日本国憲法の制定過程や、各条文の成立経緯を検証した「知られざる日本国憲法のなりたち」を連載でお届けしています。今回は第7章「財政」の中の公金支出の制限についてです。
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第89条 (公金支出の制限)
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
本条は、公金(国や自治体の持つお金)を「宗教上の組織や団体」(前段)や、「公の支配に属しない慈善・教育・博愛事業」(後段)に使用してはならないとして、公金の支出(補助金)を禁止しています。
前段の規定は、20条の政教分離の原則(国家の非宗教性ないし宗教に対する中立性)を財政の面から裏付け(保障し)ようという趣旨です。
(参照)日本国憲法20条(信教の自由):ワイマール憲法からの誘い?
後段の「公の支配に属しない事業」とは、人事や、業務の執行、会計(予算)について国から一切干渉されない私的事業をいいます。つまり、こうした私的事業に公金を支出してはいけない(補助金を出してはいけない)と言っているのです。
本条のような、公金の支出を限定した条文は帝国憲法にはありませんでした。そこで総司令部は、以下のような草案を出し、結果的にはこの内容が、日本国憲法第89条となりました。
GHQ案
公共の金銭または財産は、いかなる宗教制度、宗教団体もしくは社団の使用、利益もしくは支持のため、または国家の管理に服さざるいかなる慈善、教育もしくは博愛のためにも、充当せらるることなかるべし。
アメリカがこの規定を設けた理由は、慈善、教育、博愛の名の下に公費が濫用されることを防止するという目的が説明されていますが、その背景には言うまでもなく、戦前、神道という一つの宗教に対して国家が強力に関与したという認識がGHQ内にあったからです。GHQの憲法草案(マッカーサー草案)の作成のために設置された「財政に関する委員会」のフランク・リゾー陸軍大尉は、委員会では「帝国憲法下で政府が個人の信教の自由に干渉し、神道を悪用したという共通認識を持っていた」と証言し、本条がこうした行為を排除する目的で書かれたことがわかります。
<参照>
その他の条文の成り立ちについては以下のサイトから参照下さい。
<参考>
憲法(伊藤真 弘文堂)
日本国憲法の誕生(国立国会図書館HP)
憲法を知りたい(毎日新聞)
NHKスペシャル「日本国憲法誕生」
アメリカ合衆国憲法(アメリカンセンターHP)
Wikipediaなど
(2022年9月29日)