日本の内閣と行政③:内閣府と内閣官房

 

「日本の内閣と行政」について、シリーズで解説しています。前回は、日本の内閣(行政機関)の組織の全体像を概観しましたが、今回3回目は、その中から、とくに内閣官房と内閣府について詳しく解説します。

 

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内閣には、内閣の事務を補助するために、「内閣に置かれる機関」(内閣補助部局)が、法律に基づいて設置されており、その筆頭が内閣官房と内閣府です。

 

<内閣官房>

 

◆ 内閣官房とその組織

 

内閣官房は、内閣総理大臣を直接補佐・支援する役割を担います。具体的には、閣議の事務を処理する内閣の庶務や、行政各部の施策の統一を図るための総合調整(各省の対立調整)に加えて、重要政策の基本的な方針についての企画立案を行います。

 

また、内閣官房は、情報の収集調査や危機管理(担当部署:内閣情報調査室)や、国家公務員の人事行政(内閣人事局)を担い、内閣の広報(内閣広報室)なども行います。内閣に設置された国家安全保障会議(NSC)の事務局である「国家安全保障局」や、「内閣サイバーセキュリティセンター」も内閣官房に置かれています。

 

内閣情報調査室(内調)    

内調は、内閣(実質的には内閣総理大臣)直属の情報機関で、「日本版CIA」と称されることもあります。内閣情報官(後述)を長として、内閣の重要政策に関する国内外の政治、経済、テロなど治安に関する情報収集と情報分析を行っています。その活動は、オシント(公開情報)とヒューミント(人的情報)が中心で、シギント(電波傍受)情報も扱っています。

 

内調人事

内閣情報官を含めて、公安警察(警察庁警備局が指揮をとる警察の一部門)出身者が多く役職に就いています。

 

内調の下部組織

内閣衛星情報センター、カウンターインテリジェンス・センター(この2機関は内閣情報官が長を兼務)、内閣情報集約センター、国際テロ情報集約室などがあります。

 

 

◆ 内閣官房の運営(人事)

 

内閣法に基づき、内閣に置かれる内閣官房は、内閣総理大臣を主任の大臣とし、国務大臣たる内閣官房長官が事務を統括します。内閣官房長官は、3人の内閣官房副長官とともに、総理を補佐します。こうした役割から内閣官房は、省庁よりも上位に位置します。

 

内閣官房には、内閣官房長官・副長官補、内閣総務官、内閣広報官、内閣情報官、内閣危機管理監、内閣総理大臣補佐官(首相補佐官)といったスタッフが顔をそろえています。

 

内閣総理大臣補佐官(略称:首相補佐官)

首相補佐官は、橋本内閣の1996年に法制化され、内閣官房に設置されました。首相が指名し、閣議決定により任命されます。定数は、当初の3人以上から、2001年に5名以内に拡充されました。また、2014年以降、国家安全保障担当の補佐官の役職が常設されることになりました。ただし、この職を除き、内閣総理大臣補佐官の設置はあくまで任意です。

 

首相補佐官は、組織上、内閣官房に属しますが、内閣総理大臣に直属しています。もっともその役割は、首相への助言にとどまり、政策決定にかかわる権限はありません。。

 

内閣情報官

内閣情報調査室(内調)の長で、内閣の重要政策に関する情報の収集及び分析といった政府の情報活動を統括します。日本の情報機関全体(情報コミュニティー)の取りまとめ役でもあり、週2回の定例報告含めて、国内外の情報を総理大臣へ直接報告しています(国家安全保障会議にも参加)。なお、内閣情報官は、2001年の省庁再編に伴い法定職となりました。

 

 

<内閣府>

 

内閣府は、2001年の中央省庁再編の際、内閣機能を強化する一環として、旧総理府に経済企画庁や沖縄開発庁などが統合されて誕生しました。内閣官房を助け、総理が担当する行政事務を処理します。また、内閣官房の方針などを踏まえて、具体的な企画立案や、重要政策の実施、総合調整も行います。

 

内閣府(根拠法は内閣府設置法)は、組織上、1府12省庁の中で、行政を分担管理する各省よりも一段高い立場に置かれています。

 

 

◆ 内閣府の運営(人事)

内閣総理大臣を主任の大臣として、副大臣、大臣政務官がそれぞれ3人置かれ、さらに特定の分野における特命担当大臣の役職が複数設置されています。

 

特命担当大臣は、総理の命を受けて一定の内閣府の事務を掌理する職であり、国務大臣が充たります。「内閣府○○特命担当大臣(内閣府特命担当大臣(〇〇))」と呼称されます(略称は「〇〇担当大臣」)。特命担当大臣の定数について特に定められていませんが、法律上(内閣府設置法)必置とされているものと任意に設置されるものがあります。

 

必置の特命担当大臣(5)

「防災担当」、「沖縄及び北方対策担当」、「金融担当」、「消費者及び食品安全担当」、「少子化対策担当」

 

任意の特命担当大臣

「規制改革担当」、「地方創生担当」、「経済財政政策」、「クールジャパン戦略担当」、「デジタル改革担当」などがあり、それぞれの内閣が重要と位置付ける事項に置かれ、一代の内閣限りで設置されるものもあれば、近年、継続して任命されている特命担当大臣職もあります。

 

特命担当大臣と担当大臣

なお、特命担当大臣とは別に、政権が目玉としたい政策や立案を急ぐ政策がある場合などに、法改正手続きを経ることなく総理の判断で任命できる「担当大臣」という職位もあります。こちらは内閣官房に設置され、これまで、郵政民営化担当、拉致問題担当、道州制担当などがありました。(「〇〇担当大臣」と呼称)。

 

 

◆ 内閣府内の組織

さらに、内閣府は府内に、重要政策会議、外局、特別の機関、「内閣府に置かれる独自の位置づけの機関」などを持ちます。

 

内閣府の重要政策会議

重要政策会議(重要政策に関する「会議」)は、諮問機関ですが、内閣そのものの機能を強化することを意図し、内閣の意思決定を補佐する「知恵の場」として位置づけられています。

 

内閣総理大臣または内閣官房長官を議長とし、関係大臣と有識者で構成され、現在、経済財政諮問会議、総合科学技術・イノベーション会議、中央防災会議、男女共同参画会議、国家戦略特別区域諮問会議の5つの「会議」が設置されています。

 

経済財政諮問会議

首相(議長)、官房長官、経済財政担当相、財務相、総務相、日銀総裁、4人の民間人(民間議員)で構成され、経済運営や予算編成に関する基本方針を示します。その年の財政の大枠を示す骨太の方針(「経済財政運営と改革の基本方針」)は、経済財政諮問会議が毎年度、策定しています。

 

 

内閣府の外局

内閣府は外局として、以下のような委員会および庁を置いている。

 

国家公安委員会、公正取引委員会、個人情報保護委員会、カジノ管理委員会、金融庁、消費者庁、こども家庭庁

 

国家公安委員会

国家警察の最高管理機関で、警察行政を担う合議制の行政委員会です。各都道府県の警察を管理し、警察組織そのものを運営します。トップの国家公安委員会委員長は国務大臣として位置づけられています。警察庁は国家公安委員会傘下の「特別の機関」です。

 

国家公安委員会は、組織上、内閣総理大臣所管の下に置かれ、委員長と5人の委員の計6名から構成されています。

 

公正取引委員会

独占禁止法を運用し、排除勧告を出したり、罰則や罰金を課したりできるなど、準立法、準司法機能を持つ、独立性に高い行政委員会です。委員長および委員(4人)は、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命します。

 

 

内閣府の「特別の機関」

地方創世推進事務局、北方対策本部、日本学術会議、少子化社会対策会議、高齢社会対策会議などが該当します。

 

 

内閣府に置かれる「独自の位置づけの機関」

宮内庁

宮内庁は、内閣総理大臣の管理の下にあって、皇室関係の国家事務を担います。組織上は、内閣府の「外局」ではなく(かつて総理府の外局)、内閣府直属の「内閣府に置かれる独自の位置づけの機関」または「内閣総理大臣の管理に属する機関」とされています。

 

宮内庁の職務は、皇族関係の施設管理や、天皇の国事行為のうち、外国の大使や公司の接受、儀式を担います。

 

「侍従職(宮内庁内局の一つ)」は、宮内庁の内局で、天皇、皇后の身近に仕え、諸事務を司る家政機関(家産を管理する組織)です。天皇の判子である御璽(ぎょじ)や日本国の印鑑である国印の管理も行っています。

 

侍従職の職員の中で、侍従長、侍従次長、侍従が天皇を補佐し、女官長、女官が皇后を補佐します。

 

なお、皇位継承に伴い、宮内庁の新たな側近部局として、「上皇職」と「皇嗣(こうし)職」が設けられました。

 

 

<関連記事>

日本の内閣と行政①:内閣の機能と仕組み

日本の内閣と行政②:内閣の組織

日本の内閣と行政④:委員会と審議会

日本の内閣と行政⑤:日本の官僚制

日本の内閣と行政⑥:行政改革・小さな政府への試み

 

<参照>

本稿は、拙著「『なぜ?』がわかる政治・経済」で取り上げた内容を、加筆・修正して、まとめたものです。

 

(投稿日:2025.4.28)

むらおの歴史情報サイト「レムリア」