2020年04月28日

社会:緩い日本の緊急事態宣言 憲法の壁!?

日本の緊急事態宣言が全国的に発令されているにもかかわらず、一部のパチンコ店が開店し、ビーチや観光地にも足を運ぶ人が多く見られ、緊急事態宣言の効果に対して疑問が呈されています。今回は、日本の緊急事態宣言の「特異性」とその背景について考えます。

ニュース:緊急事態宣言発令」参照

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  • 緊急事態宣言

 

安倍首相は、4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令しました。2012年に成立した同法は、3月13日に、新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象に新型コロナウイルス感染症を追加する形で改正されていました。

 

「緊急事態宣言」は、対象となる感染症の流行状況が、以下の2つの要件を満たしたと判断された場合、首相が区域と期間を定めて発令します。

 

  • 国民の生命や健康に著しく重大な被害を与える恐れがある場合
  • 全国的かつ急速な蔓延により、国民生活と経済に甚大な影響を及ぼす恐れがある場合

 

区域は原則、都道府県単位で指定されますが、感染状況によっては隣接県や日本全域の指定することができます。実際、4月16日に対象地域が全国に拡大されました。

 

首相から緊急事態宣言が出されると、「まん延の防止に関する措置」として、指定区域の属する都道府県の知事は、その区域の住民に、定められた期間(「2年以内」、「1年を超えない」範囲で延長可)、感染拡大の抑制措置を取ることが可能となります。具体的な措置とは次の2点です。

 

  • 住民に対し、外出しないよう「要請」すること
  • 学校・社会福祉施設・娯楽施設等の管理者等に対し、施設利用やイベントを停止・制限するよう「要請」すること

 

施設の利用制限について、正当な理由なく「要請」に応じない場合、知事は「指示」をすることができます。この「要請」を無視して、住民が外出しても、また施設管理者が「要請・指示」に従わず、施設の利用やイベントが実施されても、処罰されることはありません。つまり、諸外国の禁止命令のように、罰則が科されるなど強制力を伴っているわけではありません。あくまで「要請(=お願い)」なのです。

 

これに対して、米、伊、仏、英、タイ、ニュージーランドなど非常事態宣言が発令された諸外国では、公共機関や学校、店舗などを閉鎖、生活必需品の買い物や、病院などの理由以外の外出を認めない「都市封鎖」(ロックダウン)を行い、違反者に対しては罰金も科すなど徹底した管理体制が取られました。

 

ですから、日本でも緊急事態宣言が出れば、自衛隊や警察がバリケードで鉄道や道路や空港を封鎖する都市封鎖(ロックダウン)状態になってしまうと懸念する向きが多くありました。しかし、現状では、日本の「緊急事態宣言」は「要請」と「指示」にとどまり、市民生活に対して罰則などの強制力をもった対応は想定されていません。特措法の条文からも、都市封鎖を行うに十分な規定とは言えないのが現実です。これは、なぜなのでしょうか?

 

 

  • 国家緊急権

 

新型インフルエンザ等対策特別措置法が、禁止ではなく、「要請」「指示」といった曖昧な書きぶりとなっているのは、日本国憲法が国民の基本的人権の侵害を徹底的に禁じているので、日本において「国家緊急権」を効果的に発動させにくいからです。

 

国家緊急権とは、「戦争・内乱・恐慌・大規模な自然災害などの非常事態において、国家の存立を維持するために、国家権力が、私的権利を制限するなど「憲法の秩序」を一時停止して、非常措置をとる」ことを言います。この国家緊急権は、憲法学上、国家が持つ固有の権利(自然権)として、どの国にも認められている権利です。実際、有事においては平時と同様の人権保障を行うことは現実的に困難なので、一時的に憲法秩序を停止することをあらかじめ織り込んでおくことが、逆に、最終的には、人権を守ることになるという考え方に基づいています。緊急事態宣言は、まさに「国家緊急権」発動の最たる事例です。現在、諸外国で行われているコロナウイルス対策のための措置も、国家緊急権に基づくもので、諸外国の多くは、憲法上に緊急事態条項を規定しています。

 

戦前の大日本帝国憲法では、緊急勅令(8条)、戒厳の宣告(14条)、天皇の非常大権(31条)というように国家緊急権の発動が規定されていました。

 

帝国憲法第8条(緊急勅令大権

天皇は公共の安全を保持し、またはその災厄を避けるため緊急の必要があり、かつ帝国議会が閉会中の場合において、法律に代わる勅令を発する。

 

帝国憲法第14条(戒厳大権)

天皇は戒厳を宣告するじ

 

帝国憲法第31(非常大権)

本章に掲げた(臣民の権利義務に関する)条規は、戦時または国家事変の場合において、天皇大権の施行を妨げることはない。

 

これに対して、現行の日本国憲法の下では、戦前の軍部の独走に対する「反省」から(もっとも、31条の非常大権は発動されたことはなかった)、日本の憲法において、国家緊急権の表われといえるような緊急事態条項は、原則、規定されませんでした。こうした背景もあって、戦後の政府は、緊急事態法制の整備には及び腰で、新型インフルエンザ等対策特別措置法においても、原則、罰則はありません。ですから、自衛隊や警察にも、指示に従わない人を強行に止める権限が与えられていないのです。

 

都市封鎖(ロックダウン)は、感染拡大を防ぐための有効な手段と見なされ、すでに実施された国では、たとえそれが、私権制限を含むものであったとしても、人命優先の観点から必要な措置と、国民の間でも理解されているようです。今後の感染拡大の推移のよっては、日本においても、強制力を伴う特措法の改正といった動きがでてくることも考えられます。

 

 

<参考>

新型コロナ特措法の「緊急事態宣言」とは? 市民生活にどんな影響がある?(The page)

日本のロックダウンが腰砕けになりかねない訳 明確なルールがなければ応じない人を防げない(東洋経済 2020/03/31)

「パチンコをやる自由」も保障される…感染症拡大を止められない「人権擁護」という壁(2020/4/25、日刊SPA)