2020年06月07日

明治憲法:善意と悪意の解説 表現の自由(26・29条)

前回の投稿で、日本国憲法21条(表現の自由)を解説しました。では大日本帝国憲法(明治憲法)では表現の自由は認められていたのでしょうか?もちろん、帝国憲法でも表現の自由を定めていました。今回は、日本国憲法21条に対応する帝国憲法29条と26条について解説します。

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帝国憲法第29(言論・出版・集会・結社の自由)

日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於(おい)テ 言論著作印行(いんこう)集会及結社ノ自由ヲ有ス

日本臣民は法律の範囲内において、言論・著作・印行・集会及び結社の自由を有する。

 

印行:印刷して発行すること。

 

<悪意の解釈>

明治憲法においても、言論、著作、刊行、集会、結社の自由という、日本国憲法でも規定されている「表現の自由」が保障されていました。しかし、「法律ノ範囲内ニ於(おい)テ」という条件(=これを「法律の留保」という)をつけることで、法律によって、表現の自由を制限できるようにしました。

 

実際、治安警察法(1900)や治安維持法などの治安立法によって、国体(天皇主権の国家体制)の変革や共産主義思想の波及を目的とした言論や集会活動などが厳しく弾圧されました。また、出版の自由に関しても、「出版法」(1893年)、「新聞紙法」(1909年)という法律が定められ、当局の判断で、書籍や新聞は販売頒布(はんぷ)禁止処分(発禁)にされることが相次いだのです。

 

 

<善意の解釈>

帝国憲法において、表現の自由が保障された背景には、言論、著作、図書の刊行、集会、結社の自由を認めて、人々の意見交換を活発させることは、社会の進化のために有益であるという考え方がありました。

 

しかも、「法律の範囲内において」との条件(「法律の留保」)を設け、表現行為も、罪悪を行ったり、治安を妨害したり、また、他人の栄誉や権利を侵害するような行動である場合には、公共秩序の維持のために、法律による処罰もあることを規定しています。そうした法律があることで、社会の進化のための言論、著作、図書の刊行、集会、結社といった表現活動が可能になることが期待されたのでした。

 

さらに、「法律の留保」に関して、帝国憲法起草者、伊藤博文は「こうした制限は必ず、議会の法律によって定めなければならず、政府の行政命令の範囲外でなければならない」と述べ。政府による恣意的な(勝手な)「表現の自由」への干渉がないように、表現の自由に対する制限は、臣民(国民)の代表者による議会が作る法律だけが行えると説明しています。

 

しかしながら、伊藤の願いも空しく、後の政治家たちは、「法律ノ範囲内ニ於(おい)テ」という法律の留保を悪用し、批判されるような事態を引き起こしてしまいました。本条の理想とは裏腹に、その運用は失敗に終わったのです。

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帝国憲法第26条(信書の秘密)

日本臣民ハ 法律ニ定メタル場合ヲ除ク外(ほか) 信書(しんしょ)ノ秘密ヲ侵サルヽコトナシ

日本臣民は法律で定められた場合を除いて、通信の秘密を侵されることはない

 

<悪意の解釈>

確かに、表現の自由の一つである信書(特定の個人にあてた通信文を記載した文書、手紙のこと)の秘密が保障されていますが、帝国憲法29条と同様、「法律に定めたる場合を除くほか」と「法律の留保(条件をつけること)」があり、法律で定めれば、信書の秘密をいくらでも制限することはできます。

 

これに対して、日本国憲法では、表現の自由の規定の中で、文言上は、留保をつけることなく信書(現行憲法では「通信」)の秘密を保障しています。

 

日本国憲法第21条②

検閲は,これをしてはならない。通信の秘密は,これを侵してはならない。

 

 

<善意の解釈>

帝国憲法によって、近代文明の恩恵の一つである信書の秘密が保障されるようになりました。「法律ニ定メタル場合」とは、刑事上の捜索や戦時、事変、その他、法律に定めたる場合を指し、それ以外は、行政府が、個人の信書を開封したり破棄したりするような信書の秘密を侵すことを許さないことを定めています。

 

ですから、本条の場合も、議会で作られる法律が、国民の人権(ここでは信書の不可侵)を政府から守ってくれます。日本国憲法でも、信書(現行憲法では「通信」)の秘密を保障していますが「法律の留保」がありません。「法律の留保」があった方が、逆に政府からの干渉や圧力を排し、人権保障を確かなものにすることができます。

 

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<参考投稿>

日本国憲法 まじめな解説 表現の自由(21条)

 

私たちは学校教育を通じて、「明治憲法『悪』、日本国憲法『善』」という構図を徹底的に教えられてきた観があります。既存の考え方に疑問を呈してみようという本HPの趣旨に沿って、大日本帝国憲法(明治憲法)については、「善意の解釈」も紹介して、これからできるだけ中立的な立場で解説していきたいと思います。

 

明治憲法は、伊藤博文ら明治の元勲らの英知の結集で出来上がったものです。学校で教わったような単純に「戦争に導いた『悪い憲法』」とは言い切れません。おそらく、19世紀後半の日本の状況から判断して、帝国憲法(明治憲法)は、最高傑作でしたが、結果的に運用に失敗したのではないでしょうか?