2019年06月28日

神道:山の神を怒らせるな!

6月15日の投稿に、「種子、水に続いて森林も…」と題して、国民の共有財産である日本の森林が、政府主導で伐採され、また、外資を含む民間業者に破壊される恐れがあることを紹介しました。その時、民俗学の立場から思ったことは、日本の森林が適切に管理されなければ、山の神々の怒りに触れないかということでした。

 

「山の神」といえば、大学生の箱根駅伝で、箱根の山登り区間で最強の選手にマスコミが贈る「称号」ですが、民俗信仰としての山の神は、大山祇神(大山津見神)(おおやまづみのかみ)です。日本の山岳信仰を考えます。

 

山と神

 

日本は、山および山地が占める面積が国全体の76%に達する山がちの国土(山国)で、ほぼどこへ行っても、山を見ることができます。そして、日本の高い山にはほとんど(その頂上に)すべて神社があります。奈良の三輪山や、青森の岩木山のように山そのものがご神体となっている山もあり、こうした信仰の対象となっている霊山は、全国に満遍なく点在し、約350座もあるとされています。これは、山には神様がいて、そこに信仰(山岳信仰)が根付いているという事実の裏返しでもあります。

 

山の神とは、山に宿る神のことと総称されます。木樵(きこり)、猟師、鋳物師など山の民にとっては木地や鍛冶の神、農業を生業としていれば田の神のような農神、その山の周辺に暮らす人々にとっては先祖霊であるように、日本の山神信仰は様々です。こうして山民が信仰する山の神は、山の草木や動物、鉱物を支配し、山民の生業に恵みをもたらしてくれます。神は山だけでなく、峠にもいると考えられ、峠の神は、旅行者も含めて山に入る人々を誘導してくれます。このため、山の口、山中、山頂には、神社だけでなく、大木、岩、小祠、石塔など山の神の祭場が随所にできました。

 

また、山の神は、山と里のあいだを去来するとされています。すなわち、山の神は、山にとどまるだけでなく、春に山から里に下り、田の神となって稲作と守り、秋には収穫をもたらして山に帰ると考えられています。その節目に感謝の祭りが行われ、神と人と一体になって五穀豊穣と生活の安寧が願われています。このように、山の神は、人間の生死をも左右する大きな力を持ち、山で暮らす人々の生活に深く関わっています。

 

 

山の神:大山祇神

 

こうした山の神の総元締め的な存在として、日本の山岳信仰の世界に君臨している神さ様が、大山祇神(おおやまづみのかみ)で、大山津見神または大山積神とも表記されます。大山祇神は、伊邪那岐命(イザナギ命)、伊邪那美命(イザナミ命)の子とされ、記紀神話(天孫降臨)で、初めて地上に降り立ったニニギノミコトの妻となった、木花咲耶姫神(コノハナサクヤヒメ命、富士山の神)と、磐長姫命(イワナガヒメ命、岩の神)は、大山祇神の娘神に当たります。

 

前述したように、山の神はその山の周辺に暮らす人々にとっての神であり、そこで農業に従事するものとっての神(田の神、農耕神)であり、また、木こりや鉱山労働者、鍛冶者にとっての神でもあるように、様々な山神信仰の要素をひとつに体現しているのが大山祇神(オオヤマヅミ神)です。ですから、山の神の山の木を伐採したり、山を削ったり開けたりする時や、谷を塞いでダムを作る時などは、山の神の精霊の怒りを鎮めるために、オオヤマヅミ神を祀っていることが多いそうです。

 

 

海の神:大山祇神

 

一方、大山祇神(オオヤマヅミ神)は、別名「渡司大神(ワタシオオカミ)」とも言われ、海の神の性格も持ちます。ワタは海神、綿積神(ワタツミ神)のワタ(=うみ)のことで、シは司(つかさどる)ことを意味していることが語源上の背景にあります。もともと、河川は、高い山地に源を発し、平野を貫き流れて海に注がれます。山の神が、山から清涼な流れを発する水の神でもあることは頷けます。

 

大山祇神が鎮座する神社(大山祗神神社)の本社の一つは、愛媛県三島町の大三島(おおみしま)という瀬戸内海の芸予諸島にあります。その芸予海峡は古くから西日本と近畿を結ぶ水運交通の要で、漁師や瀬戸内水軍にとって、海上交易の守護神、戦いの際の武神、軍神として、大山祇神が崇敬されていたのです。特に戦国時代にかけて、大山祇神は、「武運長久」の神として、広く武士の崇敬を獲得したことが、この神の神威を全国に広げる大きなきっかけとなったと言われています。

 

 

酒造りの神:大山祇神

 

さらに、大山祗神(オオヤマヅミ神)は、酒造の祖神「酒解神」として信仰されています。これは、大山祗神の娘「木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)」が、天孫「邇邇芸命(ニニギ尊)」と結婚して、「日子補穂出見命(ヒコホホデ命)」を生んとき、大山祗神は大いに喜んで佐(狭)奈田(さなだ)の茂穂(よく実った米)で、お酒(アメノタムケ酒)を作って、天地の神々に振る舞った、という故事が酒造のはじめ(穀物から酒を醸造した始まり)と伝えられていることに由来しています。

 

山の神は里に降りれば田の神であり、穀物の実りを司る神であり、また水の神でもあることから、穀物から造られる酒の精霊は、山の神の分身という神話が生まれたのでした。こうして、酒造業の守護神としての大山祇神は、酒解神(さけとけのかみ)、娘の木花咲耶姫命は酒解子神(さけとけこのかみ)と呼ばれるようになったそうです。

 

このように、日本の山の神の総元締といわれる大山祇神(オオヤマヅミ神)は、山と海を司る神(山と海の守護神)として、その神威は、農業、漁業、商工業(酒造りを含む)などの諸産業や、軍事的な領域まで幅広く及んでいます。

 

 

三島・大山祇信仰

 

大山祇神に対する信仰は、神道では「三島・大山祇信仰」として知られ、全国に広がっています。大山祇神社(愛媛県今治市)と三嶋大社(静岡県三島市)を本社として、三島・山祇系の神社は、全国で少なくとも700社以上あるとされています。神社名の「三島(三嶋)」は、大山祇神社の所在地(今治市大三島)の大三島(おおみしま)にちなんで名づけられています(大山祇神社を大三島神社と呼ぶこともある)。

 

「三島・大山祇信仰」に関連し、大山祇神(おおやまづみのかみ)を祭神とする神社は、全国にある「三島」や「山祇」を社名とする神社(三島神社や山祇神社)だけでなく、次の神社も含まれます。

 

岩木山神社(青森県弘前市)

湯殿山神社(山形県鶴岡市)

大山阿夫利神社(おおやまあふりじんじゃ)(神奈川県伊勢原市)

梅宮大社(京都市 右京区)

丹生川上神社上社(奈良県吉野郡)

 

安倍政権の森林政策を、大山祇神がどう見ているでしょうか?

 

 

<参考>

山岳信仰 山と神 山の神 – BIGLOBE

三島・大山祇信仰/三島神社ー城めぐり

大山祇神

など

 

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