日本国憲法11・12条 (人権の基本原則):米独立宣言と仏人権宣言の写しか?

 

日本国憲法の制定過程や、各条文の成立経緯を検証した「知られざる日本国憲法のなりたち」を連載でお届けしています。今回から第3章の「国民の権利及び義務」に入ります。いわゆる人権規定で10~40条に及びます。

 

この中から今回は11条(基本的人権の享有)と第12条(自由・権利の保持とその濫用の禁止)をとりあげます。この2つの条文は次に紹介する13条とともに、人権保障全般についての基本原則を定めています。

 

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◆ 第11条(基本的人権の亨有)

国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

 

まず、「日本国民は、基本的人権を「享有」できる」と宣言しています。「享有」とは「(能力や権利)を生まれながらに持っている」の意であり、基本的人権が「人間が人間であることによって当然に持っている普遍的な権利である」ことが示唆されています(おな、天、創造主、神から、授けられた不変的な人権を「天賦人権」という)。

 

次に、普遍的権利として国民に保障された基本的人権とは、公権力が法律によっても憲法改正によっても侵してはならない永久の権利でもあり、また、時代を問わずすべての人が保持している権利であると述べています。

 

帝国憲法では、人権を人間であることにより当然に有する権利であるとはみなしておらず、天皇から恩恵として、臣民へ与えられたものとされていました。ですから、帝国憲法には、基本的人権の享有について規定した条文はありませんでした。

 

この天賦人権の考え方は、1776年の「アメリカ独立宣言」から導入されたと思われます。

 

「われわれは、自明の真理として、すべての人は平等に造られ、造物主によって、奪われたり、譲り渡すことのできない天賦の権利を付与され、そのなかに生命、自由および幸福の追求が含まれることを信ずる。」

 

自分たちの独立宣言を引用したと思われる現行11条の「基本的人権の享有」に関するGHQの草案は、もともと2つの条文からなっていました。

 

GHQ(総司令部)案

日本国の人民は、何らの干渉を受くることなく一切の基本的人権を享有する権利を有す。

 

GHQ

この憲法により日本国の人民に保障せらるる基本的人権は、人類の自由たらんとする積年の闘争の結果なり。時と経験の坩堝(るつぼ)の中において永続性に対する厳酷なる試練によく耐へたるものにして永世不可侵として現在および将来の人民に神聖なる委託を以って賦与せらるるものなり。

 

これに対して、日本政府は3月2日案の起草の際、この後者の長い草案を大幅に削除し、前者と一つの条文とする修正案を出しました。削除された文言の中に「闘争」が含まれていました。「闘争」という文言はマルクス主義用語です。「日本国憲法の制定過程」で紹介した、GHQスタッフの中にマルクス主義者がいたという指摘は否定できません。

 

ところで、日本側がGHQ案の一つを削除したことに対して、GHQはこれを認めたかというと、実は、日本政府は妥協案として、現行の11条ではなく、修正後97条として移行させることを提案し、GHQも応じたという経緯があります。

 

(具体的な内容については、「日本国憲法97~99条(最高法規)」参照)

 

さて、3月2日案はその後、文言調整されて帝国憲法改正案が出来上がり、議会では修正なく通過し、現行の形となりました。

 

日本政府の「3月2日案

国民はすべての基本的人権の享有を妨げらるることなし。

この憲法の保障する国民の基本的人権は、その貴重なる由来に鑑み、永遠にわたる不可侵の権利として、現在および将来の国民に賦与せらるべし。

 

帝国憲法改正案

国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

 

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第12条(自由・権利の保持とその濫用の禁止)

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

 

本条は、国民に対し、憲法が保障する自由および権利を保持する努力を促す一方で、その濫用を戒め、国民が自由や権利を行使するに当たっては、常に「公共の福祉」のために利用する責任を定めています。

 

「公共の福祉」とは「公共の秩序」という意味で、全ての国民すなわち社会全体の利益や幸福を意味しています。ある人の人権を保障することが、他の人の人権を侵すようなことになってはいけません。憲法では、人権と人権が矛盾・衝突した場合に、これをバランスよく調整するための公平の原理(装置)という考え方をしています。

 

日本国憲法では、人権全般に「公共の福祉」による制約が存する旨を、本条と次の第13条で一般的に定める方式をとっています。

 

さて、帝国憲法には「公共の福祉」に関するこうした規定はありませんでした。同様に、アメリカの憲法典にも、本条のような人権全般に対して公共の福祉による制約を言及した規定はありません。

 

では、GHQは何を参考にして本条の「自由・権利の保持とその濫用の禁止」についての規定を起草したのかというと、1789年制定のフランス人権宣言が想起されます。

 

フランス人権宣言第1条

人は、自由、かつ、権利において平等なものとして生まれ、生存する。社会的差別は、公共の利益に基づくのでなければ、存在することはできない

 

フランス人権宣言第4条

自由とは、他人を害しないすべてのことをなし得ることにある(存する)。したがって、各人の自然的諸権利の行使は、社会の他の構成員にこれらと同一の権利の享受を確保すること以外の限界をもたない。(以下略)

 

フランス人権宣言を参考にしたと予想される総司令部案は次のようなものでした。

 

GHQ

この憲法により宣言せらるる自由、権利および機会は、人民の不断の監視により確保せらるるものにして、人民はその濫用を防ぎ、常にこれを共同の福祉の為に行使する義務を有す。

 

この総司令部案に対する日本政府の修正案(3月2日案)は以下のように起草され、その後、文言調整され現行の12条となりました(議会では修正なく通過)。

 

3月2日案

この憲法の保障する自由および権利の享有は、国民の不断の監視によりて保持せらるべく、国民はその自由および権利の濫用を自制し、常に公共の福祉の為にこれを利用するの義務を負う。

 

 

<参照>

日本国憲法の制定:わずか9日間で書けたわけ

日本国憲法97~99条 (最高法規):底流にある合衆国憲法の精神

 

<参照>

その他の条文の成り立ちについては以下のサイトから参照下さい。

⇒ 知られざる日本国憲法の成り立ち

 

        

<参考>

日本国憲法の誕生(国立国会図書館HP)

憲法(伊藤真 弘文社)

世界憲法集(岩波文庫)

アメリカ合衆国憲法(アメリカンセンターHP)

Wikipediaなど

 

(2022年9月30日)