された無能力」に陥ると批判しました。

 

目的の転移

官僚は、合理的な職務の遂行に規則の遵守が求められるが、規則を遵守することが職務の遂行になるというように、「手段」であったはずの官僚制の原則が、それ自体「目的」となってしまうことをいいます。

 

訓練された無能力

官僚として規則を遵守することを徹底的に訓練された結果、状況の変化に対応できず、官僚として真に行うべきことを行えなくなるなど、他のことに対しても無能力になってしまうことをいいます。

 

「規則による規律」の原則(規則を守れ)が行き過ぎると、規則は絶対に曲げてはならないという規則万能主義(規則に対する形式主義)に陥り、規則を守ることが「目的」となってしまう結果、行政職員は杓子定規な対応をしてしまうようになります。

 

「明確な権限」の原則(権限をわきまえよ)が行き過ぎると、自分の権限は死守するというセクショナリズム(縄張り主義)に陥り、官僚制内部では国民の利益よりも省庁の利益が優先されるといった、いわゆる縦割り行政の弊害が指摘されます。

 

縦割り組織とは、省庁ごとの縦のつながり(局長→課長→係長→一般職員)を重視する組織形態で、自分の担当業務以外には口を挟みません。ただし、縄張り意識が強く部局間の対立も発生しやすくなります。

 

「階統構造(ヒエラルキー)」の原則が行き過ぎると、上下関係は守れという考え方が染みつき、上司には服従しますが、部下には威張るという権威主義に陥ります。

 

「文書主義」の原則(文書で保存せよ)が行き過ぎると、レッド・テープ(過度の文書主義)に陥ります。その結果、細かな規則や形式にだけとらわれ、規則や礼儀などがこまごまとし過ぎる、中身の乏しい文書になってしまいます。

 

 

<関連記事>

日本の内閣と行政①:内閣の機能と仕組み

日本の内閣と行政②:内閣の組織

日本の内閣と行政③:内閣府と内閣官房

日本の内閣と行政④:委員会と審議会

日本の内閣と行政⑥:行政改革・小さな政府への試み

 

<参照>

本稿は、拙著「『なぜ?』がわかる政治・経済」で取り上げた内容を、加筆・修正して、まとめたものです。

 

(投稿日:2025.4.28)

むらおの歴史情報サイト「レムリア」