帝国憲法19条 (平等権):もはや封建社会ではない!

 

私たちが学校で教えられてきた「明治憲法(悪)・日本国憲法(善)」の固定観念に疑いの目を向ける「明治憲法への冤罪をほどく!」を連載でお届けしています。今回から第2章「臣民権利義務」に入ります。その最初の主要テーマは、19条の「公務就任権(平等権)」です。本条も含めて2章全体に対してなされる「現憲法より人権保障が弱い」という批判は当たっているのでしょうか? 18条からみていきます。

 

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帝国憲法 第18条(臣民の要件)

日本臣民(しんみん)タル要件ハ法律ノ定ムル所ニ依(よ)ル

日本臣民(国民)であるための要件は法律に定めるところによる。

本条は、日本国憲法でもそのまま採用されています。

 

日本国憲法 第10

日本国民たる要件は,法律でこれを定める。

 

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帝国憲法 第19条(公務就任権)

日本臣民ハ法律命令ノ定ムル所ノ資格ニ応(おう)シ 均(ひとし)ク文(ぶん)武官(ぶかん)ニ任セラレ及其ノ他ノ公務ニ就(つ)クコトヲ得(う)

日本臣民は法律や命令の定める資格に応じて、等しく文武官(文官と武官)に任命され、またその他の公務に就くことができる。

 

<既存の解釈>

日本人なら誰でも公務につける旨を規定している。ただし、帝国憲法(明治憲法)の平等に関する規定は、この公務就任権資格の平等しかない。実際、当時の社会では華族など特権を持ち、男尊女卑の考え方が浸透しており、平等原則は、まだ憲法規範にまで高められていなかった。

 

これに対して、日本国憲法では第14条1項で、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により…差別されない」と規定して、法の下の平等の基本原則を宣言している。さらに個別的に、同条2項と3項で貴族制度の廃止と栄典にともなう特権の廃止を規定しただけでなく、家庭生活における平等(24条)、教育の機会均等(26条)などを設けて、平等権ないし平等原則の徹底化を図っている。

 

日本国憲法 第14

  1. すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
  2. 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
  3. 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

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こうした批判に対して、帝国憲法19条についての伊藤博文と井上毅の真意をくみ取れば以下のように反論できます。

 

<善意の解釈>

帝国憲法における平等権の表れとして、公務に就く機会平等が規定されました。本条は、江戸時代、数百年続いた世襲の士農工商の身分制度が廃止され四民平等とされたことを、憲法上で保障した内容で、四民平等の精神を具現化する条文です。門閥(出身)に拘わらず、日本人なら誰でも公務につける(国家公務員や地方公務員になれる)と宣言しています。こうした均しく公務に就く権利を定めた条文は、日本国憲法には存在しません。

 

本条に対する批判として、現行憲法に規定されているような法の下の平等の基本原則がないとか、貴族制度の廃止と栄典にともなう特権の廃止、家庭生活における平等、教育の機会均等(26条)が欠けているという指摘があります。

 

しかし、250年以上続いた江戸時代の封建的社会から抜け出して、近代国家の歩みを始めようとしていた明治日本の憲法の中に(帝国憲法の公布は1889年)、現憲法が規定している内容がないという批判は余りに不公平です。封建社会とは身分制社会、その身分制社会における公務の機会均等を、本条に掲げることができたこと自体が、画期的なことです。

 

 

<参照>

帝国憲法の他の条文などについては以下のサイトから参照下さい。

⇒ 明治憲法への冤罪をほどく!

日本国憲法の条文ついては、以下のサイトから参照下さい。

⇒ 知られざる日本国憲法のなりたち

 

 

<参考>

明治憲法の思想(八木秀次、PHP新書)

帝国憲法の真実(倉山満、扶桑社新書)

憲法義解(伊藤博文、岩波文庫)

憲法(伊藤真、弘文社)

Wikipediaなど

 

(2022年11月1日)