日本国憲法41~48条:GHQは一院制の国会を要求!

 

日本国憲法の制定過程や、各条文の成立経緯を検証した「知られざる日本国憲法のなりた」を連載でお届けしています。これまで、基本的人権に関する主な条文の成り立ちについてみてきましたが、今回から、(三権分立の)統治機構に入ります。まずは、第4章の「国会」からです。国会についての条文は、41条から64条から成り立っています。日本に対し「国民に責任を負う真の代議政治を確立させる」ことを目的としたGHQ(連合国総司令部)は、自国の制度を最良とみなしたのでしょうか、合衆国憲法の条文をベースとして、「国会」について、多くの草案を起草したようです。

 

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  • 41条(国会の地位・立法権)

国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

 

本条では、まず国会を「国権の最高機関」と規定しています。国権とは一般に、立法権、行政権、司法権など統治活動をする様々な権力の総称を指しますが、文字通り、国会が、内閣と裁判所など他の国家機関の上位に置かれているという意味ではありません。むしろ、国会が国家機関のうちで最も主権者国民に近い存在であることを宣言した「政治的な美称」だという説明が通説となっています。また、国会は「国の唯一の立法機関」と述べています。これは、国会だけが立法機関であって、他の機関には立法権がないということを意味しています。

 

では、帝国憲法では、議会をどう規定していたのかというと、立法権は天皇にあり、帝国議会は天皇の立法権を支える協賛機関という位置づけでした。

 

帝国憲法第5条(天皇の立法大権)

天皇ハ帝国議会ノ協賛(きょうさん)ヲ以(もっ)テ(て)立法権ヲ行フ

天皇は帝国議会の協賛(賛同と同意)により立法権を行使する

 

マッカーサーより帝国憲法改正の「示唆」を受けて、最初に発表された松本丞治憲法担当大臣を長とする憲法問題調査委員会による憲法改正の試案では、帝国憲法第5条を現状維持としていました。これに対して、総司令部(GHQ)は「当然」、天皇の立法大権を否定しました。

 

GHQ案

国会は、国家の権力の最高の機関にして、国家の唯一の法律制定機関たるべし

 

GHQ案を受けて、日本政府は「3月2日案」で多少の抵抗を試みますが、議会に提出される最終的な帝国憲法改正案では、基本的に最初のGHQ案に沿った形となりました。

 

3月2日案

国会は国権の最高機関にして立法権を行う。

 

帝国憲法改正案

国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

 

さて、ここで、アメリカすなわちGHQの立場から41条を解釈してみましょう。その鍵となるのは、アメリカ政府内部に設置された国務・陸軍・海軍三省調整委員会(SWNCCスウィンク)がまとめた「日本の統治制度の改革(SWNCC228)」にあるようです。日本の憲法改正に関するアメリカ政府の指針を示したSWNCC228)には、帝国憲法下の議会について、次のような記述があります。

 

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戦争を宣言し、講和をなし、条約を締結する権限は、天皇の大権であり、これに関しては、議会は、極めて間接的に影響を与えうるにとどまる。というのは、議会は、内閣および内大臣、宮内大臣、その他天皇の側近にある者と共にこれらの事項について天皇に助言を与える枢密院を、コントロールすることができないからである。議会は、宮務に関しては権限を有せず、憲法改正を発議することができず、自ら会議を召集することができず、かつ、総理大臣の助言にもとづき、天皇により、15日間までの期間の停会を1会期中何回でも命ぜられることがありうる

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SWNCC(スウィンク)については「日本国憲法がわずか9日間で書けたわけ」を参照下さい。

 

 

枢密院

国家の重要問題に関して、天皇の諮問に答えることを任務とした機関。その活動範囲は、当初、憲法問題、条約、緊急勅令の発布などに限定されていたが、次第にその活動範囲と権限を拡大させ、外交問題、国内問題のいずれにおいても行政府に対し広汎な監督的権限を持つに至るなど国務の全般にわたって重大なる影響力を及ぼした。

 

この内容を踏まえると、GHQが国会を「国権の最高機関」とした意味は、「政治的美称」というよりも、かつての帝国議会が枢密院よりも権限上、事実上、下位機関であったことへの「反発」からきたものとみることができます。

 

また、「国の唯一の立法機関」という規定も、SWNCC228の別の記述にある「国家の国内事項に関する一般法の制定は、議会の権限内のこととされてはいるが、実際上、大部分の法案は閣僚によって提出された」、すなわち、帝国憲法下、議会は国の唯一の立法機関ではなかったという指摘からきているものと推察できます。

 

こうして、帝国憲法下で天皇が行使した立法権は、日本国憲法では、国民の代表者からなる国会が行使すると改められたと言えます。

 

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  • 42条(二院制)

国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。

 

日本の国会が衆参両議院によって構成されるという二院制の採用を明らかにしています。戦前までの帝国議会でも、貴族院と衆議院の二院制(両院制)でした。

 

帝国憲法第33条(両院制)

帝国議会ハ貴族院 衆議院ノ両院ヲ以(もっ)テ成立ス

帝国議会は、貴族院と衆議院の両院で成立する。

 

政府の憲法問題調査委員会(松本案)の試案でも、帝国議会における貴族院を、現在の参議院に改めた形で、「帝国議会は参議院および衆議院の両院を以て組織す」としていました。

アメリカも上院と下院の両院制です。ですから、GHQも松本案を支持して、二院制を認めたかというと、そうではなく、戦後の日本には一院制を要求したのでした。

 

GHQ(総司令部)案

貴族院は廃止し、一院制とする。

 

GHQが当初、なぜ一院制を求めたのかという疑問に対しても、SWNCC228にその答えを見いだせそうです。

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財政に関する法案は下院において先議されなければならないということ、および、下院(衆議院)は何時たりとも天皇がその解散を命じうるのに対し、上院(貴族院)は停会されることがあるだけであるということを除けば、上下両院の立法権は同一である。貴族院は、大体、2分の1が貴族、4分の1が高額納税者の互選による者、4分の1が天皇の任命する者によって構成されているのであって、貴族院が民選の下院と同等の権限をもつことは、日本における有産階級および保守的な階級の代表者に、立法に関して不当な影響力を与えるものである。
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当時のアメリカ政府は、戦前の選挙で選ばれない貴族や富裕層などで構成された貴族院に、選挙で選ばれる民選の衆議院と同等の立法権限が与えられていたことに疑問を呈し、「国民に責任を持つ議会政治を確立させる」という占領目的を達成させるためには、(SWNCC228によれば)「立法に関して不当な影響力を与える」貴族院は不要と判断したと推察されます。

 

これに対して、GHQ案に基づき日本側が起草した3月2日案では、総司令部案の一院制案に対し、二院制としました。

 

3月2日案

国会は衆議院および参議院の両院を以て成立する。

 

その後のGHQとの協議でも、日本側の意見が通り、二院制が認められました。どうしてGHQは折れたのでしょうか?当初の松本案に基づく憲法改正要綱で、帝国議会に関して、「貴族院を参議院と改め、皇室、華族を排除し、衆議院に対し第二次的な権限を有するにすぎないものとする」としていたように、参議院に対する衆議院の優越を認めたことなどが説得材料になったと考えられます。また、次条にもあるように、参議院も選挙で選ばれる民選議員からなることも大きな要因であったでしょう。

 

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  • 43条(両議院の組織・代表)
  1. 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
  2. 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。

 

本条は、衆議院と参議院が、選挙によって選ばれた全国民の代表者で構成されるとして、日本が間接民主制(代表民主制)を採用することを明らかにしています。

 

帝国憲法下の議会において、衆議院は広く国民による選挙で選ばれた議員で構成されていましたが、貴族院は、SWNCCも正しく指摘していたように、公選ではなく、(天皇による)任命制でした。

 

帝国憲法第35条(衆議院の組織)

衆議院ハ 選挙法ノ定ムル所ニ依リ公選セラレタル議員ヲ以テ組織ス

衆議院は、選挙法に定められている方法で公選された議員により組織される。

 

帝国憲法第34条(貴族院の組織)

貴族院ハ 貴族院令ノ定ムル所ニ依リ 皇族(こうぞく)華族(かぞく)及勅(ちょく)任(にん)セラレタル議員ヲ以(もっ)テ組織ス

貴族院は貴族院令の定める所により、皇族、華族や勅任された議員をもって組織される。

 

これに対して、毎日新聞がスクープした憲法問題調査委員会(松本委員会)試案では、参議院は公選と職能代表(産業毎の代表)で構成されると改められ、勅任制が廃されました。

 

松本案

参議院は参議院法の定むる所により、地方議会において選挙する議員および各種の職能を代表する議員を以て組織する

 

一方、GHQ案には、国会をもともと一院制としていたので、衆議院と参議院それぞれに関する直接の規定はありませんでした。ただし、日本政府は、3月2日案で、松本案を一部修正・加筆した上で、次のように起草しました。

 

3月2日案

衆議院は選挙せられたる議員をもって組織す。
衆議院議員の員数は、三百人ないし五百人に間において法律をもってこれを定む

参議院は、地域別または職能別により選挙せられたる議員および内閣が両議院の議員よりなる委員会の決議により任命する議員を以て組織する。

参議院議員の員数は、二百人ないし三百人の間において法律をもってこれを定む

 

しかし、その後、帝国憲法改正案をまとめるためのGHQとの「協議」では、参議院の組織に関する日本側の案は拒否され、現行の43条通り、両院とも全国民を代表する選挙された議員によって組織するものに改められました。

 

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  • 44条 (議員及び選挙人の資格)

両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。

 

衆参両議院の議員や、選挙人の資格を、法律(公職選挙法)に委任するとしています。その際、選挙権や被選挙権が、人種、信条、性別、財産など不合理な理由によって制限されてはならないと、参政権に関しての平等原則(選挙における普通選挙の原則や平等選挙の原則)を但書の中で謳っています。

 

帝国憲法にはこのような規定はなく、政府の憲法問題調査委員会(松本委員会)の試案でも議員等の資格については言及されていません。GHQが本条の内容を日本国憲法に取り入れようとした背景には、自国の憲法の影響があったと想定されます。

 

合衆国憲法修正第15 [選挙権の拡大]

  1. 合衆国またはいかなる州も、人種、肌の色、または前に隷属状態にあったことを理由として、 合衆国市民の投票権を奪い、または制限してはならない。
  2. 連邦議会は、適切な立法により、この修正条項を実施する権限を有する。

 

合衆国憲法修正第19 [女性参政権]

  1. 合衆国またはいかなる州も、性を理由として合衆国市民の投票権を奪い、または制限してはならない。
  2. 連邦議会は、適切な立法により、この修正条項を実施する権限を有する。

 

実際、総司令部は、この2つの条文を合わせた形で起草しています。

 

GHQ

選挙人および国会議員候補者の資格は、法律をもってこれを定むべし。しかして右資格を定むるに当りては性別、人種、信条、皮膚色または社会上の身分により何らの差別を為すをえず

 

GHQ案を受けた政府案(3月2日案)では、この時、前条で説明した通り、参議院については地域別・職業別組織を想定していたからでしょう、議員および選挙人の資格は、衆議院に限定された草案が出されました。

 

3月2日案

衆議院議員の選挙人および候補者たる資格は、法律をもってこれを定む。ただし、性別、人種、信条または社会上の身分によりて差別を附することをえず。

 

その後、GHQとの「協議」で、政府案の「衆議院議員」は「両議院の議員」に改められるなどして、帝国憲法改正案が議会に提出されました。さらに、衆議院での審議の際に、GHQ(総司令部)側からの申し入れを受けて、但し書に、「教育、財産又は収入」を追加する修正案が可決成立したのでした。

 

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  • 45条(衆議院議員の任期)

衆議院議員の任期は、4年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。

 

  • 46条(参議院議員の任期)

参議院議員の任期は、6年とし、3年ごとに議員の半数を改選する。

 

衆議院と参議院(戦前は貴族院)の任期についての規定は、帝国憲法には書かれていませんでした。ということは、国会議員の任期についてはGHQによる総司令部案の中で初めて取り上げられたことになります。

 

GHQ案

国会議員の任期は4年とす。しかれども、この憲法の規定する国会解散により満期以前の終了することができる。

 

GHQ案の段階では総司令部は一院制を想定していたので、「国会議員」となっていましたが、政府は3月2日案で「衆議院」に修正しました。逆に、参議院議員の任期の規定は、GHQ案に含まれていなかったので、政府の3月2日案で、GHQ案に沿う形で新たに加えられました。

 

3月2日案(参議院の部分)
参議院議員の任期は、第一期の議員の半数に当たる者の任期を除くのほか六年とし、各種の議員につき三年毎にその半数を改選す。

 

その後、帝国憲法改正案の段階で、文言調整されて現行の43条と同じ条文となりました。なお、国会議員の任期や選挙に関する規定の法定することを、わざわざ国の最高法規である憲法に書かなくても、(帝国憲法のように)法律に明記しておけば済むのではないか?という疑問が沸いてきます。その答えは、合衆国憲法にはそうした規定があるからだと言えそうです。

 

合衆国憲法第1章 第2 [下院]

下院は、各州の州民が2 年ごとに選出する議員でこれを組織する。各州の選挙権者は、州の立法部のうち議員数の多い院の選挙権者となるのに必要な資格を備えていなければならない。(以下略)

 

合衆国憲法第1章 第3[上院]

合衆国上院は、各州から2 名ずつ選出される上院議員でこれを組織する。上院議員は、…6 年を任期として選出されるものとする。上院議員は、それぞれ1 票の投票権を有する。

(以下略)

 

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  • 47条(選挙に関する事項)

選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

 

第44条における選挙の資格と同様に、選挙区や投票の方法など選挙に関する事項も、法律(公職選挙法)で定められると憲法で規定しています。選挙に関する事項についても、帝国憲法には書かれていません。この場合も、GHQが選挙に関する事項を、最初に以下のように、総司令部案に盛り込み、その後文言調整されて、現行の47条の条文となりました。

 

GHQ案

選挙、任命および投票の方法は、法律により、これを定むべし

 

本条の選挙に関する事項についても、憲法ではなく法律に載せることで十分ではないかとの指摘もなされます。こちらも前条同様、合衆国憲法に同じような規定があるからだという理由が考えられます。

 

合衆国憲法第1章第4 [上下両院議員選挙]

上院議員および下院議員の選挙を行う日時、場所、方法は、各々の州においてその立法部が定める。但し、連邦議会は何時でも、上院議員を選出する場所に関する事項を除き、法律によりかかる規則を制定し、または変更することができる。

 

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  • 48条(両議院議員の兼職の禁止)

何人も、同時に両議院の議員たることはできない。

国会議員に対して、他の院の議員との兼職を禁止している規定は、帝国憲法にもまったく同じ条文が存在します。

 

帝国憲法第36条(両議院議員兼職の禁止)

何人(なんびと)モ同時ニ両議院ノ議員タルコトヲ得ス

誰も同時に両議院(両方の議院)の議員になる事はできない。

 

GHQはもともと一院制を求めていたので、GHQ案には両議院議員の兼職禁止の規定はありません。しかし、その後の政府案(3月2日案)、さらには帝国憲法改正案において、兼業禁止規定が起草されました。

 

 

<参照>

その他の条文の成り立ちについては以下のサイトから参照下さい。

⇒ 知られざる日本国憲法の成り立ち

 

        

<参考>

憲法(伊藤真 弘文堂)

日本国憲法の誕生(国立国会図書館HP)
憲法を知りたい(毎日新聞)

アメリカ合衆国憲法(アメリカンセンターHP)

Wikipediaなど

 

(2022年9月14日)