日本国憲法62~64条:国勢調査権はSWNCCの圧力

 

日本国憲法の制定過程や、各条文の成立経緯を検証した「知られざる日本国憲法のなりたち」を連載でお届けしています。第4章の「国会」の中から、今回は、国政調査権や弾劾裁判権についてです。

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  • 62条 国政調査権

両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。

 

国政調査権(国政に関する調査を行う権利)は、国民の代表者である議員から成る議院(参議院と衆議院)が、広く国政(行政)を監督しコントロールする権限を実効的に活用する上で必要な調査を行う権利です。国政調査権を使って何ができるかといえば、国政全般の調査にために「証人の出頭及び証言並びに記録の提出」を強制的に求めることができます。

 

国政調査権に関する規定は帝国憲法にも、アメリカの合衆国憲法にもありませんでした。では、なぜ国政調査権に関する規定をGHQは盛り込んだのでしょうか?

 

GHQは、議院の自律性を高めるべく、両議院による国政調査権を憲法改正案に加えたと解されていますが、実際の答えは、すでに何度もでてきているSWNCC(国務・陸軍・海軍三省調整委員会)の報告書「日本の統治体制の改革」(SWNCC 228)にあったようです。

 

SWNCC(スウィンク)については「日本国憲法がわずか9日間で書けたわけ」を参照

 

報告書には、戦前の日本において議会が国政を監督・コントロールする機能が有効に働いていなかった背景として、次のような記載があります。

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(戦前の)議会は、国政のいかなる事項に関しても調査委員会を設置しうる権能をもっているが、それは、証人の出頭を強制しえないということによって、制約されている(た)」

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GHQ案はまさにSWNCC 228を反映しています。

 

GHQ案

国会は調査を行い、証人の出頭および証言供述ならびに記録の提出を強制し、かつこれに応ぜざる者を処罰する権限を有すべし。

 

その後、GHQ案は、日本政府と総司令部(GHQ)との協議の過程で、「国会」を「両議院」に変更し、また、条文上からは「その要求に応ぜざる者を処罰することができる」を削除するなどして、憲法改正草案となり、成立しました。

 

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  • 63条(大臣の出席要求権)

内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

 

総理を含む国務大臣には、両議院に出席し発言する権利、また出席を求められたときには出席義務があることを定めています。

 

帝国憲法においても、総理を含む大臣の議院出席権についての規定はありますが、議院出席の義務は定められていませんでした。

 

帝憲法第54条(閣僚らの議院出席・発言権)

国務大臣及政府委員ハ 何時(なんどき)タリトモ各議院ニ出席シ及発言スルコトヲ得

国務大臣および政府委員(内閣から任命された大臣の答弁などを補佐する行政職員)は、いつでも各議院に出席し、発言することができる。

 

そこで、連合国軍総司令部(GHQ)は、総理を含む大臣の議院出席の義務の規定を付記した改正案を提起しました。この理由もSWNCCの要求の表われと言えるでしょう。「日本の統治体制の改革」(SWNCC 228)では、日本の戦前の統治体制は、「国民に対する政府の責任をはっきりさせる制度とはなっていない」と批判されていました。そこで、政府は国民の代表である国会に対して責任を持たせるためにも、総理を含む大臣の議院出席義務を盛り込んだと推察できます。

 

GHQ案

総理大臣および国務大臣は、国会に議席を有すると否とを問わず、何時にても法律案を提出し、討論する目的をもって出席することができる。質問に答弁することを要求せられたるときは出席すべし。

 

GHQ案は、その後の日本政府と総司令部の「協議」において、文言調整だけが行われ、現行憲法の規定となりました。

 

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  • 64条(弾劾裁判所)
  1. 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
  2. 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。

 

本条は、国会の弾劾裁判所設置権に関する規定です。弾劾とは、裁判官などの犯罪や不正を調べて、審判し罷免させる手続きのことをいい、弾劾裁判所は国会に設置されています。64条に従い、弾劾裁判では(各議院の議員から選ばれた訴追委員で組織される)裁判官訴追委員会から罷免の訴追(罷免を求める=裁判にかける)を受けた裁判官が裁判を受けます。

 

帝国憲法に弾劾裁判に関する規定はありませんでしたが、アメリカでは弾劾裁判の制度は存在し、裁判官だけでなく、大統領を含むすべての文官を対象に実施されます。弾劾裁判の手続きは、下院が(弾劾裁判にかけるかどうかを決定する)弾劾の訴追権限を持ち、上院が弾劾を裁判します。

 

合衆国憲法第2章第4

大統領、副大統領および合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪その他の重大な罪または軽罪につき 弾劾の訴追を受け、有罪の判決を受けたときは、その職を解かれる。

 

合衆国憲法第1章(立法部)第3条

下院は、議長その他の役員を選任する。弾劾の訴追権限は下院に専属する。

すべての弾劾を裁判する権限は、上院に専属する。以下略。

 

本条(64条)に定めた弾劾裁判も、アメリカの制度が日本に導入されたものと言っていいでしょう。GHQ案に基づいて、現行の第64条が誕生しました。

 

GHQ案

国会は(職務を解く)忌避訴訟の被告たる司法官を裁判するため、議員中より弾劾裁判所を構成すべし。

 

 

<参照>

その他の条文の成り立ちについては以下のサイトから参照下さい。

⇒ 知られざる日本国憲法の成り立ち

 

        

<参考>

憲法(伊藤真 弘文堂)

日本国憲法の誕生(国立国会図書館HP)
憲法を知りたい(毎日新聞)

アメリカ合衆国憲法(アメリカンセンターHP)

Wikipediaなど

 

(2022年9月22日)