帝国憲法 (告文・勅語・上諭):近代国家日本の真姿

 

私たちが学校で教えられてきた「明治憲法(悪)・日本国憲法(善)」の固定観念に疑いの目を向ける「明治憲法への冤罪をほどく!」を連載でお届けします。明治憲法を批判する人も支持する人も、明治憲法を読んだことがあるかというとそうでない人が多いのではないかと思われることから、本連載では全条文を解説していきます。

 

明治憲法の本体である条文は、第1章の「天皇」から第7章の「補則」まで全76条で構成されていますが、各条文の前に「告文(こうぶん)」、「憲法発布勅語」、「上諭(じょうゆ)」という長い「みことば」や文書が入っています(三つ合わせて「三誥(さんこく)」と称される)。

 

帝国憲法は、プロシア(ドイツ)憲法の影響を受けたとされています。しかし、決して、ヨーロッパの憲法のまねではなく(ドイツ法体系の単なる輸入ではなく)、国憲の基準を自国の歴史・伝統への回帰またはその先例に従っています。このことが明確に示されているのが三誥(「告文」、「憲法発布勅語」、「上諭」)なのです。

 

「告文」から「憲法発布勅語」「上諭」と読んでいけば、日本の歴史の悠久の流れや、帝国憲法に貫かれる精神や、明治天皇のご気概などを読み取ることができます。逆に、これらが、神話に基づいた天皇の絶対的支配を正当化しているものとして、帝国憲法を悪玉にする格好のターゲットになっていることも事実です。いずれにしても、帝国憲法の全体像を理解するために欠かすことのできない内容です。では、まず告文からみていきましょう。

 

なお、大日本帝国憲法は、略称として帝国憲法」、俗称として「明治憲法」と呼ばれますが、ここでは「帝国憲法」を用います。

 

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告文

 

告文(こうぶん)とは、天皇(王や皇帝)が臣下の人々に対して告げる文章のことをいいます。ここでは、明治天皇が、これまでの先霊に対して、憲法を制定するまでのいきさつを説明し、自ら率先してこの憲法を守っていくと宣言されています。

 

なお、原文では、先霊の称号(皇祖、皇宗、皇考、神霊)に対して敬意を払うため、文章が途中であるにもかかわらず改行が入れられています。

 

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皇朕レ謹ミ畏ミ
皇祖
皇宗ノ神霊ニ誥ケ白サク皇朕レ天壌無窮ノ宏謨ニ循ヒ惟神ノ宝祚ヲ承継シ旧図ヲ保持シテ敢テ失墜スルコト無シ顧ミルニ世局ノ進運ニ膺リ人文ノ発達ニ随ヒ宜ク
皇祖
皇宗ノ遺訓ヲ明徴ニシ典憲ヲ成立シ条章ヲ昭示シ内ハ以テ子孫ノ率由スル所ト為シ外ハ以テ臣民翼賛ノ道ヲ広メ永遠ニ遵行セシメ益々国家ノ丕基ヲ鞏固ニシ八洲民生ノ慶福ヲ増進スヘシ茲ニ皇室典範及憲法ヲ制定ス惟フニ此レ皆
皇祖
皇宗ノ後裔ニ貽シタマヘル統治ノ洪範ヲ紹述スルニ外ナラス而シテ朕カ躬ニ逮テ時ト倶ニ挙行スルコトヲ得ルハ洵ニ
皇祖
皇宗及我カ
皇考ノ威霊ニ倚藉スルニ由ラサルハ無シ皇朕レ仰テ
皇祖
皇宗及
皇考ノ神祐ヲ祷リ併セテ朕カ現在及将来ニ臣民ニ率先シ此ノ憲章ヲ履行シテ愆ラサラムコトヲ誓フ庶幾クハ
神霊此レヲ鑒ミタマヘ

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告文を全体として読もうとすると文語体で読みづらいので、一文ごとに分けて、原文、原文の平仮名読み(口語訳)、現代語訳、用語解説を表記します。

 

 

皇朕レ謹ミ畏ミ 皇祖 皇宗ノ神霊ニ誥ケ白サク

皇朕(わ)れ つつしみかしこみ 皇祖皇宗の神霊に告げもうさく

われ(明治天皇)は、皇祖皇宗の御神霊へ謹み畏み申し上げる

 

皇祖:天皇の祖先、すなわち天照大神や神武天皇のこと。

皇宗:神武天皇の次の代(第2代綏靖(すいぜい)天皇)から、ここでは明治天皇の前の代(孝明天皇)までの間の天皇。二代綏靖天皇以来の歴代天皇のこと

誥(つ)げる上位のものが下位のものに告げる。

 

皇朕レ天壌無窮ノ宏謨ニ循ヒ惟神ノ宝祚ヲ承継シ旧図ヲ保持シテ敢テ失墜スルコト無シ

われ 天壌無窮の宏謨(こうぼ)に従い 惟神の宝祚(ほうそ)を承継し 旧図(きょうと)を保持して敢て失墜すること無し

われ(私)は、悠久の経綸(広大な計画)に従い、神の御心(みこころ)のままに皇位を継承し、伝統を保持し、その御心(みこころ)に違える(たがえる)ことは決してない

 

天壌(てんじょう)無窮(むきゅう):悠久

宏謨(こうぼ):経綸、広大な計画

惟(かむ)神(ながら):神の道に従うこと。神意のままに行うこと、

宝祚(ほうそ):皇位

旧図(きゅうと):伝統

 

 

顧ミルニ世局ノ進運ニ膺リ 人文ノ発達ニ随ヒ宜ク 皇祖皇宗ノ遺訓ヲ明徴ニシ典憲ヲ成立シ 条章ヲ昭示シ 内ハ以テ子孫ノ率由スル所ト為シ 外ハ以テ臣民翼賛ノ道ヲ広メ 永遠ニ遵行セシメ 益々国家ノ丕基ヲ鞏固ニシ 八洲民生ノ慶福ヲ増進スヘシ 茲ニ皇室典範及憲法ヲ制定ス

かえりみるに 世局の進運に当たり 人文の発達に随(従)い よろしく 皇祖 皇宗の遺訓を明徴にし 典憲を成立し 条章を昭示し 内(うち)はもって 子孫の率由(そつゆう)するところとなし 外はもって臣民翼賛の道をひろめ 永遠に遵行せしめ ますます国家の丕基(ひき)を鞏固(きょうご)し 八(や)洲(しま)民生(みんせい)の慶福を増進すべし ここに皇室典範および憲法を制定す

 顧みれば、世の中が進捗(しんちょく)し、文化文明、人倫(じんりん)(人として守るべき道)の発達に従うなら、皇祖皇宗の教訓を明らかにして、典憲(皇室典範と憲法)を制定し、条文として示し、内(うち)にあっては、子孫が従うところとし、外にあっては、臣民(国民)がこれを支える道を広め、永遠の遵守を求め、国のかたち(基礎)をいっそう強固にして、日本の民の幸(さち)を増進すべきであり、(そのために)ここに皇室典範および憲法を制定する。

 

世局(せいきょく):世の成り行き。時局

人文(じんもん):人類の文化・文明、人倫の秩序

遺訓:先祖から子孫への教訓

明徴:明らかにする、明示する

典(てん)憲(けん):皇室典範と憲法

条(じょう)章(しょう):条文、箇条書きの文章

昭示(しょうじ):明示する、はっきりと示す

率(そつ)由(よし):前例からはずれないようにすること。従うこと

臣民:民、(天皇皇族以外の)国民

翼賛(よくさん):支えること

遵(じゅん)行(こう):きまり、命令に従って行うこと

丕基(ひき):国家統治の基礎

八(や)洲(しま)民生(みんせい)(八州:日本の美称、民生:日本臣民の生活)

皇室典範:皇室の家法、皇室に関する法律

 

 

惟フニ此レ皆 皇祖 皇宗ノ後裔ニ貽シタマヘル統治ノ洪範ヲ紹述スルニ外ナラス 而シテ朕カ躬ニ逮テ時ト倶ニ挙行スルコトヲ得ルハ 洵ニ 皇祖 皇宗及我カ皇考ノ威霊ニ倚藉スルニ由ラサルハ無シ
惟(おも)うにこれ皆 皇祖 皇宗の後裔(こうえい)に貽(のこ)したまへる統治の洪(こう)範(はん)を紹述(しょうじゅつ)するに外ならず しこうして 朕か躬(み)に逮(および)て 時と倶(とも)に挙行することを得(う)るは洵(まこと)に 皇祖 皇宗および我が皇考の威(い)霊(れい)に倚藉(いしゃ)するに由(よ)らざるはなし

思うにこれはみな、皇祖皇宗が子孫に遺された統治の模範に従うことにほかならず、そうして、私自身に巡りきて、時に及んで(統治を)とり行うことができるようになったことは、まことに皇祖皇宗および先帝の威光に頼ってきたからにほかならない

 

洪範(こうはん):手本となるような大法。模範。

紹述(しょうじゅつ):(先人の業を受け継いで)従って行うこと。

朕:天皇や皇帝が「われ」の意に用いる

皇考:先帝(今上天皇が先代の天皇を指して言う)。ここでは、明治天皇の前の孝明天皇をさす。

威霊(いれい):威光、神威

倚藉(きしゃ):頼ること

 

 

朕レ仰テ 皇祖 皇宗及皇考ノ神祐ヲ祷リ 併セテ朕カ現在及将来ニ臣民ニ率先シ 此ノ憲章ヲ履行シテ愆ラサラムコトヲ誓フ 庶幾クハ 神霊此レヲ鑒ミタマヘ

われ あおぎて 皇祖 皇宗および皇考の神(しん)祐(ゆう)を祈り、あわせて朕が現在および将来に臣民に率先し この憲章を履行して愆(あやま)らさらむことを誓ふ 願わくば、神霊これを鑒(かんがみ)みたまへ

われは仰いで皇祖皇宗および先帝の導きを祈願し、併せて、われは現在および将来に臣民に率先して、この憲法を実行し怠らない(誤ることのないようにする)ことを誓う。願わくば、御神霊の照覧たまわらんことを

 

神祐(しんゆう):神の助け、神助

神霊:神様のこと

愆(あやま)る:怠る、誤る

鑒(かんがみ)る:じっくり見る、照覧する

 

最後の部分で、「私は仰いで皇祖皇宗および先帝の助けを祈願し、あわせて朕の現在および将来に臣民に率先してこの憲章を実行してこれを誤ることの無いようにすることを誓う」と元首たる明治天皇が自ら率先してこの憲法を守っていくと宣言しているところに、帝国憲法が立憲主義の憲法であることが示されています。

 

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<憲法発布勅語>

 

勅語(ちょくご)とは、天皇が直接に国民に与えるという形で発する意思表示の言をいいます。この勅語の文章に込められた、日本の国の長い歴史が持つ君民同治の国柄の美しさと、それに対する誇りとそれを受け継ぐ責任と希望が述べられています。

 

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朕国家ノ隆昌ト臣民ノ慶福トヲ以テ中心ノ欣栄トシ朕カ祖宗ニ承クルノ大権ニ依リ現在及将来ノ臣民ニ対シ此ノ不磨ノ大典ヲ宣布ス
惟フニ我カ祖我カ宗ハ我カ臣民祖先ノ協力輔翼ニ倚リ我カ帝国ヲ肇造シ以テ無窮ニ垂レタリ此レ我カ神聖ナル祖宗ノ威徳ト並ニ臣民ノ忠実勇武ニシテ国ヲ愛シ公ニ殉ヒ以テ此ノ光輝アル国史ノ成跡ヲ貽シタルナリ 朕我カ臣民ハ即チ祖宗ノ忠良ナル臣民ノ子孫ナルヲ回想シ其ノ朕カ意ヲ奉体シ朕カ事ヲ奨順シ相与ニ和衷協同シ益々我カ帝国ノ光栄ヲ中外ニ宣揚シ祖宗ノ遺業ヲ永久ニ鞏固ナラシムルノ希望ヲ同クシ此ノ負担ヲ分ツニ堪フルコトヲ疑ハサルナリ

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告文と同様、「勅語」も、全体として読もうとすると文語体で読みづらいので、一文ごとに分けて、原文、原文の平仮名読み(口語訳)、現代語訳、用語解説を表記します。

 

朕国家ノ隆昌ト臣民ノ慶福トヲ以テ中心ノ欣栄トシ 朕カ祖宗ニ承クルノ大権ニ依リ 現在及将来ノ臣民ニ対シ此ノ不磨ノ大典ヲ宣布ス

朕(ちん) 国家の隆昌と臣民の慶福とをもって中心の欣(きん)栄(えい)とし 朕が祖宗に承(う)くるの大権により 現在および将来の臣民に対しこの不磨の大典を宣布す

私は(朕は)、国家の隆盛と臣民の慶福(幸福)を繁栄の中心とみなし、私が祖宗(皇祖皇宗)から受け継いだ大権によって、現在および将来の臣民に対し、この不朽の憲法を宣布(公布)する

 

隆昌(りゅうしょう):隆盛、勢いの盛んなこと

慶福(けいふく):幸い、幸福

欣栄(きんえい):喜び繁栄すること

祖宗:先祖代々の君主の総称、皇祖皇宗と同義

大権:国家行為を行う権限、統治権

不磨(ふま)の大典(たいてん):不朽、不滅の(重要な)法律(=憲法)

 

 

惟フニ我カ祖 我カ宗ハ 我カ臣民祖先ノ協力輔翼ニ倚リ 我カ帝国ヲ肇造シ 以テ無窮ニ垂レタリ 此レ我カ神聖ナル祖宗ノ威徳ト 並ニ臣民ノ忠実勇武ニシテ 国ヲ愛シ公ニ殉ヒ 以テ此ノ光輝アル国史ノ成跡ヲ貽シタルナリ

惟(おも)うに わが祖 わが宗(そう)は わが臣民祖先の協力輔翼(ほよく)により わが帝国を肇造(ちょうぞう)し もって無窮に垂(た)れたり これわが神聖なる祖宗の威徳と ならびに臣民の忠実勇武にして国を愛し公に殉(したが)い もってこの光輝ある国史の成跡(せいせき)を貽(のこ)したるなり

思うに、わが祖先、また歴代天皇は、わが臣民の祖先の協力や支えにより、わが帝国(大日本帝国)を建国し、それを永遠(とことわ)にお与えになった。これはわが神聖なる祖宗の威徳と、ならびに臣民が忠実・勇武によって、国を愛し公儀に従ったことで(国を愛し公に従い)、この光輝く日本国の歴史に足跡(そくせき)を残すことができたのである

 

輔翼(ほよく):補佐

肇造(ちょうぞう):建国、初めてつくること

無窮(むきゅう):永遠に、果てしないこと

垂れる:目上の者が目下の者に示したり、与えたりすること

威徳(いとく):威光と人から慕われるような徳

成跡(せいせき):足跡、過去の実績

 

 

朕我カ臣民ハ 即チ祖宗ノ忠良ナル臣民ノ子孫ナルヲ回想シ 其ノ朕カ意ヲ奉体シ 朕カ事ヲ奨順シ 相与ニ和衷協同シ 益々我カ帝国ノ光栄ヲ中外ニ宣揚シ 祖宗ノ遺業ヲ永久ニ鞏固ナラシムルノ希望ヲ同クシ 此ノ負担ヲ分ツニ堪フルコトヲ疑ハサルナリ

朕 わが臣民は即ち祖宗の忠良なる臣民の子孫なるを回想し その朕が意を奉体し 朕が事を奨順(しょうじゅん)し相与(あいとも)に和衷協同し ますますわが帝国の光栄を中外に宣揚し 祖宗の遺業を永久に鞏固(きょうこ)ならしむるの希望を同(おなじ)くし この負担を分(わか)つに堪(た)ふることを疑はざるなり

私は、わが臣民が、すなわち祖宗(皇祖皇宗)の忠実・善良なる臣民の子孫であることに思いめぐらし、私の意を実行に移し(朕の意志に身を挺し、)、私の政事(まつりごと)(事業)をすすめ従い、互いに心を一つに力を合わせて、ますますわが帝国の光栄を国の内外に広く知らせ(しめ)、祖宗の遺業を永久に強固たるものにするという希望を同じくし、その任の負担に耐えられることに疑いの余地はない

 

忠良(ちゅうりょう):忠義に厚く善良

奉体(ほうたい):(上からの意を受けて)実行すること

奨順(しょうじゅん):奨めてしたがわせること

和中協同(わちゅうきょうどう):心を同じくして、力を合わせること

宣揚(せんよう):世の中にあらわすこと

鞏固(きょうこ):強固

 

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<上諭>

 

上諭(じょうゆ)とは、君主が臣下に諭し告げる文書(天皇の御言葉)のことで、法律・条約などを公布する際、冒頭に付され、天皇が法律等を裁可し、成立させたことが示されます。

 

通常、上諭は、形式的なもので、ほとんどの上諭が裁可・成立の事実を示す一文のみだそうですが、帝国憲法の上諭は、六分段に分かれる長いものになったことから、前文としての性質を有し憲法典の一部を構成すると解されています。

 

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朕祖宗ノ遺烈ヲ承ケ万世一系ノ帝位ヲ践ミ朕カ親愛スル所ノ臣民ハ即チ朕カ祖宗ノ恵撫慈養シタマヒシ所ノ臣民ナルヲ念ヒ其ノ康福ヲ増進シ其ノ懿徳良能ヲ発達セシメムコトヲ願ヒ又其ノ翼賛ニ依リ与ニ倶ニ国家ノ進運ヲ扶持セムコトヲ望ミ乃チ明治十四年十月十二日ノ詔命ヲ履践シ茲ニ大憲ヲ制定シ朕カ率由スル所ヲ示シ朕カ後嗣及臣民及臣民ノ子孫タル者ヲシテ永遠ニ循行スル所ヲ知ラシム

国家統治ノ大権ハ朕カ之ヲ祖宗ニ承ケテ之ヲ子孫ニ伝フル所ナリ朕及朕カ子孫ハ将来此ノ憲法ノ条章ニ循ヒ之ヲ行フコトヲ愆ラサルヘシ

朕ハ我カ臣民ノ権利及財産ノ安全ヲ貴重シ及之ヲ保護シ此ノ憲法及法律ノ範囲内ニ於テ其ノ享有ヲ完全ナラシムヘキコトヲ宣言ス

帝国議会ハ明治二十三年ヲ以テ之ヲ召集シ議会開会ノ時ヲ以テ此ノ憲法ヲシテ有効ナラシムルノ期トスヘシ

将来若此ノ憲法ノ或ル条章ヲ改定スルノ必要ナル時宜ヲ見ルニ至ラハ朕及朕カ継統ノ子孫ハ発議ノ権ヲ執リ之ヲ議会ニ付シ議会ハ此ノ憲法ニ定メタル要件ニ依リ之ヲ議決スルノ外朕カ子孫及臣民ハ敢テ之カ紛更ヲ試ミルコトヲ得サルヘシ

朕カ在廷ノ大臣ハ朕カ為ニ此ノ憲法ヲ施行スルノ責ニ任スヘク朕カ現在及将来ノ臣民ハ此ノ憲法ニ対シ永遠ニ従順ノ義務ヲ負フヘシ

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告文と勅語同様、一文(分段)ごとに分けて、原文、原文の平仮名読み(口語訳)、現代語訳、用語解説を表記します。

 

祖宗ノ遺烈ヲ承ケ 万世一系ノ帝位ヲ践ミ 朕カ親愛スル所ノ臣民ハ 即チ朕カ祖宗ノ恵撫慈養シタマヒシ所ノ臣民ナルヲ念ヒ 其ノ康福ヲ増進シ 其ノ懿徳良能ヲ発達セシメムコトヲ願ヒ 又其ノ翼賛ニ依リ与ニ倶ニ国家ノ進運ヲ扶持セムコトヲ望ミ 乃チ明治十四年十月十二日ノ詔命ヲ履践シ 茲ニ大憲ヲ制定シ 朕カ率由スル所ヲ示シ 朕カ後嗣及臣民及臣民ノ子孫タル者ヲシテ永遠ニ循行スル所ヲ知ラシム

朕 祖宗の遺烈(いれつ)を承(う)け 万世一系の帝位を践(ふ)み 朕が親愛するところの臣民は すなわち朕が祖宗の恵撫(けいぶ)慈養(じよう)したまいしところの臣民なるを念(おも)い その康福(こうふく)を増進し その懿徳(いとく)良能を発達せしめむことを願い またその翼賛(よくさん)により与(とも)に 倶(とも)に国家の進運を扶持(ふじ)せんことを望み 乃(すなわ)ち明治十四年十月十二日の詔命を履践(りせん)し 茲(ここ)に大憲を制定し 朕が率(そつ)由(ゆう)するところを示し 朕が後嗣(こうし)および臣民および臣民の子孫たる者をして永遠に循(じゅん)行(こう)するところを知らしむ

 私は(朕は)、祖宗(=皇祖皇宗)が行ってきた後世に残る功績を受け継ぎ、万世一系の天皇の位に就き(帝位をふみ)、私の親愛なる臣民は、すなわち私の祖宗が恵み、愛し、慈しみ、養ったところの臣民であることに思いをはせ、その慶福を増進し、その高い徳と生まれながらの才能を発達させることを願い、またその力添えによって、ともに国家の進運を支えてくれることを望む。すなわち明治十四年十月十二日の勅命を実行(実践)し、ここに憲法を制定し、わたくしが遵守することを示し、わたくしの子孫および臣民とまたその子孫にも、永遠(とことわ)に憲法に従い実行することを求める(知らしめる)

 

遺烈(いれつ):後世に残る功績

万世(ばんせい)一系(いっけい):一つの皇統(天皇の血統)が連綿と続くこと

恵撫慈(けいぶじ)養(よう):恵み、愛し、慈しみ、養うこと

懿徳(いとく):威厳と人徳、厳かで徳が高い

良能(りょうのう):生まれながらの能力才能

翼賛(よくさん):補佐すること

進運(しんうん):進歩・向上の方向にあるなりゆきのこと

扶持(ふじ):助けること

詔命(しょうめい):天皇の命令

履践(りせん):実際に行うこと

大憲(たいけん):憲法のこと

率由(そつゆう):前例からはずれないようにすること。従うこと

明治14年10月12日に出した詔勅:国会開設の勅諭のこと

 

 

国家統治ノ大権ハ 朕カ之ヲ祖宗ニ承ケテ之ヲ子孫ニ伝フル所ナリ 朕及朕カ子孫ハ将来此ノ憲法ノ条章ニ循ヒ 之ヲ行フコトヲ愆ラサルヘシ

国家統治の大権は朕がこれを祖宗に承(う)けて これを子孫に伝ふるところなり 朕および朕が子孫は将来この憲法の条(じょう)章(しょう)に循(したが)ひこれを行うことを愆(あやま)らざるべし

 国家を統治する大権は、私(朕)がこれを祖宗より受け継ぎ、また子孫へと伝えていくものである。朕および朕の子孫は将来にわたり、この憲法の条文に従い、実行することを怠ってはならない(を誤ってはならない)

 

大権:国家行為を行う権限、統治権

 

 

朕ハ我カ臣民ノ権利及財産ノ安全ヲ貴重シ 及之ヲ保護シ 此ノ憲法及法律ノ範囲内ニ於テ其ノ享有ヲ完全ナラシムヘキコトヲ宣言ス

朕は我が臣民の権利および財産の安全を貴重し およびこれを保護し この憲法および法律の範囲内においてその享有を完全ならしむべきことを宣言す

朕は、我が臣民の権利および財産の安全を貴び重んじ、またこれを保護し、この憲法および法律の範囲内においてその享有を完全にすべきである(完全に享有させる)ことを宣言する

 

享有(きょうゆう):(権利、能力などを)人が生まれながら身につけて持っていること

 

帝国議会ハ明治二十三年ヲ以テ之ヲ召集シ 議会開会ノ時ヲ以テ此ノ憲法ヲシテ有効ナラシムルノ期トスヘシ

帝国議会は明治二十三年をもってこれを召集し 議会開会の時をもってこの憲法をして有効ならしむるの期(き)とすべし

帝国議会は明治二十三年に召集し、議会開会の時をこの憲法が有効となる期日とする

 

 

将来若此ノ憲法ノ或ル条章ヲ改定スルノ必要ナル時宜ヲ見ルニ至ラハ 朕及朕カ継統ノ子孫ハ 発議ノ権ヲ執リ之ヲ議会ニ付シ 議会ハ此ノ憲法ニ定メタル要件ニ依リ 之ヲ議決スルノ外 朕カ子孫及臣民ハ敢テ之カ紛更ヲ試ミルコトヲ得サルヘシ

将来もし この憲法のある条章を改定するの必要なる時宜(じぎ)を見るに至らば 朕および朕が継統の子孫は発議の権を執り これを議会に付し 議会はこの憲法に定めたる要件によりこれを議決するのほか 朕が子孫および臣民は敢てこれを紛(ふん)更(こう)を試みることをえざるべし

将来、この憲法のある条文を改定する必要な時期が来るようになれば、私(朕)および朕の子孫は(改正の)発議の権限を執行し(発議し)、これを帝国議会に提出して、議会はこの憲法に定められた要件にしたがってこれを議決する以外、朕の子孫および臣民は、あえてこれをむやみに変更しようとすることはできない

 

時宜(じぎ):ほどよいころあい

継統(けいとう):皇位を継承すること

発議(はつぎ):議案や意見を出すこと

紛更(ふんこう):秩序がなくむやみに改め変えること、かきみだし改めること

 

 

朕カ在廷ノ大臣ハ 朕カ為ニ此ノ憲法ヲ施行スルノ責ニ任スヘク 朕カ現在及将来ノ臣民ハ此ノ憲法ニ対シ永遠ニ従順ノ義務ヲ負フヘシ

朕が在廷(ざいてい)の大臣は 朕がためにこの憲法を施行するの責(せめ)に任ずべく 朕が現在および将来の臣民は この憲法に対し永遠に従順の義務を負ふべし

私(朕)の現在の大臣は、私のためにこの憲法を施行する責任を有し、朕の現在および将来の臣民はこの憲法に対し永遠に従う義務を負わなければならない(義務がある)

 

在廷(ざいてい):朝廷に仕えていること、法廷に出頭していること

責めに任ずる:責任がある

 

 

御名御璽

御名御璽(ぎょめいぎょじ):「天皇の名(前)と天皇の公印」の意で、詔勅などの末尾に記される。天皇の署名捺印があることを示したもの。

 

 

なお、民定憲法である日本国憲法には、天皇からのみ言葉である告文や勅語がありませんが、「上諭」はあります。

 

上諭

朕は、日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至ったことを、深くよろこび、枢密顧問の諮詢(しじゅん)及び帝国憲法第73条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる

 

また、日本国憲法の場合、上諭の後、前文がきて憲法典の一部を成しています。これに対して、前述したように、帝国憲法には、前文はありませんが、上諭が前文の性質を兼ねています。

 

さて、ここまでをまとめると、西欧列強のアジア進出(侵略)が進む中、明治維新を成し遂げた日本は、欧米型の近代国家の枠組みの中で生きていくことを選択しました。そのために、欧米諸国の規範に沿った形で、憲法を制定することが求められ、これを成し遂げました。

 

告文、憲法発布勅語、上諭の三誥(さんこく)は、天皇が、臣民に対する期待や希望、守るべきことがらを確認するとともに、天皇のご自身の意思表明をなされました。この趣旨に即して、具体的に規定として成文化されたものが大日本帝国憲法の各条文です。

 

 

<参照>

帝国憲法の条文については以下のサイトから参照下さい。

⇒ 明治憲法への冤罪をほどく!

日本国憲法の条文ついては、以下のサイトから参照下さい。

⇒ 知られざる日本国憲法のなりたち

 

 

<参考>

明治憲法の思想(八木秀次、PHP新書)

帝国憲法の真実(倉山満、扶桑社新書)

憲法義解(伊藤博文、岩波文庫)

憲法(伊藤真、弘文社)

Wikipediaなど

 

(2022年11月12日)