「日本の内閣と行政」について、シリーズで解説します。1回目は、日本の内閣ついて、日本国憲法で規定されたその機能と役割を中心にまとめました。
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<議院内閣制下の内閣>
日本はイギリスにならい議院内閣制を採用し、内閣は行政権を行使します(憲法65条)。議院内閣制とは、内閣は議会と分立していますが、その存立の前提に議会の信任を必要とし、議会による統制を受ける制度です。例えば、衆議院で内閣不信任決議が可決された場合、内閣は責任をとって辞職するか、衆議院を解散するかの、どちらかの選択をしなければなりません(憲法69条)。
議院内閣制の下で、内閣は、衆議院での多数党が単独または連立を組むことで組織され、国会に対して連帯責任を負います(憲法66条3項)。この「責任」は法的責任ではなく、政治的責任の意味と解され、総理大臣を含めて国務大臣の全員が一体となって責任を負うことです。
内閣発足までの経緯
衆議院が解散された場合、総選挙後、10日以内に特別国会で首相指名選挙が行われます。その際、衆議院で多数党をとった政党の党首が首相として国会で指名されることとなり、天皇から任命されます。その後、総理が国務大臣を任命するために、組閣本部設置、閣僚名簿が発表され、皇居での首相信任式・閣僚認証式が行われるという手順が踏まれます。
なお、衆院の任期満了にともなう総選挙であれば、特別国会ではなく臨時国会が開催され、以下、同じ手続きとなります。
<内閣の構成>
内閣とは、首長である内閣総理大臣と他の国務大臣で組織される合議制の機関です(憲法66条1項)。総理も他の国務大臣も*シビリアン・コントロール(文民統制)を徹底するため、文民でなければなりません(憲法66条2項)。
また、内閣総理大臣は、国会議員でなければなりません(憲法67条1項)。ゆえに、国会議員の身分を失った場合には、総理の地位も失います。また、総理大臣=国会議員という憲法上の規定から、総理は衆議院議員に限らず、参議院議員から指名されてもよいことになります。
なお、内閣総理大臣(略称:総理)は、内閣の首長であるので首相とも呼ばれます(首相=総理)。大日本帝国憲法下の総理大臣は、「同輩中の主席」として、他の大臣と対等な地位でした。
*シビリアン・コントロール
文民(現職の自衛官ではない者、職業軍人の経歴のない者)である大臣によって、軍をコントロールし、軍の独走を抑止する原則。
総理を除く国務大臣の数は、原則14名以内とされますが、特例の必要がある場合は、3人を限度に増員が可能です。もっとも、(期限をつけて)時限的に設置される場合はその限りではありません。いずれにしても、国務大臣の過半数は国会議員でなければなりません。
内閣総理大臣は、自ら省庁等の主任大臣として、行政事務を分担管理が可能であり、かつ兼務できる大臣の数も1つとは限りません。
国務大臣は、一般的に各省の長として行政を担いますが、行政事務を分担管理しない無任所大臣を置くこともできます。無任所大臣とは、内閣総理大臣や、外務大臣、財務大臣など各省大臣以外で,直接,行政事務を担当しない大臣のことをいいます。現行制度では、内閣官房長官と内閣府の特命担当大臣が該当します。内閣官房と内閣府で行政事務の責任者(担当者)は、形式上、主任大臣の総理大臣だからです。
<閣議>
内閣は,閣議によりその職権(職務上の権限)を行います。閣議とは、国家行政最高の意思決定機関であり、「閣議決定」という形で、内閣の意思を決定するための会議です。
閣議による意思決定には、閣議決定以外に、閣議了解や口頭了解などもあります。
閣議了解とは、一つの府省の所管する議案(事項)であっても、ほかの省にも関係する場合、閣議において他の大臣にも意向を確認することで、内閣として意思決定します。
口頭了解とは、新たな「会議」の設置や特殊法人などの人事に関する内容について、閣議書を作成せずに口頭で了解することをいいます。
閣議の案件は、法律案や政令の決定、法律・条約の公布の確認や、国政に関する基本的重要事項です。また閣議の場で、予算案や国会・委員会での答弁書、政府の刊行物である白書なども資料として配布されます。
閣議は、内閣総理大臣が*主宰し、議事進行は内閣官房長官が行います。決定は、憲法上明文はありませんが全会一致が原則で、非公開(秘密会)で開催されるます。
*閣議の主宰とは
閣議を召集、議事を進行し、閉会を宣言すること、全体をまとめること
閣議の参加者は全閣僚(総理と官房長官も含む国務大臣)です。内閣官房副長官3人と内閣法制局長官も、案件説明や法令に関する補足説明をするために「陪席」という形で出席すますが、決定権は保持していません。
各大臣は、内閣総理大臣に閣議を求める権限を有し、主任の大臣として所掌事務に関連する案件以外でも発議が許されます。議長を務める総理自身にも発議権があります。
閣議決定は、あくまでも閣僚の合意であり、政府の統一見解(政府内の決定)なので、その内容には通常、法的効力(法的拘束力)はありませんが、政治的に意味を持ちます。
なお、政府発表談話(談話)というのもありますが、首相や官房長官などの一個人の見解を示すもので、法的拘束力はありません。
(参考)首相官邸
総理が執務する建物で、閣議をはじめ、国家安全保障会議など国政上重要な会議、首脳会談などが多く開催されます。外国の首脳官邸といえば、アメリカの「ホワイトハウス」、ロシアの「クレムリン」など独特の愛称を持つものが多いですが、日本の総理大臣官邸にはそれがないため、「官邸」と呼ばれることがあります。
<内閣総理大臣の権能>
◆ 内閣を組織・運営する権能
- 国務大臣の任免権
内閣総理大臣は、国務大臣の任命権と罷免権を保持しています。しかも、総理がこれを行使する際、閣議にかける必要もなく、国会による承認も不要です。
- 総理の臨時代理指定権
総理は、自身に事故のある場合または「総理が欠けた場合」に備えて、臨時代理を指定できます。これは、憲法上、定められた権能ではなく、内閣法に基づきます。
臨時代理の権能は、原則として、憲法、法律に定められている総理大臣のすべての職務を行えますが、例外として、総理の一身専属である閣僚大臣の任免は行えません。
小渕内閣後の2000年4月以降は、組閣時に内閣総理大臣臨時代理予定者(5名)を指定するのが慣例となり、原則として内閣官房長官たる国務大臣が、臨時代理一位とされています。内閣官房長官ではない国務大臣が第1順位として指定される場合、その国務大臣は特に「副総理」と通称されます。
もともと、副総理職は、与党の実力者を処遇する必要が生じた場合などに任命され、常設ではありませんでしたが、その者が「入閣」したことを示すために、「副総理」の肩書を非公式に持つようになったのが始まりとされています。現在も、副総理は、正式な官職ではないため、「副総理大臣」や「副首相」との呼称は使用されません。
- 閣議の主宰
- 国務大臣訴追の同意権
総理には、国務大臣の不訴追特権があります(憲法75条)。これにより国務大臣は在任中、総理の同意がなければ*訴追されません(同意の決定を閣議にかける必要はない)。ただし、総理の同意がなければ訴追されないのは、その国務大臣の「在任中」だけでし。もっとも、これによって、検察官の訴追の権利が害されるのではなく、*公訴時効の進行が停止するという趣旨と解されています。
*訴追とは
検察官が公訴を提起すること。また、その前提である逮捕や拘留など身体を拘束することも含まれる。
*公訴時効の停止
一定の理由により、公訴時効(犯罪から一定期間を過ぎると公訴を提起できないこととする制度)が進行しないものとして扱うこと。停止事由が消滅した後、再び残りの時間が進行する。
◆ 内閣を代表する権能
内閣総理大臣は、憲法72条等に基づき、以下の事務を行います。
憲法72条
内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する
- 議案提出
内閣提出法案は、総理が内閣を代表して、すなわち閣議の意思に従って提出されます。議案には法律案も含まれると解されています。
- 一般国務及び外交関係の報告
- 行政各部の指揮監督
閣議による決定方針に基づいて指揮監督を行います。
- 法律・政令への連署
連署(別の者が重ねて署名すること)は、法律や政令が制定された場合の、総理や担当大臣の責任の所在を明らかにするためのものであるので、国務大臣と総理の連署がなくても法律自体の効力(法律の成立)に影響はありません。
<内閣の権能>
◆ 憲法73条上の事務
行政権を行使する内閣は、憲法73条に基づき、内閣総理大臣を中心に以下の事務を行います。
- 法律の執行と国務の総理(一般行政事務のこと)
- 外交関係の処理
- 条約の締結(国会が承認)
条約は、国会より専門性・機動性に優れた内閣が*締結しますが、事前または事後の国会の承認を必要とします。
内閣が締結しても、国会が承認しなかった場合、条約は、国内法的には無効で、国際法的効力は「わが憲法上、国会の承認が条約の成立要件になっていることが、相手国に周知の場合だけ、国際法的に無効となる」とするのが通説です。
なお、国会に条約修正権はありません。仮に国会が修正した上で議決(承認)した場合、法的には不承認を意味します。
*締結
締結とは、内閣が任命した全権委員(国家代表)が調印(署名)し、内閣が批准するまでの一連の過程をいう。
協定と国会承認
執行協定(既に承認を受けている条約を執行するための実施細目を定めるもの)や、委任協定(条約の委任に基づくもの)など協定については、国会の承認は原則不要です(日米行政協定など)。両者は、内閣の「一般行政事務」として行政府のみで処理され、批准も必要とされません。それでも一般の条約と同じ効力を持ちます。
- 官吏に関する事務を掌理する
- 予算の作成(国会が承認)
- 政令の制定
政令とは、行政機関が制定する法である命令の一種で、内閣が制定する命令のことです。なお、法律の委任(委任命令)なしに政令に罰則を設けることはできません。
- 恩赦の決定(天皇が認証)
恩赦とは、特定の犯罪について公訴権を消滅させたり、司法権が下した刑の言い渡しの効果の全部または一部を消滅させたりすることをいいます。
◆ 国会と裁判所に対する権限
一方、内閣には三権分立の観点から、国会と裁判所に対する権限があります。
裁判所に対して、内閣は、➀最高裁判所長官の指名(天皇が任命)、②長官以外の最高裁の裁判官を任命、③下級裁判所の裁判官を、最高裁の指名した者の名簿に基づいて任命すします。
国会に対しては、➀国会の召集を決定、②国会に議案を提出する、③衆議院の解散を決定、④参議院の緊急集会を求める、といった権限をもっています。
衆議院の解散
内閣の権能としての衆議院の解散は、不信任決議の可決にともなう衆議院の解散(「69条解散」)ではなく、国政に関する重要事項が生じた場合など、国民の意思を問うために、総理が自らの意思で解散させ、総選挙に打ってでる「7条解散」のことをいう。
7条解散
内閣が衆議院の解散を決定し、天皇が内閣の助言と承認の下、実際に衆議院を解散させます。形式的には天皇が解散権をもつ一方、実質的には内閣が解散権を有します。しがって、「解散権は首相の専権事項」という言い方は、憲法上、正確ではありません。
<内閣総辞職>
内閣は、自らその存続を適当でないと判断したとき、自発的に総辞職することができますが、次の3つのケースの場合、内閣は必ず総辞職します。
- 衆議院で不信任案が可決され、10日以内に衆議院が解散されないとき(憲法69条)。
- 衆議院議員選挙(解散総選挙または任期満了による総選挙)の後に初めて国会(特別国会または臨時国会)が召集されたとき(憲法70条)。
この時、新しい内閣ができるので、それまでの内閣は総辞職することになります。逆に、新しく内閣総理大臣が任命されるまで、従前の内閣は引き続き職務を継続します。
- 内閣総理大臣が欠けたとき(70条)。
総理が欠けた時とは以下の場合です。
(ア)総理の死亡
(イ)総理が自ら辞意を表明した場合
(ウ)総理が国会議員としての地位を喪失した場合(具体的には、資格訴訟裁判や議院懲罰で除名された場合)
後任の首相は、国会で国会議員による選挙で選ばれるが、与党の党首が選出されるのが通例です。日本では、首相は与党の党首なので、辞任すれば、党首の地位も降りることになります。そのため、自民党政権であれば、「首相指名選挙」の前に自民党の総裁選挙が実施されます。
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<参照>
本稿は、拙著「『なぜ?』がわかる政治・経済」で取り上げた内容を、加筆・修正して、まとめたものです。
(投稿日:2025.4.28)