2017年11月11日

トランプ大統領、アジア政策演説

インド歓迎/韓国は警戒 トランプ氏演説、対中関係を意識
(2017年11月11日、朝日)

 

トランプ米大統領が10日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)での演説で打ち出した新たなアジア政策「自由で開かれたインド太平洋」構想。アジアの国々の間には、歓迎の一方で警戒も入り交じる。背後にあるのは、地域での影響力を強める中国の存在だ「間違いなくインドの重要性を反映した言葉だ」。トランプ氏が言及した「インド太平洋」という言葉について、インド政府関係者はそう歓迎する。安全保障上の協力関係を深める両国は、6月のモディ首相とトランプ氏の首脳会談前に、米国が輸送機C17の売却を承認。10月にはティラーソン米国務長官がインドを訪問し、来年に両国初の外務・防衛閣僚級協議をすることで合意した。

 

安保協力を急ぐ両国の念頭にあるのは中国だ。インドは中国が進める「一帯一路」構想が、自国を包囲する形になっていることに警戒感を募らせている。インド洋に面した国々の港湾を中国が軍事利用するのではないかとの懸念も強い。インド政府関係者は「トランプ氏の発言には一貫性がなく、どこまで信用していいかわからない」としつつも、今後のさらなる関係強化に期待を示す。

 

一方、韓国の文在寅(ムンジェイン)政権は、同調できないとの姿勢だ。大統領府は9日、米韓首脳会談でもトランプ氏が言及した「インド太平洋地域」について「適切な地域概念か、協議が必要だ」と、疑義を唱える異例の声明を発表した。背景には、トランプ氏の構想が中国への牽制(けんせい)につながり得るとの懸念がある。最近ようやく改善した中韓関係が悪化することへの恐れに加え、米国や日本など「大国」が主導するという側面への不快感もある。大統領府高官は9日、この構想について記者団に「日本・オーストラリア・インド・米国をつなぐ外交的ラインだ」と指摘し、「我々は編入される必要がない」と言い切った。ただ、韓国外交省の林聖男(イムソンナム)・第1次官は10日、国会で「追加の協議、検討をしなければならないということだ」と述べて、含みを持たせた。

 

■東南アジア、米接近の動きも

今回の演説でアジア諸国との新たな協力関係を打ち出したトランプ氏だが、「米国の利益」を優先し、不正や人権問題に関心を払わない姿勢は、東南アジアと米国との関係にすでに変化をもたらしつつある。9月にホワイトハウスでトランプ氏と会談したマレーシアのナジブ首相は、帰国後の講演でこう自慢げに話した。「『友達だから』と言って地下の駐車場まで見送りに来てくれた」厚遇にはわけがある。国営ベルナマ通信によると、会談でナジブ氏はマレーシア航空が米ボーイング社から100億ドル(約1兆1300億円)相当の旅客機を購入すると表明した。ナジブ氏をめぐっては米司法省が、政府系ファンド「1MDB」の不正資金流用問題について追及。オバマ前米政権とはぎくしゃくした関係が続いた。

 

また、トランプ氏はタイの軍事政権と距離を置いたオバマ前政権の姿勢から一転して、プラユット暫定首相を10月に米国に招いた。会談でトランプ氏はタイの今後の民政移管について質問すらしなかったという。タイ政府関係者は「会談の焦点は北朝鮮と貿易収支の問題だった」と話した。

 

トランプ氏には、中国になびきかけた国々を引き戻そうという思惑も見え、東南アジアの国々もそれを利用している構図が浮かぶ。南シナ海問題で中国と争うフィリピンは、ドゥテルテ政権になって「親中国」の姿勢に転換。強硬な麻薬犯罪取り締まりを人権問題と批判したオバマ前政権をドゥテルテ氏は敵視すらしてきたが、近く首脳会談を控えるトランプ氏については「重要な指導者として迎える」と述べた。ドゥテルテ氏は8日、南シナ海問題を念頭に「重要な問題を取り上げる頃合いだ」と述べた。米国と中国をてんびんにかけ始めたとの見方も出ている。

 

■トランプ大統領演説(要旨)

インド太平洋地域のすべての国との友好と通商の絆を強めるため、米国との新たな協力関係を提案する。米国と貿易する場合は忠実にルールに従い、双方に開かれた市場とするよう望む。しかし、あまりにも長い間、逆のことが起きてきた。米国が関税を引き下げ撤廃し、貿易障壁を減らし、外国商品が米国に自由に流れ込むようにしたのに、他の国々は市場を開放しなかった。我々はWTO(世界貿易機関)に公正に扱われてこなかった。米国はイノベーションや産業を後押ししたが、他の国々はダンピング(不当廉売)や為替操作、略奪的な産業政策に手を染めた。我々はこれ以上、慢性的な貿易の悪弊を容認できない。

 

私は習近平国家主席と中国との間の膨大な貿易赤字について率直に話し合い、真に公正で対等な貿易関係を実現するよう強く求めた。私たちは公正で平等な土台の上で競い合うことになる。私はこれ以上、米国がつけ込まれないようにする。私は常に「米国第一」を優先させる。私は、我々のパートナーになろうというインド太平洋地域のあらゆる国と二国間の貿易協定を結ぶつもりだ。我々はもう、我々の手をしばるような大きな(多国間の)協定には加わらない。相互の尊重と利益に基づいた取引をする。