2017年02月09日

ニュース:米空軍、日本の大学研究者に8億円超の研究助成

米軍マネー、透ける軍事応用 研究者「自由に使える」
(2017年2月9日、朝日)

 

日本の大学などの研究者に、米軍から少なくとも9年間で8億円を超える研究助成が行われていた。対象は基礎研究に限られ、成果を公開してよい「平和の顔」をした研究費だが、その目的は何か。世界での軍事的優位を維持したい米軍の戦略に照らすと、軍事応用が透けて見える。

 

米軍から研究費、8.8億円 大学などに9年で135件

人工知能学会長も務めた京都大の西田豊明教授は約3年前、1通のメールを受け取った。送り主は米空軍アジア宇宙航空研究開発事務所(AOARD、東京・六本木)。米空軍の研究助成の拠点だ。助成への応募を誘う内容だった。助成対象は、ロボットと人間が意思疎通を図る技術の研究。「研究内容が縛られないか」と心配したが、研究対象は自由で成果も公開することが前提と聞き、「軍事研究には当たらないと判断した」と話す。所属する大学の研究科の承諾をもらい、2014年5月から16年5月までに計約1千万円を受け取った。成果は国際会議で発表し、論文を執筆。報告書を空軍に提出した。

 

応募理由の一つは資金不足。約20人が所属する研究室の維持に、年約2千万円かかる。大学から入る運営費交付金約400万円は自由に使えるが、秘書給与、貸しコピー機代などで消えてしまう。博士研究員を雇う資金(1人500万~600万円)を含め、学外からの調達が欠かせない。もう一つの理由は米軍側から「難しく意欲的な課題に挑戦してほしい」と言われたこと。国が支給する研究費の対象は成果が見通せる研究が多く、使い道に縛りが多い。米軍資金は使途が自由で、アイデアがわいて方向を変えたい時も柔軟に対応できる。「自由に研究ができる制度があれば、日本の制度を使っただろう」と西田教授は振り返る。

 

サイバー分野を研究するある大学教授は3年ほど前、米軍に所属する2人の米国人の訪問を受けた。ほかの研究者から面会を推薦されたという。知り合いの研究者数人とともに全般的な研究を紹介した。求められて各自が提案書を書き、自分だけが採用された。軍に協力的な人脈を作るため、めぼしい研究者に声をかけていると感じたという。「お金の使い勝手の良さは協力する我々への配慮だろう」

 

米軍による研究助成の流れ

■米軍、見すえるのは20年先

米軍の狙いは何か。20年先を見すえ、戦場での戦い方を一変させて他国の追随を許さない「ゲームチェンジング」な技術開発を目標にしている。米軍が基礎研究に力を入れるのは、基礎物理学の成果がコンピューターやレーザー、GPSといった技術を生み出したように、成果が出るまで時間はかかるが応用範囲がはるかに広いからだ。

 

例えば京都大で行われたメタマテリアルの研究。「光学迷彩」と呼ばれ、敵から見えなくなるステルス技術の切り札とされている。東京工業大で行われた炭素繊維の研究は、飛躍的に高速で燃費のよい戦闘機の実現につながる技術だ。大阪大のスピントロニクスは、電子の特性を生かし、現在のエレクトロニクスに代わって、ほとんど電力を使わずに情報処理ができるようになる。名古屋大の池内了名誉教授は「成果はすべてではないにせよ、米軍に活用されると考えるべきだ。実戦で装備化され、日本の研究者は制御できない。学術会議だけでなく、大学など各組織が、助成を受けないと明記した倫理規定を作るべきだ」と話す。

 

米国は軍事技術として培ったGPSやインターネットを民生技術として広く開放し、経済発展を遂げた。だが近年は、民生技術が他国やテロ集団にも行き渡り、軍事面の優位性が失われつつある。そこで米国防総省の諮問組織「国防科学委員会」は12年、基礎研究推進の提言書を発表した。助成活動の指針にあたり、軍が基礎研究を推進する目的を「成果を軍備増強に活用することで軍事的優位を保つこと」と明記。特に米国外での助成の充実を求めた。国防総省も14年、国防戦略の改革をめざした「国防革新イニシアチブ」を発表。海外の民生分野の研究成果を早く低コストで集めることを国防戦略の柱の一つに据えた。日本の研究者への助成対象に多い「人と機械の協働」「サイバー技術」といった分野は、米軍の重点項目にも挙げられている。

 

■学術界、半世紀続く議論

米軍の研究助成は日本の学術界にとって半世紀にわたる悩みの種だ。1967年、日本物理学会が主催する国際会議の開催に米軍が資金を出していることが問題になった。その後、日本学術会議は軍事研究を行わない声明を発表。物理学会も「軍隊からの援助、その他一切の協力関係を持たない」との決議を行った。だが95年、学会は軍事研究の定義が難しいことなどから、「武器の研究といった明白な軍事研究以外は自由」と方針転換した。その前に学会長を務めていた小沼通二・慶応大名誉教授は「決議したまま長い間議論せずに放置した結果、会員の意識が風化した」と話す。

 

その後、東京工業大が学内指針を定めて米軍の助成を受け入れ始めたが、学術会議はこの問題を扱わずにきた。防衛省が2015年度に研究費制度を始め、少なからぬ研究者が応募した。小沼さんは、軍事組織から研究費を得ることへの抵抗感が薄くなっていると分析する。昨年になって、学術会議は議論を始めた。昨年6月から議論してきた学術会議の「安全保障と学術に関する検討委員会」では、米軍やNATO(北大西洋条約機構)など国外の軍事組織の研究費についても話し合った。委員からは「基礎研究であっても軍事力の強化という目的によって方向づけられており、軍事研究にほかならない」(小森田秋夫・神奈川大教授)といった指摘が出た。1月に出た中間とりまとめは、軍事研究への慎重な姿勢を求める内容で、4月の総会で結論を出す見通し。だが、小沼さんは「結論を出した後も、広く国内の研究者や社会で議論を続けていくことが必要だ」と指摘する。