日本人の教養として、天皇陛下や皇族方の「お名前」を正しく理解しておくことは大切です。
皇室:天皇および皇族の総称
皇族:天皇を除く天皇家の方々の総称
🔹実名(諱)と御称号
一般国民には姓名(苗字と名前)がありますが、皇室の方々には苗字はありません。新天皇陛下も、苗字はなく、お名前(実名)は徳仁(なるひと)(様)です。お名前(実名)は諱(いみな)ともいいます。ただし、天皇陛下には、苗字がない代わりに「御称号」があます。陛下は、幼少時、「浩宮」(ひろのみや)様と呼ばれていたことをご存知の方も多いでしょう。この「○宮」というのが御称号でミドルネームに相当します。なお、御称号は、皇太子という地位に就かれるときに使われなくなります。
御称号は、天皇と皇太子の子女にのみに与えられます。そうすると現在、御称号をお持ちなのは、愛子さまお一人です。愛子さまの御称号は敬宮(としのみや)で、敬宮愛子内親王と呼ばれます。
歴代の天皇の「お名前」
・明治天皇 祐宮 睦仁(さちのみや むつひと)
・大正天皇 明宮 嘉仁(はるのみや よしひと)
・昭和天皇 迪宮 裕仁(みちのみや ひろひと)
・明仁上皇 継宮 明仁(つぐのみや あきひと)
・今上天皇 浩宮 徳仁(ひろのみや なるひと)
「今上天皇(きんじょうてんのう)」とは、在位中の天皇のことを言います。ですから、現在の陛下は、「天皇陛下」という呼称や、この「今上天皇」、またはお名前とともに「徳仁(なるひと)天皇」と呼ばれたり、表記されたりします。
また、「上皇(太上天皇の略)」は退位した天皇のことで、今回の天皇退位特例法では、退位された(明仁)天皇の称号を「上皇」、敬称は「陛下」と定められました。実際は、天皇陛下と区別するために「上皇陛下」、お名前とともに「明仁上皇」と呼ばれます。
なお、明仁天皇が上皇になられたことに伴い、美智子さまは「上皇后」になられます。ただし、上皇后という称号は、歴史上使われたことがない新規の言葉です。歴史的には、譲位後の天皇の皇后は、「皇太后」という敬称がありましたが、皇室典範特例法によって、「上皇」「上皇后」という身分(称号、敬称)が新たに定められました。
🔹諡(諡号と追号)
さて、明治天皇、大正天皇、昭和天皇の「明治」、「大正」、「昭和」という名前は、諡(おくりな)といって死後に前の功績をたたえて贈られるお名前で、現在は、元号が諡にそのまま用いられるようになりました。諡は、仏教の僧侶に死後つけてもらう法名(ほうみょう)(「○○院」)と同じです。諡(おくりな)や法名が使用されるのは、死後も名前で呼ぶのは失礼にあたるからですね。
なお、諡(おくりな)は、厳密には諡号(しごう)と追号(ついごう)に分かれます。追号は天皇のゆかりの地名や建物などに由来し、諡号は天皇を顕彰する名前で、生前にゆかりのある地名や業績とは無関係に命名されます。前者の例では、院政で知られる白河天皇の「白河」は別邸の地名から取られました。ただし、明治天皇以降は、元号が「一世一代」(天皇の在位につき一つの元号)となり、元号がそのまま諡(追号)とされています。ですから、上皇陛下を間違っても「平成天皇」と呼んではなりません。
🔹宮号と宮家
皇室には、御称号とは別に、宮号(きゅうごう)というものもあります。宮号とは、男性皇族がご成婚や成年によって独立して生計を営む場合に、天皇陛下から賜る称号です。その宮号を天皇から賜った一家を宮家といい、現在、三笠宮、常陸宮、高円宮、秋篠宮の4家があります。
宮家の当主が有する「○○宮」の称号は、宮家の当主個人の称号(宮号)とされており、苗字には当たらないので、その家族は用いません。例えば、秋篠宮と言えば、秋篠宮文仁皇嗣殿下、ご本人をさします。なお、宮家は、1990年に秋篠宮家を最後もこれまで創設されていません。しかも、その秋篠宮家を除く宮家は、当主を除いて皇族男子が存続しないため、皇室典範が改正されない限り、断家が余儀なくされる状況です。
🔹陛下と殿下
皇室典範によれば、陛下という敬称は、「天皇と三后」へ使うと規定されています。三后とは、太皇太后(先先代の天皇の皇后)、皇太后(先代の天皇の皇后)、皇后のことを言います。また、今回の退位に伴い施行された「天皇の退位等に関する特例法」は、明仁上皇さまと、美智子上皇后さまに対しても敬称を「陛下」とすると規定しました。
そうすると、現在、「陛下」と呼べるお方は、明仁上皇、美智子上皇后、徳仁天皇、雅子皇后です。そのほかの皇室の方の敬称については、すべて「殿下」となります。具体的には、皇太子・皇太子妃・皇太孫・皇太孫妃・親王・親王妃・内親王・王・王妃・女王の皇族が対象です。
ここまでが、主に天皇陛下・ご皇族の方々への敬称についてでしたが、次は、皇族の身分・地位を表す身位(しんい)についてです。
🔹親王と内親王
今の陛下も、皇太子時代、徳仁親王(なるひと しんのう)と呼ばれていました。親王とはどういう称号でしょうか?
現在の皇室典範によれば、天皇の嫡出の男子、および、天皇の嫡男系の嫡出の男子である者を親王(しんのう)といいます。親王の妃は親王妃です。内親王(ないしんのう)は、女性の親王号で、嫡出の皇女および嫡男系嫡出の皇孫である女子をいいます。
現在、親王は、秋篠宮文仁親王、悠仁親王、常陸宮正仁親王(昭和天皇第二皇男子)の3人で、内親王には、愛子内親王、眞子内親王、佳子内親王がその身位にあります。
🔹王と女王
王や女王という称号は、イギリスやデンマークなど海外の王国のものという印象がありますが、日本の皇族に賜与される称号でもあります。
王は、天皇の嫡男系嫡出で三親等(ひ孫)以上離れた皇族男子を指す(同様の皇族女子を女王という)。現在、「王」は、戦後直後、初の皇族内閣を組閣した東久邇稔彦(ひがしくに なるひこ)元首相など戦前は多数存在したが、大半が皇籍離脱を強いられたこともあり、一人も存在していません。
女王は、三笠宮家(みかさのみやけ)の彬子(あきこ)さまと瑶子(ようこ)さま、高円宮家(たかまどのみやけ)の承子(つぐこ)さまの三方がいらっしゃいます。なお、王妃は王のお妃のことです。
皇族の身位(身分・地位)
・皇后(こうごう):天皇の配偶者、天皇の正妃
・太皇太后(たいこうたいごう):天皇の祖母。先々代の皇后の地位にあった人をいう
・皇太后(こうたいごう):天皇の母で、皇后であった人
・親王(しんのう):嫡出の皇族男子および嫡男系嫡出の皇孫の男子をいう
・親王妃(しんのうひ):親王の正妃(配偶さ)
・内親王(ないしんのう):嫡出の皇女および嫡男系嫡出の皇孫である女子
・王(おう):天皇の嫡男系嫡出で親王以外の皇族男子
・王妃(おうひ):王の正妃(配偶者)
・女王(じょおう):天皇の嫡男系嫡出で内親王以外の皇族の女子
🔹皇太子と皇嗣
令和元年5月1日、皇太子殿下(徳仁親王)が即位され、天皇になられました。では、次の皇太子はどなたなのでしょうか?
皇太子(Crown Prince)は、「皇位継承の第一順位にある皇子を指す称号」で、皇室典範第1条には「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」とあります。このため、天皇陛下のご息女の愛子さまに皇位継承権はなく、陛下のご令弟の秋篠宮さまが皇位継承の第一になられます。
ただし、皇室典範(8条)には「皇嗣たる皇子(天皇の男の子)を皇太子という…」とあるように、皇太子になる方は、天皇のご子息(男子)でないといけないので、秋篠宮殿下は皇太子にはなれません。また、悠仁親王は皇太孫(皇位継承第一位で天皇の孫)ではなく、天皇の甥なので、やはり皇太子にはなりません
そうすると、新天皇陛下即位に伴い、天皇の直系男子が就く「皇太子」の地位は86年ぶりに空位となります。「皇太子」の空位は愛子内親王を予定しているためで、女性天皇・女系天皇の道筋をつけようとしているとの批判的な見解もあります。
秋篠宮さま秋篠宮さまは、「皇太子」と同等(皇太子待遇)とされましたが、内廷皇族(宮家を持たない宮廷内部の皇族)ではなく、「秋篠宮家」は維持されました。
皇位継承の第1位で皇弟(天皇の弟)の呼称である皇太弟という呼び方があるのですが、政府は、皇太弟という呼称を認めませんでした。ただ、これだと「秋篠宮殿下」のままとなるため、他の皇族より格が上であると明確にするために、「皇嗣(こうし)」という身位(身分)が与えられました。「皇嗣」とは、「皇位継承の第一順位にある者(天皇の世継ぎ)」を意味です。
秋篠宮さまの敬称は「殿下」で、呼称は「秋篠宮皇嗣(こうし)殿下」となります。また、次の天皇であることを示すため、英訳は皇太子を意味する「Crown Prince」となりました。
紀子さまは「秋篠宮皇嗣妃殿下」となられ、秋篠宮家の眞子(まこ)さま、佳子(かこ)さま、悠仁(ひさひと)さまの呼称については、眞子内親王殿下、佳子内親王殿下、悠仁親王殿下で変更はありません。(身位の後に敬称がくる)。
皇太子:皇位継承の第一順位にある皇子
皇太弟(こうたいてい):皇位を継ぐべき皇(こう)弟(てい)(天皇の弟)
皇太孫(こうたいそん):皇太子不在の場合の、皇嗣たる皇孫(天皇の男の孫)
皇嗣(こうし):皇位継承の第一順位にある者。
なお、今上天皇(徳仁天皇)が皇太子の時代の呼び名は、皇太子殿下(皇太子徳仁親王殿下)で、雅子さまは、皇太子妃殿下(皇太子妃雅子殿下、雅子妃殿下、雅子殿下)でした。
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2019年6月19日(最終更新日2022年3月31日)